50 / 68
48話 選挙前日
しおりを挟む
選挙の投票日を明日に迎えた日。
私は選挙事務所で1人、片付けをしていた。
明日にはもうすべてに決着がつく。そうなればもうここに用はない。
長かったようで短い1週間だったわね。
「エリーゼ様」
声に振り返れば、クロイツェルが扉を開けて入って来たところだ。
「あら、どうしましたの?」
「いえ、エリーゼ様だけ残っているというのは……」
「不安?」
「そういうわけでは……いえ、そうですね。前回のこともありますので」
「大丈夫よ。あなたたちがいるから」
「あなた…………たち?」
「ええ」
一瞬喜色を浮かべたクロイツェルが、首をかしげる。そんな彼ににこやかに頷くと同時。
「うーす、エリ。まだやってんのか?」
ガラッと乱暴に扉を開けて入って来たのはダウンゼンだ。
何やら紙袋を抱いている。
「貴様か……」
「あ? んで、てめぇがいるんだよ」
「エリーゼ様の身の危険からお守りするためだ。貴様には関係ない」
「んで関係ねーんだよ。あ、分かったぞ。お前、前に失敗したから今回で挽回しようって話だろ。あれだ、おめー挽回だ」
「そ、そうではない! それに汚名を挽回してどうする!」
「あ? 汚名があるから挽回するんだろうが!」
やれやれ。結局この2人も最後まで変わらないわね。
ま、それだけ私が魅力的ってことかしら。
「はいはい、2人ともうるさい。嫌うわよ」
「はっ、申し訳ありませんエリーゼ様!」
「分かったよ……」
こういう時だけ無駄に聞き分けがいいんだから。
「ま、ありがたいんだけどね。で、ダウンゼン。その袋は?」
「ん? ああ、これはあれだ。差し入れだよ。ハールンのおばさんから、クッキー」
「あらあら。わざわざ申し訳ないわね。お返ししないと」
「いいってよ。おばさんも好きでやってんだろうから。ほい」
そう言ってダウンゼンは袋からクッキーを取り出すと私に差し出す。普通のバタークッキー。けど、手作り感が出ている。
だからその場でありがたくいただいた。
金品は別として、こういった食べ物はすぐその場でいただくのがいい。できればくれた人の前で。
毒見を介さないことで相手を信頼していることを伝え、その場で食べることで決して賄賂ではないことを公に示す。さらに空いてきた小腹も膨れると一石三鳥の良いことずくめ。
「美味しいわ」
「そりゃよかった。おばさんも喜ぶぜ」
ダウンゼン自身もクッキーをいただきながら、嬉しそうに笑う。
これでいい。
ダウンゼンを介して上町、そして下町の私の評判はすこぶるいい。
変に見下したりしない、対等な付き合いをしてくれる貴族様というのがもっぱらの評判になっている。
もう少し時間があればこの都を離れて郊外まで評判にできたんだろうけど。ま、仕方ないわね。
「おい、なぜ私にはない?」
「あ? 貴族様にゃあもったいないだろ」
「あら、私も貴族だけど? いいじゃない、クロイツェルにもあげて」
「お、おう。エリが言うなら」
「あ、いえ、エリーゼ様。そういうわけでは……」
「まぁまぁ。皆さんのお気持ちよ。いただきなさい」
「はぁ、では……」
クロイツェルとしても、別にクッキーが絶対食べたいわけじゃないだろう。
ただダウンゼンに難癖をつけておきたかったんだろうけど、まぁそこらへんは言い合いが長引きそうだから打ち切った。
ただクロイツェルとしても、ダウンゼンがエサで私を釣ったと考えるようで面白くないだろう。
私もクッキー程度で釣られるほど安い女じゃないと示したい。
「クロイツェル。工作の方は?」
「ええ。ガーヒル派にもアード卿派にも関わらない無所属の連中はほぼエリーゼ様を応援するようになっています。あとはアード卿派の連中ですが、それがどうもどっちつかずで」
「どうせ天秤にかけてるだけでしょ。私とガーヒル。どちらが勝つかの決定権を、旧アード派が担っているのは間違いないわけだし。高く売るタイミングを狙ってるわね」
「おいおい、そりゃなんだ。負けたのにそいつらが偉そうにしてるってことか?」
「浮動票をどれだけかきこむかは選挙の基本よ」
「そういうもんかよ……」
「それにどちらが勝ったとして、そういうコウモリたちを、私やガーヒルが許しておくと思って?」
「うわぁ……なんか闇を見たぞ」
「というのは半分冗談として」
「半分かよ」
「クロイツェル。当て推量でいいんだけど、どれくらいになりそう?」
「そうですね……四分かよくて五分の僅差になるかと。申し訳ありません。ご期待に沿えず」
「へっ、そーだそーだ。もっとどかんとエリの圧勝まで頑張りやがれ!」
「いえ、十分よ」
「へ? いいのか? それで?」
「良いのですか? まだ負けの可能性は全然ありますが」
「いいのよ。接戦が演じられれば。きっと勝っても負けても、最終的には“私が勝つことになる”から」
「「…………」」
2人が唖然とした様子で私を見て来る。
「なによ、その目は」
「い、いや……エリは最後まで本当にエリだなって」
「さすがエリーゼ様……到底私の及ぶところではない」
「なによそれ。なんか私が全然最悪の悪逆非道の人間みたいになっているじゃないですの」
そんなこんなで本番前日の夜は更け。
そして、選挙の日が来る。
私は選挙事務所で1人、片付けをしていた。
