『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『謎のドリンクで、止まらない!?~トイレへの疾走と青春の限界突破編~』

第148話『トイレ、今すぐ行ってもいいですか!?』

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「よーし、では今日の補習、始めるぞー!」

 教室に響く担任・水嶋先生の元気すぎる声。
 その明るさが、いまは地獄の鐘の音にしか聞こえなかった。

「え、えぇ……!? この状況で補習……!?」

 ミキの声が震えている。

「は、早く終わらせて……マジで……」

 ナナも唇をかみしめながら、
 机の下で太ももをぎゅっと閉じている。

(なんでこんな日に限って……!!)

(なんで今日に限って水嶋先生が張り切ってんのぉぉ!?)

 ハルカは、
 体をひねって脚をクロスさせ、
 膀胱を圧迫しないよう“無意識のプロポーズ座り”になっていた。

「席立つなよ~!廊下に出るなよ~!」

 先生が何度も念を押す。

 そのたびに、誰かの目に涙が浮かぶ。

 ユイはというと、やや伏し目がちにノートを取っていたが、
 机の下では両足が超高速バイブのように震えていた。

(ヤバいヤバいヤバいヤバい)

(このままいくと……誰かが……)

(アタシが!?)

(アタシなの!?)

 不安と尿意で頭の中が真っ白になっていくハルカの横で──

「……みなさん」

 冷静すぎる声が、彼女の耳元に届いた。

 エミリだった。

 彼女は相変わらず、片手にタブレットを構え、
 例のドリンクの成分リストをじっと見つめていた。

「やはり、この“アクティブサイフォンG”という成分、相当にやばいですね」

「“中枢神経を錯覚させることで膀胱収縮を誘発する”って書いてます」

「簡単に言えば──」

「飲んだら、尿意が止まらなくなるってことです♡」

「説明すなぁぁぁぁぁ!!」

 ミキが、ガクガクと前のめりに倒れそうになりながら叫ぶ。

「てか! アンタも飲んでたじゃん!?」

「なんでそんな余裕そうなの!?」

「ふふ、わたし、ちょっとだけ薄めて飲んだので」

「ぬかりありません♡」

「ズルぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 ナナが机に顔を打ちつける音が響く。

 その音に、先生がちらりと視線を向けた。

「おい、ナナ。ちゃんと聞いてるか?」

「体調悪いなら、すぐ言えよ?」

「っ……だ、大丈夫ですっ!!」

 ナナ、背筋をピンと伸ばす。
 その姿勢のまま、限界ギリギリの尿意と戦っている。

(まずい……このままじゃ、全員……)

 ハルカは、机の下で視線を送る。

 ──ミキ、顔真っ赤。
 ──ナナ、完全に歯を食いしばってる。
 ──ユイ、片目が虚ろでやばい。
 ──サバナは体育座りになって謎のマントラを唱えている(たぶん“オシッコ我慢”の歌)

「……誰か……誰か犠牲になるのか……?」

 静かな教室の中、
 トイレという単語だけが脳内で木霊する。

 そのとき──

「よし、じゃあ小テストやってもらおうか!」

 先生がニッコリ笑った。

「手元の問題、配るぞ~。終わったら全員回収な!」

「ちょっと待って……!!!」

 ハルカ、思わず立ち上がりかけた。

 が、隣のユイがその手首を掴んで、ゆっくり引き戻す。

「……出たら……バレる」

「退室は死を意味する……」

「冷静に……排尿を……制圧しろ……」

「それ言い方ぁぁぁぁぁ!!!」

 絶叫を抑え込み、ハルカは手を震わせながらプリントを受け取った。

 だがその紙は、
 すでに自分の汗と手の震えで波打っている。

(落ち着け……考えるんだ……)

(一番静かな方法で……)

(誰よりも先にトイレに行く手段を……!)

 だが、その策は、誰も口にしなかった。

 今ここにあるのは──

「誰が最初に動くか」

「誰が最初に漏らすか」

 沈黙の心理戦。

 “トイレチェス”の幕が、静かに上がったのだった──。

(続く)

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