知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第52話 王都バーベル防衛戦1日目・初戦

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 8万の軍とはどんなものか、と思ったが、目の前にいるのは2万を少し超えるほどだ。
 四方の各門に振り分けられたから、期待していたというと変な表現になるが、想像していたのより少なく見えた。
 それでも東京ドームの約半分と思うと途方もない人数だ。

 他の門からも約2万と対峙中と報告を受けている。
 完全に包囲されたということだ。

 城壁に登って見るに、敵は1キロも離れていない場所に陣取っている。
 城門から直線上にある城壁には楼閣ろうかくがあり、そこの方が高く見晴らしがよいが、兵が俺の姿を見れば安心するし、指揮をとるにも危険だが城壁の上の方が臨機に動けると思い城壁に立つことにした。

 この城壁、10メートル以上というからビルの4階建てくらいか。
 一応落下防止のため、最大1メートルほどの凹凸型の岩壁がある。今の俺にはほぼ体が隠れる高さだが、乗り越えるのは簡単だ。
 なるだけ真下はみないようにと思っても、やはりどこかで意識してしまう。

「隊長殿、攻めてくるのでしょうか」

「そりゃあね。あれだけの人間従えて物見遊山ってわけにはいかないだろ」

「そ、そうですよね……」

 クロエの声が震えている。
 数万相手の籠城戦はシータ国と経験済みだが、あの時とは数も地形も場所も違う。

 正直、王都は籠城に適した場所ではない。
 なにせ平原のど真ん中に突っ立っているのだ。しかも馬鹿でかい壁があるだけで防衛機構としては最低。
 川が通っているが上流から毒を流されたら飲み水に窮する。相手の水も不足することになるので、それはやらないと推察しているけど、そうは思っても最悪の事態も起こりうるのはハカラの件で反省したので、水の貯蓄は最優先させている。

 そもそもこのバカでかい城壁。確かに弓も当たらないし乗り越えることも無理だが、高すぎて逆に攻撃しづらいのだ。
 特に真下の城門に取り付かれたら、身を乗り出さない限り弓で攻撃するのはかなり難しい。超大国だったころの名残で、籠城戦など想定されておらず、威容を示すためにもこうなったのだと思っている。

 だが泣き言を言っていられない。
 ここを落とされたら皆殺しにされる。
 仮にマリアたちと共に逃げたとしても、再起の場所なんてどこにもない。そうなったら俺はもう二度と日本には戻れない。いや、今ならシータに潜り込むという手も使えるが、俺はここにいる彼ら彼女らと一緒に生きたいと思っている。

 守り抜くしかないのだ。

 そんな悲壮な決意を感じたのか、あるいは本当の瀬戸際を感じて緊張しているのか。おそらく両方だろう。クロエは不安そうな表情を隠しもしない。
 いくら良く働くといっても、数か月前は新兵で、まだ10代半ばの子供なのだ。
 そんなクロエが愛おしく思えて、彼女の頭に手を置く。

「大丈夫だ、俺がなんとかする」

「……凄いですね、隊長殿は。どんな時も落ち着いて。私より年下とは思えません」

「開き直ったと言ってもいいかな。それと俺、実は19だから」

「えぇ!? そ、それにしてはちっちゃ……あ、いや、なんでもないです!」

「ははっ、まぁそうだよなぁ」

 この世界に来て2カ月ほど。
 まだ慣れないことも多い。
 好きな料理も食べれないし、電気もないから夜は真っ暗だし、漫画もゲームも映画もないから娯楽が少ない。早く元の世界に戻りたい、と思う。

 でも、この世界で必死に生きている人たちを見ると、俺も尻を蹴飛ばされるような気分になって、やってやるっていう気分になる。生きていることを実感できる。調子に乗って失敗することもあるけど、誰もが優しく温かい。
 こんな場所、日本に戻ったとしてそうあるだろうか。

 確かに里奈とは会いたい。
 けど、俺は死んだ身として諦めてこの世界で生きていくべきなんじゃないかとも思わなくもない。なんてことを考えたけど、それはここを生き延びた先のことだ。

