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46話 ガーヒルと…
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※多少性的な表現がございます。申し訳ありませんが、苦手な方はお戻りください。
「困ります、カシュトルゼ様。勝手に入られては!」
ガーヒル邸の中に招き入れられて。私は執事長の案内を無視してずかずかと屋敷の奥へと進む。
「あら、かつての許嫁の家に来るのが何がいけないのでしょうか。それに我が家は公爵家、こちらは侯爵。家格としては問題ないかと思いますが?」
「そういう問題ではなく、私が主に叱られてしまいます」
「大丈夫ですわ。私がガーヒル様にあなたに罪はないと言いますので」
「そ、そういう問題でもないのですが……」
一応元筆頭大臣の娘であり、家格としても上の私をむげにはできないのだろう。
執事長は困惑顔で私の後に続きながら文句を言うだけしかない。
これで肩でも触ってくれば、セクハラだチカンだと騒いでさらに有利に話を進められたんだけど。
さすがにそこまで甘くはないみたいね。
それでもつまりはだれも止められないということ。
だから私はそのまま彼の部屋へと向かう。
初めての屋敷だけど向かうべき方向は分かった。多分、エリーゼの記憶が残っているのでしょう。
そこにガーヒルとの思い出は……ない。
楽しかった思い出も。嬉しかった思い出も。悲しい思い出も。喜びに満ちた思い出も。何も。
あるのは裏切られたという思いだけ。
まったく。傑作よね。
そんな状態でも、ガーヒルに対する熱い思いは残っているのだから。
けど無理。
なぜなら私にはそんな思いはない。
あれは倒すべき相手。ただそれだけのこと。
私の命を狙った。実際に手を下した。それだけで十分。
そしてきっと、その理由がもう1個増える。
「そ、そちらは! おやめください! 今、応接間に紅茶を――」
執事長の制止を無視して奥。1つの豪奢な扉の前に立つと、その扉をノックせずに開く。
そこは書斎というだけの普通の12畳ほどの部屋。
壁には本棚がいくつも並ぶ。背表紙の分厚い本は、見るだけで読む気をなくす。
戸棚もいくつかみられるが、そこにあるのは一体何か。分からない。分かりたくもない。
そんなものはどうでもいい。
今問題なのはこの部屋にいる人物。
1人は椅子に。
1人は床に。
その対比は、
あまりにも歪で、
あまりにも愚かで、
あまりにも美しい。
「なにを、しているのですか? ガーヒル様?」
私は怒りを発するのをなんとか堪えた。
私は怒鳴りをあげるのをなんとか堪えた。
私は××するのをなんとか堪えた。
そこにあった光景。
椅子に座り、足を組んでいたのはガーヒル。
その手には乗馬で使う鞭のようなものが収まっている。
何のために?
何のために。
そしてもう1人。
いや、1人と言っていいのか。
今の彼女は人間という尊厳を壊されて、人という状態で在る以前のものとして置かれている。
一糸まとわぬソフィアがいた。
床に倒れ伏し、自らの恥部を隠すようにうずくまる少女。その貧弱そうな体を、さらに小さくして床に丸まっている。
その背中はところどころが変色して、彼女の白い肌を朱に染めている。
何が起きたのか考えるまでもない。
下種。
その犯人を私はキッと睨みつける。
「エリーゼ……なぜここに?」
不愉快そうに眉をひそめるガーヒル。
その視線を真正面から受け止めた。
それはこっちの感情だ。
それなのにこの男は何もわかっていない。
自分が何をしているのか。自分がどこにいるのか。自分がどうしたのか。
そして、彼女の気持ちすらも。
「エ、エリ……さ、ま?」
地面に伏したソフィアが苦しそうにつぶやく。
その瞳は怯えているようで、悲しんでいるようで、苦しんでるようでもあった。
その痛みを受け入れ、私は視線を前に戻す。
「な・に・を、しているの、ですか、ガーヒル様?」
一字一字、噛みしめるように放つ。
それが彼の何かを逆なでようが、私には関係ない。どうでもいい。そう言わざるを得ない。それが今の私。
「ふん。折檻だよ」
「折檻?」
「いや、調教かな。ああ。彼女はちょっとおいたが過ぎた」
「一体何を?」
「ん?」
何を。と問われ、ガーヒルは一瞬言葉に詰まる。いや、困っている様子ではない。真剣にその言葉を噛みしめ、そして本気で悩んでいるように首を傾げる。
「さぁ。なんだったか。うん、まぁ何かあったんだろうな」
まるで他人事のように。
まるで無関心なように。
彼はそう言い放つ。
「それよりなにより。まったくもって度し難い。あのアードのジジイ。私の足を引っ張るだけならまだしも、泥を引っかけていきやがって。イラつくぞ。なんだこの有様は。イライラする。それは私には不要のものだ。あってはないものだ。だから発散した。全く、便利なものだ婚約者というのは。しっかりちゃんと私のためになってくれている」
言っている意味が解らなかった。理解できなかった。
まるで他の言語を語っているような。いや、もともと日本じゃない世界で言語が通じてるのがおかしいのよね。ここって何語なの? 当然日本語のわけないけど。
