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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
第6話 連環×連環×連環=勝利?
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帝国軍が動いたのは水鏡たちが来てから2日後だった。
結局敵はそれ以上増えず、およそ5万ということ。
その報告に誰もが憮然として、ある者は怒りを発したが、俺はそれをたしなめた。
あるいは本当に、数で劣った状態でこそが相手のベストな兵数で、それをもって野戦であれば打ち破る自信があると確信したからだ。
そんな相手に真正面からぶつかるのは危険だ。
だからこそ、これまで隠れて準備してきたものが役立つはず。
敵軍は相手方の城とデンダ砦の間に布陣した。
まるでこちらを待っているかのように見え、それがどことなく不気味だ。
「いかがしますか?」
軍議の場でジルが聞いてくるが、答えは1つしかない。
俺たちには半年しか時間がないのだ。
相手の兵站を乱しつつ、敵国への多方面侵攻を織り交ぜ、相手を振り回しつつ疲弊を狙って最後の合戦を挑むのが自分流といったところだが、それでは時間がかかりすぎる。
それにやはり軍資金が足りない。
だからなんとしてでもここで、シータ王国の援軍がある中で勝たない限り俺たちに未来はない。
本当に、あの女神も無茶な時間制限を設けてくれたものだ。再度直接会って、文句の1つでも言ってやらないことには収まらない。
そのためにはここで勝つ必要があるわけで。
「出よう。ここには抑えの兵を残して全軍で出る」
そう、出陣するしかない。
あるいはここに出てきた5万は囮で、迂回部隊が王都バーベルへ向かっている可能性も否めないのだ。
いや、現に後方の帝都では軍の再編が進んでいるという情報を得た。その援軍が来る前に決着しないと負ける。
速戦即決。
それを望むのは相手ではない、俺たちだった。
いつでも出陣する準備はできていたので、1時間後には対岸のデンダ砦の北に布陣していた。
相手との距離はおよそ1キロほど。
動き出せばすぐに激突する距離だ。
布陣からすると、中央にジルの率いる歩兵隊2万。その先端にいるのがサカキの先鋒隊3千。
左右にブリーダとグリードが3千ずつの騎馬隊を率い、クルレーンの鉄砲隊はサカキの後ろに配置されている。
合計3万1千。
その東側に天が率いるシータ歩兵軍2万。
左翼(俺たちのすぐ近く)に淡英の水陸両用隊1万、右翼に水鏡の5千が配置されている。
雫の率いる砲撃隊1千は、後方で後詰めとして置いてある。
合計3万6千で、オムカとシータ合わせて6万7千の兵力となる。
対する帝国軍は、5万すべてがまとまっている様子で、どこがどの部隊とかは区別つかない。
一昨日に水鏡と話した、尾田張人とは当たらせないという約束はどうやら果たせそうになかった。
陣形を見るに、こちらは左右に広がった形、いわば鶴翼。
対する敵は一つにまとまった魚鱗の陣ともいうべき形か。
鶴翼の陣は数の多さを利用して敵を包囲殲滅するために使われる陣形。
対する魚鱗は数の少ない方や、一気に勝負をつけるための攻撃的陣形ともいえる。
だがこの程度の兵力差においては誤差程度しかないから、どちらが有利というのはないだろう。
かの徳川家康の英雄的出陣と言われる三方ヶ原の戦いにおいて、数で劣る徳川軍が鶴翼、数で勝る武田軍が魚鱗で戦ったということがあるように、要はその時々の最適な戦い方を見つけるのが大事ということ。
とはいえ味方6万7千対敵5万という、10万ちかい人間が正面から殺し合いをするのだから、覚悟はしていたことだが、これまた胸糞の悪い展開になりそうだ。
ただここまで出てきて後に引けない。
後ろを見せた途端、追撃されて川に挟まれ全滅する。
だから、勝たないといけない。
だが、
「相手は来ない、か」
布陣したものの、相手は動かない。
「敵の方が少数ですから、こちらの動きをみられているのでしょう」
なるほど。
確かに相手の方が時間をかけられるのは確か。
