知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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間章 それぞれの決断

間章6 椎葉達臣(エイン帝国軍師)

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 月が替わり、停戦の期限まで半月を切った。

 そのため帝都では大わらわで開戦の準備が進められている。

「シーバ様、部隊の準備がおおよそ整いました」

 タニアが執務室に来てそう告げた。

「そうか、早いね」

「いえ、以前よりシーバ様がおっしゃっていた通り、準備を進めていましたので」

 確かに講和会議に向かう前、タニアにはそう告げていた。
 何か不測の事態が起こる可能性もあったからで、万が一の保険程度だったけど、まさかこうなるとは。

「それにしてもまたシーバ様と一緒に戦えるのは、とても嬉しいです」

「そうだね、僕もだよタニア」

「は、はい!」

 タニアが少し顔を上気させて頷く。

 彼女の部隊――故デュエイン将軍麾下の部隊3千を今回自分は指揮することになる。
 指揮なんてやったこともないけど、自分の立場上そうなった。

 この戦いにおいて、僕は堂島元帥や長浜大将軍の軍師として戦場に出ることになったが、いざ開戦となった時に手持無沙汰になりかねない。
 というのも、堂島元帥も長浜大将軍も直感で動かすタイプということで、軍略は立てるものの、あとはその場で臨機応変を求められた。

 まぁ正直、自分はそんな軍略に詳しいわけでもないし、自分よりはるかに腕の立つ人はたくさんいるのだから、あくまで助言者である方が気楽でいい。

 とはいえそうなった時に人材を遊ばせておくのはもったいない、ということで、ビンゴ王国での自分の統率ぶりを見たとかで、何を評価したのか堂島元帥は僕に一軍を授けたのだ。
 正直億劫だったけど、タニアのいる部隊だと知って少し肩の荷が降りた。

 そんなわけで自分は軍師というより軍師将軍という肩書で今度の決戦に挑むことになる。

 それから部隊のみんなに挨拶して、それからはひたすらに自分に割り当てられた部屋で紙と格闘していた。
 帝国の軍法や兵法書と比べ合わせてひたすらにそれを吸収した。
 もともと勉強はそこそこできる方だった。
 なにせ、何よりも劣っている人間が、人並みの生活を得ようと思ったら血のにじむような努力が必要だったのだ。

 何より写楽明彦からの影響が大きい。

 明彦、か……。

 まさか本当にこの世界にいるとは、そして女になってると思わなかった。というか少女だ。
 それでいてあの雰囲気は明彦以外の何物でもない。

 あいつが敵にいる。
 そして里奈も。

 本当に、因果な関係だ。

 これだったら、何のために火をつけたのか、まったくわからないじゃないか。

「シーバ様、どうしました?」

「ん、いや……なんでもない」

 タニアに急に話しかけられ、慌てて打ち消した。
 それをどう感じたのか、タニアは眉を下げて、

「そう、ですか……ですが、その……」

 口をもごもごさせて何かを言おうとしているが、決心がつかないようだった。

「なんでも言ってくれよ。僕は新米の将軍だから、あまり頼りにならないと思う。だからこそ、いろいろ助言してくれるとありがたい」

「いえ、シーバ様が頼りにならないなど……えっと……ですが」

「怒らないから言ってくれ。逆にそっちの方が気になるんだ」

 なるだけ優しく彼女に語り掛ける。
 すると彼女は意を決したように、

「わ、わかりました。その……僭越ながら申し訳ありませんが、何か、相談に乗れることがありましたら、ぜひ言ってください。それに、最近のシーバ様はこんを詰めすぎというか、お体が心配で」

 なんと。
 まさか自分は心配されているのか。

 彼女からすれば上役に対して余計なお世話ともとれることを行っているのだ。
 通常の組織では知らないけど、軍隊ではそういったことが異常であることはなんとなく想像がつく。

 要は上役は部下に舐められたら終わりなのだ。
 部下からすれば、命を預けるのだ。
 少しでも気弱なところを見せれば、頼りない上司と見限られかねない。

 だからタニアは言おうか迷ったし、かなり言いづらそうにしていたわけで。

「ああ、ありがとう。大戦の前にちょっとナーバスになっていたみたいだ」

 気取るものでもないけど、とっさに口に出たのはごまかしの言葉だった。
 やはり自信がないと言い切るのは、彼女に不安な思いを与えるだろうし、明彦のことを言っても彼女には意味がない。