そんなことを今更思うほどに、この男の言っていることは理解できない。いや、理解したくなかった。
だから私はきっと彼と対決するのだろう。
「困ります、カシュトルゼ様。勝手に入られては!」
ガーヒル邸の中に招き入れられて。私は執事長の案内を無視してずかずかと屋敷の奥へと進む。
「あら、かつての許嫁の家に来るのが何がいけないのでしょうか。それに我が家は公爵家、こちらは侯爵。家格としては問題ないかと思いますが?」
「そういう問題ではなく、私が主に叱られてしまいます」
「大丈夫ですわ。私がガーヒル様にあなたに罪はないと言いますので」
「そ、そういう問題でもないのですが……」
一応元筆頭大臣の娘であり、家格としても上の私をむげにはできないのだろう。
執事長は困惑顔で私の後に続きながら文句を言うだけしかない。
これで肩でも触ってくれば、セクハラだチカンだと騒いでさらに有利に話を進められたんだけど。
さすがにそこまで甘くはないみたいね。
それでもつまりはだれも止められないということ。
だから私はそのまま彼の部屋へと向かう。
初めての屋敷だけど向かうべき方向は分かった。多分、エリーゼの記憶が残っているのでしょう。
そこにガーヒルとの思い出は……ない。
楽しかった思い出も。嬉しかった思い出も。悲しい思い出も。喜びに満ちた思い出も。何も。
あるのは裏切られたという思いだけ。
まったく。傑作よね。
そんな状態でも、ガーヒルに対する熱い思いは残っているのだから。
けど無理。
なぜなら私にはそんな思いはない。
あれは倒すべき相手。ただそれだけのこと。
私の命を狙った。実際に手を下した。それだけで十分。
そしてきっと、その理由がもう1個増える。
「そ、そちらは! おやめください! 今、応接間に紅茶を――」
執事長の制止を無視して奥。1つの豪奢な扉の前に立つと、その扉をノックせずに開く。
そこは書斎というだけの普通の12畳ほどの部屋。
壁には本棚がいくつも並ぶ。背表紙の分厚い本は、見るだけで読む気をなくす。
戸棚もいくつかみられるが、そこにあるのは一体何か。分からない。分かりたくもない。
そんなものはどうでもいい。
今問題なのはこの部屋にいる人物。
1人は椅子に。
1人は床に。
その対比は、
あまりにも歪で、
あまりにも愚かで、
あまりにも美しい。
「なにを、しているのですか? ガーヒル様?」
私は怒りを発するのをなんとか堪えた。
私は怒鳴りをあげるのをなんとか堪えた。
私は××するのをなんとか堪えた。
そこにあった光景。
椅子に座り、足を組んでいたのはガーヒル。
その手には乗馬で使う鞭のようなものが収まっている。
何のために?
何のために。
そしてもう1人。
いや、1人と言っていいのか。
今の彼女は人間という尊厳を壊されて、人という状態で在る以前のものとして置かれている。
一糸まとわぬソフィアがいた。
床に倒れ伏し、自らの恥部を隠すようにうずくまる少女。その貧弱そうな体を、さらに小さくして床に丸まっている。
その背中はところどころが変色して、彼女の白い肌を朱に染めている。
何が起きたのか考えるまでもない。
下種。
その犯人を私はキッと睨みつける。
「エリーゼ……なぜここに?」
不愉快そうに眉をひそめるガーヒル。
その視線を真正面から受け止めた。
それはこっちの感情だ。
それなのにこの男は何もわかっていない。
自分が何をしているのか。自分がどこにいるのか。自分がどうしたのか。
そして、彼女の気持ちすらも。
「エ、エリ……さ、ま?」
地面に伏したソフィアが苦しそうにつぶやく。
その瞳は怯えているようで、悲しんでいるようで、苦しんでるようでもあった。
その痛みを受け入れ、私は視線を前に戻す。
「な・に・を、しているの、ですか、ガーヒル様?」
一字一字、噛みしめるように放つ。
それが彼の何かを逆なでようが、私には関係ない。どうでもいい。そう言わざるを得ない。それが今の私。
「ふん。折檻だよ」
「折檻?」
「いや、調教かな。ああ。彼女はちょっとおいたが過ぎた」
「一体何を?」
「ん?」
何を。と問われ、ガーヒルは一瞬言葉に詰まる。いや、困っている様子ではない。真剣にその言葉を噛みしめ、そして本気で悩んでいるように首を傾げる。
「さぁ。なんだったか。うん、まぁ何かあったんだろうな」
まるで他人事のように。
まるで無関心なように。
彼はそう言い放つ。
「それよりなにより。まったくもって度し難い。あのアードのジジイ。私の足を引っ張るだけならまだしも、泥を引っかけていきやがって。イラつくぞ。なんだこの有様は。イライラする。それは私には不要のものだ。あってはないものだ。だから発散した。全く、便利なものだ婚約者というのは。しっかりちゃんと私のためになってくれている」
言っている意味が解らなかった。理解できなかった。
まるで他の言語を語っているような。いや、もともと日本じゃない世界で言語が通じてるのがおかしいのよね。ここって何語なの? 当然日本語のわけないけど。
そんなことを今更思うほどに、この男の言っていることは理解できない。いや、理解したくなかった。
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