まぁいい。
相手が来ないのならちょうどいい。
こちらで準備したものが無駄にならないというもの。
「ジル、始める。各隊に連絡を」
「はっ!」
伝令が各隊へ飛ぶ。
やがて先鋒のサカキの隊が動き出す。
それを先頭にこの本隊と、遅れてシータ王国の軍も前に出る。
騎馬隊はやや後ろからついてくる形。
敵との距離が1キロを切り、そして500メートルほどになった。
そこで、
「先鋒、進め!」
ジルの号令に、サカキが動きだす。
前へ。
敵に緊張が走る。
サカキたちの隊3千だけでどうするものか。
まさか5万にそのまま突っ込んで来るわけがないと。
その緊張が、鉄砲の射程距離の寸前、次のサカキの行動で困惑へと変わる。
「散れ!」
サカキの隊が左右に別れた。
敵の鉄砲隊はその両方を追っただろう。隙ができる。
その刹那――
「連環馬、出ろ!」
旗を振り、叫ぶ。
するとジルの本隊が左右に別れ、そこから登場したのは馬に馬甲を着せて鎖でつないだ連環馬200頭。
去年、まさに同じ場所で帝国軍を破った戦法だ。
それが怒涛の勢いで敵を蹂躙せよと突っ込んでいく。
だが相手もさるものだった。
鉄砲の音が連続して放たれた。
馬の悲鳴が響く。
無敵に思える連環馬も、足元を狙われたり鉤鎌槍で鎧をひっかけられたり落とし穴など弱点は多い。
そして鉄砲だ。
水滸伝の北宋時代にはまだ存在しなかった未来兵器。矢と違い鉄を貫く鉄砲の玉なら、いくら馬甲を着せようと当たれば馬も死ぬ。
1頭数百キロもある馬が3頭も止まればそれだけで1千キロ。鎖でつながれている以上、その重量を引きずって走れるほど馬も強くはない。
だから鉄砲の一斉射撃で半分の連環馬が止まった。
さらにその後に続く10の連環馬だが、それに対しては歩兵で対抗された。
密集した陣形が、さっと3つに別れ、それが長槍を持って槍衾を形成する。
これも水滸伝のころになかったもの。
普通の槍よりも長く、長いものだと10メートル級のものもあるという。
槍衾などでも使われるが、これで鉤鎌槍法をやられた。馬甲をひっかけて倒されたり、馬の脚を切られたのだ。
そうなれば続々と機動力を失った連環馬は敵の眼前で動きをとめていく。
なんとか2つほどが、その槍を潜り抜けて敵陣に突撃したが、それもすぐに馬をやられて動きを止めた。
「くそ、対策は万全ってか! なら連環馬二の段!」
さすがに一度見た戦法には対策されている。
なら次。
最初の連環馬、一の段は確かに止められた。
けど相手はせん滅を嫌って部隊を分けた。
そこに2つ目の連環馬が突っ込む。
2頭揃いの騎馬隊が5つ。
200頭の馬が走った後は土煙がかなり舞っている。
その間を縫って、3つに別れた敵の部隊にそれぞれ別方向から迫る。
敵もたった10頭が5万の軍に突っ込んでくることに違和感を覚えたらしい。
だがたかが10頭に虎の子の鉄砲を使うのはためらわれたらしく、弓矢の部隊が前に出ようとして、少し敵陣が揺らぐ。
また、この騎馬隊は囮で、土煙に紛れて別の部隊が来ることを想像しただろう。
そこがねらい目。
弓を射られ始める直前。
2頭組の騎馬隊が左右に別れた。
敵の陣に困惑が広がるのを感じた。
何もせずただ2頭が横に広がったことに意味を見いだせないでいる。
もちろんそれが狙い。
左右に別れた馬が、それでも敵の陣の左右に向かって走り――
敵の前衛が吹き飛んだ。
敵のいたるところで混乱が起こる。
誰もいないにも関わらず兵が吹き飛んだのは、魔法か奇術かと疑ったに違いない。
もちろん魔法じゃない。
ただの連環馬の延長線上、というか縮小版だ。
馬2頭に100メートルほどにした鉄鎖を持たせ走らせる。
それを敵の直前で左右に別れれば、その間に走る鉄鎖が敵を襲ったのだ。
縮小版と言ったのは、それだけでは破壊力は連環馬の一の段より格段に劣る。
一の段より長い分、広範囲に影響を及ぼすことができるが、その分、力は弱い。想像してもらえれば分かる通り、10センチの紐と、1メートルの紐。左右の手に持った場合、どちらがより力が入るかといったらもちろん短い方だろう。
それに長い方が巻き込む範囲が広い分、持ち手――つまり馬に負荷がかかる。
