政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

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48話 選挙前日

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 選挙の投票日を明日に迎えた日。
 私は選挙事務所で1人、片付けをしていた。

 明日にはもうすべてに決着がつく。そうなればもうここに用はない。
 長かったようで短い1週間だったわね。

「エリーゼ様」

 声に振り返れば、クロイツェルが扉を開けて入って来たところだ。

「あら、どうしましたの?」

「いえ、エリーゼ様だけ残っているというのは……」

「不安?」

「そういうわけでは……いえ、そうですね。前回のこともありますので」

「大丈夫よ。あなたたちがいるから」

「あなた…………たち?」

「ええ」

 一瞬喜色を浮かべたクロイツェルが、首をかしげる。そんな彼ににこやかに頷くと同時。

「うーす、エリ。まだやってんのか?」

 ガラッと乱暴に扉を開けて入って来たのはダウンゼンだ。
 何やら紙袋を抱いている。

「貴様か……」

「あ? んで、てめぇがいるんだよ」

「エリーゼ様の身の危険からお守りするためだ。貴様には関係ない」

「んで関係ねーんだよ。あ、分かったぞ。お前、前に失敗したから今回で挽回しようって話だろ。あれだ、おめー挽回だ」

「そ、そうではない! それに汚名を挽回してどうする!」

「あ? 汚名があるから挽回するんだろうが!」

 やれやれ。結局この2人も最後まで変わらないわね。
 ま、それだけ私が魅力的ってことかしら。

「はいはい、2人ともうるさい。嫌うわよ」

「はっ、申し訳ありませんエリーゼ様!」

「分かったよ……」

 こういう時だけ無駄に聞き分けがいいんだから。

「ま、ありがたいんだけどね。で、ダウンゼン。その袋は?」

「ん? ああ、これはあれだ。差し入れだよ。ハールンのおばさんから、クッキー」

「あらあら。わざわざ申し訳ないわね。お返ししないと」

「いいってよ。おばさんも好きでやってんだろうから。ほい」

 そう言ってダウンゼンは袋からクッキーを取り出すと私に差し出す。普通のバタークッキー。けど、手作り感が出ている。
 だからその場でありがたくいただいた。

 金品は別として、こういった食べ物はすぐその場でいただくのがいい。できればくれた人の前で。
 毒見を介さないことで相手を信頼していることを伝え、その場で食べることで決して賄賂ではないことを公に示す。さらに空いてきた小腹も膨れると一石三鳥の良いことずくめ。

「美味しいわ」

「そりゃよかった。おばさんも喜ぶぜ」

 ダウンゼン自身もクッキーをいただきながら、嬉しそうに笑う。

 これでいい。
 ダウンゼンを介して上町かみまち、そして下町しもまちの私の評判はすこぶるいい。
 変に見下したりしない、対等な付き合いをしてくれる貴族様というのがもっぱらの評判になっている。
 もう少し時間があればこの都を離れて郊外まで評判にできたんだろうけど。ま、仕方ないわね。

「おい、なぜ私にはない?」

「あ? 貴族様にゃあもったいないだろ」

「あら、私も貴族だけど? いいじゃない、クロイツェルにもあげて」

「お、おう。エリが言うなら」

「あ、いえ、エリーゼ様。そういうわけでは……」

「まぁまぁ。皆さんのお気持ちよ。いただきなさい」

「はぁ、では……」

 クロイツェルとしても、別にクッキーが絶対食べたいわけじゃないだろう。
 ただダウンゼンに難癖をつけておきたかったんだろうけど、まぁそこらへんは言い合いが長引きそうだから打ち切った。

 ただクロイツェルとしても、ダウンゼンがエサで私を釣ったと考えるようで面白くないだろう。
 私もクッキー程度で釣られるほど安い女じゃないと示したい。

「クロイツェル。工作の方は?」

「ええ。ガーヒル派にもアード卿派にも関わらない無所属の連中はほぼエリーゼ様を応援するようになっています。あとはアード卿派の連中ですが、それがどうもどっちつかずで」

「どうせ天秤にかけてるだけでしょ。私とガーヒル。どちらが勝つかの決定権を、旧アード派が担っているのは間違いないわけだし。高く売るタイミングを狙ってるわね」

「おいおい、そりゃなんだ。負けたのにそいつらが偉そうにしてるってことか?」

「浮動票をどれだけかきこむかは選挙の基本よ」

「そういうもんかよ……」

「それにどちらが勝ったとして、そういうコウモリたちを、私やガーヒルが許しておくと思って?」

「うわぁ……なんか闇を見たぞ」

「というのは半分冗談として」

「半分かよ」

「クロイツェル。当て推量でいいんだけど、どれくらいになりそう?」

「そうですね……四分かよくて五分の僅差になるかと。申し訳ありません。ご期待に沿えず」

「へっ、そーだそーだ。もっとどかんとエリの圧勝まで頑張りやがれ!」

「いえ、十分よ」

「へ? いいのか? それで?」

「良いのですか? まだ負けの可能性は全然ありますが」

「いいのよ。接戦が演じられれば。きっと勝っても負けても、最終的には“私が勝つことになる”から」

「「…………」」

 2人が唖然とした様子で私を見て来る。

「なによ、その目は」

「い、いや……エリは最後まで本当にエリだなって」

「さすがエリーゼ様……到底私の及ぶところではない」

「なによそれ。なんか私が全然最悪の悪逆非道の人間みたいになっているじゃないですの」

 そんなこんなで本番前日の夜は更け。

 そして、選挙の日が来る。
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