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第2章 南郡平定戦
第53話 最悪の差配
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マツナガの手引きでニーアは、荷車に紛れて王宮の外に運び出された。
行先はミストの店。
『久しぶりさね。っと、これはまたどうしちゃったのさ? ふーん。そうさね。じゃあしばらく預かっておくさ』
ミストがニーアを快く引き受けてくれたことに安堵。すぐに医者を呼ばれて診察された。命に別状はないことにもう1つ安堵して、俺はマツナガと共に王宮へ戻った。
「ええい、貴様! よくもわしの前に顔を見せられたな! マツナガ! いったいどこに行っていたのだ!」
そして元の部屋に入った瞬間、ドスガ王の第一声がこれだった。
「いえ、大王。私も彼女を探していたのです。そして王宮の壁をよじ登ろうとしていたところを捕まえました」
俺は野良猫か。
そう突っ込みたかったけど自重。
「なるほど、よくやったマツナガ。……だが貴様、よくも恥をかかせてくれた! もはや許せぬ。いや、元から許さぬ。その小さな体をどうしてくれようか……!」
凄い迫力だ。
俺1人なら絶望して腰を抜かしていたかもしれない。
だが俺は口を結んで待った。
俺を擁護してくれる人間がいるからだ。
「お待ちを大王」
「なんだ、マツナガ」
マツナガは俺に恩を売るために、ニーアを逃がすという危険を冒した。
ならばここは何としてでも俺をかばう必要があるのだ。
人間としてその思考法はどうかと思うが、もうこうなったらとことん使い潰してやる。
どうせ相手も最低な男だ。
よし。言ってやれ。
「あれは彼女なりの照れ隠しなのです」
ずっこけそうになった。
そんな言い訳で通用するはずが――
「む、そうか。ふむ、なるほど」
いいのかよ!
こいつも大概だな!
しかもマツナガの言葉は更に続く。
「彼女も緊張しているということです。どうでしょう。しばらくこの王都に住まわせ、時間をかけて慣れさせていき、しかるべき時に迎え入れるというのは」
「しかるべき時?」
「ええ、オムカの女王との結婚式の際に、同時にこのジャンヌ・ダルクも妻に迎えるのです」
「な――っ!?」
足を踏まれた。
黙ってろってことだろうけど、まさか本当にW婚!?
「さすればオムカ王国のトップに加え、軍事的責任者が我が軍門に下ったことを内外に知らしめることになります。我が国とオムカ、そしてフィルフの一部を合わせれば南郡の統一など早晩叶いましょう。その暁には中原に進出も容易になります」
「ふむ……だがそれならば王宮に住まわすのと変わりはしないのではないか?」
「そこが思案のしどころです。昔、旅をしていた時に東方の人間からこういう話を聞きました。距離があるほど男女の愛情というものは深く、激しく燃え上がるというのを」
「ううむ、なるほど。さすがマツナガ、貴様は博識だな。気に入った。その方向で行こうではないか!」
ドスガ王が満足したように何度も頷く。
マツナガがこちらを見てウィンクしてきた。
蹴りを入れたくなった。
いや、一応俺の自由と命。そしてマリアと国の無事も確約できたのだが……。
何で俺がこいつと遠距離恋愛しなくちゃいけないんだよ。
しかもマリアとのW婚。
冗談じゃない。
本当にやり口が最低だ。
俺が辟易としている間にも、最低の主従の会話は続く。
もうどうにでもなれという気分で、聞き流していたのがいけなかった。
「それでいつにするのだ? その結婚式は?」
「間もなくオムカの特使が参ります。その者と話をして、吉日を選んで執り行います。おそらく来月の戴冠式。それに合わせて行われることになるかと」
「ふむ。来月か。良かろう。では今宵一晩は良いだろう?」
「そうですね、それくらいはよろしいかと」
「うむ、では頼む」
「じゃあ、君。頑張って」
「へっ?」
今何て言った?
どんな話の流れで『頑張って』になった?
「今宵はわしの寝室に来い。婚前の祝いだ」
「え? いや、ちょ……」
寝室って……まさかのまさか?
夜通しゲームで遊ぶとかそんなベタな話はないだろうし。
なっ……駄目だ。絶対嫌。
てか俺は男だって言ってんだろ!
なんとかしてくれ、とマツナガに視線を送る。
「承知いたしました。それでは明日の昼にお迎えにあがります」
裏切り者~!
だが俺の抗議の視線も軽々と受け流された。
さらにすました顔で、こんなことを耳打ちしてきた。
「ここでバレてもいいのですか? 天才なんでしょう? なんとか切り抜けて、私が恩を売るに値する人物だと示してください」
こいつ……本当に最低だな!
とはいえ何も手出しはできないので、思い切り睨んでやった。
「あ、1つ助言を。王は強気な女性を好みます。是非気に入られてくださいね」
「余計な助言だよ!」
「おい、何をひそひそと話している?」
「いえ、花嫁衣裳はどんなものが良いか、それを聞いておりました」
「おお、そうか。王国一番の衣装屋に頼むのだぞ」
「はっ。それでは失礼いたします」
「うむ」
それでマツナガは出ていってしまった。
残されたのは俺とドスガ王の2人。
気まずい雰囲気が流れる。
どうしよう。
いや、別に男の人と2人きりだなんて、そんなことどうでも……っと、待て。その思考回路自体が女性化していないか?
