知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第62話 王都バーベル防衛戦7日目・最後の策

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 思えば早いものでもう1週間が経つわけだ。

 初日は愚直な攻めに対し優位に立った。サカキとブリーダの夜襲も効果的だった。

 2日目は堀を埋めに来る敵に驚きつつも防戦に手いっぱいだった。

 3日目にまさかの投石機を使ってきて、西門が崩された時にはまずいと思ったし、ニーアの負傷には魂が縮む思いだった。なんとか夜襲で投石機を破壊したものの、ブリーダの離脱は痛かった。ブリーダは無事だろうか。

 4日目は珍しく平和な半日を過ごしたかと思いきや、ハワードがやってきてさんざんに戦場をひっかきまわしてくれた。

 5日目はきっと一生忘れないだろう。城門を爆破されたものの、それに対してサカキとハワードが敵を翻弄して掎角の計を成功させた。だが、その帰りにサカキが帰らぬ人となった。

 6日目は雨で水入りになった。ニーアの拳は、痛くて、熱かった。

 そして7日目。今日で1週間。

 おそらく今日か明日で決着がつく。
 敵も朝から総攻撃を仕掛けてきた。決着を考えているのだろう。

 ひたすらに矢と岩に油で反撃するが、それに勝る物量をぶつけられればもたない。
 自爆覚悟の爆破も行われ、昼を過ぎるころにはついに城門が破壊され、北門から敵が侵入を始める。

「中門にて迎撃する! ここを必ず守るぞ!」

「隊長殿! 身を低く!」

 旗を振りながら兵を指揮するのだから敵に狙われやすい。
 それでも10メートル以上の高さにいるのだから、その半分しかない中門よりはまだマシだとクロエの意見を却下した。しかもこれまでは外ばかり見ていればよかったが、城門を突破された以上、中も見なければならないから高いところの方が良いのだ。

 虎口となっている中門の広場には敵兵がひしめいている。
 一部は中門を破壊しに行っているが、それ以外は中門の城壁から矢を撃つオムカ軍を相手にしていた。
 城門の半分しか高さがないのだから矢は届きやすいし、誰かの背を蹴って壁を登ろうとする敵もいる。

「油! それから火!」

 城壁から指揮をする。
 油を持った兵が油の壺を落とす。
 敵や地面に当たって割れた油が飛ぶ。そこへ火矢が撃ち込まれる。たちまち中門の広場は炎に巻かれていくが、なにせ絶対量が少ない。さらに増水した堀の水を汲むことで簡単に消火されてしまう。

 もはや中門が破られるのも時間の問題だが、さらに伝令が絶望的な報告を持って来た。

「西門、破壊されました! ニーア将軍が内門で交戦中!」

「南門、破壊! 総大将が陣頭に立って指揮をしております!」

「東門は敵も少なく、盛り土が固まり防壁をなしています!」

「西門が限界です! ニーア将軍が獅子奮迅の働きで敵を押し返すも再び負傷!」

 やはり西門がつらいか。だがニーアのせいではない。
 4日前の投石機による攻撃で、いくつかが内門も傷つけていたのだろう。だから他より突破される可能性が高いのだ。

 ハワードが頑張って敵本陣と戦っているおかげで北門は比較的敵の数は少ない。
 だから北門と東門の兵を回すことはできるが、あとどれだけ持ちこたえられるか。

 いや、ここで俺が諦めたら意味がない。
 ジルもニーアも頑張って耐えているのだ。こっちが先に落とされたら奴らに申し訳ない。

「決して諦めるな! 今に援軍が来る! それまで耐えろ!」

 それでも旗を振り、声を枯らして叫ぶ。

 これが最後の策。
 ここまで肉弾戦になれば、もはや軍師のやることはない。

 それにしても『諦めるな』か。見事な精神論。軍師の仕事ではない。
 だが、そう言うしかない。
 諦めなければどうなるのか。そんなの知ったことじゃない。
 だが諦めなければ見れる景色もある。それを信じて、今は耐えるしかないのだ。

 その時、声が響いた。

『知力が100になりました。知力パラメータ100ボーナス、天啓オラクル発動可能。1度だけ100%実現可能な策を発動できます』

 それは頭に響いたメッセージ。無機質な機械音のような声。

「クロエ、何か言ったか?」

「いえ、なにも!」

 なら俺にしか聞こえないのか。

 いや、分かる。今の声が示す意味を。
 パラメータ100ボーナス。あの女神に言われた、1度だけ発動できるとかいうスキル。
 1度だけ100%実現可能な策?
 意味が分からない。この状況、策1つで押し返せるものではないのだ。

 ……いや、ある。
 これが起これば100%勝てる策が。だがそんなことは不可能……いや、それが100%実現可能というのか?

