知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

閑話1 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 時々、夢を見る。
 どこか西洋風のお城みたいな場所で、暮らしている夢。

 そこでの私は偉い人らしく、真っ白なドレスを着たり、使用人がたくさんいたり、みんなに敬われる立場の人間だ。

 けどどうやら私はそんな境遇が嫌で、華麗なドレスなんて脱ぎ捨てて、汚れても平気なチェック柄のシャツにハーフパンツで遊びまわる子供だった。
 広大な庭にある木に登ったり、池に飛び込んだり、地下の隠し部屋にひそんだりと自由気ままに遊んでいた。
 果てにはお城を抜け出して、いわゆるお忍びとして街を歩き回ったりして、後でこっぴどくしかられるのだ。

 やがて自分は成長し、分別というものがついてきたころ。
 私は妹を授かった。

 可愛らしい小さな妹。
 それから私は妹に夢中だった。
 勉強とかそっちのけで妹ばかり見ていた。

 ギュッと握るとつぶれそうな手を触るのが好きだった。
 薄い色素の髪の毛を撫でるのが好きだった。
 私を発見するときゃっきゃと笑う顔にキスをするのが好きだった。

 たとえ何があろうとも、この妹を必ず守ろう。
 もう二度と、あんなに悲しくて虚しい喪失感に打ちひしがれたくないから。
 そうパパとママに誓って、2人はそれを笑って許した。

 そんな夢。
 幸せな夢。

 もちろん、私はどこかの貴族様でもないし、西洋生まれでもないし、妹なんていない。

 けど、なんだかその夢が自分事のように嬉しくて、楽しくて、ついつい続きを期待してしまう。
 夢に連載性なんてあるとは思ってないけど、それでも何度か夢を見たのだ。

 次第に成長していく妹。
 それに反して責任がのしかかってくる自分。

 そんなどこにでもあるようで、どこにでもない夢が、私をどこか不安にさせる。

 あるいはこれは私の深層心理なのか。
 大切な人を、何をしてでも守らないと。その思いが、こんな夢を見させているのか。

 分からない。
 けど、守りたい。

 明彦くんを、妹ともいえるマリアを。

 この気持ちが先なのか、この夢が先なのかはわからない。
 けどこの気持ちにはきっと嘘偽りはないから。

 だから――

「ふふ……このすべすべは絶対守るからね……」

「ん……? え、里奈ぁ!?」

 目の前にいる明彦くん――生まれたままの姿の明彦くんが、こっちを見て驚愕に目を見開いている。
 それにしても反則よ。この肌。ツルっツルでプルンプルンじゃない。この髪。マジ神。サラサラすぎ。

 あーいいなぁ。
 触っちゃいたい。いや、触ってもいいよね。姉だし?

 というわけで触ります!

