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第1章 オムカ王国独立戦記
第63話 オムカ王国独立記念日
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夜空に太鼓や笛の音、そして笑声が響き渡る。
それを俺は北門の城壁の上でぼんやり眺めていた。
先日までのことが嘘のように、城の外には誰もいないし、悲痛な叫びも聞こえてこない。
1週間前、ハワードの軍と合わせて2万近くいた兵が、今や1万ほどになってしまっていた。
1万近くの人間が傷つくか、あるいは命を落としたのだ。
残った1万も無傷の者は俺くらいしかいないというくらいに傷ついている。
それを思うといたたまれなくなる。
義勇兵を含めて一般市民に犠牲が少なかった、とジルは言うが俺は納得はできなかった。
更にマリアやニーア、クロエといった面々だけでなく生き残った兵、重傷を負った兵、果てにはリンや一般市民から「ありがとう」と言われるのだからたまったものじゃない。
俺はそんな感謝されるようなことをやったつもりはない。
俺の采配で皆の家族や友人を死なせたのだと思うと、このまま城壁から飛び降りて死にたくなる。
そうしないのは、俺がことさら臆病だというのだけではなく、俺がここで死んだら彼らの笑顔に水を差すことになってしまうからだ。
なにより死んでいった人たちのことを思うと、自分の命をそう簡単に投げ捨てて良いものではないと思ってしまった。
……約1名は違ったわけだが。
正直、呆れた。
『よっ、ジャンヌちゃん。元気?』
死者の第一声がそれだった。
城門に現れた天が場内に入ったのは、エイン帝国軍が完全に戦場から撤退して、更にシータ軍が3キロほど王都から離れてからだった。
誰もがシータが漁夫の利を狙っていると警戒したので当然の処置だった。
そんな誤解を避けるため、天は兵を下げ、わずか数名で北門を訪れたのだ。
俺としてはそれを承知していたため、ジル達の制止を振り切って彼を城門の前で迎えた。
『援軍、感謝する。おかげで助かった』
『いえ、こちらこそ遅れて申し訳ない。もっと早くに来る予定でしたが、カルゥムの接収と昨日の大雨で遅れました』
『俺たちは助かった。それで充分だよ』
護衛としてついてきたジルやニーアに、シータ軍の総帥兼宰相を紹介すると、その身軽さに驚いたようだった。
だが2人が更に、そして俺が最も驚いたのがその後だ。
『つきましては友好の証に、こちらで保護した負傷兵をお返しいたします』
と来てからの
『よっ、ジャンヌちゃん。元気?』
というわけだ。
お供は全員フードをかぶっていたか分からなかったが、それを取った下から出てきたのは死んだはずのサカキだった。
血色も良い。
もちろん足もついている。
『ほんとに、サカキなのか?』
『お、もしかして心配してくれた? いやー、やっぱモテる男は違――うぼぉ! そ、そこは傷が……死ぬ、死ぬ!』
『次あんな命令無視をしたら……俺が殺す』
『い、今死ぬところなんだけど……』
『ふふ、さすがジャンヌさん。遠慮のないボディブローに殺し文句。見ているだけでゾクゾクしますね』
天が恍惚とした様子で身震いするのがキモかった。
『馬鹿は死なないと思ってたが、その通りだったな』
『ほんっと悪運だけは天下一よね……あ、馬鹿もか』
ジルとニーアの言い分も身も蓋もなかった。
サカキに後で聞いた話だが、最後の最後で敵の剣筋が鈍り、急所を僅かに外したらしい。
それでも斬られたショックと出血で意識を失っていたが、光を感じて目が覚めたところ、傷はほぼ塞がっており、王都から数キロ離れた草原に寝ころがっていたという。
そしてさまよっている間にシータ軍と出会ったらしい。
ニーアの言う通り悪運は本当にあると思うが、それより気になるのは2点ある。
敵の剣筋が衰えたということ。心当たりがあった。
あの女神が言っていた、1分間だけという時間制限に当たったのではないか。
つまり部下たちが犠牲になって時間を稼いだことが、サカキの命を救ったというわけだ。
そして光。
証言の整合性を取ろうとすれば、サカキは1日以上倒れていたことになる。
傷を負い、雨に打たれた状態でそう生きていられるわけがない。しかも傷が塞がっているというのだからますますありえない。
ならこれは奇跡なのか。
いや、違う。
俺が考えたのが、パラメータ100ボーナス。100%実現可能の策だ。
『サカキ将軍は生きている。そして援軍を呼びに行った。だからもう少しだ。もう少し待てば俺たちの勝ちだ!』
そんなことを俺自身が言った気がする。
まさかそのおかげでサカキが生き返ったとでも言うのか?