「クロエ。絶対生き残るぞ」

「っ、はい!」

 クロエが幸せいっぱいの笑顔を浮かべる。
 それをみるとこっちも頑張ろうって気になるから不思議だ。

「動いた!」

 見張りの叫びに注意喚起され、城壁から外を見る。
 動いているのか……いや、動いた。大軍ゆえに初動が重いのだ。

 2万が横に約1千、20列になって近づいてくる。一部動かないのは本陣だろう。
 他の門も同じく動き出したらしく、それは地鳴りとしてはっきりと知覚できるものだ。この振動で城壁が崩れたらどうしようなんて、天が落ちてくるのを心配する人を笑えないことを思った。

「弓構え!」

 号令の下、北門に配置された兵たちが弓を構える。
 その中にはジャンヌ隊もいて、弩を構えている。それがどれだけ戦力になるか分からないがないよりはいい。

 弓の射程距離は昨日の段階で試してみていた。
 だからそのラインを頭の中で思い描き、その位置に来るまで引き付ける。

 先頭がそのラインを超す。
 弓兵たちの息を呑む音が聞こえるようだ。
 まだ撃たないのか、と言下に聞いてくるように思える。
 まだだ。完全な効果を得るなら――

「撃て!」

 5列目がラインを超えた時に号令を放つ。
 弓弦の音が重なって響き、空間を無数の矢が覆い尽くすように飛んで行く。近づいてくるエイン軍がバタバタと倒れた。

 まだ弓の射程距離外と思っていたのだろう。慌てて木の盾を頭上に掲げて飛んでくる矢を防ぐ。
 退くか、いや、被害はそれほどでもない。なら――

「敵は来るぞ、火矢の用意!」

 盾は木製だから燃えやすい。だから火矢を用意した。
 鉄製の盾を持つものもいるが、それは重歩兵や騎兵の連中だけで戦闘を進むような歩兵は木で作った簡単な盾しか持っていない。

 案の定、敵はさらに攻めてきた。
 普通の弓矢の中に火矢も混ざる。もちろん盾に当たったといってもすぐに燃え広がるものではない。ただ、持っていればいつかは燃え広がるので、燃えるのを覚悟で持ったまま進むか、捨てて身軽になって進むかを強いることができる。

「撃て撃て! 矢の残りは気にするな! まだまだあるからな!」

 エイン帝国侵攻の報を受けてなお王都に残るといってくれた人たちは、何も遊んでいたわけじゃない。
 食事が作れるものは食事を。
 武器を作れるものは武器を。
 専門でなくてもやれることはたくさんあった。

 まず矢を増産させた。
 外に木を伐採にも行ったし、やじりはハカラ達が使っていた剣を溶かして作った。それでも足りなければ石を使えばいい。

 それなりの犠牲を出しながらも、愚直に攻め寄せる大軍の圧力はまだ健在だ。
 そもそも絶対量が多いのだ。

「ぐぁっ!」

 数メートル横にいた兵がもんどりうって倒れる。
 敵からも弓を撃ってきたのだ。
 これほどの高さだから多くは途中で城壁に弾かれるが、何本かは飛び越えてくる。

「隊長殿!」

 クロエに岩壁に身を押し付けられる。
 それでも凹型の壁の隙間から下を見る。

 敵は部隊を2つに分けた。
 1つがそのまま城門に攻め込む歩兵部隊。
 もう1つがその援護として、弓を撃って城壁の俺たちを釘付けにする弓兵部隊。とは言うが、それでも1万近くいるのだ。
 ほとんど届かないと分かっていても圧倒的な物量の死がこちらに飛んで来るのを見るとやはり恐ろしくもなる。