明日にはもうすべてに決着がつく。そうなればもうここに用はない。
長かったようで短い1週間だったわね。
「エリーゼ様」
声に振り返れば、クロイツェルが扉を開けて入って来たところだ。
「あら、どうしましたの?」
「いえ、エリーゼ様だけ残っているというのは……」
「不安?」
「そういうわけでは……いえ、そうですね。前回のこともありますので」
「大丈夫よ。あなたたちがいるから」
「あなた…………たち?」
「ええ」
一瞬喜色を浮かべたクロイツェルが、首をかしげる。そんな彼ににこやかに頷くと同時。
「うーす、エリ。まだやってんのか?」
ガラッと乱暴に扉を開けて入って来たのはダウンゼンだ。
何やら紙袋を抱いている。
「貴様か……」
「あ? んで、てめぇがいるんだよ」
「エリーゼ様の身の危険からお守りするためだ。貴様には関係ない」
「んで関係ねーんだよ。あ、分かったぞ。お前、前に失敗したから今回で挽回しようって話だろ。あれだ、おめー挽回だ」
「そ、そうではない! それに汚名を挽回してどうする!」
「あ? 汚名があるから挽回するんだろうが!」
やれやれ。結局この2人も最後まで変わらないわね。
ま、それだけ私が魅力的ってことかしら。
「はいはい、2人ともうるさい。嫌うわよ」
「はっ、申し訳ありませんエリーゼ様!」
「分かったよ……」
こういう時だけ無駄に聞き分けがいいんだから。
「ま、ありがたいんだけどね。で、ダウンゼン。その袋は?」
「ん? ああ、これはあれだ。差し入れだよ。ハールンのおばさんから、クッキー」
「あらあら。わざわざ申し訳ないわね。お返ししないと」
「いいってよ。おばさんも好きでやってんだろうから。ほい」
そう言ってダウンゼンは袋からクッキーを取り出すと私に差し出す。普通のバタークッキー。けど、手作り感が出ている。
だからその場でありがたくいただいた。
金品は別として、こういった食べ物はすぐその場でいただくのがいい。できればくれた人の前で。
毒見を介さないことで相手を信頼していることを伝え、その場で食べることで決して賄賂ではないことを公に示す。さらに空いてきた小腹も膨れると一石三鳥の良いことずくめ。
「美味しいわ」
「そりゃよかった。おばさんも喜ぶぜ」
ダウンゼン自身もクッキーをいただきながら、嬉しそうに笑う。
これでいい。
ダウンゼンを介して上町、そして下町の私の評判はすこぶるいい。
変に見下したりしない、対等な付き合いをしてくれる貴族様というのがもっぱらの評判になっている。
もう少し時間があればこの都を離れて郊外まで評判にできたんだろうけど。ま、仕方ないわね。
「おい、なぜ私にはない?」
「あ? 貴族様にゃあもったいないだろ」
「あら、私も貴族だけど? いいじゃない、クロイツェルにもあげて」
「お、おう。エリが言うなら」
「あ、いえ、エリーゼ様。そういうわけでは……」
「まぁまぁ。皆さんのお気持ちよ。いただきなさい」
「はぁ、では……」
クロイツェルとしても、別にクッキーが絶対食べたいわけじゃないだろう。
ただダウンゼンに難癖をつけておきたかったんだろうけど、まぁそこらへんは言い合いが長引きそうだから打ち切った。
ただクロイツェルとしても、ダウンゼンがエサで私を釣ったと考えるようで面白くないだろう。
私もクッキー程度で釣られるほど安い女じゃないと示したい。
「クロイツェル。工作の方は?」
「ええ。ガーヒル派にもアード卿派にも関わらない無所属の連中はほぼエリーゼ様を応援するようになっています。あとはアード卿派の連中ですが、それがどうもどっちつかずで」
「どうせ天秤にかけてるだけでしょ。私とガーヒル。どちらが勝つかの決定権を、旧アード派が担っているのは間違いないわけだし。高く売るタイミングを狙ってるわね」
「おいおい、そりゃなんだ。負けたのにそいつらが偉そうにしてるってことか?」
「浮動票をどれだけかきこむかは選挙の基本よ」
「そういうもんかよ……」
「それにどちらが勝ったとして、そういうコウモリたちを、私やガーヒルが許しておくと思って?」
「うわぁ……なんか闇を見たぞ」
「というのは半分冗談として」
「半分かよ」
「クロイツェル。当て推量でいいんだけど、どれくらいになりそう?」
「そうですね……四分かよくて五分の僅差になるかと。申し訳ありません。ご期待に沿えず」
「へっ、そーだそーだ。もっとどかんとエリの圧勝まで頑張りやがれ!」
「いえ、十分よ」
「へ? いいのか? それで?」
「良いのですか? まだ負けの可能性は全然ありますが」
「いいのよ。接戦が演じられれば。きっと勝っても負けても、最終的には“私が勝つことになる”から」
「「…………」」
2人が唖然とした様子で私を見て来る。
「なによ、その目は」
「い、いや……エリは最後まで本当にエリだなって」
「さすがエリーゼ様……到底私の及ぶところではない」
「なによそれ。なんか私が全然最悪の悪逆非道の人間みたいになっているじゃないですの」
そんなこんなで本番前日の夜は更け。
そして、選挙の日が来る。
0
あなたにおすすめの小説
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる