知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第31話 南郡救援4日目・内通の罠

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「ジャンヌ!」

 突き飛ばされた。
 受け身もなく地面に転がる。剣が空を切る音。怪我は、ない。

「こいつ!」

 サカキの声が頭上で響く。
 金属音。剣がぶつかり合って弾けた音だ。

 そこでようやく顔をあげられた。

 サカキが俺を守るようにして剣を構え、それと対峙するようにワーンスの兵が剣をだらんと垂らしたまま立っている。
 男の瞳に黒目がなく、明らかに尋常じゃない。何かが起きたことは間違いないが、何が起きたかまったく理解できない。

 周囲は騒然としていた。
 口喧嘩から剣を抜いたことにより危険度が一気に増したからだろう。王都で商売を営む野次馬や一般人たちが悲鳴を上げて逃げ去っていく。

 残ったのは俺とサカキ、そして狂った男とオムカとワーンスの兵だ。そこでワーンスの兵の1人が前に出る。同僚をなだめるつもりだろう。

 だが――

「おい、ジンやめ――」

 兵の言葉が途切れた。
 男が横に一歩踏み込み、逆袈裟の一撃をお見舞いしたからだ。

 速い。

 血が噴き出し、兵が倒れる。
 周囲の騒ぎが更に大きくなった。

「野郎!」

 サカキが男に向かって両手で剣を振る。
 それを男は事も無げに片手で剣を振って受け止めた。

「なっ……」

 サカキの声が緊張する。
 両手で繰り出した上段からの斬撃を、片手一本で止められたのだ。
 オムカ王国随一の怪力を自負するサカキで、それは俺も認めてはいた。それなのに片手で受け止めるなんて……。

「邪魔、するな……門を、開く……邪魔を」

 男が何かを呟いている。
 なんだ? 門?
 比喩か。それとも何か意味があるのか。
 
「するなぁぁぁぁ!」

 男が剣を振ると、サカキが弾けるように後ろにたたらを踏む。

「なんつー馬鹿力だ!」

 よろめきながらもサカキは迎撃の構えを取る。
 すぐに相手が追撃をしてくると考えたからだろう。

 だが男は予想もしない行動に出た。
 サカキに背中を向けると、そのまま猛然と走り去っていく。

「な、なんなんだ……」

 誰もが唖然とする中、俺は必死に頭を働かせる。

 男が変質した意味は分からない。俺を殺すわけでもない、味方を躊躇なく襲う、サカキと同等以上の力、それらを差し置いても急な逃亡。
 そして男が放った、門という言葉。

「――まさか!」

 この状況、門といえば1つしかない。

「サカキ、いや、オムカ全軍であいつを追うんだ! 門を開けられたら終わりだ!」

「は?」

「早く!!」

 怒鳴る。
 その剣幕に押されたように、サカキは取り巻きの兵を従えて走り出す。

 その間に俺は視線を別に向けた。
 ワーンスの兵たちは斬られた仲間を介抱している。

 俺は近場に呆然とたたずむ兵に声をかけた。

「あの兵が走っていった方角はどの門?」

「ひ、東門……だ」

「王宮に使いをお願いする。至急だ。敵の攻撃が来る可能性がある」

「て、敵?」

「ドスガの連中だ! 早く!」

 がくがくと首を縦に振った兵は、追い立てられるように王宮へと走り出した。

 それを見送ると、俺は視線を走らせる。
 あった。

「すまないけど、借りるよ!」

「え、あっ……」

 持ち主の返事を待つ前に、俺は馬に乗ると手綱を握って走らせる。
 向かうは男が逃げた先。

 ところどころに傷を負った人たちが倒れている。
 男が無差別に攻撃したもののようだ。

 ほどなくサカキたちの背中が見えた。
 俺はサカキの横に馬をつけると、

「サカキ! 乗れ!」

「っ!」

 走ったままの馬にサカキが飛び乗る。背後にがっしりとした壁のような感覚。
 それで俺は馬を加速させた。

 だが男の姿は見えない。
 脚力が増しているというのか。まるでゲームにあるようなバーサク状態だ。

 そこまで考えて、舌打ちする。

 ようやく理解した。
 これは敵プレイヤーのスキルによる攻撃だ。

 調べる限り敵にプレイヤーはいないと思ってたけど甘かった。おそらく敵の大将格ではなく、俺と同じ軍師とか瑞行員の立場としていたに違いない。そうなれば俺のスキルでは発覚できないから相手は好き勝手できたわけだ。
 相変わらずの甘さにほとほと嫌気がさす。

「門を開けるのか!?」

「それしかない。そして示し合わせたように敵がなだれ込んでくる!」

 それはもう確信としてあった。
 だから持ち主に悪いと思いながらも、潰れんばかりに必死に馬を走らせる。

「見えた!」

 東門。
 門を守る兵たちは皆地面に倒れている。

 そしてその扉の前に立つ人物が1人。
 もちろんあのワーンスの兵だ。

 しかもあろうことか、男は扉のかんぬきの前に立ち、剣を両手に大上段に構えている。

「まさかあれを斬るのか!?」

 鉄製の閂で、太さは一抱えもするほどの大きさだ。
 だがやる。理屈じゃなく直感でそう思った。

「ジャンヌちゃん、そのまま全速!」

 サカキの言葉に応えて、更に馬を攻める。
 そして男が剣を振り下ろそうとするのと、サカキが背後でジャンプしたのが同時。

「おーーらぁ!」

 ジャンプからの大上段でサカキが剣を振り下ろす。
 閂を開けようとした兵は、何かを感じたらしく振り向きざまに一閃。金属音。弾かれたサカキは、少し離れたところに着地するが、間髪置かずに距離を詰める。対峙している間に男が閂を斬りにいったら厄介だと感じたのだろう。

