知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第9話 後継者

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 模擬戦が終わった。

 そしてみんなが昼食の準備をしている中、俺はブリーダと2人きりで話をした。

「いや、ウィットは安定してますね。あれは。そう簡単には崩せないというか、崩そうとするとめんどくさくなるというか」

「そうか。クロエは?」

「まぁ、粗削りというか、気持ちが逸ってるというか。狙いとタイミングはよかったんすけどねぇ」

 と、模擬戦の結果を直に聞く。
 俺自身も『古の魔導書エンシェントマジックブック』を通して動きは見ていたから何が起きたか、どういう状況となったかは分かっているが、やはり当事者の意見は大事だ。

 それからいくつかの感想を聞いて、俺は判断を下した。

「じゃあ、異論はないな?」

「っす。自分もそっちの方が合ってると思うっす」

「ん……」

 まぁ、あいつには残念で不本意な結果になるけどしょうがない。

「ところで、なんであいつがいるんすか?」

 とブリーダが水を向けたのは、

「君たちの戦いぶりは素晴らしい。あのスレンダー相手にあそこまでやるのだから! 感動した! うむ、我々と共ににっくき帝国の雑魚輩どもに、正義の鉄槌をくらわせようではないか!」

「あ……はぁ」

「えっと、グリード、さん……?」

「その通り! 私はビンゴ王国の突撃隊長クリッド・グリードである! ゆえあってジャンヌ様に合力ごうりきすることになった者である! 改めてよろしく頼むぞ!」

 うん……本当に暑苦しい。
 ウィットたちはもちろん、あのクロエさえも目を白黒させているのだから。

「なんでもこれから共闘する相手と意思疎通をしておきたいんだと」

「疎通、できてないっすよ」

「まぁ、そうだな」

「はぁ……っす」

 とはいえ、彼なりに気を使ったものと思われる。
 自己紹介したくらいだったから、お互いのことなんかもわからないだろうし。
 飲み会とかセッティングした方がいいのかなぁ……。これから命を預け合う仲間なわけだし。そういうの苦手なんだけど……。

 そんな余談もありつつ、パンとスープだけの簡単な野戦の昼食を終え、クロエ、ウィット、その他この模擬戦に参加した全員を集めた。

「それでは、まず、今回の模擬戦の総括をする」

 誰もがかたずを飲んで、こちらを見つめてくる。
 ふぅ、この緊張感。慣れないなぁ。

「先に言っておくけど、これは俺個人というより、軍として、国として良いと思った方を選出してる。だからどっちが勝ってるとかってものじゃないからな」

 とりあえず前置き。
 卑怯な言い方だけど、後々問題になるのは困るからね。

「まずはウィット。堅実な戦いで、格上のブリーダとよく戦った。犠牲も少ないし、まずいところも少なかった。これまで色々な人から勉強して、それを自分の血肉にした結果だと思う」

 ホッとした空気が流れる。
 ウィットは得意そうな顔で、それでいて泣きそうな顔をして何度も頷いている。

 実はこの発表の裏には、ちゃんと褒めるべきは褒めて、努力をちゃんと見ているからほかの人も頑張ろう、的な信賞必罰の面もある。なんか会社人っぽいなぁ。

「続いてクロエ。やり方は悪くなかったが、相手がどう反応するか、どう対応するかの処理が甘すぎだ。その結果、部隊は壊滅、お前も討ち死にってありさまだ。正直、これはかなりマイナスだ」

