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第5章 帝国決戦
第10話 エイン帝国史
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国というのは栄枯盛衰があるように、驕れる平家も久しからず、かならず亡びがあるものだ。
その要因は外敵からの侵略が大半だが、そもそもそれを引き起こす内的要因がすでにあり、それにより国家が弱体しなければそのイベントは発生しない。
だから圧倒的な軍事力差、技術格差による兵力(この場合は数というより兵の質や兵器の数)に差がなければ、侵略のみによる国の滅びというものは歴史をひも解いてもほとんどない。
だから国の滅びというのはその国の内側から始まっていく。
無理な出兵と軍部の圧による暴政を行ったドスガ王国。
佞臣の言葉を鵜呑みにして、帝国に対抗しうる人間を更迭したビンゴ王国。
それらが滅んだのは当然といえば当然のこと。
それではエイン帝国はどうか。
皇帝を至高の存在に戴く皇室と、教皇を至上の存在に崇める教会。
国のトップが2人いて成り立っているという、珍しい例の国だ。
なーんて小難しいことを言ってみたけど。
目の前にある書類の束から心理的に逃れようとしている、わけではもちろんない。
去年から帝国にイッガーの部下を送り込んでいた。
もちろん、帝国のことを隅から隅まで調べるためだ。
そして今。
その集大成たる報告書が俺の前に置かれている。
紙媒体で30センチほどの束になって。
「……いや、読みますよ? 読みますとも!?」
めんどくさがってなんかいないぞ。
これでも元は学者の卵だ。
紙媒体を読むのは苦じゃない。
それに「なんでも拾ってこい」と命じた手前、突っ返すわけにはいかないし。
というわけで。
「表題、『エイン帝国の歴史と現在』か……」
報告書のタイトルなんて独創性など入り込む余地はないのだが、こうもカッチカチにまとめられるとどこか緊張する。
さて、どんな内容か。
少し覚悟を決め、その最初の1ページをめくると――
『おススメ! 帝都スイーツ100選!』
ずっこけた。
「イッガーァァァ!」
「あ、はい」
すぐに反応が来た。てか隣にいた。
「いたのかよ! 存在感出してお願い心臓に悪いから!」
「あ、はぁ……気をつけます」
本当に分かってるのか……?
いや、もういい。ふぅ。よし、落ち着いた。
呼ぶ前から張本人がいるのだから話が早い。
「で? これはなんだ?」
だから聞いた。
報告書の一番最初に置かれた、雑誌企画のワンコーナーみたいなレイアウトを手のひらでたたいて。
「あー、いえ。いきなり堅苦しいのだとあれなんで。ちょっと軽いものから行こうかと」
「軽すぎだろ! てかこんなのに何ページ……うわ、なにこれ美味そう! パフェとかあんの!? この世界!? てか写真うつりいいなぁ! このケーキとかクッキーとか……じゃなく! いつになったら歴史が出てくるんだよ!」
「えっと、もうちょっと先です」
「もうちょっとって……」
続いて出てきたのは『厳選、帝都の美味しいお店10選』、そして『私が選ぶ、帝都の凄い宿』『珍百景! 帝都の意外な素顔』などなど。
「おい、遊んできたのか? そうなんだな? 国のお金を使って旅行したんだな!?」
「えっと、いや。もうちょっと先で。えっと……ここら辺からです」
と言ってイッガーは紙の束をごっそりもっていく。
30センチくらいあったのが10センチもなくなった。
「どこがちょっとだよ! 半分以上が観光ガイドじゃねぇか!」
「そっちの方がウケがいいかと」
ウケとかそういうのじゃなく……。
分かってるのか? これからこの国と戦うんだぞ。
お店も宿も珍百景も灰に可能性だってあるんだぞ?