それでシータ軍が間に合ったというのか?
だってあまりに都合の良いタイミングでの援軍だったのだから、そう考えてもおかしくないだろう。
でも……まさか、な。
どうせ大した傷じゃないのを恥じて、さまよっている内にシータ軍と出会ったんだ。
というわけで今度あのクソ女神が出てきたら小一時間、問い詰めてやろう。
しかし、サカキをどうしたものかと思う。
多くの味方を無事に逃がしただけでなく、勝利の決め手となる援軍を呼び込んだのだから、俺たちが助かったのはサカキの功績と言ってもいい。
ま、増長するだろうから絶対言わないけど。それとなんかムカつくし。
さて、サカキのことはそれくらいにしておこう。
それから天を城内に招き、アリアと会談の席を設けた。
国と国との正式な外交の場だ。
天はシータ国王の親書を持参しており、それにマリアも同意したことで正式に同盟が結ばれたのだ。
その時に今回の援軍の見返りの話になったが、俺が切り出そうとするのを天が制してこう言った。
『今後に予定しているエイン帝国への軍事行動に関して、来月から半年ほどジャンヌ殿をお貸しいただきたい』
それを聞いて驚いたのは俺だけじゃなかったはずだ。
彼らの援軍がなければ皆死んでいた。それを考えると、もっと過酷なことを要求されると思ったからだ。
『それだけでいいのか。いや……ジャンヌさえよければ問題ないが。どうじゃ、ジャンヌ?』
マリアにそう言われたが、断る理由はない。
俺が少し苦労すればいいのであれば、そこで手打ちにするべきだった。
だから同盟の話と援軍への謝礼が終われば後はお祭りだった。
本来なら仇敵同士だったはずの2国が入り乱れての大宴会に発展したわけだった。
「ジャンヌ様、ここにいましたか」
ジルが手にグラスを2つ持って城壁に登って来た。
1つはワインだろう。そちらではない方を俺に差し出してきた。
丁度喉が渇いていたので有難くそれを受け取り、ジルとグラスを重ねて一口。
オレンジジュースだった。まぁ未成年だし。
「報告が来ました。ブリーダはなんとか持ち直したようです」
「そうか、それは良かった」
唯一の心残りがブリーダの傷のことだった。
医者に託して後は祈るのみだったので、自分ではどうしようもない状態にやきもきしていた。
「今度、お見舞いに行こう」
「そうですね、彼も喜ぶでしょう」
少し風が吹き、沈黙が降りた。
しばらくしてジルが切り出す。
「ジャンヌ様、まだ怒っているのですか?」
目的語がなかったが、何のことか分かった。
サカキのことだ。
「……当たり前だ。あんな生き返り方して。しかも最期の言葉が愛してる、だぞ。公衆の面前で告白しやがって。俺が男だってことちっとも理解してない。それで死んでりゃ英雄として祭り上げてやろうと思ったのに、のうのうと生き延びて。しかもちゃっかりシータ軍を引き入れて勝負を決めやがった。ずるいんだよ。あーあ、なんであそこで死んどかないかな」
「よかったですね、彼が生きていて」
「…………ふんっ」
照れくさくてそっぽを向きながらジュースを一気に飲んだ。むせた。
「とにかくだな! あいつは馬鹿なんだ。馬鹿だから人様に迷惑かけてもどうでもいいと思ってるんだ。そんな奴を気にかけてる暇は俺にない!」
「そうですね。これを聞いた本人にもいい薬でしょう」
ジルが意味深な言い回しをする。
ジルに視線を戻し、彼が向いている方向を見ると――いた。
サカキが入院着の簡素なローブをまとった姿で、城壁の階段の傍に座り込んでいた。
「…………いたのか」
「いた。ジャンヌちゃん。ひどい。俺。悲しい」
なんでカタコトなんだよ。
どうやら死んで蘇った(?)ことで幼児退行しているようだ。怪我自体はほとんど完治していたが、念のためと入院させられていた。
その裏にはクロエが息を切らせてへたり込んでいる。
「はぁ……はぁ……れ、連隊長殿がどうしてもここにということで……なんとかおぶって、来ました……」
「そ、そうか。ご苦労だったクロエ」
子供におんぶされんなよおっさん。
てか断っていいからな、クロエ!