 くそ、やってみるしかない。
 たとえどんな無茶な内容でも、そこに賭けるしかないのなら、最後まであがく。

 俺は立ち上がり、旗を振る。

「皆、聞け!」

 そして旗を振る者ジャンヌ・ダルク。その威容を示すように。

「サカキ将軍は生きている。そして援軍を呼びに行った。だからもう少しだ。もう少し待てば俺たちの勝ちだ!」

「た、隊長殿……」

 クロエが心配そうな目で見てくる。

 あぁ、俺だって馬鹿みたいな内容だと思ってるよ。あり得なくて実現不可能で荒唐無稽な策だということを。

 それでも今、兵にはそういった心の拠り所が必要なんだ。
 俺はそうまでして殺したいのか。皆に嘘を言って、騙して、戦わせて。
 ひどい奴だ。大罪人だ。擁護のかけらも見いだせない。

 ――それでも。
 それでも生き残る可能性があるなら、俺はそれに賭けたい。

天啓オラクル発動を確認しました』

 頭に声。それっきりその声は聞こえなくなった。

 待つ。
 だが何も起こらない。当然だ。サカキは死んだし、シータ軍なんて来ない。
 だから何も起こらず、俺たちは今日死ぬ。
 そう思うと残念だが、やるだけのことはやったからきっとサカキとサリナもそう文句は言わないだろう。
 けど、あぁ、けど。
 里奈ともう会えないのが寂しい。悲しい。虚しい。
 だから――

「東に敵影!」

 緊迫したクロエの声に振り向く。

 まだ兵力を隠し持っていたのか。
 この状況で東門、いやこの北門を攻められただけで城は落ちる。
 もはや進退は極まり、最悪マリアだけでも逃げ落とすかと思考を開始したところで、

「て、敵軍? 師団長殿の軍を迂回し、エイン帝国の本陣に攻め入りました!」

「まさか、あれは!」

 来た。来てくれた。
 遠目に見える緑の旗。
 シータ軍だ。
 幻ではない。
 1万以上の大兵力でここまで来てくれたんだ。

 最後の策が、成った。
 一番簡単に勝つことができて、かつ一番実現するのが難しい策だった。

 だが、賭けるしかなかった。
 防衛の策も、ハワード軍の支援も大軍の前では鎧袖一触の可能性があった。
 帝国領の反乱についても、すぐに効果を発揮するのは難しいと思っていた。

 このシータの援軍という策は、兵力という目に見え、そして一番効果的な方法だったのだ。

 あまつとの交渉の時、帝国の侵攻に対して援軍を要請はした。
 だが帝国の侵攻が早すぎたこともあり、援軍は期待できないと思っていた。
 それでもと一途の望みを託して、ハワードに天を説得するようさらに頼んだ。
 エイン帝国を追い返した暁には、王都以外の土地であれば何でも要求を聞くとまで譲歩して。

 もちろんマリアどころかジルたちにも相談していない俺の独断だから、これに対する要求が到底叶えられないものであれば、俺が身命をもって対するつもりでいた。
 ……正直、サリナやサカキの命を背負った今、そう簡単に死ぬつもりはないが。

「敵本陣が撤退します!」

 エイン帝国の本陣は鉦を鳴らして撤退を始める。
 そこに追い打ちをかける。

「援軍が来た! 敵本陣は撤退したぞ! 内門に残った敵を皆殺しにしろ!」

 もちろん俺に敵を皆殺しにする気はない。
 ただこう言えば味方の士気は上がるし、敵は腰砕けになって早々に逃げだすしかない。

 事実そうなった。
 算を乱して逃亡する敵に、ハワードの軍が襲い掛かる。さらに本陣を追い散らしたシータ軍は西門の方へと向かった。
 南門から小さく鉦が聞こえ、援軍を喜ぶ声が聞こえる。シータ軍が陸軍だけということはない。おそらく南門には水軍が近くの川から乗り入れて来ているのだろう。
 ここに至っては西門と南門の帝国軍も逃げるしかない。

 1週間。
 1週間かかった。
 長かった。
 辛かった。
 苦しかった。
 悲しかった。
 それでも――

 長い時間、そして多くの犠牲を払った王都バーベル防衛線は、ここにオムカ王国の勝利という形で幕を下ろした。

 肩の力がどっと抜けて、その場に崩れ落ちる。

「隊長殿!」

「あぁ……大丈夫、だ……っ!」

 胃の中のものを吐き出した。
 朝は何も食べていなかった。だから胃液しか出ない。
 もう終わりという瀬戸際から一気に安堵したために胃がひっくり返ったのか。ははっ、俺って吐いてばっかだな。

 けどそれもまた生き残った痛みだ。
 敵の撤退を見て兵たちが、いや、城に籠るすべての人が喝采をあげる。
 勝った喜び。生き残った喜び。それらを噛みしめて、誰もが笑顔になる。

「勝ったんですね、私たち」

「あぁ、俺たちの……みんなの勝ちだ!」

 クロエが泣いている。
 泣くつもりはなかったけど、自然と水が頬を伝っていた。

 そんな時だ。
 門の外。
 幾多の血を吸った大地を、十人ばかりを連れて、とことこと馬の背に揺られてくる1人の男を見つけたのは。
 相手も俺の姿を見つけたらしい。

「やぁ、ジャンヌさん。会いに――いえ、愛に来ましたよ」

 シータ国軍総帥兼宰相のあまつが、にこやかに手を振っていた。
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