 だから彼女には心配をかけまいと必死に言い訳して取り繕った。

「そう、ですか……仕方ありません。それなら――」

 そうタニアは残念そうな、安心したような表情を浮かべ、

 そして――

「死んでください」

「え?」

 邪悪に笑った。

 そして銀色が来た。

 それが何か判断する暇はない。
 彼女の邪悪に反射的にスキルを発動する。

「『罪を清める浄化の炎バーン・マイ・クライム』!」

 僕と彼女の間、大仰な机が炎に包まれた。
 今まで兵法を学ぶために筆写していたノートも本も灰燼に帰した。いや、もう不要だ。全部頭に入ってる。

 惜しむべきはそちらじゃない。

 タニア――いや、違う。
 こんなことをするのは、出来るのは1人しか知らない。

 タニアの姿をした相手は、炎を見ると咄嗟にバックステップして難を逃れた。

 その顔。
 タニアの顔だがタニアじゃない。

 そう、煌夜から聞いている。
 そういったことが可能なスキルを持つプレイヤーがいることを。

「ノーネーム、か?」

「くひゃひゃ、ご名答ー」

 タニア――いや、ノーネームが自らの顔に手をかかげ、その後にはタニアではなく、初対面の少女の顔があった。
 一見すれば可愛らしい、おとなしそうな少女。

 だがその顔をひどく歪めて、舌を出して笑う少女は、これまで見たことのない邪悪の化身とも呼べる。

 その少女は、邪悪の笑みをひっこめると、冷めた表情で優雅に一礼して、

「はじめまして、軍師様。わたくし、エイン帝国の『名無しノーネーム』と申す者。特技は変装。趣味は暗殺。以後、お見知りおきを」

「最低の趣味だ。聞いているよ。大層評判の良い暗殺者がいるって」

「くひゃ、これはこれは。名前が売れるのも考えもの。仕事がやりづらくなるのも困りものだよなぁ」

「仕事……依頼されたのか? いや、そもそも僕なんかを殺しても仕方ないだろ」

 だって僕は底辺だから。
 それを危険を冒して殺すなんて、労力の無駄だ。

「ひっひ、煌夜や元帥閣下から聞いた通り、自己評価の低い野郎だ。お前さんはもっとできる子だって聞いたぞ?」

「買いかぶりだよ。それより、最期に聞かせてくれないか。誰が僕を殺そうとしている?」

 死にたいとは思わない。
 もう二度とあんな苦しい思いはごめんだ。

 けど喧嘩にはまったく自信がない。
 さっきは偶然防げたけど、また来られた時に対処できる自信はない。

「くひゃひゃ、そりゃすまねーな。誰に依頼されてもねーよ。これはまぁ、挨拶だ。新任の軍師様がいるってことで、な」

 それをどこまで信じられるか。
 第一、暗殺者本人に言われてもって感じだ。

「疑ってんなぁ。ならこれで安心かい?」

 そう言って手に持った銀色のナイフをポケットにしまって見せるノーネーム。
 だが武器がそれだけとは限らない。飛び道具で来られたらそれこそいっかんの終わりだ。

「疑いぶけーみたいだなぁ。ほれ、これならどうだ? それによ、俺は信頼した人間に化けて殺すのが好きなの。信じてた人が刃を向ける。そんな絶望に満ちた顔を見ながら逝きてぇの。だからこの顔をさらしたことで信頼しなくてもいいから信用してくれ」

 絨毯に腰をどっかり落として座り込むノーネーム。
 敵意がないということを示したいわけだろうが……。

「わかった」

「おお、よかったよかった」

「いや、お前が最低の人間だということがだよ」

「そっちかよ……ま、いっか。間違ってねーし」

 そしてかんらと笑う。

 その言動に、ハッと気づかされた。

『学者馬鹿? ま、いっか。間違ってないし。馬鹿学者よりマシだ』

 在りし日の記憶がフラッシュバックする。

 明彦。
 あいつと過ごした1年に満たない時間。
 それがここでも尾を引くのか。

「んん? やっぱりなんかアンニュイな感じじゃね? このねーちゃんが心配しているのも本当だな」

 ノーネームは自分の格好を示しながら言う。
 タニアのことだろうか。

「さっきのは安心させるための演技だったんだろう?」

「はっ、見くびんなよ。俺だって、ちゃんと相手になりきるために調査してるのさ。さっきのはこのねーちゃんの本心だよ。本気でお前のことを案じてるのさ。けどなんだか言葉にしにくそーだから。くひゃ。俺が代わり伝えてやったってわけ」