その時、ふと胸元に違和感を感じた。
というより異物感だ。
何かが俺の両方の胸に手を這わせている。
今は薄いブラウスを着ているから、感触がダイレクトで伝わってくる。
誰だ、と思う以前にこんなことをする馬鹿は1人しかいない。
俺は両手でその手の甲を思いっきりつねりあげた。
「ぎゃああ、痛い痛いぃぃぃぃ!」
「のじゃあぁぁぁぁぁ!」
いや、2人だった。
「……何やってんだ、2人して。ニーア、お前は怪我人なんだから寝てろ。てかマリア、お前は女王なんだから軽々しく出歩くな!」
「いや、来月からジャンヌいなくなるでしょ。寂しくなるから今のうちに揉んでおこうって」
「そうじゃ。それに王宮にいたらジャンヌに会えないではないか! ずっと寂しかったのじゃ。だから今夜から出発までは、毎晩余の寝室で寝るのじゃ。そうすればお風呂でもベッドの中でもジャンヌと――のじゃあぁぁぁぁぁ!」
「なんであたしもぉぉぉぉぉ!」
皮を引きちぎってやろうかと思ったが、俺にそんな筋力はないのだった。
「はっはっは、にぎやかでいいですねぇ。しかし、ジャンヌさんは意外と胸囲があると……素晴らしい」
「天、お前までこんなところに! しかも変なことで笑ってんじゃねぇ!」
いくらお祭り騒ぎだからってこいつら浮かれすぎだろ。ったく。
と、天は小さく咳払いして俺に向かって、
「ジャンヌさん。私は明日には帰ります。いつまでも国を空けるわけにはいきませんから」
「ん、そうか。今回は本当に助かった。ありがとう。約束通り来月には向かうから」
「ええ、お待ちしております」
二コリと笑う天。
その純朴な笑みに、つい裏があるのかと疑ってしまう。
「どうかしましたか?」
「もっとひどい要求をしてくると思った」
「しませんよ。そんなことをしたらあなたに嫌われてしまいますからね」
「よく言う」
ほんとこいつはすけこましというかジゴロというか。
本心で言ってるのか、口説こうと思って言ってるのか分からない。
……いや、俺は男だから口説かれないけどな!
「ちょっと待てこいつ。もしかしてジャンヌちゃん狙ってる?」
「おい、こいつとか言うなサカキ。この方はシータ王国の宰相だぞ」
「いやジーン、それは違うぜ。こいつは合法的にジャンヌちゃんを連れ去ろうとしてる。それすなわち俺の敵だ!」
「お、珍しくサカキンと意見が合った。もしかして一度死んで丸くなった? というわけでジャンヌのおっぱいはあたしのものだ!」
「そうじゃそうじゃ! こうなったらジャンヌを賭けてシータと戦争なのじゃ!」
「ふふっ、良いでしょう。受けて立ちましょう」
「な、なんか大変なことに……わ、私は隊長殿がどこに行こうがついていきますよ!」
「お前ら馬鹿か!」
せっかく丸く収まったのに、なんでまた争いの種が再燃してんだよ!