だから鉄鎖は敵に衝突した瞬間に馬から離れるようになった。
結果としての戦果は、相手の前衛を一時的に機能不全にするくらいだ。
だがそれで十分だった。
俺はそれを確認するとすぐに旗を振った。
「連環馬、三の段!」
「突撃ぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!」
グリードの豪快な叫びが聞こえる。
てか、俺が旗を振る前にあいつ走り出したな。まったく、しょうがないやつめ。
グリードにやらせたのは簡単だ。
馬に馬甲を着せただけの騎馬隊を率いさせただけ。
何やら攻撃力を増す方法を模索していたようで、だったら、と連環馬に使う馬甲、それを何重にも着せていわゆるヨーロッパの重騎兵隊を作らせた。
重装備の騎馬隊は、その重量から機動性が落ちるものの、数百キロに加えて鎧の重さの騎馬はそれだけでもう1つの凶器だ。
敵に向かって突撃するだけで圧倒的な攻撃力を誇る。
だが機動性を犠牲にしたおかげで、重火器に対しめっぽう弱い。
だからこそ銃を使われないこの状況を作り出す必要があったわけで、そのための連環馬一の段と二の段だ。
一の段でうまくいけばよし、二の段で相手を崩し、三の段でとどめを刺す。
これにて連環馬三の段――いや、連環馬三段突きとでも言おうか。
その集大成であるグリードが敵の左翼に突っ込んだ。
さらに別方向から右翼にブリーダも突っ込んだ。
「ジャンヌ様」
「待て、もう少し」
ジルの言葉を制して前方をじっと見つめる。
さらに『古の魔導書』を取り出し戦況と見比べる。
敵陣がたわみ、そして衝撃を受けて動く。
やはりグリードのところがすさまじい。
俺が図っているのは、全軍突撃のタイミングだ。
ブリーダとグリードの両騎馬隊の攻撃をもって崩したところに全軍が突撃すればそれで勝負は決まる。
そして敵がずるずると下がり、あるところで止まった。
そこで力を盛り返し騎馬隊を追い返すつもりだろう。
――ここだ。
「総攻撃の鉦!」
叫ぶ。
同時、鉦が鳴り響き、すべてが動き出す。
先頭でサカキが、右手では天、淡英の軍が敵に向かって突き進む。
敵は騎馬隊を押し返し、一息つこうというところでさらなる攻撃を受けることになる。
危機を乗り越えて安堵した一瞬。たとえどれだけ精強な軍であろうとも弱点となる一瞬なのだ。
そこに連合軍が突っ込んだ。
最初はさすがに抵抗があったものの、勢いに差がありすぎた。
連環馬で傷を負った者もいるのに対し、こちらはまだ全然無傷で疲れていない。
だから勝てる。
乾坤一擲の強襲戦法。
ここで敵の半分、いや3分の1でも削れれば御の字。
あるいは敵将の1人でも討ち取れれば今後が楽になる。
だから俺は本陣にいながら、きつく目を見開いて前方に視線を凝らす。
その時、鉦が鳴った。
相手側だ。
帝国軍が支えきれぬと判断して退き鉦を鳴らしたのだ。
「退き鉦だ!」「勝った! 勝ったぞ!」「我らの勝利だー!!」
誰もが勝報に沸く中、俺は親指を噛みしめていた。
早すぎる。
敵が退くのが、だ。
正直、もう少し痛めつけたかったところだが、こうも早い退却とは。
もう少し、帝国最強軍らしく踏ん張るもの、と思っていたからあてが外れた。
「ジャンヌ様、やりましたね!」
だからジルがそう言ってきた時、少し能天気な様子にいら立ちを抱きながらも、俺は次の指示を出した。
「こっちも退き鉦。深追いは禁物で」
「……はっ!」
ジルも俺の言葉に何かを感じ取ったのだろう。
口を引き締めて、矢継ぎ早に命令を出し始めた。
颯爽とした引き際。
それも帝国最強軍の強さか。
とはいえ。
初戦は制した。
まずは勝った、という実績が後々の士気のありように響いてくるから、この結果はそれはそれで満足すべきだろう。
そのことに深くため息。
緊張がどっと解ける。
「初戦は私たちの勝利です! 勝どきをあげよ!」
引き揚げてきた全軍に対し、ジルが戦意高揚のため剣を抜き空高く上げて叫ぶ。
怒声に近い歓声があたりを包んだ。
ま、とりあえず勝ちは勝ちだ。
少しくらい喜んでもいいだろう。
だがその数時間後。
とんでもない報告が味方に駆け巡る。
