知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第51話 転生の真実

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「……え?」

 真っ先に反応したのは里奈だ。

 辺りを見渡し、そこにいる人たちや空間を見てぽつりとつぶやく。

「なに、ここ? 変わって、ない?」

 そう、変わっていない。
 女神が光を発し、眩しくて目がくらんだ一瞬。

 その果てには、俺たちが元にいた世界が広がっている。
 そう思った。
 だが、そうはならなかった。

 里奈が、竜胆が、イッガーが、マツナガが、ミストが、林檎が、新沢が。
 戻るはずだったプレイヤーの面々が、うろたえたように周囲を見回す。

 だが変わらない。
 元の世界なんて戻らず、オムカという異世界に俺たちはまだ存在している。

 そんな中、女神は心底嬉しそうに両手を広げ、

「はい、この世界が元の世界でーす! おかえりなさいませ、ご主人様!」

「どういう、こと……?」

 里奈が聞く。
 だが俺はある程度予測していた。

 いや、知っていた。知らされていた。
 煌夜から。
 あのポーカーをした日。ヒントとか言って出されたその答え。

 それがこの結果だ。

「うぷぷぷ! いいね、いいね! 皆のその顔、とってもグッドだね! いやー、この顔を見るのがいつもの楽しみでねー。あー、面白かった!」

「元の世界に戻す。その約束を破る気?」

 代表して里奈が女神の非を鳴らす。

 だが女神は、“いつも”というのだからこれまでもそうだったということ。
 にんまりと笑みを浮かべながらも、すぐに反論してくる。

「何言ってるの。ちゃんとわたしは“元の世界”に君たちを戻してあげたよ」

「どういう意味?」

「この世界が本当の世界。そう言いたいんだろ」

 女神が答える前に、俺が答えていた。
 これ以上、この女神が調子乗るのは業腹だ。

「あー、やっぱりアッキーは気づいてたわけ? ま、しょうがないか。コーヤくんと色々暗躍してたみたいだしね。答えをもらっててもしょうがないか。でもさ。知ってたなら、他の人にも共有しておくべきじゃない? そうしなきゃ、こんな絶望も味わわなかったわけだし、愛良ちゃんみたいな無謀な抵抗をする必要もなかったよね」

「……おい、どういう、ことだ」

 愛良が苦しそうに、身体的にも精神的にも辛そうに聞いてくる。

「煌夜が教えてくれた。この世の真実。それは、この世界が本当の世界、元の世界ということだよ」

 煌夜が出したヒント。
 俺や里奈が見た夢。
 アヤと林檎。
 女神の性格、そして転生の女神という役割。

 最初は特に変わりなく、この世界が転生先の世界くらいに思った。

 けど違った。
 そんな生易しいものではなかった。

「そういうこと! 君たちが考える元の世界。それってどの世界のことなのかな? あの日本とか、東京っていうのがある世界のこと? うん、それは確かに1つの世界。けどさ…………それが本当に“ある”と誰が説明できるの?」

「それは……私たちが、生きてたから」

 里奈が苦しそうに答える。
 その先にある、何かに抗うように。

「そうだね、君たちが生きてきた。けど、それが本当だと、本物だと誰が証明できるの? 君たちが『データ上の存在』で、日本という『架空世界において生きてきた人間』で、そのデータを『この世界の人間にダウンロードした』と誰が立証できるの?」

「………………え?」

 里奈がぽかんとする。
 他のプレイヤーたちもそうだ。
 この世界の人間には、もはや何のことかもわかっていないだろう。

「こいつはこう言いたいんだよ、里奈。俺たちが生きてきた日本という国の世界。それは……言ってしまえば空想の世界の出来事だった。そこで生まれた俺たちは自我があると思ってるけど、実は空想の世界だからただそういうものがあったというデータがあるだけなんだ。それをこの女神は読み取って、このラインツ大陸の人間に上書きした。いや――死者に俺たちの生きたデータをコピペして、1つの人間として再生させた。そうだろう?」

「おぉー、お見事! さっすがそこまで読んだんだね!」

「アヤが死んで、その後にアヤそっくりの林檎が転生した。それはつまり、アヤという死んだ人間に、林檎という生きた人間のデータを上書きして動かしたということ。俺が見た夢も、この世界の農民の少女が死んだ夢だった。きっと、その少女に俺を上書きしたんだろう。そして里奈」

「わ、私?」

「お前がマリアと似ていた理由。それはマリアの姉、数年前に亡くなったという彼女に、里奈というデータを上書きしたから。だから歳が若干ずれたし、ここまで似ている」

「ね、姉さまが……」

「私が……マリアの……姉?」

 愕然とした表情で、里奈とマリアが見つめ合う。

 この2人。
 似ているのは当然。
 だって、ベースは本当の姉妹なのだから。

「おい、待てよジャンヌ・ダルク。俺らは自分の意志でこの姿を選んだんだよ。なのに死んだ人間に上書きした? 悪いけど俺はキャラメイキングに一切妥協してねーからな? この姿は俺が望んだ、俺の姿んだんだよ」

