知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

閑話13 長浜杏(エイン帝国大将軍)

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「アリエンシ卿が討ち死に!?」

 ヨジョー城の政庁に入ったところでやってきたのは、そんな一報だった。

 アリエンシって、誰だっけ?
 貴族様?
 そんなのいた気もするけど、別に思い出す必要もない。
 だって死んじゃったんでしょ? だったらもういいし。どうでも。

 しかも話を聞けば、自分で先鋒を志願して、勝手に挑発に乗って、勝手に追撃して、勝手に罠にかかった。
 それに渡河の際に隊列を乱したせいで、百人規模の溺死者が出ている。

 それだけでも軍法会議で極刑ものの無能の証じゃない?
 そんな人間を思い出す必要も労力もメモリも僕様にはないのだ。

 だから僕様としてはどうでもよくて、部屋の隅でぼーっとしてたけど、麗しの皇帝陛下はそうではなかった。

「馬鹿な……アリエンシ。なんで死んだ!? お前と俺様は兄弟の契りを交わした仲だろうが! 子供の時から遊ぶのも食べるのもなんでも一緒だった! なのに……こんなところで死んでいい道理があるかよ!」

 おやおや。
 この皇帝陛下、意外にも情があついところがあったようだ。

 ふぅん、顔も思い出せない貴族様はそんなに皇帝陛下と近しくて信頼されてたんだ。
 これはちょっと困るなぁ。怒りに我を忘れて一直線に行ったら、それこそあのジャンヌ・ダルクの餌食になるぞ。
 体験者は語るんだ。

「許せねぇ! 追撃! 全軍でオムカを追う! 追って、アリエンシを殺した奴をぶっ殺す!」

 あー、そっちに行ったか。
 はぁ、ご愁傷様。
 できれば死にたくないんだけどなー。

 なんて諦めかけた時、ほかの貴族様がなだめに入った。

「お待ちを陛下。それはあまりにも無謀……いえ、危険かと!」

「その通りです。どうかお怒りを収めください!」

「は? ダチぶっ殺されて収めろってなに? お前を棺桶に収めてやろうか!」

 うまい言い方――ってほどでもないか。
 てかなに、この学園青春ドラマ?
 この皇帝ってプレイヤーじゃないよね?

 というわけで側近の言葉にも届かず、万事休すかと思ったが、

「どうか、お収めください。アリエンシ卿は確かに陛下のご友人。しかし、その友人は……我らは、72人もいらっしゃるではないですか!」

「そうです! 我らは確かに幼少の時に陛下と兄弟の契りを交わした身。そのたった1人にこれまでお怒りなのは、我々としても名誉な限り。しかしどうか割り切ってくだされ!」

「それに故人をとやかく言うつもりはありませんが、アリエンシ卿は我ら帝国72翼将のうちでも下位! 帝国四天王どころか、12神将や24騎将にも選ばれず、今回の従軍にもコネを使って入ったという次第のもの! どうかお怒りをお解きくだされ!」

 なんかすごい説得方法だけど。
 こんなんで効果あるの?

 だが当の皇帝様は、眉にしわをよせ、しきりに首をひねり、数秒だけ視線を宙にやったうえで、

「…………あ、そっか。アリエンシって、そういやいつもびくびくしてた臆病もんじゃん。そのくせ領内にはえばり散らして、問題起こして、何度も俺様の仲裁を仰いできたやつじゃん。つか、アリアルミ卿と混同してた。やっべ、ちょっとこれアリアルミに黙ってて? あ、でもアリエンシの死に激怒したってのは残しといてね。というわけで追撃中止ーめんごめんご」

「は、ははぁ!」

 なんだそりゃ。

 側近の言葉も言葉だが、それを受けた皇帝陛下の変心が激しすぎる。
 さっきまで顔を真っ赤にして近づくやつはぶった斬ると言わんばかりに激怒していたのが、一瞬にして、てへぺろとでも言わんばかりに愛嬌を振りまく。
 しかもオチは人違いでしたとか。

 その時、明敏な僕様は悟ったね。
 こいつら、外から見てると面白いんじゃね?

