『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第90話『「ちゃんと、自分を大事にする」約束』

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 病院を出ると、もう日は傾いていた。
 冬の夕焼けが、町をオレンジ色に染めている。

「はぁ……」

 ハルカは思いっきり伸びをして、しょんぼりと肩を落とした。

「ごめんね、ケント。いっぱい心配かけて……」

「お前なぁ……」

 ケントは呆れたようにため息をついたが、
 その声には、どこか優しさが混じっていた。

「バカみたいに我慢して、倒れて……」

「バカみたいって言うなぁ!」

 ハルカは頬をぷくっと膨らませた。

 その反応に、ケントは肩をすくめる。

「だってバカだろ。普通、膀胱痛かったらすぐ行くわ」

「だって……授業中だったし……恥ずかしかったし……!」

「恥ずかしいとか言って、余計に恥ずかしい目にあってんだろうが」

 ぐぅの音も出ない正論。

 ハルカはわなわなと震えながら、

「うぅぅ……だって、みんなに“膀胱パニック女王”とか言われたくなかったんだもん……!」

 と泣きそうに叫んだ。

「いや、言われてたけどな。裏で」

「うわああああんやめてぇぇ!!」

 道端で叫ぶハルカに、通りすがりの小学生がギョッとした顔を向ける。

 ケントはそっとハルカの頭を押さえた。

「静かにしろ。通報されるぞ」

「泣く自由ぐらい許してぇぇぇ……!」

 そんなバカバカしいやり取りをしているうちに、
 ハルカの顔には、少しずつ、笑顔が戻っていた。

 ***

 二人で並んで歩く帰り道。

 ふと、ケントが真面目な顔になった。

「……お前、もっと自分を大事にしろ」

 その言葉は、夕焼けの中で、妙に重たく響いた。

 ハルカは立ち止まり、
 顔をくしゃくしゃにして、笑った。

「……うん!」

 目にはまだ涙の名残があったけど、
 その笑顔は、心からのものだった。

「でも! ケントが付き添ってくれたから、私、頑張れたんだよ!」

「そりゃまあ、お前が倒れたら俺の責任問題だからな」

「なにそれ冷たい!」

 ぷんすか怒りながらハルカはケントの肩を軽く叩いた。
 ──が、そこでバランスを崩してよろける。

「わっ!」

 ケントは反射的に、ハルカの手首をがしっと掴んだ。

 が、勢い余って──
 ハルカの胸に、手が、ぺたんと触れてしまった。

「──っ!!!」

 ハルカ、石化。

 ケントも、石化。

 沈黙の時が流れる。

「……あー……」

「……い、今のは事故だから!」

「事故な!」

「わ、わかってるってば!」

 ハルカは顔を真っ赤にしながら、ばたばたと手を振った。

(な、なにこれ、なにこの青春漫画みたいな展開……!)

 心臓が爆発しそうだった。

 ***

 夕陽に染まる帰り道。

 ハルカとケントの影が、長く、長く伸びていた。

 二つの影は、
 まだくっつきそうで、
 でも、かすかに、隙間があった。

(でもきっと、その隙間は──少しずつ、埋まっていくんだ)

 ハルカは、胸の奥で、そっと思った。

 今日のドキドキも、痛みも、涙も。
 全部、全部、ちゃんと意味があった気がする。

 だから、ハルカは、もう一度だけ小さく呟いた。

「……ありがとね、ケント」

 ケントは、わざとそっぽを向いたまま、
「べつに」とだけ答えた。

 でも、耳まで真っ赤になっているのを、
 ハルカはしっかり見逃さなかった。

(続く)

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