しかもその中心が俺だなんて悪い夢だ。
「ジル、こいつらどうにかしてくれ」
こういう時、いつも冷静なジルに助けを求める。
「そうですね。私としてはジャンヌ様が誰と仲良くしようが気に留めませんが、誰かの伴侶になるというのであれば黙ってはいられません。ええ、サカキに言ったことは訂正しませんが、私の心はサカキと同じ――いや、それより上! たとえここにいる誰を敵に回したとしても、私は貴女を守ります!」
おおぅ、ブルータスお前もかパート3。
「もとより外交を盾にしてジャンヌさんを手に入れるつもりはありません。私は私自身の魅力によって、必ずやジャンヌさんを私の伴侶にしてみせましょうぞ!」
「敵! 敵! こいつはおっぱいの敵! ちょっと宰相さん、そこから地面にダイブしてみない?」
「な、なななな、なにぃぃぃぃ! は、はん、はん、はんりょってなんだ?」
「馬鹿は死んでも治らないようですね、サカキ。ですが誰にもジャンヌ様は渡しません。なぜなら私が一番早くジャンヌ様に出会ったのですからね!」
「いいや、ジャンヌは余の家臣じゃ! ならばジャンヌは余のモノだと言っても過言ではあるまい!」
「隊長殿は我らの隊長殿です! じょ、女王様といえども退きません!」
もうダメだ。
止める人間もおらず、暴走に暴走を重ねて収集がつかなくなってしまったこの場は行きつくところまで行きつくだろう。
ま、一週間前はこんな光景を見るなんて夢にも思わなかったわけで。
その実現に俺の力が少しでも役に立ったというなら、こんな嬉しいことはない。
けど何度でも言う。
何度だって言う。
俺はこうして、あのクソッたれな女神のせいでこんな姿してるけど……。
「俺は男だって言ってんだろ!」
知力99の美少女に転生したので、孔明しながら救国の乙女をしてみた。
その結果、男女問わずに引く手あまたの 無駄ハーレムが出来上がったとさ。
//////////////////////////////////////
次の閑話をもって1章完結となります。ここまで読んでいただいた皆様には大変ありがたく思います。
この後も2章3章と続いていきます。新たな人物も登場しますが、物語りの中心は変わりませんので、ジャンヌの格好いい&可愛いところを見ていただければと思います。
またいいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
それを俺は北門の城壁の上でぼんやり眺めていた。
先日までのことが嘘のように、城の外には誰もいないし、悲痛な叫びも聞こえてこない。
1週間前、ハワードの軍と合わせて2万近くいた兵が、今や1万ほどになってしまっていた。
1万近くの人間が傷つくか、あるいは命を落としたのだ。
残った1万も無傷の者は俺くらいしかいないというくらいに傷ついている。
それを思うといたたまれなくなる。
義勇兵を含めて一般市民に犠牲が少なかった、とジルは言うが俺は納得はできなかった。
更にマリアやニーア、クロエといった面々だけでなく生き残った兵、重傷を負った兵、果てにはリンや一般市民から「ありがとう」と言われるのだからたまったものじゃない。
俺はそんな感謝されるようなことをやったつもりはない。
俺の采配で皆の家族や友人を死なせたのだと思うと、このまま城壁から飛び降りて死にたくなる。
そうしないのは、俺がことさら臆病だというのだけではなく、俺がここで死んだら彼らの笑顔に水を差すことになってしまうからだ。
なにより死んでいった人たちのことを思うと、自分の命をそう簡単に投げ捨てて良いものではないと思ってしまった。
……約1名は違ったわけだが。
正直、呆れた。
『よっ、ジャンヌちゃん。元気?』
死者の第一声がそれだった。
城門に現れた天が場内に入ったのは、エイン帝国軍が完全に戦場から撤退して、更にシータ軍が3キロほど王都から離れてからだった。
誰もがシータが漁夫の利を狙っていると警戒したので当然の処置だった。
そんな誤解を避けるため、天は兵を下げ、わずか数名で北門を訪れたのだ。
俺としてはそれを承知していたため、ジル達の制止を振り切って彼を城門の前で迎えた。
『援軍、感謝する。おかげで助かった』
『いえ、こちらこそ遅れて申し訳ない。もっと早くに来る予定でしたが、カルゥムの接収と昨日の大雨で遅れました』
