知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

閑話26 アヤ・クレイン(オムカ王都民)・前

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 ずっと、不思議に思うことがある。

 なんで独立なんてしたんだろう。
 誰が、何のために、どうしてそんなことをしたのか。

 独立なんてしなければ戦争も起きず、パパも、ママも、幼い妹さえも死ぬ必要はなかった。
 貧しいながらも、みんな生きて暮らせていたのに。
 みんながいてくれれば、それだけでよかったのに。

 家族も家も失ったわたしは、スラムと呼ばれる地区にいた。
 そこにはわたしと同じ、全てを失った人がほそぼそと生きていた。
 20にもなっていない小娘が生きるには、あまりに過酷な現実。生きるためには何でもやった。人には言えないこともやった。ただ生きるために必死だった。

 だがそれも終わりを告げる。

 スラム解体。
 そんなよくわからない施策で、わたしはまた生きる場所を失った。

 そして仕事を与えられた。
 小さな2階建ての“料理店”。
 そこがわたしの生きる場所になった。
 下はお酒を出すお店。そして2階が宿泊施設。

 そこでひたすらに働かされた。
 朝から晩まで。

 いや、自分から望んだのかもしれない。
 悲しいことを忘れるため、ひたすらに仕事に打ち込んだ。

 そこまでして何故生きるのか。
 身も心もぼろぼろにして、一体どうしてわたしは生きているんだろう。こんなことなら、あの時に家族と一緒に死にたかった。何度思ったか分からない。

 けど死ぬ勇気はなかった。
 死ぬのは痛い。苦しい。怖い。

 だからもう惰性で生きているようなもの。
 死にたくないから生きて、生きているけど死んでいる。
 幽霊のようなものだと思う。

「だから、わたしは空を見上げる。暗い夜空に、自分を飛ばして。どこまでも、飛んでいく」

 夜の休憩時間。
 店の裏で歌う事がわずかな自分の慰めだった。

 歌詞は適当。
 ただあるがままの言葉を並べるだけ。
 意味なんてない。
 でもどうしてこんなに悲しい気持ちになるのだろうか。

 パチパチパチパチ

 夏のある夜のことだ。
 いつものように歌をうたっていると、手を打ち付ける音が聞こえた。
 拍手だと気づいたのは、その挙動を目にしてから。

 誰かと思い振り返ると、そこには小柄な人影がいた。
 薄いながらもフードつきのコートを着込んでいる。
 フードをかぶっているため顔はよく分からない。暑くないのだろうか。

「素敵な歌声だね」

 若い。いや、幼い少女の声。

「誰?」

 思わず問いかける。
 こんなこと、今までなかったのに。

「あぁ、ごめん。脅かすつもりはなかったんだ」

 少女がフードを取る。
 肩まで伸びた金髪の利発そうな少女。

 どこかで見たことのあるような顔だけど、思い出せない。けれど綺麗な肌に、質の良い着物から上流階級の子供だろうと当たりをつけた。
 自分はこんなところで、と嫉妬に似た感情が起こるけど、彼女の顔を改めて見て納得した。

 美しい。

 可愛いでも愛らしいでもなく、一種の神秘的な美しさ。
 そんな近寄りがたい美を、少女は持っている。

「食事の帰りに綺麗な歌声が聞こえてきたんだ」

 食事。この少女はうちのお客か。
 けど見る限り10代前半。こんな時間に食事なんて、親は何をしていたのだろう。

 それ以上に彼女は間違えている。

「綺麗なんて、そんなわけない。わたしの歌声なんて、そんな上等なものじゃないわ」

 貧しい家に生まれて、家族を殺され、スラムで生きて、犯罪に手を染めて、そして今ここでただ生きているだけのわたしに、綺麗なんて言葉はまったく合わない。

 いや、ママは褒めてくれた。
 昔から、歌うのは好きだったから。
 ただママがいなくなって、それもどうでもよくなったのはいつからだったか。もう思い出せない。

 けれど少女は小さく首をかしげる。

「何故かな? 綺麗だと思ったのは俺の主観で、君の思いとは別のところにあるはずだ。ただ綺麗と褒められるのを君が嫌うのであればそれは謝ろう。他人に不快な思いをさせてまで、感想を述べるほど俺もKYじゃないから」

 よく言っている意味が分からない、不思議な子だった。
 しかも男の子みたいな喋り方。

「不快だなんて……そんな」

 そんなわけがない。
 こんなわたしでも、歌声のことでも綺麗だと言ってくれるのは嬉しい。

「それはよかった」

 少女が笑う。
 月夜に光が発したようだ。

 やっぱりわたしが綺麗だなんておこがましい。
 それなら彼女の美しさは、なんて表現すればいいのか。

「また会えるかな?」

 聞いていた。
 別に答えを気にしてのものではない。
 ただ、彼女とはどこか別れがたいものがあるように思えたから。

「うん、また寄らせてもらうよ。ここの店は夜までやってて、安くて美味しんだ」

 それから、半月あまり、少女は毎晩のようにやってきた。
 少年みたいな喋り方ももう慣れた。
 けど、こんな夜更けまでこんな少女が一体何をしているのか、そう思ったけど聞かなかった。
 そうすると、自分にその問いが返ってくるようで怖かったからかもしれない。

