『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出世と尿意と、同窓会。〜私たち、あれから大人になりました〜』

第161話『それでも私たちは、漏れなかった(たぶん)』

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「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」

 ハルカは、全身から力が抜けたように椅子に沈み込んだ。

「……生きてるって、素晴らしい……」

 乾杯のグラスを持つ手が、かすかに震えている。

 その隣で、サバナもコーラジョッキを掲げながらぐったりしていた。

「アタシさぁ、野ション文化育ちだけど……今日ほど“トイレのありがたみ”を痛感したことないわ……」

「ってか……あれはトイレじゃなくて……聖域だったね……」

「肛門が、生命を守るために閉ざすってこういうことか……」

 ハルカの隣のナナが、意味不明な哲学を口にした。

 ミキはというと、顔は笑っていたが、妙に上半身を硬直させて座っていた。

「アタシ、いまだにギリギリのラインにいる気がする……一滴でも気を抜いたら、こぼれる……!」

「大丈夫……私たち、もう済ませたはずよ……たぶん……」

 エミリは紅茶を啜りながら微笑んでいた。

「私は個室に入り、2分32秒で済ませました。記録更新です」

「記録いらんわ!!」

 レイナはカラカラと笑いながら、ジョッキを空にして言った。

「でもさ~、なんだかんだ全員間に合ったし! すごくね!?」

「……たぶんね」

「“たぶん”!?」

 ハルカが苦笑しながら、手を挙げた。

「よし、全員無事生還したってことで──乾杯、し直そっか」

「乾杯~!!」

「──って、もう一回飲んで大丈夫なの!?」

 誰かが突っ込んだが、全員が笑っていた。

 店内のざわめき。
 テーブルに並ぶ料理とジョッキ。
 昔は校舎裏で膝を抱えていたようなメンツが、今は会社員や研究者やインフルエンサーとして名刺を持ち、それでもこうして一緒にくだらないことで笑っている。

「……変わんないなぁ、アタシたち」

 ハルカがぽつりと言った。

「大人になったと思ってたけど、こういうときだけ、昔と同じ空気になるよね」

「うん。膀胱限界って、年齢超えるよな」

「限界共有すると、心が通じ合う……そんな気がする……」

「やっぱり……おしっこって絆なんだな……」

「だからやめろってその言い方ァ!!」

 ナナが思わず突っ伏して爆笑する。

「でもマジで思ったよ。アタシたち、やっぱ最強だって」

 ミキがテーブルをドンと叩いた。

「トイレ戦争、あんなに過酷だったのに、全員無事に帰還して、何事もなかった顔で座ってる。これこそ“生き抜く力”だよ!」

「でも一人、まだギリギリな顔してるけどね」

 レイナがじっとユイを見つめた。

「え……あれ? ユイって、まだ行ってない……?」

 全員の視線がユイに集中。

「……ふ、ふふふ……いいのよ……」

 ユイはゆらりと立ち上がった。

「私はね……さっきからずっと……お冷で尿意を誤魔化してるのよ……!」

「逆効果だよ!!!」

 ハルカたち全員が叫ぶ。

「だってさ……笑いすぎて、もう脳が混乱して……“出していい”って勘違いして……」

「耐えてえええええええええ!!!」

 笑いと悲鳴の嵐。

 でもその光景は、確かに──“昔のまま”だった。

「またやろうね、こういうの」

 誰かが言った。

 トイレの話題でも、おしっこの話題でも、なんでもいい。
 こうして全員が笑って、安心して、顔を見合わせていられる。
 それが、どれほど貴重な時間か、社会人になってみて、ようやくわかるようになっていた。

「また集まろう、次は……我慢しなくていい場所で」

「そうだね……最初からトイレの数が多いとこにしようね……!」

「ていうか、次回の予約は“個室トイレ完備の旅館”一択でしょ!」

「尿意からの解放、旅館で湯けむり女子会!」

「最高すぎる……もう漏らす心配ない……!」

「たぶん……ね」

 ──“たぶん”。

 その言葉には、たっぷりの笑いと、ちょっぴりの恥ずかしさと、確かな絆が詰まっていた。

 そして、ハルカは思う。

(私たち……社会人になっても、やっぱり“青春”してるんだなぁ……)

(変わらないって、悪くないかも)

(“あの頃”の続きって、こうして……まだまだ、続いていくんだ)

 ──そう思いながら、今度こそ、笑ってジョッキを掲げた。

「青春って、漏らさないことより、笑えることだよね!」

「名言のようで名言じゃないーーー!!」

 全員、またもや爆笑した。

 ──そして夜は、静かに、笑いとともに更けていった。

(つづく)

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