味方の将軍の討ち死にの報告だ。
結局敵はそれ以上増えず、およそ5万ということ。
その報告に誰もが憮然として、ある者は怒りを発したが、俺はそれをたしなめた。
あるいは本当に、数で劣った状態でこそが相手のベストな兵数で、それをもって野戦であれば打ち破る自信があると確信したからだ。
そんな相手に真正面からぶつかるのは危険だ。
だからこそ、これまで隠れて準備してきたものが役立つはず。
敵軍は相手方の城とデンダ砦の間に布陣した。
まるでこちらを待っているかのように見え、それがどことなく不気味だ。
「いかがしますか?」
軍議の場でジルが聞いてくるが、答えは1つしかない。
俺たちには半年しか時間がないのだ。
相手の兵站を乱しつつ、敵国への多方面侵攻を織り交ぜ、相手を振り回しつつ疲弊を狙って最後の合戦を挑むのが自分流といったところだが、それでは時間がかかりすぎる。
それにやはり軍資金が足りない。
だからなんとしてでもここで、シータ王国の援軍がある中で勝たない限り俺たちに未来はない。
本当に、あの女神も無茶な時間制限を設けてくれたものだ。再度直接会って、文句の1つでも言ってやらないことには収まらない。
そのためにはここで勝つ必要があるわけで。
「出よう。ここには抑えの兵を残して全軍で出る」
そう、出陣するしかない。
あるいはここに出てきた5万は囮で、迂回部隊が王都バーベルへ向かっている可能性も否めないのだ。
いや、現に後方の帝都では軍の再編が進んでいるという情報を得た。その援軍が来る前に決着しないと負ける。
速戦即決。
それを望むのは相手ではない、俺たちだった。
いつでも出陣する準備はできていたので、1時間後には対岸のデンダ砦の北に布陣していた。
相手との距離はおよそ1キロほど。
動き出せばすぐに激突する距離だ。
布陣からすると、中央にジルの率いる歩兵隊2万。その先端にいるのがサカキの先鋒隊3千。
左右にブリーダとグリードが3千ずつの騎馬隊を率い、クルレーンの鉄砲隊はサカキの後ろに配置されている。
合計3万1千。
その東側に天が率いるシータ歩兵軍2万。
左翼(俺たちのすぐ近く)に淡英の水陸両用隊1万、右翼に水鏡の5千が配置されている。
雫の率いる砲撃隊1千は、後方で後詰めとして置いてある。
合計3万6千で、オムカとシータ合わせて6万7千の兵力となる。
対する帝国軍は、5万すべてがまとまっている様子で、どこがどの部隊とかは区別つかない。
一昨日に水鏡と話した、尾田張人とは当たらせないという約束はどうやら果たせそうになかった。
陣形を見るに、こちらは左右に広がった形、いわば鶴翼。
対する敵は一つにまとまった魚鱗の陣ともいうべき形か。
鶴翼の陣は数の多さを利用して敵を包囲殲滅するために使われる陣形。
対する魚鱗は数の少ない方や、一気に勝負をつけるための攻撃的陣形ともいえる。
だがこの程度の兵力差においては誤差程度しかないから、どちらが有利というのはないだろう。
かの徳川家康の英雄的出陣と言われる三方ヶ原の戦いにおいて、数で劣る徳川軍が鶴翼、数で勝る武田軍が魚鱗で戦ったということがあるように、要はその時々の最適な戦い方を見つけるのが大事ということ。
とはいえ味方6万7千対敵5万という、10万ちかい人間が正面から殺し合いをするのだから、覚悟はしていたことだが、これまた胸糞の悪い展開になりそうだ。
ただここまで出てきて後に引けない。
後ろを見せた途端、追撃されて川に挟まれ全滅する。
だから、勝たないといけない。
だが、
「相手は来ない、か」
布陣したものの、相手は動かない。
「敵の方が少数ですから、こちらの動きをみられているのでしょう」
なるほど。
確かに相手の方が時間をかけられるのは確か。
まぁいい。
相手が来ないのならちょうどいい。
こちらで準備したものが無駄にならないというもの。
「ジル、始める。各隊に連絡を」
「はっ!」
伝令が各隊へ飛ぶ。
やがて先鋒のサカキの隊が動き出す。
それを先頭にこの本隊と、遅れてシータ王国の軍も前に出る。
騎馬隊はやや後ろからついてくる形。
敵との距離が1キロを切り、そして500メートルほどになった。