 というわけで軍議はなんてこともなかったかのように再開された。
 アリエンシ卿が率いていた右翼は別の貴族様が引継ぎ。彼も72翼将の1人とかなのだろうか。どうでもいい。

 それから出発は明日。
 なんでも慣れないこと(怒ったこと)をしたせいで皇帝陛下がお疲れということだった。
 ま、いいけどね。

 ここからはもう王都まで遮るものもない。
 小さな砦があるみたいだけど、改修された様子もなく、ひともみに踏みつぶすことに決定。
 オムカの終焉を誰もが予測しただろう。

 だからそれ以降は話半分でぼぅっと聞いていると、

「――でして、そこは大将軍様にお願いしたく」

 不意に自分の話題になって、ハッと夢から覚めたように身構える。

「えっと、何か?」

「はい、どうか大将軍様にはここにとどまっていただきたく」

 おっと、そう来るか。

「なんでだ、ミルグーシ? 大将軍の兵力5万を連れてかないのはもったいなくね?」

「我らだけでも20万という兵力があるのです、陛下。ここに5万を置いても変わりないでしょう」

「ふむ」

「それにこの場所は大陸のほぼ中央。本国との補給を考えると、天災に見舞われたとはいえ、確保すべき要所です」

「そっか」

「それに先日の盗賊が我らの背後を脅かしております。ここに大将軍を置けば、かの盗賊も何もできないでしょう。いや、大将軍ならかの盗賊を討滅できましょう」

「なるほど! そりゃ重要じゃん。というわけで、大将軍。頼んだ」

「……はい」

 それ以外言う言葉はなかった。
 彼が言った言葉は真実だし、万が一を考えるとここに誰も残さないわけにはいかないのだ。

 いやしかしお見事。
 ここまで合理的に邪魔者を排除したこの貴族様たちの手腕に脱帽せざるを得ない。
 戦場の知恵はそこまで働かないが、相手の弱みを握り足を引っ張って落とし穴を掘って突き落とす才能は、僕様や元帥も遠く及ばないだろう。

 そうやってオムカを滅ぼした功績を独占して、続くシータ、ビンゴ討伐で権力の基盤を固め、大陸統一後は僕様や元帥、果ては煌夜ちんまでも排除しようとしているに違いない。

 ま、その通りにいけばだけど。

 それに僕様としては、自分じゃない別の誰かの戦に乗っかるつもりは毛頭ない。
 それが敗戦であればなおのこと。

 せっかく安全地帯を用意してくれたんだ。
 それを断るのは野暮というもの。

 だから大人しく従ったわけで。

 それから細かい点が話し合われて、散会となった。

「おかえりなさいませ」

 自分の宿所に戻るとユインが万端整えてくれていた。
 執事みたいだなぁ。優秀。

「というわけで僕様たちは留守番ね」

 あからさまにがっかりした様子のユインに苦笑する。

「ユイン、君はジャンヌ・ダルクが憎いんだろう?」

「当然です。私をこうまでしたのはそうですが、何より大将軍様の戦績に傷をつけてしまったことに、何よりも怒りを感じます」

 彼の場合、相手に対してというより自分に対してって感じだよなぁ。

「そう、僕様と引き分けたジャンヌ・ダルクだ。引き分けた、ね。さて、ここで聞こうか。その僕様と引き分けたジャンヌ・ダルクが、あの貴族どもに負けると思ってる?」

「…………いえ、そうは思いません」

 さすがユイン。
 感情を理性でしっかり制御している。
 頼もしい限りだよ。

「そう、なら問題ないじゃないか。むしろ今日思ったんだ。彼らは離れてみてると面白いって。その特等席のチケットをもらったと思えばいい。僕様たちはあくまでしっかり見ておこう。元帥との約束だから、皇帝陛下の身柄だけは大事にして、ゆっくり観戦しようじゃないか。あのジャンヌ・ダルクが、この圧倒的兵力差をどう覆すのかを、ね?」
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