「それをこんなに……無駄にレイアウトとか凝ったりして」
「作るのに3日かかりました」
「力入れるとこ間違ってるよね!?」
もういい。ツッコミに疲れたから普通に読む。
「えっと、なになに? 帝国は今から400年前に今の帝都から北西に100キロ行った小さな村に生まれた男によって作られた。そう、これでいいんだよ。 これを求めてた!」
「そこは作るのに3時間でした」
「こっちこそ力入れるべきでしょ!?」
もういいや。読もう。
それから1、2時間ほど、俺は書類を読むのに熱中した。
読み終わると、辺りはすでに暗くなっていて部屋からイッガーはいなくなっていた。
久しぶりにこういうのを熟読して、目が疲れたな。
「ふぅ~~」
椅子に深々と体を預け、目を揉む。
なるほど、大体わかった。
もともと帝国は1千年前には影も形もない。
そりゃそうだ。千年帝国なんて夢想の中にしかない虚構、人間が300年生き続けるのと同じでありえない。
そのころこの大陸には、大小さまざまな国が乱立し、時に手を組み時に争い、滅び、興り、一時の平和を得たりしていた時代だ。
そこに現れたのがなんと我らがオムカ王国。
王国は小国を併呑していきながら力を蓄え、当時、一番の大国を滅ぼして大陸を統一した。
今から700年前の話で、その時に活躍したのが、いわゆる俺の元となった別のジャンヌ・ダルクだ。
とはいえその統一も、今のシータ王国のように諸国連合のようなものだった。
それから200年ほどをオムカ王国が支配する。
だがどんな純粋な水でも外に放置していれば塵やほこりで濁るもの。ある国王の暴政によりオムカ王国の権威が失墜。民心の離反が起きる。
そんなオムカに凛然と反旗を翻したのがとある小国。
エイン『王国』だ。
そこから100年もの間、エイン王国はオムカ王国に抗い続け、ついには当時のオムカ王都が陥落してオムカ国王は敗走。オムカ王国は“一時”滅亡した。
そしてできたのがエイン『帝国』だ。
大陸のほぼすべてを手に入れた帝国は、統一国家として国家運用に出る。
帝国はそれから400年ほど大陸の支配者として君臨した。
漢王朝並みの歴史の中には、もちろん暗君・暴君と呼ばれる皇帝がいたり、今存在するビンゴ王国やシータ王国の独立、オムカ王国の中興があったりと万事が順風ではなかったのは間違いない。
だがそれでもここまで帝国として、その権威が生き延びているのはかなり強大ということ。
平民の血でも、何代も重なれば神聖不可侵なものとして崇められるようになるのは、歴史が示すとおりだからだ。
だから今の皇帝がどれだけ凡庸(一部では阿呆とまで言われているらしい)と見られようとも、皇帝というものに対する絶対不可侵の意識はそうそう消えない。
強大すぎる(と見える)システムに対する反抗というのはそうそう起こるものではない。
帝国の政治は絶対帝政。そして貴族主義だ。
貴族と言えば、真っ白なかつらをかぶり、豪奢な服装に白タイツをはき、狩りや芸術にうつつをぬかす退廃的なものを想像するかもしれないが、その認識はあながち間違いではない。
去年、オムカ王国に反旗を翻そうとしたブソンとかいう男が、まさにそれだった。
本来、貴族とは帝国樹立の際の戦争で活躍した優秀な軍人が、皇帝から領地をもらい、そこに住む人々の身の安全を保証する代わりに税を徴収する形が最初だ。
だが水が濁るのと同じく、血も同じように――いや、水よりも早く濁る。
貴族の特権に溺れた者が、彼らの責務――貴族の義務を果たさずに、ただただ人を牛馬のように使い、搾取し、快楽と退廃の虚飾に溺れていくのは、もはや歴史の必然とも言える。
それが400年も続けば、1つや2つどころじゃない民衆の反乱が起こるのは当然。
だがそれも帝国に対してではなく、地方領主たる貴族に対してのものがほとんどで、そのたびに鎮圧されたり、絶妙な保護施策によってガス抜きされたりと帝国を打倒するほどの動きにはならないわけで。
そこに出てきたのが、パルルカ教だ。
もともとはエイン『王国』で信じられていた信仰で、パルルカとかいうふざけた名前の神を崇める一神教ということ。
それが帝国成立の後もほそぼそと続いていたが、とある皇帝がパルルカ教の熱心な信者でそれが国教となり、教皇という役職が設置されるに至った。
それが200年前のことなので、その前に独立したビンゴ王国や、直後に独立したシータ王国にはさほど影響を与えていない。
オムカ王国にしても、敵国である国の宗教を認めるわけには至らなかったようだ。
国教化した当初は、完全な政教分離を行っており、教皇はあくまでも皇帝の下で神との取り次ぎを行う一神官の代表でしかなかった。
だがそれが変わった。