「まぁまぁ。お客様、おかゆい所ありますかー?」

「あー、えっともうちょっと奥……じゃなく! なんでここにいるんだ!」

 明彦くんが猛スピードで私から距離をとり、タオルと手足で自分の体を隠そうとする。
 縮こまって顔を真っ赤にして。うん、可愛い。

「なんだよ、その格好! 服着ろ!」

「何って。ただタオル巻いてるだけじゃない。それとも、明彦くんはお風呂場に服を着て入るタイプ? 違うよね。明彦くんも脱いでるもん」

 そう、ここがどこかって冬山の別荘のお風呂場。
 これまた見事な温泉で、室内には広々とした湯舟が広がっている。一種のテーマパークみたい。

「てかなんでいるの!? 里奈たちはもう入っただろ!?」

「そりゃお風呂に入りに来たのよ。それに1日に2回お風呂入っちゃいけない法律でもある? 温泉宿に行ったら、最低2回は入るのよね、私」

「そういう問題じゃなく……くそ、わざわざお前らの目を盗んで時間をずらしたっていうのに」

「それよ。明彦くん、皆と一緒に入らないんだもん」

「当たり前だ! 俺は男だぞ!」

「今は女の子でしょ?」

「…………里奈、いつからそんな方便がうまくなった」

「明彦くんの影響じゃない? なんだかんだで、色々と言い逃れしてたよね」

「ぐっ……」

 明彦くんは困ったように瞳を左右上下にせわしなく泳がせる。

「と、とにかく出る!」

「あ、ちょっと待った」

 出口に向かおうとする明彦くんを、横から体当たりして止める。
 さらに何か言おうとした明彦くんの口を手で封じた。

 その時、入口のドアが少し開いて声が入ってきた。

「里奈お姉ちゃん、先輩いましたー?」

 竜胆だ。
 こっちにも捜索の手が回ってるみたい。

「ううん、ここにはいなさそう」

「そうですかー。もう、どこに行ったんですかね」

「んー、東館のほうじゃないかな。まだ探してないでしょ」

「あぁ、そっちですか。うん、正義ジャスティスセンサーもそっちっぽいですね。……ところで里奈お姉ちゃん今、お風呂入ってます?」

「ん、うん」

「じゃあ竜胆も入ります、ちょっと汗かいちゃいました」

 マズい。
 この状況を見られては言い逃れができなくなる。

 何か方法……収穫、は駄目だって。なら私にあとできるのは……。

「あ、私ももう出るところなの。なんでもこれからこのお風呂は掃除するって、管理の人が言ってたから」

「え、そうなんですか。うーん、残念ですけどまた明日にしますか。今からだと湯冷めしちゃうかもですし。うん、それが正義ジャスティスです! ではまた!」

 竜胆の気配が遠ざかっていく。

 ホッとため息。これでよし。

「明彦くん、ごめんね。もう大丈夫みたい」

 返事がない。
 なんでだろうと、下を見る。

 明彦くんの頭がすぐそこにある。
 そして私が明彦くんを抱きかかえた状態になっていたから、身長差でその顔が私の胸にタオル越しに押し付けられている。

 その中で変な顔でぐったりしている。

 えっと、これはつまり。どういうこと?
 明彦くんは今は女の子。でもやっぱり男の子というのは間違いないわけで。
 それがこんな密着して。こうまで押し付けられて。
 それは――
 つまり――

「明彦くんのエッチ!」

 頬を張った。

「なして!?」

 悲鳴を上げて崩れ落ちる明彦くんを見て、ハッと我に返る。

「ご、ごめん。明彦くんが悪いわけじゃないけど……つい。収穫しそうになったかも」

「か、勘弁してくれ……」

 一歩間違えれば大惨事になっていた。
 うん、気を付けよう。

「で?」

「ん?」

「この状況。てか説明してもらおうか?」

「えっと……」

「なんで竜胆がここに? てかそもそも里奈が来た理由って?」

 ああ、そういうこと。

「もう食後の自由時間でしょ。明彦くんがどこにもいないって話になって。妹とかが、明彦くんどこって探し出して、今は皆で探してるの」

「……最悪だ」

「それで私も探して、お風呂にいるかな、と思って。それで明彦くんが体を洗ってるのが見えて、背後から襲っちゃいました」

「発想がマリアとニーアと同じ! ……ダブルで最悪だ」

 がくりと肩を落とす明彦くんに、保護欲が掻き立てられる。
 ううん、でも駄目。今と同じ羽目になるから。理性よ。抑え込むのよ、私!

「とにかく、出る! すぐに出ればまだ……くちゅん!」

 明彦くんの可愛らしいくしゃみに、思わずにやけてしまう。
 あぁ、夢の中の私。間違ってない。こんな可愛い妹がいたら、もう何がなんでも守りたいと思ってしまうよね。

「ほらほら。そんな姿でいるから湯冷めしちゃうでしょ。ちゃんと温まってこ」

「あのなぁ……」

「私もこの状態だからね。今から出てけなんて言わないよね、明彦くん? 大丈夫。明彦くんが前で私が後ろなら、何も問題ないでしょ。それに、明彦くんが変なことをするわけないって信じてるし」

