『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第107話『小さな秘密、ひとつ増えた』

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 冬の帰り道。

 街灯がぽつぽつと灯り始めた中を、
 ハルカとケントは、並んで歩いていた。

「……」

「……」

 会話はない。

 でも──
 別に、嫌な沈黙ではなかった。

(……なんか、変な空気だな)

 ハルカは、そっと視線を横に向けた。

 ケントは、
 制服のポケットに両手を突っ込みながら、
 ぼんやりと前を見て歩いている。

(べつに、いつも通り、クールな顔してるくせに)

 でも──

 さっき、教室で。

 あのとき。
 誰よりも先に、
「俺も、小四までだった」って言ってくれた。

 みんなの爆笑の中で、
 私が潰れそうになってたとき。

 ケントのその一言に、
 どれだけ救われたか。

(……ありがとう、なんて、恥ずかしくて二回も言えないけど)

(でも、ちゃんと伝わってるといいな)

 ふわっと、胸の奥が温かくなった。

 ***

 二人の足音だけが、
 冬の夕暮れに静かに響いていた。

「なあ」

 突然、ケントが口を開いた。

「……今日さ」

「う、うん?」

 ハルカはびくっと肩を跳ねさせる。

「まあ……バカみたいだったけど」

「……」

 ケントは、
 少しだけ苦笑しながら続けた。

「悪くなかった、かもな」

「──!」

 ハルカの心臓が、
 一気に跳ねた。

(ケントが……そんなこと言うなんて……!)

 驚きと、嬉しさと、
 どうにもならない照れくささが一緒になって、
 顔が一瞬で熱くなった。

「そ、そっか……!」

「わ、私も……!」

 ハルカは、慌てて言葉を返した。

「私も……すっごく恥ずかしかったけど、でも……!」

「でも、楽しかった!」

 言葉にしたら、
 胸の奥のもやもやが、
 ふわっと晴れた気がした。

 ケントは、
 ほんの少しだけ、
 目を細めて笑った。

 それは、
 誰にも見せたことのない、
 とても優しい笑顔だった。

(……うわ、なにそれ)

(反則……)

 ハルカは、心の中でじたばたした。

 ***

 ふと、
 ケントが手を伸ばした。

 ハルカの頭に、
 ぽん、と手を置く。

「よく頑張ったな、伝説のおねしょマスター」

「やめろぉぉぉぉ!!」

 ハルカは顔を真っ赤にして叫んだ。

「それ忘れたい過去だからぁぁぁぁぁぁ!!」

 ケントは、
 小さく、くくっと笑った。

 そして、
 ぽんぽん、と二回、
 優しくハルカの頭を叩いた。

(……くそぉぉぉ)

(ぜんぜん、怒れない……!)

 怒るべきなのに、
 胸の奥は、なぜかぽかぽかしていた。

(ずるいよ、ケント……)

 ハルカは、そっと自分の胸に手を当てた。

 あの日、
 何も言えなかった小さな私。

 恥ずかしさに潰れそうだった今日の私。

 でも──

 今は。

 胸の中で、
 小さな“秘密”が、
 静かに光っている。

(ケントと、秘密を共有できた気がする)

 それだけで、
 なんだか無敵になれそうな気がした。

 ***

 二人の影が、
 夕焼けに伸びて、重なる。

 冬の風は冷たかったけど、
 心の中は、じんわりと温かかった。

 誰にも見えない、
 誰にも知られない、
 小さな、小さな秘密。

 それが、
 これから先、
 ふたりの距離を
 少しずつ、少しずつ──

 近づけていくのかもしれない。

(──物語は、また小さく動き出す。)
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