前から傾向はあったものの、完全に政治の世界、そして軍事の世界にパルルカ教が入り込んだのは本当に最近。
そう、5年ほど前だ。
その時に何が起こったか。
教皇が変わったのだ。
赤星煌夜という、現在の教皇に。
彼は優秀な人材を多数かかえ、それを政界、軍隊に次々と派遣し影響力を高めた。
皇帝が無能なことも影響しているだろうが、民衆に対し融和的な姿勢を取ることで人気取りにも成功。パルルカ教の信徒が爆発的に増えたのだ。
「赤星煌夜。ここで出てくるか」
去年見たあの男を思い出す。
まだ20代、行って半ばといったところか。
5年も前にこの世界に来ていたことには驚きだが、それ以上にその若さで海千山千の大人たちを手玉にとっていると考えると恐ろしいものを感じる。
民衆から絶大な支持を受けているということは、ちょっとやそっとのことでは基盤が揺るがないということ。
たとえ帝国自体に反感を持っていたとしても、教皇に言われれば二つ返事でオムカに攻めてくるだろう。
フランス革命のような、民衆による逆襲劇を期待するのは無理のようだ。
横暴な帝政を打倒する正義の軍隊、という大義名分も使いづらそう。
それに、そこらへんの加減を間違うと、赤星煌夜に全部かっさらわれる可能性がある。
つまり皇帝を廃して、教皇である彼がその座に収まるということだ。
人でなしに近い最低の策だが、無能な皇帝の下でご機嫌を取りながら戦うより遥かに効果的で効率的。
あの男の魂胆はよくわからないが、それくらいの野心を持たなければあの若さで教皇にまで登りつめないだろう。
「ふぅ……これは本当につらいぞ」
宗教勢力というのはかなり厄介だ。
宗教のトップが「戦え」と言えば、それだけで農民が死を恐れぬ最強の兵士に早変わりするのだ。
かつての十字軍や本願寺軍はまさにそれだ。
そんなのと真っ向から勝負できない。
そして帝国を内から崩す策も難しい。
そしてなにより、あの男の真意が読めない。
『女神を殺します』
女神って、あの女神だよな。
オールナイト女神とか言ってるふざけた奴。
あんなやつを人生の目標にしちゃうなんて、それこそ不幸じゃないかと思うのだが、そこに至るための道が、なぜ教皇なのかがわからない。
この世界にいる人たちの協力を得たところで、あの夢だか幻だか分からない空間にいる女神をどうこうできるものなのか。
叶うなら、もう一度そこをじっくり彼と話をしたい。
けれど、その反面。
絶対に分かりあえないのだとも思えてしまうのだ。
いやいや。収穫としてはさんざんなものだったが、俺はこの調査報告に満足した。
てか最初からこれだけ出せよ。
本当に、イッガー。あいつはどこか抜けてるというか……。
まぁ、そういう遊び心がないとやってられない、のかなぁ。
その要因は外敵からの侵略が大半だが、そもそもそれを引き起こす内的要因がすでにあり、それにより国家が弱体しなければそのイベントは発生しない。
だから圧倒的な軍事力差、技術格差による兵力(この場合は数というより兵の質や兵器の数)に差がなければ、侵略のみによる国の滅びというものは歴史をひも解いてもほとんどない。
だから国の滅びというのはその国の内側から始まっていく。
無理な出兵と軍部の圧による暴政を行ったドスガ王国。
佞臣の言葉を鵜呑みにして、帝国に対抗しうる人間を更迭したビンゴ王国。
それらが滅んだのは当然といえば当然のこと。
それではエイン帝国はどうか。
皇帝を至高の存在に戴く皇室と、教皇を至上の存在に崇める教会。
国のトップが2人いて成り立っているという、珍しい例の国だ。
なーんて小難しいことを言ってみたけど。
目の前にある書類の束から心理的に逃れようとしている、わけではもちろんない。
去年から帝国にイッガーの部下を送り込んでいた。
もちろん、帝国のことを隅から隅まで調べるためだ。
そして今。
その集大成たる報告書が俺の前に置かれている。
紙媒体で30センチほどの束になって。
「……いや、読みますよ? 読みますとも!?」
めんどくさがってなんかいないぞ。
これでも元は学者の卵だ。
紙媒体を読むのは苦じゃない。
それに「なんでも拾ってこい」と命じた手前、突っ返すわけにはいかないし。
というわけで。
「表題、『エイン帝国の歴史と現在』か……」
報告書のタイトルなんて独創性など入り込む余地はないのだが、こうもカッチカチにまとめられるとどこか緊張する。
さて、どんな内容か。
少し覚悟を決め、その最初の1ページをめくると――
『おススメ! 帝都スイーツ100選!』
ずっこけた。
「イッガーァァァ!」
「あ、はい」
すぐに反応が来た。てか隣にいた。
「いたのかよ! 存在感出してお願い心臓に悪いから!」
「あ、はぁ……気をつけます」
本当に分かってるのか……?