そこで、
「先鋒、進め!」
ジルの号令に、サカキが動きだす。
前へ。
敵に緊張が走る。
サカキたちの隊3千だけでどうするものか。
まさか5万にそのまま突っ込んで来るわけがないと。
その緊張が、鉄砲の射程距離の寸前、次のサカキの行動で困惑へと変わる。
「散れ!」
サカキの隊が左右に別れた。
敵の鉄砲隊はその両方を追っただろう。隙ができる。
その刹那――
「連環馬、出ろ!」
旗を振り、叫ぶ。
するとジルの本隊が左右に別れ、そこから登場したのは馬に馬甲を着せて鎖でつないだ連環馬200頭。
去年、まさに同じ場所で帝国軍を破った戦法だ。
それが怒涛の勢いで敵を蹂躙せよと突っ込んでいく。
だが相手もさるものだった。
鉄砲の音が連続して放たれた。
馬の悲鳴が響く。
無敵に思える連環馬も、足元を狙われたり鉤鎌槍で鎧をひっかけられたり落とし穴など弱点は多い。
そして鉄砲だ。
水滸伝の北宋時代にはまだ存在しなかった未来兵器。矢と違い鉄を貫く鉄砲の玉なら、いくら馬甲を着せようと当たれば馬も死ぬ。
1頭数百キロもある馬が3頭も止まればそれだけで1千キロ。鎖でつながれている以上、その重量を引きずって走れるほど馬も強くはない。
だから鉄砲の一斉射撃で半分の連環馬が止まった。
さらにその後に続く10の連環馬だが、それに対しては歩兵で対抗された。
密集した陣形が、さっと3つに別れ、それが長槍を持って槍衾を形成する。
これも水滸伝のころになかったもの。
普通の槍よりも長く、長いものだと10メートル級のものもあるという。
槍衾などでも使われるが、これで鉤鎌槍法をやられた。馬甲をひっかけて倒されたり、馬の脚を切られたのだ。
そうなれば続々と機動力を失った連環馬は敵の眼前で動きをとめていく。
なんとか2つほどが、その槍を潜り抜けて敵陣に突撃したが、それもすぐに馬をやられて動きを止めた。
「くそ、対策は万全ってか! なら連環馬二の段!」
さすがに一度見た戦法には対策されている。
なら次。
最初の連環馬、一の段は確かに止められた。
けど相手はせん滅を嫌って部隊を分けた。
そこに2つ目の連環馬が突っ込む。
2頭揃いの騎馬隊が5つ。
200頭の馬が走った後は土煙がかなり舞っている。
その間を縫って、3つに別れた敵の部隊にそれぞれ別方向から迫る。
敵もたった10頭が5万の軍に突っ込んでくることに違和感を覚えたらしい。
だがたかが10頭に虎の子の鉄砲を使うのはためらわれたらしく、弓矢の部隊が前に出ようとして、少し敵陣が揺らぐ。
また、この騎馬隊は囮で、土煙に紛れて別の部隊が来ることを想像しただろう。
そこがねらい目。
弓を射られ始める直前。
2頭組の騎馬隊が左右に別れた。
敵の陣に困惑が広がるのを感じた。
何もせずただ2頭が横に広がったことに意味を見いだせないでいる。
もちろんそれが狙い。
左右に別れた馬が、それでも敵の陣の左右に向かって走り――
敵の前衛が吹き飛んだ。
敵のいたるところで混乱が起こる。
誰もいないにも関わらず兵が吹き飛んだのは、魔法か奇術かと疑ったに違いない。
もちろん魔法じゃない。
ただの連環馬の延長線上、というか縮小版だ。
馬2頭に100メートルほどにした鉄鎖を持たせ走らせる。
それを敵の直前で左右に別れれば、その間に走る鉄鎖が敵を襲ったのだ。
縮小版と言ったのは、それだけでは破壊力は連環馬の一の段より格段に劣る。
一の段より長い分、広範囲に影響を及ぼすことができるが、その分、力は弱い。想像してもらえれば分かる通り、10センチの紐と、1メートルの紐。左右の手に持った場合、どちらがより力が入るかといったらもちろん短い方だろう。
それに長い方が巻き込む範囲が広い分、持ち手――つまり馬に負荷がかかる。
だから鉄鎖は敵に衝突した瞬間に馬から離れるようになった。
結果としての戦果は、相手の前衛を一時的に機能不全にするくらいだ。
だがそれで十分だった。
俺はそれを確認するとすぐに旗を振った。
「連環馬、三の段!」
「突撃ぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!」