「シータ王国に?」

「ああ。国交が回復したから、それの関係でちょっとね」

 きっとこの子は王宮で働いているのだろうと思った。
 あるいは大きな商家か。

「だからしばらく来れない」

「あ……」

 なんで自分はこんなに寂しいと思ったんだろう。
 彼女がこの店にしばらく来れないというだけなのに。

 けど――思う。
 シータ王国はこれまで敵国だった。
 そこにオムカの人間が行くのだから、あるいは身の危険があるかもしれない。

「もしかして心配してくれてる? ありがとう。でも大丈夫だよ。馬鹿だけど強い護衛がついてるから」

 それでも、という言葉を呑み込んだ。

 そこで自分はようやく気付いた。
 彼女に幼くして死んだ妹を映していることに。
 だから彼女を危険なところに行かせるのが嫌なのだ。

 二度と、愛しい存在を失いたくないから。

 けどそれもまた言葉にできない。
 彼女も彼女で、幼いながらも重要な仕事をしているのだと思うと、その邪魔をする権利は自分にはない。

「うん、今日も歌を聞かせてくれないかな。ちょっと最近疲れ気味で。アヤの歌を聞くと、疲れが吹き飛ぶ気がするんだ」

「……うん」

 請われたから歌った。
 今の自分の気持ちを。

 愛する者を失った自分。
 愛しい者を失うかもしれない自分。
 それでもそれを止められない無力な自分。

 その思いを声にして、ありったけの歌に込めた。
 自然、涙がこぼれた。
 ここ半年。枯れたはずと思ったもの。
 まだ、枯れていない。

「やっぱり、いいな。寂しい歌だけど、どこか力強くて、もっと頑張ろうって思う」

 私に力強さなんてない。
 生きてるのか死んでいるのかもあやふやだったから。

 もし、そんなものがあるとしたら、それはきっと彼女のおかげで。
 わたしの生きる意味も、ここから生まれたのだとしたら。

「無事に、帰ってきてね」

「あぁ、約束する」

 この出会いはきっと意味のあるものだと信じて、わたしは歌う。

 そして彼女が去っていってからしばらくして1つの話題が広がった。

「ねぇねぇ、知ってる? 『歌姫募集オーディションコンテスト』だって!」

 同じ店で働くグレーアが満面の笑みを浮かべて、一枚のチラシをテーブルに置いた。
 それに他の女の子も群がる。

「コンテスト? なにそれ?」

「年末に行われる戴冠式のオープニングセレモニーで、歌う人を募集してるんだって。それでコンテストやって1位になった人が晴れてその役になれるとか」

「へー! それって女王様の前で歌うってことー? ヤバくない?」

「わっ、しかも審査員ジーン様じゃない!? あのジーン様が……はうぅ」

「見て! 特別ゲストに噂のジャンヌ・ダルク様がいるわ! すっごい可愛いって評判の!」

 一体何が面白いのだろう。
 興味の湧かないわたしは、少し離れた位置でテーブル拭きに精を出していた。

「アヤ、出たらー?」

 だから突然そう呼ばれた時にはびっくりした。
 だって、ほとんど聞き流してたから。

「え!? なんで、わたしが?」

「知ってるよ。休憩時間に歌ってるの」

「そうそう、超うまいよね―。あー、でもアヤが出るならあたしじゃ無理かー」

「でもでもー、アヤの友達ってことにすれば、ジーン様と出会えるかもー」

 この子たちは何を言ってるのだろう。
 自分の歌がバレていたのはちょっと驚いたけど、それ以上に彼女たちが言っている意味が分からない。

 わたしが出る?
 オーディションに?
 何を馬鹿なことを。

 そんなものは明るいところを歩いている普通の人がやるべきで、わたしみたいな人間が出るものでもない。
 だから放っておいて欲しいのに。

「アヤ、あんたこれにでなさい」

「あ、ママ!」

 お店のママが急に現れてそう言ってきた。
 タバコと厚化粧がトレードマークの50がらみの女で、わたしたちの雇い主。正直、あまり好きな人間ではなかった。

「ま、あんたがやりたくなくても、こっちでもう応募してしまったけどね」

「やだママったら。はじめっからそのつもりだったんじゃない!」

「ふん、これでうちの店にもはくがつくもんだ。いいかい、絶対優勝するんだよ!」

 何で勝手に応募するのか。
 こんなボロ店の箔がなんだというのだ。
 それに絶対優勝なんてどうすればいいのか分からない。

「返事は?」

 本当は心の底から怒るべきだった。
 わたしを何だと思っているのだ。あなたの道具じゃない。
 けどここで逆らったところで何か良いことが起きるわけでもない。

「……はい」

 わたしは結局。
 この鳥かごに囚われた小鳥でしかないのだから。

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2章完結、間近です。本当に。あともうちょっとだけ続きます。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
いきなり新キャラ登場?と思うかもしれませんが、彼女の存在がこの後の展開、そしてあったようでなかった世界の真実にかかわるお話なので、追って読んでいただければと思います。

また、いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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