いや、もういい。ふぅ。よし、落ち着いた。
呼ぶ前から張本人がいるのだから話が早い。
「で? これはなんだ?」
だから聞いた。
報告書の一番最初に置かれた、雑誌企画のワンコーナーみたいなレイアウトを手のひらでたたいて。
「あー、いえ。いきなり堅苦しいのだとあれなんで。ちょっと軽いものから行こうかと」
「軽すぎだろ! てかこんなのに何ページ……うわ、なにこれ美味そう! パフェとかあんの!? この世界!? てか写真うつりいいなぁ! このケーキとかクッキーとか……じゃなく! いつになったら歴史が出てくるんだよ!」
「えっと、もうちょっと先です」
「もうちょっとって……」
続いて出てきたのは『厳選、帝都の美味しいお店10選』、そして『私が選ぶ、帝都の凄い宿』『珍百景! 帝都の意外な素顔』などなど。
「おい、遊んできたのか? そうなんだな? 国のお金を使って旅行したんだな!?」
「えっと、いや。もうちょっと先で。えっと……ここら辺からです」
と言ってイッガーは紙の束をごっそりもっていく。
30センチくらいあったのが10センチもなくなった。
「どこがちょっとだよ! 半分以上が観光ガイドじゃねぇか!」
「そっちの方がウケがいいかと」
ウケとかそういうのじゃなく……。
分かってるのか? これからこの国と戦うんだぞ。
お店も宿も珍百景も灰に可能性だってあるんだぞ?
「それをこんなに……無駄にレイアウトとか凝ったりして」
「作るのに3日かかりました」
「力入れるとこ間違ってるよね!?」
もういい。ツッコミに疲れたから普通に読む。
「えっと、なになに? 帝国は今から400年前に今の帝都から北西に100キロ行った小さな村に生まれた男によって作られた。そう、これでいいんだよ。 これを求めてた!」
「そこは作るのに3時間でした」
「こっちこそ力入れるべきでしょ!?」
もういいや。読もう。
それから1、2時間ほど、俺は書類を読むのに熱中した。
読み終わると、辺りはすでに暗くなっていて部屋からイッガーはいなくなっていた。
久しぶりにこういうのを熟読して、目が疲れたな。
「ふぅ~~」
椅子に深々と体を預け、目を揉む。
なるほど、大体わかった。
もともと帝国は1千年前には影も形もない。
そりゃそうだ。千年帝国なんて夢想の中にしかない虚構、人間が300年生き続けるのと同じでありえない。
そのころこの大陸には、大小さまざまな国が乱立し、時に手を組み時に争い、滅び、興り、一時の平和を得たりしていた時代だ。
そこに現れたのがなんと我らがオムカ王国。
王国は小国を併呑していきながら力を蓄え、当時、一番の大国を滅ぼして大陸を統一した。
今から700年前の話で、その時に活躍したのが、いわゆる俺の元となった別のジャンヌ・ダルクだ。
とはいえその統一も、今のシータ王国のように諸国連合のようなものだった。
それから200年ほどをオムカ王国が支配する。
だがどんな純粋な水でも外に放置していれば塵やほこりで濁るもの。ある国王の暴政によりオムカ王国の権威が失墜。民心の離反が起きる。
そんなオムカに凛然と反旗を翻したのがとある小国。
エイン『王国』だ。
そこから100年もの間、エイン王国はオムカ王国に抗い続け、ついには当時のオムカ王都が陥落してオムカ国王は敗走。オムカ王国は“一時”滅亡した。
そしてできたのがエイン『帝国』だ。
大陸のほぼすべてを手に入れた帝国は、統一国家として国家運用に出る。
帝国はそれから400年ほど大陸の支配者として君臨した。
漢王朝並みの歴史の中には、もちろん暗君・暴君と呼ばれる皇帝がいたり、今存在するビンゴ王国やシータ王国の独立、オムカ王国の中興があったりと万事が順風ではなかったのは間違いない。
だがそれでもここまで帝国として、その権威が生き延びているのはかなり強大ということ。
平民の血でも、何代も重なれば神聖不可侵なものとして崇められるようになるのは、歴史が示すとおりだからだ。
だから今の皇帝がどれだけ凡庸(一部では阿呆とまで言われているらしい)と見られようとも、皇帝というものに対する絶対不可侵の意識はそうそう消えない。
強大すぎる(と見える)システムに対する反抗というのはそうそう起こるものではない。
帝国の政治は絶対帝政。そして貴族主義だ。
貴族と言えば、真っ白なかつらをかぶり、豪奢な服装に白タイツをはき、狩りや芸術にうつつをぬかす退廃的なものを想像するかもしれないが、その認識はあながち間違いではない。