だって俺は男。男同士で2人きりの密室でどうしようとかそんなこと全然まったく一ミリたりとも思ったこともなかったと思いたいそんな今日この頃でございましたありがとうございます。
……はぁ。
行先はミストの店。
『久しぶりさね。っと、これはまたどうしちゃったのさ? ふーん。そうさね。じゃあしばらく預かっておくさ』
ミストがニーアを快く引き受けてくれたことに安堵。すぐに医者を呼ばれて診察された。命に別状はないことにもう1つ安堵して、俺はマツナガと共に王宮へ戻った。
「ええい、貴様! よくもわしの前に顔を見せられたな! マツナガ! いったいどこに行っていたのだ!」
そして元の部屋に入った瞬間、ドスガ王の第一声がこれだった。
「いえ、大王。私も彼女を探していたのです。そして王宮の壁をよじ登ろうとしていたところを捕まえました」
俺は野良猫か。
そう突っ込みたかったけど自重。
「なるほど、よくやったマツナガ。……だが貴様、よくも恥をかかせてくれた! もはや許せぬ。いや、元から許さぬ。その小さな体をどうしてくれようか……!」
凄い迫力だ。
俺1人なら絶望して腰を抜かしていたかもしれない。
だが俺は口を結んで待った。
俺を擁護してくれる人間がいるからだ。
「お待ちを大王」
「なんだ、マツナガ」
マツナガは俺に恩を売るために、ニーアを逃がすという危険を冒した。
ならばここは何としてでも俺をかばう必要があるのだ。
人間としてその思考法はどうかと思うが、もうこうなったらとことん使い潰してやる。
どうせ相手も最低な男だ。
よし。言ってやれ。
「あれは彼女なりの照れ隠しなのです」
ずっこけそうになった。
そんな言い訳で通用するはずが――
「む、そうか。ふむ、なるほど」
いいのかよ!
こいつも大概だな!
しかもマツナガの言葉は更に続く。
「彼女も緊張しているということです。どうでしょう。しばらくこの王都に住まわせ、時間をかけて慣れさせていき、しかるべき時に迎え入れるというのは」
「しかるべき時?」
「ええ、オムカの女王との結婚式の際に、同時にこのジャンヌ・ダルクも妻に迎えるのです」
「な――っ!?」
足を踏まれた。
黙ってろってことだろうけど、まさか本当にW婚!?
「さすればオムカ王国のトップに加え、軍事的責任者が我が軍門に下ったことを内外に知らしめることになります。我が国とオムカ、そしてフィルフの一部を合わせれば南郡の統一など早晩叶いましょう。その暁には中原に進出も容易になります」
「ふむ……だがそれならば王宮に住まわすのと変わりはしないのではないか?」
「そこが思案のしどころです。昔、旅をしていた時に東方の人間からこういう話を聞きました。距離があるほど男女の愛情というものは深く、激しく燃え上がるというのを」
「ううむ、なるほど。さすがマツナガ、貴様は博識だな。気に入った。その方向で行こうではないか!」
ドスガ王が満足したように何度も頷く。
マツナガがこちらを見てウィンクしてきた。
蹴りを入れたくなった。
いや、一応俺の自由と命。そしてマリアと国の無事も確約できたのだが……。
何で俺がこいつと遠距離恋愛しなくちゃいけないんだよ。
しかもマリアとのW婚。
冗談じゃない。
本当にやり口が最低だ。
俺が辟易としている間にも、最低の主従の会話は続く。
もうどうにでもなれという気分で、聞き流していたのがいけなかった。
「それでいつにするのだ? その結婚式は?」
「間もなくオムカの特使が参ります。その者と話をして、吉日を選んで執り行います。おそらく来月の戴冠式。それに合わせて行われることになるかと」
「ふむ。来月か。良かろう。では今宵一晩は良いだろう?」
「そうですね、それくらいはよろしいかと」
「うむ、では頼む」
「じゃあ、君。頑張って」
「へっ?」
今何て言った?
どんな話の流れで『頑張って』になった?
「今宵はわしの寝室に来い。婚前の祝いだ」
「え? いや、ちょ……」
寝室って……まさかのまさか?
夜通しゲームで遊ぶとかそんなベタな話はないだろうし。
なっ……駄目だ。絶対嫌。
てか俺は男だって言ってんだろ!
なんとかしてくれ、とマツナガに視線を送る。
「承知いたしました。それでは明日の昼にお迎えにあがります」
裏切り者~!
だが俺の抗議の視線も軽々と受け流された。
さらにすました顔で、こんなことを耳打ちしてきた。
「ここでバレてもいいのですか? 天才なんでしょう? なんとか切り抜けて、私が恩を売るに値する人物だと示してください」
こいつ……本当に最低だな!
とはいえ何も手出しはできないので、思い切り睨んでやった。
「あ、1つ助言を。王は強気な女性を好みます。是非気に入られてくださいね」
「余計な助言だよ!」
「おい、何をひそひそと話している?」
「いえ、花嫁衣裳はどんなものが良いか、それを聞いておりました」
「おお、そうか。王国一番の衣装屋に頼むのだぞ」
「はっ。それでは失礼いたします」
「うむ」
それでマツナガは出ていってしまった。
残されたのは俺とドスガ王の2人。
気まずい雰囲気が流れる。
どうしよう。
いや、別に男の人と2人きりだなんて、そんなことどうでも……っと、待て。その思考回路自体が女性化していないか?
だって俺は男。男同士で2人きりの密室でどうしようとかそんなこと全然まったく一ミリたりとも思ったこともなかったと思いたいそんな今日この頃でございましたありがとうございます。
……はぁ。
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