『俺たちは助かった。それで充分だよ』
護衛としてついてきたジルやニーアに、シータ軍の総帥兼宰相を紹介すると、その身軽さに驚いたようだった。
だが2人が更に、そして俺が最も驚いたのがその後だ。
『つきましては友好の証に、こちらで保護した負傷兵をお返しいたします』
と来てからの
『よっ、ジャンヌちゃん。元気?』
というわけだ。
お供は全員フードをかぶっていたか分からなかったが、それを取った下から出てきたのは死んだはずのサカキだった。
血色も良い。
もちろん足もついている。
『ほんとに、サカキなのか?』
『お、もしかして心配してくれた? いやー、やっぱモテる男は違――うぼぉ! そ、そこは傷が……死ぬ、死ぬ!』
『次あんな命令無視をしたら……俺が殺す』
『い、今死ぬところなんだけど……』
『ふふ、さすがジャンヌさん。遠慮のないボディブローに殺し文句。見ているだけでゾクゾクしますね』
天が恍惚とした様子で身震いするのがキモかった。
『馬鹿は死なないと思ってたが、その通りだったな』
『ほんっと悪運だけは天下一よね……あ、馬鹿もか』
ジルとニーアの言い分も身も蓋もなかった。
サカキに後で聞いた話だが、最後の最後で敵の剣筋が鈍り、急所を僅かに外したらしい。
それでも斬られたショックと出血で意識を失っていたが、光を感じて目が覚めたところ、傷はほぼ塞がっており、王都から数キロ離れた草原に寝ころがっていたという。
そしてさまよっている間にシータ軍と出会ったらしい。
ニーアの言う通り悪運は本当にあると思うが、それより気になるのは2点ある。
敵の剣筋が衰えたということ。心当たりがあった。
あの女神が言っていた、1分間だけという時間制限に当たったのではないか。
つまり部下たちが犠牲になって時間を稼いだことが、サカキの命を救ったというわけだ。
そして光。
証言の整合性を取ろうとすれば、サカキは1日以上倒れていたことになる。
傷を負い、雨に打たれた状態でそう生きていられるわけがない。しかも傷が塞がっているというのだからますますありえない。
ならこれは奇跡なのか。
いや、違う。
俺が考えたのが、パラメータ100ボーナス。100%実現可能の策だ。
『サカキ将軍は生きている。そして援軍を呼びに行った。だからもう少しだ。もう少し待てば俺たちの勝ちだ!』
そんなことを俺自身が言った気がする。
まさかそのおかげでサカキが生き返ったとでも言うのか?
それでシータ軍が間に合ったというのか?
だってあまりに都合の良いタイミングでの援軍だったのだから、そう考えてもおかしくないだろう。
でも……まさか、な。
どうせ大した傷じゃないのを恥じて、さまよっている内にシータ軍と出会ったんだ。
というわけで今度あのクソ女神が出てきたら小一時間、問い詰めてやろう。
しかし、サカキをどうしたものかと思う。
多くの味方を無事に逃がしただけでなく、勝利の決め手となる援軍を呼び込んだのだから、俺たちが助かったのはサカキの功績と言ってもいい。
ま、増長するだろうから絶対言わないけど。それとなんかムカつくし。
さて、サカキのことはそれくらいにしておこう。
それから天を城内に招き、アリアと会談の席を設けた。
国と国との正式な外交の場だ。
天はシータ国王の親書を持参しており、それにマリアも同意したことで正式に同盟が結ばれたのだ。
その時に今回の援軍の見返りの話になったが、俺が切り出そうとするのを天が制してこう言った。
『今後に予定しているエイン帝国への軍事行動に関して、来月から半年ほどジャンヌ殿をお貸しいただきたい』
それを聞いて驚いたのは俺だけじゃなかったはずだ。
彼らの援軍がなければ皆死んでいた。それを考えると、もっと過酷なことを要求されると思ったからだ。
『それだけでいいのか。いや……ジャンヌさえよければ問題ないが。どうじゃ、ジャンヌ?』
マリアにそう言われたが、断る理由はない。
俺が少し苦労すればいいのであれば、そこで手打ちにするべきだった。
だから同盟の話と援軍への謝礼が終われば後はお祭りだった。
本来なら仇敵同士だったはずの2国が入り乱れての大宴会に発展したわけだった。
「ジャンヌ様、ここにいましたか」
ジルが手にグラスを2つ持って城壁に登って来た。
