知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第43話 2つの別れ

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あまつ……なんで」

 広々とした空間にただ独り残された彼。
 陣幕の外では、今でも殺し合いが続いているというのに、この静けさはなんだ?
 この異様さが俺の思考を奪う。

「なんで私だけがここに、ですか? 決まっています。貴女を待っていたんですよ」

「待って……?」

「ええ。ジャンヌ・ダルクは国王の身を狙って必ず攻めてくる。そう予見した人がいたのですよ」

「っ!」

 読まれていた。
 この奇襲。
 いや、強襲。

 けどおかしい。

 見破ったのであれば、こちらを撃滅する反攻作戦をするべきだ。
 偽撃転殺ぎげきてんさつに対する虚誘掩殺きょゆうえんさつの計のように、おびき寄せた敵を倒すための策があるはず。

 なのに、ない。

 読み切ったというのに、今この場は、俺たちが圧倒的に勝っている。
 なら何で?

 あるいは、負けを悟って九神が逃げる時間を稼ぐつもりか?

「国王は逃げていません。今も反撃の機会を狙っています」

「いや、もう終わりだ。なぁ天。お前も分かってるだろ。この奇襲が空振りだとしても、シータはもう勝てない。主力部隊がこの状況に至ったのなら、兵たちに武器を捨てさせてくれ。それが一番犠牲の少ないやり方になる」

「それはできません」

「なんでだよ。あいつに義理立てするつもりか? 国王とはいえ、あいつはこの国の人間じゃない」

「いいえ、そうではないのです。ここに私が残ったのは、王の命でも、王に義理立てしたのでも、貴女に降伏するためじゃありません」

「じゃあ一体――」

 なんなんだ、と続けようとした瞬間。

「隊長殿!」

 クロエの悲鳴。
 何が起きたか分からなかった。

 何かに体を突き飛ばされ、その空間を銀色が駆け抜ける。

「がっ……ふぅ……」

 空気が漏れる音。
 そして、俺は見てしまった。

 過去に、身を挺して凶刃から守ってくれたことがあった。
 それと同じ光景が、今もまた繰り返されていた。

「マール!!」

「無事……ですね……」

 口から血を吐きながらも、マールがにこりと笑う。
 その胸に、天の突きだした剣を突き立てられた状態で。

「マール!」

 叫び、彼女の体を揺さぶる。
 医者。医者を、早く。

 それでも分かる。
 致命傷だと。
 助かる傷ではないと。

 また、俺をかばって誰かが死ぬのか。
 どれだけ俺は阿呆だよ!
 あれから何も成長していない。
 その激しい、自分への怒りが嵐のように渦巻く。

「あんたはぁ!」

 怒声。
 クロエだ。

 その間に天はその前にマールを刺した剣を放し、もう一振りの剣で俺を狙おうとする。

 その刹那。

「ぐっ」

 一筋の弓矢が天の手を貫いていた。
 ルックだ。

 天が剣を取り落とす。
 そこをクロエが一気に近づき、双鞭の渾身の一打を天の頭部にたたきつけた。

 血が飛び、天がよろける。

「待て、クロエ!」

 今度は言い切った。
 けど彼女は止まらなかった。

 鞭を投げ捨て、腰に履いた剣を抜き打ちで天を袈裟に斬り落とす。

 一瞬、時が止まったような気がした。
 天はふらりと体を揺らすと、こちらに視線を向けた。

「シータ王国。私の故国。それが滅ぶと聞かされては……たとえ貴女相手でも剣を抜かざるを得なかった。それだけです……」

「俺にシータ王国を滅ぼすつもりなんてない。それをなんでわかってくれない……!」

「貴女はそうかもしれない。ですがその周囲は、そして女神様は、果たしてどう思うか」

 一体、誰にそんなことを吹き込まれたのか。
 いや1人しかいない。

 水鏡がそんなことをするとは思えない。
 ならもう九神一択だ。

 あいつはそこまでして何がしたいのか。
 九神本人よりも、そちらに怒りがわいてくる。

 どのみち天の傷は深い。
 だから剣を向けた怒りよりも、マールの悲しみよりも、かつて俺に好意を寄せてくれた相手として、その最期に誓って見せた。

「約束する。たとえ誰が何と言おうと、どの国も滅ぼさないと」

 俺の言葉を聞いた天は悲し気に笑い、

「ジャンヌ・ダルク。最期に貴女に会えてよかった……」

 それきり、天は力尽きたように倒れ、そして二度と動くことはなかった。
 ここにも、状況に振り回された人物が1人。

 そして、

「マール! マール!」

 クロエの声にハッとして、マールに視線を戻す。
 けどもう彼女の視線はこちらを見ていない。

 中空に手を伸ばし、

「これで、一緒。ザイン……」

 それがマールの最期の言葉だった。

 マール。
 彼女は個性派のうちの部隊の中で、かなり真面目な人物だった。
 皆の調停役と言ってもいい。正直、彼女がいてくれて俺も特に精神的な意味で助かっていた。

 けど、先年の王都潜入以来。彼女はどこか死に急いでいるような気がしていた。

 その原因となったのが里奈だから、俺としても責任を感じないでもない。

 そんな彼女に俺は何かしてあげられただろうか。
 分からない。
 けど、彼女が最期に俺を守ってくれた。
 その命をこの世界のために使う。
 それで許してくれとしか言いようがない。

「軍師殿、大丈夫っすか」

 ブリーダがやってきた。
 その後ろには血だらけのウィットがいた。

 2人して俺に抱えられたマールを見て息を呑む。
 それでもブリーダは動揺をすぐに押し殺して聞いてきた。

「敵はほぼ壊乱状態っす。総司令が来たのが大きいっすね。どうしますか、このまま掃討戦に移れるっすが――」

 と、その時だ。

 ドォォン!

 西だ。
 水。
 水が噴き出していた。

 そして何かが爆発する音。

 それは間違いなく、王都の中で起きている出来事。

 王都が敵に攻められている。

 その首謀者はもちろん、九神と、そして水鏡だろう。

 つまり、相手も同じことを考えていたということ。

 肉を切らせて骨を断つ。
 たとえどんな犠牲を払ってでも、相手のトップを潰せば勝つ。

 それが俺にとっては九神で、九神にとってはマリアだということ。

 だからこそ、この博打のような手段に出た。

 それがゆえに、読めなかった。
 俺の責任だ。

 けどそうとばかりも言ってられない。
 すぐに動かなければ、手遅れになる。

「俺は王都に戻る! クロエたちは俺に続け! ウィット! お前は負傷兵を連れて補給基地で療養。……あとマールを頼む。それからジルに伝令。王都に戻って東門を守備。それからブリーダ! シータ軍を徹底的に追い散らせ。固まろうとしている奴らは蹴散らせ。ともかくここ5キロ以内には、敵の軍団がいないように徹底的にやれ! けど必要以上に殺すな」

「はっ!」

 そうだ、悲しんでいられない。

 何もせずに滅びを待つ。
 そんなこと。マールが俺に望むわけがないのだから。

 だから、行くんだ。
 また1つ、増えた重荷を背負いながらも。ただ前へ。
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