 かといって抵抗しないわけにはいかない。
 歩兵部隊は堀にたどり着きそうになっている。そこを越えて城門を攻撃されれば厄介だ。

 ただ厄介なのがこの城壁。真下に向かって撃つには身を乗り出さなければならない。そうすると敵の弓の的になる。
 そこで役に立つのが次の武器だ。

「石!」

 人の頭ほどの岩石を投げ落とす。
 投げつける必要はない。10メートルの高さから落とすのだから、重力が手伝って凶悪な兵器となるのだ。

 これも防衛の一環となるため用意させた。
 城内の家はほぼ石造りになっている。だから建築用の石が残っているし、それでも足りなくなれば今ある家を取り壊して補充することができる。もちろん不満が出ないよう後で保証することになるが、それで生き残れるのなら安いものだ。

 投石は面白いように当たり、敵の悲鳴が断続的に響く。
 もちろん敵の数が多いのもあるが、何より堀のおかげだ。

 橋は上げてあるから城門にたどり着くには5メートルほどの堀を渡る必要がある。
 そうなると堀を泳ぐことになるので、行軍スピードが格段に落ちる。その間は上からの落石には無防備になる。木の盾を掲げたところで重力加速のついた石なら盾ごと粉砕するのだ。

「……辛いな」

 敵とはいえ人間の悲鳴なのだ。
 東西南北、同じような事態が起きていると、今の時点で死傷者は1千人を超えるはずだ。

 俺の考えた作戦で、それだけの人間が傷つき、あるいは命を落とす。

 ……だめだ。いい加減に割り切れ。
 俺がやらなかったら、この王都にいる十数万の人間が殺されるのだ。それを考えろ。割り切れ。

「隊長殿!」

「どうした」

「敵が退いていきます!」

 クロエの言葉に壁から顔を出す。
 眼下では敵がある程度の秩序をもって遠ざかっていくのが見える。怪我をしている戦友に肩を貸して逃げていく人もいた。
 耳をすませば風に乗って鐘の音が聞こえる。四方からだ。

「勝った……勝ったぞ!」

 1人が威勢よく手を空に突き上げる。
 するとそれに同調して周囲が歓声を上げる。他の城壁でもあがる。

 勝ったわけじゃない。今日は退いただけにすぎない。
 これから続く長い籠城戦の1つ目が終わっただけだ。
 しかもこれからはこんな愚直な攻めはしないだろう。手を変え品を変え攻めてくるに違いない。
 その中の1つにでも負ければ、俺たち全員の敗北なのだ。

 とはいえそれを指摘するほど野暮ではないつもりだった。

「隊長殿、良いのですか」

 クロエはその事がよく分かっているが、それを口に出す時点でまだまだだな。

「好きにさせておけ。おそらく今日はもう来ないだろう」

「まだ日が沈むには時間がありますが」

「今のは瀬踏み(偵察)だよ。俺たちの実力がどんなものかつついてみただけに過ぎない。俺たちの防衛術を見て作戦を練り直すつもりだろう。そもそも移動で兵たちは疲れてる。それを休ませる意味で今日はもう攻めて来ない」

「なるほど……」

 ただそれは100%とは言えないのが辛いところだ。
 敵将のことを『古の魔導書エンシェントマジックブック』で調べてみたが、何も出てこないのだ。
 こんなことは今までなかったから、何か例外があるのだろうか。

 唯一分かっているのは、ハカラの失脚に狙いをすましたかのようなこの侵攻をするほど知略と政略に長けた人間で、しかも味方を簡単に切り捨てられる冷酷な相手。
 このタイミングの良さは、あるいはこの敵がハカラを焚きつけた知恵者なのかもしれない。そうなると兵の疲れなど知らずに攻めてくる可能性もないとは言えないのだ。

 だから締める時はビシッと締める。

「おい、浮かれるのはいいがほどほどにしておけ! 見張りは交代制! しっかり敵を監視しておけ! それ以外はしっかり休め! これから長いのに今から疲れてどうする!」

 兵たちを叱咤して城壁を歩く。
 遠くに人の塊がある。
 彼らをあと何人殺せば諦めてくれるのか。
 それを考えると暗澹あんたんとした気持ちになるが、それも受け入れるしかないのだ。

 とにかく初戦は勝った。
 それをさらに確かなものにするため、俺は各門の見回りに出るとクロエに告げて歩き出す。
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