1つはワインだろう。そちらではない方を俺に差し出してきた。
丁度喉が渇いていたので有難くそれを受け取り、ジルとグラスを重ねて一口。
オレンジジュースだった。まぁ未成年だし。
「報告が来ました。ブリーダはなんとか持ち直したようです」
「そうか、それは良かった」
唯一の心残りがブリーダの傷のことだった。
医者に託して後は祈るのみだったので、自分ではどうしようもない状態にやきもきしていた。
「今度、お見舞いに行こう」
「そうですね、彼も喜ぶでしょう」
少し風が吹き、沈黙が降りた。
しばらくしてジルが切り出す。
「ジャンヌ様、まだ怒っているのですか?」
目的語がなかったが、何のことか分かった。
サカキのことだ。
「……当たり前だ。あんな生き返り方して。しかも最期の言葉が愛してる、だぞ。公衆の面前で告白しやがって。俺が男だってことちっとも理解してない。それで死んでりゃ英雄として祭り上げてやろうと思ったのに、のうのうと生き延びて。しかもちゃっかりシータ軍を引き入れて勝負を決めやがった。ずるいんだよ。あーあ、なんであそこで死んどかないかな」
「よかったですね、彼が生きていて」
「…………ふんっ」
照れくさくてそっぽを向きながらジュースを一気に飲んだ。むせた。
「とにかくだな! あいつは馬鹿なんだ。馬鹿だから人様に迷惑かけてもどうでもいいと思ってるんだ。そんな奴を気にかけてる暇は俺にない!」
「そうですね。これを聞いた本人にもいい薬でしょう」
ジルが意味深な言い回しをする。
ジルに視線を戻し、彼が向いている方向を見ると――いた。
サカキが入院着の簡素なローブをまとった姿で、城壁の階段の傍に座り込んでいた。
「…………いたのか」
「いた。ジャンヌちゃん。ひどい。俺。悲しい」
なんでカタコトなんだよ。
どうやら死んで蘇った(?)ことで幼児退行しているようだ。怪我自体はほとんど完治していたが、念のためと入院させられていた。
その裏にはクロエが息を切らせてへたり込んでいる。
「はぁ……はぁ……れ、連隊長殿がどうしてもここにということで……なんとかおぶって、来ました……」
「そ、そうか。ご苦労だったクロエ」
子供におんぶされんなよおっさん。
てか断っていいからな、クロエ!
その時、ふと胸元に違和感を感じた。
というより異物感だ。
何かが俺の両方の胸に手を這わせている。
今は薄いブラウスを着ているから、感触がダイレクトで伝わってくる。
誰だ、と思う以前にこんなことをする馬鹿は1人しかいない。
俺は両手でその手の甲を思いっきりつねりあげた。
「ぎゃああ、痛い痛いぃぃぃぃ!」
「のじゃあぁぁぁぁぁ!」
いや、2人だった。
「……何やってんだ、2人して。ニーア、お前は怪我人なんだから寝てろ。てかマリア、お前は女王なんだから軽々しく出歩くな!」
「いや、来月からジャンヌいなくなるでしょ。寂しくなるから今のうちに揉んでおこうって」
「そうじゃ。それに王宮にいたらジャンヌに会えないではないか! ずっと寂しかったのじゃ。だから今夜から出発までは、毎晩余の寝室で寝るのじゃ。そうすればお風呂でもベッドの中でもジャンヌと――のじゃあぁぁぁぁぁ!」
「なんであたしもぉぉぉぉぉ!」
皮を引きちぎってやろうかと思ったが、俺にそんな筋力はないのだった。
「はっはっは、にぎやかでいいですねぇ。しかし、ジャンヌさんは意外と胸囲があると……素晴らしい」
「天、お前までこんなところに! しかも変なことで笑ってんじゃねぇ!」
いくらお祭り騒ぎだからってこいつら浮かれすぎだろ。ったく。
と、天は小さく咳払いして俺に向かって、
「ジャンヌさん。私は明日には帰ります。いつまでも国を空けるわけにはいきませんから」
「ん、そうか。今回は本当に助かった。ありがとう。約束通り来月には向かうから」
「ええ、お待ちしております」
二コリと笑う天。
その純朴な笑みに、つい裏があるのかと疑ってしまう。
「どうかしましたか?」
「もっとひどい要求をしてくると思った」
「しませんよ。そんなことをしたらあなたに嫌われてしまいますからね」
「よく言う」
ほんとこいつはすけこましというかジゴロというか。
本心で言ってるのか、口説こうと思って言ってるのか分からない。
……いや、俺は男だから口説かれないけどな!
