『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』

第155話『久しぶりの再会は、乾杯から』

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「──それでは、数年ぶりの再会に──」

「かんぱ~~~いっ!!」

 グラス同士が快音を響かせた瞬間、
 東京・新橋の大衆居酒屋《酔い処まるまる》の個室に、
 あの頃の空気が一気に戻ってきた。

「あ~~~~~~! くぅ~~~~~っ!!」

 最初に声を上げたのは、変わらぬノリとテンションの持ち主、ミキ。
 ビールジョッキを豪快に空け、一拍おいてからドンとテーブルに置いた。

「やっぱ社会人のビールは違うね!!心に沁みる!!胃にぶち込め!!」

「言い方ぉぉぉ……」

 元同級生のナナが苦笑しながら、レモンサワーをちびりと飲む。

「でもわかるわー。今日のこの一杯のために生きてきた感ある」

「私は一応“本日中にやるべき設計図”を投げ捨てて来てるけどね……」

 ユイはワイシャツの袖をまくりながら、ビールと共に“社会人の犠牲”を静かに語る。

「え、残業放棄!?」

「いや、未来への投資ってやつよ。“絆”のね」

「かっこよく言ったけど、ただのズル休みじゃん……」

 そんなやりとりを笑いながら見守るのは、
 全員のまとめ役的存在──ハルカ。

 スーツ姿はキリッとしていても、笑顔の感じはあの頃のまま。

「ほんとに、みんな変わらないね」

「えー、そう? 私、今や立派な“ビール営業ガール”だよ?」

 ミキが堂々と名乗る。

「ビールの営業って何?」

「居酒屋回って“今月のオススメビール”を推すの。あと飲む。主に飲む」

「飲むの!? 勤務中に!?」

「体張ってんだよぉぉ!!」

 ドッと笑いが起こる。

 その隣で、レモンサワーを回しながら静かに呟いたのは──
 今やスタートアップ企業で働くエンジニア・ナナ。

「私は、コードよりも人間のほうがバグってるって気づいたよ……」

「深いようで、今日の空気には不釣り合いすぎる名言やめて!!」

「でも、ほんとに……“普通”って、奇跡なんだよ」

「ナナ、昔から思考が重めだったけど、社会人になって加速してるな……」

 ユイが枝豆を口に放り込みながらボヤいた。

「私は出版。主に恋愛漫画の編集」

「えー! 似合うー!」

「でも新人作家に“女子高生が尿意に耐える回を描きたい”って言われた時は、時空が歪んだよ」

「それ、アタシたちの実話ベースじゃね?」

「なんで世代を超えて尿意が語り継がれてるの!?!?!」

 全員、グラスを持ったまま吹き出す。

「……はーっ、でもこうして集まれてよかった」

 ハルカはジョッキをゆっくりと持ち直し、
 きらきらと泡立つビールの黄金色を見つめる。

「あの頃は、もう……おしっこばっかだったよね、私たち」

「青春をそうまとめないでぇぇぇぇ!!!」

 叫びながら全員が笑う。

 だが──

 その直後。

「あっ……」

 ナナが、ふと、表情を曇らせた。

「……なんか、急に……来たかも」

「え?」

「ビール、効いてきたかも……膀胱に」

 全員、沈黙。

 そして──

「待って、私も……ていうか、トイレどこだっけ?」

「え? トイレ? たしか……この店、ちょっと奥のほうだよね?」

「ちょっとどころじゃない。階段降りて、廊下つっきって、暖簾くぐって、あれ?どっちだっけ?」

「なにそのダンジョン構造!!」

「ちょ、待って、列とかあったらやばくない?」

「無理無理無理、今トイレの話やめてマジで!!!」

 わずか数分前まで、乾杯の余韻と笑いで包まれていた個室に──
 かつて覚えのある空気が漂い始めた。

「う、うそでしょ……」

「ここ、新橋だよ!? 社会人の聖地だよ!? 私たちも大人だよ!?」

「なのに……またこの流れ……なの……!?」

 ミキがジョッキを握りしめたまま、天を仰ぐ。

「うわあああああ、デジャヴぅぅぅぅ!!」

 誰かの叫びが響いたとき──

「ねえ、今度は“誰が最初にトイレ行くかゲーム”しない?」

 レイナの声が、爆弾のように落ちた。

「やめろぉぉぉぉ!!!!」

 ハルカが全力で叫ぶ。

 ──“あの頃”と“今”は、確かに違う。

 けれど──

 “膀胱の限界”だけは、年齢を超えて──
 ふたたび、私たちを結びつけるのだった。

(続く)

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