去年、オムカ王国に反旗を翻そうとしたブソンとかいう男が、まさにそれだった。
本来、貴族とは帝国樹立の際の戦争で活躍した優秀な軍人が、皇帝から領地をもらい、そこに住む人々の身の安全を保証する代わりに税を徴収する形が最初だ。
だが水が濁るのと同じく、血も同じように――いや、水よりも早く濁る。
貴族の特権に溺れた者が、彼らの責務――貴族の義務を果たさずに、ただただ人を牛馬のように使い、搾取し、快楽と退廃の虚飾に溺れていくのは、もはや歴史の必然とも言える。
それが400年も続けば、1つや2つどころじゃない民衆の反乱が起こるのは当然。
だがそれも帝国に対してではなく、地方領主たる貴族に対してのものがほとんどで、そのたびに鎮圧されたり、絶妙な保護施策によってガス抜きされたりと帝国を打倒するほどの動きにはならないわけで。
そこに出てきたのが、パルルカ教だ。
もともとはエイン『王国』で信じられていた信仰で、パルルカとかいうふざけた名前の神を崇める一神教ということ。
それが帝国成立の後もほそぼそと続いていたが、とある皇帝がパルルカ教の熱心な信者でそれが国教となり、教皇という役職が設置されるに至った。
それが200年前のことなので、その前に独立したビンゴ王国や、直後に独立したシータ王国にはさほど影響を与えていない。
オムカ王国にしても、敵国である国の宗教を認めるわけには至らなかったようだ。
国教化した当初は、完全な政教分離を行っており、教皇はあくまでも皇帝の下で神との取り次ぎを行う一神官の代表でしかなかった。
だがそれが変わった。
前から傾向はあったものの、完全に政治の世界、そして軍事の世界にパルルカ教が入り込んだのは本当に最近。
そう、5年ほど前だ。
その時に何が起こったか。
教皇が変わったのだ。
赤星煌夜という、現在の教皇に。
彼は優秀な人材を多数かかえ、それを政界、軍隊に次々と派遣し影響力を高めた。
皇帝が無能なことも影響しているだろうが、民衆に対し融和的な姿勢を取ることで人気取りにも成功。パルルカ教の信徒が爆発的に増えたのだ。
「赤星煌夜。ここで出てくるか」
去年見たあの男を思い出す。
まだ20代、行って半ばといったところか。
5年も前にこの世界に来ていたことには驚きだが、それ以上にその若さで海千山千の大人たちを手玉にとっていると考えると恐ろしいものを感じる。
民衆から絶大な支持を受けているということは、ちょっとやそっとのことでは基盤が揺るがないということ。
たとえ帝国自体に反感を持っていたとしても、教皇に言われれば二つ返事でオムカに攻めてくるだろう。
フランス革命のような、民衆による逆襲劇を期待するのは無理のようだ。
横暴な帝政を打倒する正義の軍隊、という大義名分も使いづらそう。
それに、そこらへんの加減を間違うと、赤星煌夜に全部かっさらわれる可能性がある。
つまり皇帝を廃して、教皇である彼がその座に収まるということだ。
人でなしに近い最低の策だが、無能な皇帝の下でご機嫌を取りながら戦うより遥かに効果的で効率的。
あの男の魂胆はよくわからないが、それくらいの野心を持たなければあの若さで教皇にまで登りつめないだろう。
「ふぅ……これは本当につらいぞ」
宗教勢力というのはかなり厄介だ。
宗教のトップが「戦え」と言えば、それだけで農民が死を恐れぬ最強の兵士に早変わりするのだ。
かつての十字軍や本願寺軍はまさにそれだ。
そんなのと真っ向から勝負できない。
そして帝国を内から崩す策も難しい。
そしてなにより、あの男の真意が読めない。
『女神を殺します』
女神って、あの女神だよな。
オールナイト女神とか言ってるふざけた奴。
あんなやつを人生の目標にしちゃうなんて、それこそ不幸じゃないかと思うのだが、そこに至るための道が、なぜ教皇なのかがわからない。
この世界にいる人たちの協力を得たところで、あの夢だか幻だか分からない空間にいる女神をどうこうできるものなのか。
叶うなら、もう一度そこをじっくり彼と話をしたい。
けれど、その反面。
絶対に分かりあえないのだとも思えてしまうのだ。
いやいや。収穫としてはさんざんなものだったが、俺はこの調査報告に満足した。
てか最初からこれだけ出せよ。
本当に、イッガー。あいつはどこか抜けてるというか……。
まぁ、そういう遊び心がないとやってられない、のかなぁ。
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