 ウィットとは異なる雰囲気のざわつきが辺りを包む。
 クロエがしゅんと肩を落とすのが見えた。

 可哀そうだが、言うべきことは言う。
 それも信賞必罰。

「じゃあ、あんま引っ張ってもあれだからな。俺の隊を率いる新隊長を発表する」

 場の空気が一気に引き締まる。
 誰かがつばを飲み込んだ。それは俺だったかもしれない。
 気づかないうちに、俺自身も緊張してそうしていたらしい。

 これが元の世界だったらドラムロールでも鳴っていただろうが、ないものはないし、そこまで大げさにするものではない。
 だから口の中で小さく嘆息し、そして言った。

「新隊長は――――クロエ、お前だ」

「…………へぅ?」

「へぅ、じゃない。お前が新隊長だ」

 顔を上げたクロエが、未だに信じられないのかわからず、笑っているのか困っているのか分からない不思議な表情をした。

「クロエ・ハミニスが新隊長だ。それともなんだ? やらないのか?」

 そこでようやくクロエがハッとしたように、顔に生気を取り戻すと、

「や、やります! やれます! やってみせます! このクロエ! 隊長殿が行けというなら海でも山でも空でもトイレの中でもどこまでも!」

 トイレは困るんだが、涙ぐむクロエを見ると、なんだかこっちも胸が熱くなる。
 そこまで思ってくれるのは嬉しいけどさ。まぁ、なんだかんだで長いからなぁ。

 なんて、感傷にひたっていると。

「なんでですか!?」

 と、すべてを吹き飛ばすような怒声が響く。
 あぁ、まぁそうくるよな。

「なんでなんですか!? 俺は引き分け、こいつは圧倒的に負けたのに!」

 ウィットだ。
 散々、べた褒めだったにもかかわらず、選ばれなかった側としては不満もあるだろう。

 それが当然。
 先の模擬戦の結果を考慮するなら、この結果にはならない。

「俺は別に勝敗は重視してない。そう先に言ったと思うけど?」

「でも、こいつは部隊を壊滅させた! 隊長はそういうのは嫌うでしょう!?」

「当然。これからの帝国軍の戦は、数の面から圧倒的不利な状況に終始するだろう。そんなときに大事な兵力を無駄にはできない」

「だからでしょう? だからこそ、俺の方が堅実に――」

「だからなんだよ、ウィット」

「――っ!?」

「いいか。相手の方が兵力が多いってことは、こちらを圧倒できる兵力をぶつけられるってことだ。その時、お前はどうする? 圧倒できる兵力を受けて持ちこたえられるか?」

「それは……もちろん……」

「断言はできないだろ。今、お前は同兵力でもギリギリ守り切った形だ。2倍、3倍の敵を受けた時はどうにもならないだろう。そう見れば敵は同兵力をぶつけて膠着に持ち込むかもしれない」

「けどそれは悪いことではないでしょう!?」

「本当にそう思うか?」

 ウィットの顔色が変わる。
 理解できないか。まぁそうだろうな。

 だから俺はさとすように、じっくり言い聞かせるように言葉をつむぐ。

「いいか。お前は同兵力を釘付けにするか、あるいは2倍、3倍の敵を受けて敗退するかの選択肢しかない。つまり負けないだけのことなんだ。けどクロエは違う。あの動き、あの行動力があれば、敵は同兵力でも負ける可能性がある。そうなれば2倍、3倍の兵力を当ててくる可能性がある。そうなればその分、本隊の手助けになるだろ?」

「け、けど、あくまで可能性でしょう!? それに、その場合は大敗する可能性もある。今のように!」

「そうだ。けど、何倍もの敵を迎え撃つんだ。どこかで博打をしないといけない。そしてそれは歩兵じゃない。鉄砲隊でもない。機動力と破壊力を有するお前たち騎馬隊にかかってるんだよ」

「それは……ですが、その賭けに出るには、こいつはあまりにも無謀すぎます!」

「そこを抑えるためににお前を副隊長に置きたい。冷静に状況を分析して判断できるお前を」

「俺、を……」

「お前がクロエの下につくのは悔しいと思うが、俺はそっちの方が勝てる確率は高いと思ってる。だから頼む。クロエを支えてやってくれ」

 俺がそう言って頭を下げると、ウィットは狼狽したように、

「ちょ、いや……やめてください。そんな頭を下げるなんて……」

 何か困ったように視線を動かした。
 そしてあー、とかうー、とか空に向かってうなり、やがてため息を盛大につくと、

「はぁ……分かりました。納得は行きませんが、隊長がそこまで言うならクロエが隊長で問題ありません」

「いや、納得してもらわなきゃ困る。その認識の齟齬そごは、きっと後に禍根を残す」

「しかし……」

「そうだな。クロエの隊長としての資質に問題がある場合、それをまとめて報告できるようにするっていうのはどうだろう。毎日はちょっと辛いから、週一とかで」

「なんとっ!? え、私、見張られる!?」

 ようやく事態に追いついたのか、クロエが反応した。

「つまり監察官をやれ、と」

「まぁそういうこと。お前次第でクロエを更迭することも指揮権をはく奪することもできる。もちろん戦闘中以外での話だけど」

「それは……悪くありませんね」

「悪いです! 隊長殿! それはクロエにとって生殺与奪を握られたも同じことー!」

「そんな権利でしかないけど、そこまでが俺が譲歩できる最大のラインだ。だから、頼む。お前じゃなきゃ駄目なんだ」

「…………そう言われたら……はい、納得しました。自分は異議ありません」

「あります! 超あります! クロエは副隊長にウィットを置くのは超反対ー!」

「よっし、じゃあ新生ジャンヌ隊あらためクロエ隊、よろしく頼む!」

「どぎゃーん! 最悪じゃー!」

 というわけで模擬戦終了。
 新しい部隊割もできたし、とりあえずやるべきことはやれて肩の荷が下りたものだ。

 若干、クロエとウィットの確執が気になったが、

「今日のところは負けを認めてやる。だが貴様が不甲斐ないことをしたら、すぐに俺が変わってやるからな!」

「へーんだ! ウィットをこき使って『勘弁してください、クロエさまー』って泣かしてやるから!」

 実は仲いいよな。この2人。
 これを2人に言ったら怒られそうだけど。

 まぁ、これなら大丈夫だろう。
 そう思った。
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