知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話34 ニーア・セインベルク(オムカ王国近衛騎士団長)

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 ふと違和感を覚えた。

 ただその原因は分からない。
 ただどこか違う。

 そう感じた次の瞬間、殺気を感じた。

 何故。
 この部屋には4人しかいない。
 お茶を入れようとしてる女王様。
 ベッドで上半身を起こしたハワード総司令と脇に立つジャンヌ。
 そしてその横にメリリン。

 合計4人。
 あってる。

 いや、違う。なぜあたしを抜かした。それ以前に――なんでメリリンがいるの!?

 その疑問が、致命的な遅れとなった。
 殺気を放っているのはメリリン。その視線の先にはジャンヌ。そしてその手にはナイフが見えた。
 いけない。動く。けど遅い。メリリンの体がジャンヌと重なる。

 その刹那。

「ジャンヌ!」

 山が動いた。
 ハワード総司令の巨体が、年齢からは考えられないほどのスピードでジャンヌを突き飛ばした。
 それによって位置の転換が行われる。
 ジャンヌが動き、そこに入れ替わるように総司令がその場に収まる。
 そうなると、メルルが重なるのは総司令の体となるわけで――

 ――鮮血が舞った。

「ぐっ……うぅぅ……」

「じ、爺さん!」

 総司令が胸を抑えてうずくまり、ジャンヌが駆け寄った。
 その間にあたしは動く。

「メリリン!」

 叫び、メリリンに向かって跳んだ。
 着地と同時、腰に履いた剣を抜き打ちに斬り下ろす。手ごたえ――なし。

 メリリンの顔をした何者かは、大きく天井の隅にまで跳躍。
 両手足を使って天井に張り付いた。

「あんた、何者」

 メリリンじゃない。メリリンはこんなことをする子じゃなかった。
 ドジで引っ込み思案で口下手でだけど頭良くて、こんな暗殺みたいなことをする子じゃない。むしろ理由がない。あの子はジャンヌが大好きだったのだ。

「なに、言ってるんですか。わたしは、メリリンですよ」

「違う。あんたはメリリンじゃない。匂いが、違う」

 上手く説明できない。
 顔も体も声も性格も何もかもがメリリンだ。けど違う。
 そして何より――

「酷いなぁ、ニーアならメリリンだって分かってくれると思ったのに」

「また言った」

「え?」

「メリリンはいつも呼ぶとこう答える。わたしはメルだって」

「……あー、忘れてた。そういえば、そういう設定でしたね……くひゃひゃひゃひゃ」

 メリリンが、いや、メリリンの姿をしたそいつは、口よ避けよと言わんばかりに笑みを濃くする。
 それはメリリンの純朴じゅんぼくな笑顔じゃない。人外の、おぞましい何かだった。

「ちょうど役者も集まってることだし……ま、ちょっと自己紹介と行こうかな」

 そしてメリリンの顔をした誰かは、天井からふわっと床に降り立つ。
 そのまま表情を元に戻すと右手を体の前に、左手を横へ広げ、優雅にお辞儀をしてみせた。

「はじめまして、皆さま。わたくし、エイン帝国の『名無しノーネーム』と申す者。特技は変装。趣味は暗殺。以後、お見知りおきを」

「帝国……プレイヤー!」

 ジャンヌが激昂して叫ぶ。
 ここまで怒りの感情を露わにするジャンヌを始めて見た。

「はい、そうですが何か? ジャンヌ・ダルク。もしかして暗殺はよくないとか思ってませんか?」

「当たり、前だ」

「ええ、その通り。決まってる。良くないこと。でもねぇ……」

 メリリンの口から慇懃無礼いんぎんぶれいな言葉が出るのが凄い違和感。
 だが次の瞬間――それが豹変した。

「その良くないことをやるのがさいっっっっっっっこうに気持ちいいんだろうがぁ! 今回はミスっちまったけどなぁ! その偉そうなクソジジイを殺れたんだからまぁオッケーだろ! はっ、ジャンヌ・ダルクとか言ったな。信じてた人に裏切られるその顔……最っ高だなぁ!」