「それはどうも」

 正直、有難迷惑だった。

「なんだよ、もっと感謝してもいいんだぜ? てかあのねーちゃん。絶対お前のことが好きだ。請け合ってもいい。いや、お前と彼女の恋のキューピッドを請け負ってもいいぜ?」

「ちょっと待ってくれ」

「なんだよ」

「僕を好きになる女の子なんていないよ。いたとしても、勘違いだ」

 僕の言葉に、ノーネームはきょとんとした様子で黙り込み、

「くひゃひゃひゃひゃ! こりゃすごい! ここまでこじらせてんのか! いやー、ご立派! 朴念仁もここまでくれば立派なものだ! なに? そうやって悲劇の主人公ぶってるの? それとも僕なんて好きになるわけないよね、って童貞のたわごと!? いやいや、歪みまくってるな。そろそろ中学2年生は卒業しとけよ?」

 大きく笑い声をあげた。

 いかに僕とはいえ、そこまで言われてはムッとせざるを得ない。

「用は済んだだろ? 帰ってくれないか」

「悪かったよ。しかし、つれねーなー。これから同じ標的を狙う同志だってのに」

「何が同志だよ」

 会ったばかりで、それもこんな意気投合もしない相手に何を言い出すのか。

「“同士”だよ。同じ標的を持ってるだろ?」

「何の話だ?」

「ジャンヌ・ダルク」

「!?」

「くひゃ! 顔つきが変わったな。そうだよ、煌夜から聞いたのさ。あいつと因縁あるんだってな」

 心中で舌打ちする。
 いくらなんでも口が軽くないか、煌夜?

「そうか、ジャンヌ・ダルクを狙って見事に失敗した帝国の暗殺者ってのは君か」

「へぇ、さすがだね。そこらも知って、それを反撃に織り込んでくるとはさ」

「ま、だからどうしたって話だろうけど。……そうか、あいつを殺すのか」

「そういうこと。んで? 因縁ってなんなのさ? そこらを聞いたうえで暗殺計画に盛り込みたいんだけど」

 どうやら煌夜はそこまでは言わなかったらしい。
 ま、いいさ。あいつの命を狙うなら、少しこの暗殺者をけん制しておくのもいい。

「あいつは友達だよ」

「へぇ?」

「だからあいつを殺すのは僕だ」

 友達だ。だから殺す。
 それはあいつの存在を知って以来、考え続けてきたこと。

 他人からすれば取るに足らないどうでもいい理由だろう。
 けど僕には、そう僕だけには違ったんだ。

「くひゃひゃひゃ! てめぇ、やっぱ歪んでやがるな。何が友達だよ。る気満々な顔しやがって!」

「自覚はしているよ」

 そう、そのことは自覚している。

 友達なのに、友情と殺意を同居させた存在。
 そして実際に手を下した自分。

 歪んでいるのは間違いない。

 何よりも劣っていると自分を卑下するように認識しているのも、その延長線上だろう。
 いや、それは事実だからしょうがないか。

「いいね、気に入ったよ。お前はあの大将軍よりよっぽどイイ。俺がジャンヌ・ダルクをったら、次はプライベートでお前を殺しにくるわ」

「断固断る」

「ケチ。減るもんじゃないだろ」

「僕の命が減るんだけど?」

「ちぇ、ま、いっか。どうせチャンスはあるわけだし。とりあえず俺が先手だな。ちょっくら殺しに行ってくらぁ」

 なんか最悪の敵を作った気分だ。
 しかも一応味方だからさらに性質たちが悪い。

「はぁ……僕のどこに気に入る要素があるんだか」

「はっ、んなもん決まってんだろ」

 そしてノーネームは、さも可笑しそうに、狂いそうに、笑った。哂った。

「お前同様、俺も歪んでるからだよ」
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