グリードの豪快な叫びが聞こえる。
てか、俺が旗を振る前にあいつ走り出したな。まったく、しょうがないやつめ。
グリードにやらせたのは簡単だ。
馬に馬甲を着せただけの騎馬隊を率いさせただけ。
何やら攻撃力を増す方法を模索していたようで、だったら、と連環馬に使う馬甲、それを何重にも着せていわゆるヨーロッパの重騎兵隊を作らせた。
重装備の騎馬隊は、その重量から機動性が落ちるものの、数百キロに加えて鎧の重さの騎馬はそれだけでもう1つの凶器だ。
敵に向かって突撃するだけで圧倒的な攻撃力を誇る。
だが機動性を犠牲にしたおかげで、重火器に対しめっぽう弱い。
だからこそ銃を使われないこの状況を作り出す必要があったわけで、そのための連環馬一の段と二の段だ。
一の段でうまくいけばよし、二の段で相手を崩し、三の段でとどめを刺す。
これにて連環馬三の段――いや、連環馬三段突きとでも言おうか。
その集大成であるグリードが敵の左翼に突っ込んだ。
さらに別方向から右翼にブリーダも突っ込んだ。
「ジャンヌ様」
「待て、もう少し」
ジルの言葉を制して前方をじっと見つめる。
さらに『古の魔導書』を取り出し戦況と見比べる。
敵陣がたわみ、そして衝撃を受けて動く。
やはりグリードのところがすさまじい。
俺が図っているのは、全軍突撃のタイミングだ。
ブリーダとグリードの両騎馬隊の攻撃をもって崩したところに全軍が突撃すればそれで勝負は決まる。
そして敵がずるずると下がり、あるところで止まった。
そこで力を盛り返し騎馬隊を追い返すつもりだろう。
――ここだ。
「総攻撃の鉦!」
叫ぶ。
同時、鉦が鳴り響き、すべてが動き出す。
先頭でサカキが、右手では天、淡英の軍が敵に向かって突き進む。
敵は騎馬隊を押し返し、一息つこうというところでさらなる攻撃を受けることになる。
危機を乗り越えて安堵した一瞬。たとえどれだけ精強な軍であろうとも弱点となる一瞬なのだ。
そこに連合軍が突っ込んだ。
最初はさすがに抵抗があったものの、勢いに差がありすぎた。
連環馬で傷を負った者もいるのに対し、こちらはまだ全然無傷で疲れていない。
だから勝てる。
乾坤一擲の強襲戦法。
ここで敵の半分、いや3分の1でも削れれば御の字。
あるいは敵将の1人でも討ち取れれば今後が楽になる。
だから俺は本陣にいながら、きつく目を見開いて前方に視線を凝らす。
その時、鉦が鳴った。
相手側だ。
帝国軍が支えきれぬと判断して退き鉦を鳴らしたのだ。
「退き鉦だ!」「勝った! 勝ったぞ!」「我らの勝利だー!!」
誰もが勝報に沸く中、俺は親指を噛みしめていた。
早すぎる。
敵が退くのが、だ。
正直、もう少し痛めつけたかったところだが、こうも早い退却とは。
もう少し、帝国最強軍らしく踏ん張るもの、と思っていたからあてが外れた。
「ジャンヌ様、やりましたね!」
だからジルがそう言ってきた時、少し能天気な様子にいら立ちを抱きながらも、俺は次の指示を出した。
「こっちも退き鉦。深追いは禁物で」
「……はっ!」
ジルも俺の言葉に何かを感じ取ったのだろう。
口を引き締めて、矢継ぎ早に命令を出し始めた。
颯爽とした引き際。
それも帝国最強軍の強さか。
とはいえ。
初戦は制した。
まずは勝った、という実績が後々の士気のありように響いてくるから、この結果はそれはそれで満足すべきだろう。
そのことに深くため息。
緊張がどっと解ける。
「初戦は私たちの勝利です! 勝どきをあげよ!」
引き揚げてきた全軍に対し、ジルが戦意高揚のため剣を抜き空高く上げて叫ぶ。
怒声に近い歓声があたりを包んだ。
ま、とりあえず勝ちは勝ちだ。
少しくらい喜んでもいいだろう。
だがその数時間後。
とんでもない報告が味方に駆け巡る。
味方の将軍の討ち死にの報告だ。
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このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
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