 尾田張人がそう声を上げた。
 確かに最初のキャラメイキング。
 それが本当なら、確かに自分が思い描く理想と、死んだ人間のがわが同じになるようなことはないだろう。

 けど、そんなもの。
 この女神の前では無意味だ。

「なら聞くが、本当にそれはお前が選んだのか? 女神に何か言われたり、あるいはそうなるよう仕向けられたようなことはなかったのか? 俺は無理やりこの姿にさせられた。選ぶ暇も何もなかった」

「それは…………」

 尾田張人がどもる。
 何か心当たりがあったのだろう。

 なかったとしても、“自分で選んだ”という意識が刷り込まれれば、それは自分の意志と変わらなくなる。
 俺たちはデータ上の人格でしかないのだから。

「そん、な……じゃあ愛梨沙は? 私の、子供は……」

「アッキー、冗談言わないで。私の家族は、確かにいるの。絶対、それは……それは……」

 愛良と水鏡が懇願するように、否定を求めてくる。

 俺は2人の方を見れなかった。
 彼女たちにかけるべき言葉が見つからない。

 彼女らの望みは叶わない。
 たとえ勝ったとしても、それが叶えられることがない、幻想のようなものだったのだから。

「うふふ、卑怯なアッキーに代わってわたしが答えるよん! 君らの家族は、残念ながらいません! というか、今頃はちゃんと暮らしているんじゃないかな。死ななかった、君たちが代わりに」

「どういう、こと?」

「わたしが抽出したデータは、死んだ君らだから。あの時、あの場所で死んだ場合にどうなるか、というのをシミュレートしたデータだから。だから本当の、というとちょっと語弊あるからね。うん、オリジナルとでも言おうか。オリジナルの君らは、ちゃんと生きて、家族たちと過ごしているよ。君らはそのオリジナルの、死んだら、というIFの状態から作られたデータだから。心配する家族はもともといないんだよ」

「いない……愛梨沙が……?」

「そんな……嘘……嘘よ」

 愛良が、水鏡が。
 茫然としたようにたたずむ。

 帰れるにせよ、帰れないにせよ。
 どちらの場合でも、そもそも俺たちに帰る場所はなかった。
 生きる世界なんて、存在しなかった。

「簡単に言っちゃえば、君たちは空想の産物なんだよ。漫画とか、アニメに出てくる登場人物。そのさらにコピーの思念体。そんな実際に存在しない人間が、元の世界だなんだって、傑作な話だと思わない?」

 追い打ちをかけるように、女神が伝える。
 なんかこいつ。溌溂としてないか。人を追い込むことで血色がよくなるとか。本当に最悪だ。

「というわけで、オムカの人は残された時間をこの世界でしっかり生きてくださいねー。それでは敗戦国の皆さん、お待ちかね! 処刑のお時間ですよー」

 この白けた空気の中でも、こうして自分の予定を取り進めるこの女神は、ある意味すごい存在なのかもしれない。
 けど、

「その前に、やることがあるんじゃないのか」

 俺は女神に聞く。
 これはある意味攻めた一手。
 それでも、重要な一手。

 王手飛車取りを仕掛けるために、外せない一手だ。

「あ、そっかそっか! アッキーの言いたいことは分かったよん! 元の世界に戻れない。死体として生きていくしかない。ならせめて、最後に憂さ晴らししたいんだね! そんなに処刑したいなら言ってくれればいいのにー」

 まったくもって的外れな思惑だが、俺は否定しない。

「それじゃあ、アッキーの命を持って、わたしはこの世界に君臨しよう。覚悟はいいよね、アッキー。大丈夫。始めは優しくするから。ね? それから皆を殺して、それから世界を滅ぼそう。次はどんな展開にしようか。一緒に考えていこうじゃない」

 女神が俺に一歩。また一歩と近づいてくる。
 怖い。
 けど、これが王手をかけるための必要な措置。
 飛車を差し出し、王手をかけるための重要な布石。

「だ、ダメじゃ! ジャンヌ!」

「ジャンヌ様!」

「馬鹿ジャンヌ!」

「隊長殿!」

「明彦くん!」

 それぞれの想い。
 それぞれの声。
 それぞれの痛み。

 色んな人に会えた。
 色んな人と別れた。
 色んな人を助けた。
 色んな人を失った。

 きっと、この数年は今まで生きた中で一番充実していた。
 悲しいこと、苦しいことがあったけど、それでも生きていた。
 俺は、この世界で確かに生きていた。

 たとえデータの存在だとしても。
 帰る場所がないとしても。

 いや、違う。
 俺にも帰る場所がある。

 ラインツ大陸オムカ王国王都バーベル。
 そこにある1つの家。
 そこが俺の帰るべき場所。

 だからそれを消そうとするこの女神とは徹底的に相いれないわけで。
 俺はマリアたち帰る場所を守らなければいけないわけで。

 けどうまくいくかは分からない。
 だから言うんだ。

 この数年。
 充実した時間。
 それを与えてくれた皆に。
 散ってしまった敵味方の人々に。

 データでなく、俺自身の。
 心の底から沸き上がる、写楽明彦としての本当の感謝の気持ちを伝えたかった。

 だから――

「ありがとう、皆」

 そして、俺の中に女神が入ってきた。
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