 醜く歪んだメリリンの顔。
 その時、あたしの中で何かがキレた。

「もういい。黙れ。死ね」

 前に一歩。
 同時に斬りつける。

「あっぶな」

 避けられた。けどもう後ろはない。

「それ以上、口を開くな。あたしの友達の顔で、声で、仕草で喋るな!」

「あっはー、なるほど。そういう系か。……てかさニーア。気づいてなかったんでしょ? それなのに友達って言えちゃう? ね、聞きたいニーア? わたしがいつからメリリンだったかって」

 声質が変わった。
 いつもあたしに話しかけてくる時と、変わらない口調。

 それが今や、どこか気持ち悪さを感じさせるもので、吐き気がした。

「興味ない。死ね」

「じゃあ教えようか。あれは、そう、1年以上前になるかな。うん、そうだよ、ニーア。あなたがジャンヌ・ダルクにわたしを引き合わせた時だよ」

「っ!」

 体の動きが止まった。
 それって、つまり……。

「あなたは暗殺者の俺をわざわざ王宮に招き入れた。しかもよりによってわたしに財政を任せた。とんだ不始末だねぇぇぇ!?」

「うるさい!」

「あ、それから安心して。本物のメリリンは今もちゃんと王都で……」

 ぴくと体が反応する。
 生きているのか。まだメリリンは――

「永久に眠りについているからなぁ!? もう野犬に食われてんじゃないか!? ひゃはっ!」

「貴様!」

 さらに一歩踏み込む。
 だが名無しノーネームはそれをひらりとかわす。

「おっと、表情に余裕がなくなったんじゃあないか?」

「うるさい!」

「聞き飽きたよ、それ。じゃあ、俺、帰るわ。1つの潜入で1つの暗殺って決めてんだよね。ジャンヌ・ダルクはれなかったけど、ま、次のお楽しみにしておくよ」

「帰すと、思ってるの?」

「さぁ、どうだろうね。けどこの状況。追い詰められてるのはどっちだろうねぇ」

 負け惜しみを。
 もういい。斬る。
 斬って、メリリンの供養にする。

 横にかわすのなら横薙ぎだ。
 それでも縦にかわすのなら叩き斬る。
 それでも避けるなら、同時に斬ればいい!

「だから甘いんじゃないかってさぁ! 女王様ががら空きだろうが!」

 その言葉に一瞬。そして偽物のメリリンの行動に一瞬。
 合わせて二瞬。
 完全に後手に回った。
 
「女王様!」

 咄嗟に横っ飛び。腕を閉じて頭と喉と胸――急所を守る。右腕に刺さった。ナイフだ。
 自分が受けなければ、女王様に刺さっていた。

 痛みは感じない。それ以上に相手に対する怒りが、自分の迂闊さに対する怒りが勝っていた。

 それをぶつける相手。それを探す。
 だがいない。すでに扉は開け放たれ、護衛の兵が倒れているだけ。

「じゃあな、また会おうぜ、ジャンヌ・ダルク。くひゃひゃひゃひゃ!」

 勝ち誇った暗殺者の声が木霊こだまする。

「くそっ!」

 歯をきつく噛み、腕に刺さったナイフを抜くと、それを苛立ち紛れに床に突き刺した。

「爺さん!」

 ジャンヌが必死に総司令を抱き起そうとする。
 駄目だ。ナイフの位置。急所だ。
 総司令はもう、助からない。

 こんなことが起きていいのか。
 こんなことを起こしていいのか。

 帝国……どれだけあたしたちから搾取さくしゅすれば気が済むんだ。
 許さない。

 その想いがふつふつと湧き上がる中、1つの命が消えようとしていた。
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