どくどく孤独

息吹く遥

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2日目:これで独り

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 僕は黒い空間にいる。
 僕以外は存在せず、入り口も見た記憶が無ければ、当然出口も無い。
 これで、出社しなくていい。

「みんな心配してるかな……」

 会社の同期とは友達と呼べる間柄ではあった。普段真面目な僕が無断欠勤なんて聞いたら、それは驚くに違いない。
 ここに来てだいたい1日くらいは経つから、ひとしきりびっくりし終えた頃かもしれない。

「ここで死んだら、誰にも見つけられないだろうな」

 それとも、僕はとっくに死んでいて、もうじき異変に気づいた誰かが、警察を呼んでいるかもしれない。
 夕方のニュースでは、20代男性、自宅で孤独死なんて見出しでお茶の間に放送されるのだろうか。

「なんにせよ、どうでもいい。だって会社に行かなくて良いんだから」

 普通の人間なら、こんな意味不明空間に連れてこられた時点で、軽く発狂していても不思議ではない。
 僕のように、社会で必要以上に厳しく訓練されてきた人間だからこそ、こうして心に余裕を持て余しているのだ。

 社会が僕を強くしてくれた。
 
「いや、お前会社休んでんじゃん(笑)って?」

 いやいや、バカを言ってはいけない。どんなに強靱な心を持った人間であっても、限界はあるのだ。
 厳しい環境は、慣れた頃には次のレベルへと上がっているのだ。
 いくら常人離れした精神力を持つ僕であっても、終わりの見えないインフレ環境に身を置くことにうんざりしてしまっただけだ。
 
 なんせ、生まれてからずっと、訓練をしてきたようなものだ。
 社会人になってから始まったことじゃない。

「そう、あれは幼稚園の頃……」

 流石に正確に全ての出来事を細かに記憶している訳ではないが、その日、幼かった僕は、現実の厳しさを痛感した。
 先に、そのときに学んだ教訓から述べると。

「砂糖は甘いが、調理次第で苦くもなる」

 ということだった。
 いやなに、プリンのカラメルをうっかり焦がしてしまったなんて可愛らしいことではない。
 
 僕たち園児は皆一様に、まるっとした顔に、もちもちの頬、大きな瞳がキュートでラブリーな、人生の全盛期と言っても過言ではない時代だった。

 道行く人は、幼児だというだけで目を輝かせ。近所のスーパーに行けば、温厚なおばさんでさえ、目の色を変えて舌なめずりをしていたことを覚えている。

 しかしね、僕は気づいてしまったんだ。
 当時の僕は頭がよかったからね。
 
 子供とは、成長過程にいる。謂わばダイヤモンドの原石。
 そんな言葉を父から教わったが、原石というと、つまり研磨するのだけれど。
 こんなに可愛くて、十分価値のある幼児の、既に宝石として輝いている存在の何処を磨くと言うんだ?
 
 道行く大人達は、子供の時は可愛かった筈なのに、磨いた結果、可愛さを失ったではないか。
 しかも、磨いたのだから、当然、その際に削った部分は戻らない。
 つまり、悪い磨き方をするくらいなら、磨かない方がいいのだ。
 
 それをこの父親は、研磨の危険性を考えもせず、磨き方をおしえないで、偉そうに講釈を垂れるのだから。

 本当に。

 大人って救いようがない。

「って何が言いたかったんだっけ」

 どうやら、孤独感ってのは。
 まあ、今のところそんなに感じていないのだけれど。
 
 全く、自分以外に人がいない環境というのが、無意識のうちに、僕を狂わしているのかもしれない。
 きっとそうだ。

 でなければ、こんな支離滅裂な独り言をしたりは、しなかっただろうね。
 
 
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