「ちょっと待てこいつ。もしかしてジャンヌちゃん狙ってる?」
「おい、こいつとか言うなサカキ。この方はシータ王国の宰相だぞ」
「いやジーン、それは違うぜ。こいつは合法的にジャンヌちゃんを連れ去ろうとしてる。それすなわち俺の敵だ!」
「お、珍しくサカキンと意見が合った。もしかして一度死んで丸くなった? というわけでジャンヌのおっぱいはあたしのものだ!」
「そうじゃそうじゃ! こうなったらジャンヌを賭けてシータと戦争なのじゃ!」
「ふふっ、良いでしょう。受けて立ちましょう」
「な、なんか大変なことに……わ、私は隊長殿がどこに行こうがついていきますよ!」
「お前ら馬鹿か!」
せっかく丸く収まったのに、なんでまた争いの種が再燃してんだよ!
しかもその中心が俺だなんて悪い夢だ。
「ジル、こいつらどうにかしてくれ」
こういう時、いつも冷静なジルに助けを求める。
「そうですね。私としてはジャンヌ様が誰と仲良くしようが気に留めませんが、誰かの伴侶になるというのであれば黙ってはいられません。ええ、サカキに言ったことは訂正しませんが、私の心はサカキと同じ――いや、それより上! たとえここにいる誰を敵に回したとしても、私は貴女を守ります!」
おおぅ、ブルータスお前もかパート3。
「もとより外交を盾にしてジャンヌさんを手に入れるつもりはありません。私は私自身の魅力によって、必ずやジャンヌさんを私の伴侶にしてみせましょうぞ!」
「敵! 敵! こいつはおっぱいの敵! ちょっと宰相さん、そこから地面にダイブしてみない?」
「な、なななな、なにぃぃぃぃ! は、はん、はん、はんりょってなんだ?」
「馬鹿は死んでも治らないようですね、サカキ。ですが誰にもジャンヌ様は渡しません。なぜなら私が一番早くジャンヌ様に出会ったのですからね!」
「いいや、ジャンヌは余の家臣じゃ! ならばジャンヌは余のモノだと言っても過言ではあるまい!」
「隊長殿は我らの隊長殿です! じょ、女王様といえども退きません!」
もうダメだ。
止める人間もおらず、暴走に暴走を重ねて収集がつかなくなってしまったこの場は行きつくところまで行きつくだろう。
ま、一週間前はこんな光景を見るなんて夢にも思わなかったわけで。
その実現に俺の力が少しでも役に立ったというなら、こんな嬉しいことはない。
けど何度でも言う。
何度だって言う。
俺はこうして、あのクソッたれな女神のせいでこんな姿してるけど……。
「俺は男だって言ってんだろ!」
知力99の美少女に転生したので、孔明しながら救国の乙女をしてみた。
その結果、男女問わずに引く手あまたの 無駄ハーレムが出来上がったとさ。
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次の閑話をもって1章完結となります。ここまで読んでいただいた皆様には大変ありがたく思います。
この後も2章3章と続いていきます。新たな人物も登場しますが、物語りの中心は変わりませんので、ジャンヌの格好いい&可愛いところを見ていただければと思います。
またいいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
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(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
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