「……ん」

「まぁ今の明彦くんなら片手、じゃなく人差し指でも勝てるけど」

「それを言うなよ……」

 というわけで、明彦くんの背中を見ながら湯船に浸かる。
 心地よい温かみに加え、目の前にいる明彦くんを見れば極楽にいるみたい。

 あぁ、ギュッとしたいけど我慢。
 もうさっきよりひどい状況になりそうだから我慢。

「なぁ、里奈」

 しばらくして明彦くんの声が響く。
 何気ない会話の糸口ともいえる自然な会話。
 だから私も普通に答える。

「どうしたの、明彦くん」

「里奈は、元の世界に戻りたいのか?」

 一瞬、答えに詰まった。

 その質問が来るとは思っていなかったから。
 あるいは、明彦くんが見た目以上に深い悩みにかられているのが分かったから。

「明彦くんは、戻りたい?」

 質問を質問で返すという最低な返答だったが、明彦くんはそれに対しては何も言わず、ただ、

「俺は……分からない」

 そう言って首を振った。

 ああ、彼は今、とても迷ってるんだろう。
 元の世界に戻りたい想いと、この世界に残りたい想い。
 それらが相反して彼を挟み苦しめている。

 それがとてもよく分かった。
 この国の人は、気持ちいいのだ。

 途中から来た私でも、あれだけの人を殺した私でも、こうして暖かく迎えてくれているのだから。
 より多くの影響を与えてきた明彦くんにとっては、それ以上の暖かさと心地よさがあるに違いない。

 けど、やっぱり家には戻りたい。
 いかに良いと言っても、生活の便利さは比較にならない。

 何より、ここは戦争が近すぎる。
 もう戦わなくていい。殺さなくていい。悲しい思いをしなくていい。
 もちろん、元の世界でも争いや傷つけあったり悲しいことがないわけじゃない。
 けどやはり比較すれば、それはどうしても元の世界に軍配が上がるのは当然だ。

 そして何より家族。
 2年以上も音信不通になった家族や友人。
 何も言わずに消えた私たちにとって、心残りというのはやはりないわけがない。

 おそらく、明彦くんとしては元の世界に戻りたいと思っているに違いない。
 けど、明彦くんは優しいから。
 ここに残していく人のことを、見捨てられないというのは当然思うことで。
 だからこそ、こうも真剣に悩んでいるのだと感じた。

「分からないんだ。戻りたい。けど、ここにもいたい。俺は、どっちにしたいか……まったく判断できない」

 明彦くんが苦しそうに内心を吐露する。
 そんな彼の姿を見るのが忍びなくて、私はようやく口を開く。

「私はね。戻りたいよ」

「え……」

 思わず明彦くんが振り返る。
 その目には驚きと、疑念と、何より困惑がある。

 その瞳。
 それに対するには、私も虚偽なく真剣に向き合わなくちゃいけない。
 そう思った。
 だから言う。

「私ね。先生になりたいんだ。小学校の先生」

「小学校……」

「うん。子どもたちを教える学校の先生。それにね、なるのが私の夢」

「夢……か」

「私の手は血にまみれてるのは知ってる。それでも、罪滅ぼしじゃないけど、そうやって子供たちをちゃんと導けることができたら。戦争は本当に悲しいものなんだって、教えていけることができたら。きっと、未来は豊かになっていく。そう思うの」

「里奈……」

「だから私は戻りたい。お母さんとお父さんにも会いたいしね。けどね、それは私の都合。私の感情。明彦くんが付き合う必要はないんだよ」

 冷たい言い方だと思う。
 私と明彦くんは違うから、自分で考えろと言っているのに等しい。
 わらにすがってきた人間を、突き落とすような所業。

 けど、私がそう求めてしまうと、明彦くんはきっとそれを拠り所にする。
 それだけならまだいい。

 それで明彦くんは無理をする。

 去年にあったように、無理をして、傷つく。
 あんな思いはもう嫌だった。
 だから、あえて突き放した。

 明彦くんには自分の意思で、自分の足で歩いてほしいから。

「明彦くんは、どうしたい」

 再び、聞く。
 私の視線を受け、明彦くんは自信なさげに視線を落とした。

「俺、は……」

 あぁ……無理。
 こんな可愛い子を追い詰めるなんて、もう無理。

 だから私はうつむく明彦くんをギュッと正面から抱きしめ、

「大丈夫だよ。明彦くんならきっと良い答えを見つけられる。私も手伝うから。残る時も、戻る時もずっと一緒にいるから。ね」

「…………ああ、ありがとう。里奈」

 明彦くんの体温が、吐息が肌に触れる。
 構わなかった。

 夢の中での私。
 何があっても守ると決めた。
 姉ならばそういうものだと、今は思う。

 だからもう迷わない。
 明彦くんがどう決断しようとも、彼の前に立ちふさがる敵は、全部私が…………。
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