政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
21 / 68

19話 下町のアニキ

しおりを挟む
「すまんがちょっと通してくれ」

「お、東の」

 私の宣言にシンとした一瞬を狙ったかのように、1人の男が人ごみをかき分けて前に出て来る。

 ふぅん。なるほど。

 そこにいたのはダウンゼン・ドーン。
 例の下町しもまちでの顔役で皆の兄貴分。
 東っていうのは、彼が東側の地区をまとめているからだろう。

 彼は私を見つめながら来る。
 その瞳。その顔色が全てを物語っていた。

「門を開けなさい」

「し、しかし! 危険です!」

「この程度のことに後れを取る私だと思って? それとも私の命令が聞けない? それはカシュトルゼ家に仕える者として致命的ではなくて?」

「は……ははっ!」

 門番が慌てたように門の施錠を解除していく。

 ギィっと重苦しい音を立てて門が開く。
 それを呆然と見ていた群衆は、ハッとしたように前に出ようとするのをダウンゼンが手を広げて制する。

「俺に任せろ。それに敷地に入ったらさすがにマズい」

「む、むむ……」

 それは群衆に言い聞かせるのと同時、私に対したものでもあった。
 つまり彼らはあくまでデモ隊。一線を越えない限りは実力行使に出ないということ。
 それを私に分からせるのは、彼自身もそれを望んでいないからか。

 私は一歩、前に出る。
 ダウンゼンも一歩出る。

 それが5歩になって、お互いが周囲から孤立した状態になって、初めて私は肩の力を抜いた。

「で、どういうこと?」

「これは申し訳ないと思っている」

「申し訳ないで済んだら警察は要らないわ。誰の差し金?」

「俺とは別のところから話が通って、止められないところまで来てた。ガーヒルの野郎だと思うが証拠はない」

「はぁ。使えないわね」

「面目ない」

 大きな体がしゅんとしぼんでしまったようにして頭を下げるダウンゼン。
 そのギャップがなんだか可愛らしく思える。

「でも、あなたがいたから最悪の事態は免れた。感謝するわ」

「お、おう」

 小さくなった体が元に戻る。
 本当、単純ね。

 前パパいわく、

『どんな人間にもとりえはある。どんな使えないようなぼんくらにもね。僕らの仕事はそれを見出して、おだててヨイショする。人間は都合の悪いことを切り捨てて、一番近しい記憶だけを残す。豚もおだてりゃなんとやら。けなしても最後に持ち上げてやれば、彼らは褒められたと勘違いして気持ちよく仕事するのさ』

 欠点を見つけることは、つまり美点を見つけることでもある。
 つまりこの男にもそれなりの美点があって、それを見抜くのは私には造作もないことってこと。

「それで、要求は?」

 もちろん彼らとて、何もなくここに来たわけがない。
 貴族――というより今パパに対して文句があるから来たのだろう。どうやって来たのか、という点については後で考慮するとして。

「ああそれはだな。まず国王を傀儡として政治を壟断ろうだんする大臣の解任とそれに伴う権益の排除。それから――」

 要約するとこうだ。

 1つ。今パパの退陣。
 1つ。アード伯爵の大臣就任。
 1つ。下町したまち浄化法案の廃止。

 1つ目はまぁそうだろうな、というとこ。
 2つ目のは誰って感じだけど、

「アード伯爵ってのは、要はガーヒル派だ。奴が大臣就任すれば恒久的無税を実現するって言われて皆有頂天だ」

「はぁ。馬鹿らしくて呆れもできないわ。そんなの嘘に決まってるじゃない」

「そういうものか?」

「当然でしょう。貴族の生活が何で成り立っているか分かってる? あなたたち平民の血税よ。その権利を貴族様が放棄するわけないじゃない」

「うっ……」

「しかも公的な文書や発言として出たものじゃない。口約束。就任した後に『私はそんな約束知らない』で終わり。テンプレすぎて知能レベルを疑うわ」

「そ、そうなのか……」

 ここの連中は馬鹿ばっかか。上も下も。
 いや、それがこの時代なんだろう。あの貧困。そしてこの差別階級。まともな教育もないままに搾取されるだけ搾取する。
 そうともなれば平民は貴族の操り人形としてその生涯を支配され続けることになる。

 民衆は殺さず生かさず。

 やれやれ。とんでもない時代ね。

 なんて内心嘆息していると、ダウンゼンが少し笑みを浮かべ、

「こんなこと言うのもなんだが」

「なに?」

「エリは他の貴族とは違うな。なんかこう、良く分からないけど素敵だ」

「……………………なにそれ、馬鹿みたい」

「は、はは。そうだな。何を言ってるんだ、俺は」

 歯を食いしばる。そうしないと自分の表情がどこに行くか分からないから。
 それほどに急に乱れた自分の情緒。その原因が今の何気ない一言だというのは分かっている。
 それでも感情は胸の中で暴れまわって行き場をなくしていた。

 なんてこと言うのよ。こんな場所で。
 一歩間違えれば告白に聞こえかねないこと、平気で言うんだから。

 落ち着きなさい。私。
 こんなこと今までいくらでも……ごめんなさい、嘘ついた。それでも2,3回はあった。
 もちろん、前パパの影響もあってそれに近づきたいという下心がバリバリに見えていたから、その時はイイ感じに振り回して利用して最終的にはフッてやった。

 だから今回も同じようにしてやればいい。もともと、この男も利用するために近づいたんだから。

 なのに何も疑わないような、この純な瞳に魅入られればどうこたえていいか分からない。
 しかもアニキ系だし、歯綺麗だし、小さく鳴ったら可愛らしいし、マッチョだし、胸板すごいし、あの上腕二頭筋にぶらさがったら……あああああ違う! 私はこんなことしてる場合じゃないの! てかバカじゃないの!? なんでこんな時に!

 ほんとバカ!
 バカばっか!

 …………バカ、ばっか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...