 空を叩き潰すようなサカキの剣。それに対し男はさほど力を込めていないように見えるが、ことごとくサカキの剣を弾く。

 技量は互角。いや、敵が上だ。
 ただ直線的で単調なのか、なんとかサカキはさばけている。逆にサカキは緩急をつけながら敵を翻弄するように動いているため、なんとか撃ち負けていない状況だ。
 現にサカキの体には次々と浅いが新しい傷が増えている。

「軍師様!」

 オムカの兵が追い付いてきた。
 だが金属音の響く方に目を向けると、その体が固まってしまう。

 サカキと男の激闘はまさに嵐のようだ。近づくものがいれば真っ先に両断するような、斬撃の嵐。
 今までにないほどにサカキが集中しているのが分かる。下手に手助けすれば、それがサカキの致命傷になる可能性だってあるのだろう。

 だから近づけない。

 こういう時に自分の能力、そして女神の呪いが疎ましくなる。
 考えるしかできない能力に憤りを感じる。

 その時、苛立ちで動いた足が、馬の鞍につけてあった何かに当たった。何かの袋になっているもので、その中には通貨らしきものが。

 もう無我夢中だった。一刻の猶予もなかった。
 俺はその通貨を一つまみすると、馬を降りて少しサカキたちの方へ足を進める。

 状況はサカキに不利に働いていた。剣を振り回せば当然疲れる。しかも命のやり取りの最中だから疲労も倍だ。
 だが男はそんなものを気にしないかのように、大振りの攻撃をひたすらに続けるのだ。

「――っくそ!」

 サカキが打ち負けた。
 そこを男が斬る。血が舞う。浅い。サカキはステップで距離を取る。2人の距離が少し離れた。

 ――今だ!

 必要なのは正確な狙いと手首のスナップ。筋力は必要ない。
 俺は手にした貨幣を男目掛けて投げた。

 俺にしてはまっすぐ男に向かっていき、そして気配を感じたのか、男は飛来するモノに対し剣を振るった。
 まさしく条件反射。理性も思考もなく、ただ来たから斬っただけの反応。
 男の剣は小粒大の通貨を真っ二つに切り裂く。とんでもない腕だ。
 だがそれが男の命とりだった。

「おらぁ!」

 そこをサカキの斬撃が捉える。
 血しぶきが舞い、男が糸の切れた人形のように倒れて、そして動かなくなった。

「俺には勝利の女神がついてんだ、負けるかよ!」

 さんざん苦戦しておいて何を言うか……。

 しかし何とかギリギリのところで敵の策を阻止できたのは大きい。
 かといってサカキに罰を与えないわけにはいかないわけだが。

 俺の視線に気づいたのか、サカキが意気揚々と剣を肩に担いだ状態で近づいてくる。

「ジャンヌちゃん勝ったぞー!」

「はいはい、そりゃようござんした」

「なんだよ、冷たいなー。あ、最後の援護、さすがジャンヌちゃん!」

「サカキ、俺は怒ってるんだぞ。無茶みたいな斬り合いして、そもそもが喧嘩吹っ掛けたのはお前だろ。もっと自分の立場を自覚してもらわないと」

「うっ……めんぼくない、デス」

「いえ、ジャンヌ様! それは違うのです!」「サカキ師団長は我々を助けようとしてくれたのです!」「あいつらが先に突っかかってきて、それで我慢していたのですが……」「最終的にはあいつら剣を抜いて来たので……サカキ師団長殿が泊めてくれなければ危険でした」

 不意にオムカの兵たちが口々にサカキの擁護ようごを始めた。

 はぁ、まったく……。

「申し訳ない……」

 サカキはしおらしいほどに小さくなっていた。
 雨に濡れた子犬のようにしょんぼりしている。

 部下を守るためとはいえ、騒ぎを大きくしたことに責任を感じているようだ。

 こう言われちゃこれ以上罰せられないだろ。
 こんな血まみれになって。それに内通から味方を救ったという功績も大きい。

「次から故意にせよ仕方なしにせよ、こういう騒ぎを起こしたら責任取ってもらうからな。注意しろよ」

「……はい」

 いつになく元気のないサカキを見て、なんだか可哀そうになってきた。

 あぁ、もう。仕方ないな!

 俺はサカキに歩み寄ると、下げたサカキの首に腕を回して、耳元で一言。

「ただ、兵を守ろうとしたこと、俺を守ろうとしてくれたことは……その、ありがとう」

「ジャンヌ……ちゃん」

 サカキの顔が急に真っ赤になる。
 瞳がうるうるとして、もしや泣き出すか、なんて思ったのだが――

「ジャンヌちゃん、好きだ! 結婚しよう!」

 がばっと起き上がり抱き着こうとしてくるサカキに、我ながら恐ろしいほどの俊敏さで身を引くと、

「だから俺は男だって言ってんだろ!」

 久しぶりのツッコミに加え、的確なボディブローが入った。
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