知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第46話 受け継ぐもの

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 何が起きていたのか分からない。
 一瞬のことだった。
 いつの間にか自分が突き飛ばされていて、ハワードの爺さんが床にうずくまっていて、メルだと思った人間がプレイヤーで、ニーアがそれに対峙していて。

 ほんの1分前までは平和だったこの場が、一瞬にして地獄と化していた。
 なんだよ、これ。

「うん、そうだよ、ニーア。あなたがジャンヌ・ダルクにわたしを推挙した時だよ」

 メルが暗殺者?
 帝国のプレイヤー?
 しかも……そんな前から。
 俺だ。俺が暗殺者を登用した。

 その結果がこれだ。

 でもそんな馬鹿な。俺の『古の魔導書エンシェントマジックブック』は相手がプレイヤーならそれは見破る。
 だから、メルにそれを――

「あ――」

 使っていない。

 あの頃はカルキュールに対することばかり考えてて、しかもその後シータ王国への訪問、戻ってすぐ戦、そして南郡の問題でメルのことを考える暇もなかった。
 そしていつの間にか、俺の中では仲間の一員になっていたような気がする。
 そうなるともう疑えない。
 疑うのが恥だと思ってしまう。

 だって、彼女は真面目に職務にあたった。その力は本物だった。
 それに彼女とは色々話をした。笑いあった。誕生日も祝ってくれた。
 カルキュールの死の時にはあんなに涙を流していた。
 そんな相手が暗殺者だなんて誰が思う?

「じゃあな、また会おうぜ、ジャンヌ・ダルク。くひゃひゃひゃひゃ!」

 不吉な言葉を言い捨てて、暗殺者は俺たちの前から消えた。
 残されたのは呆然とした様子のマリア、悔し気にナイフを床に突き刺すニーア。

「うっ……」

 ハワードの爺さんの苦痛の声でハッとする。

「爺さん! 誰か! 医者を! 早く!」

 そうだよ。さっさと医者を呼ばなきゃ。
 だがハワードの胸からは血がどんどんと溢れてくる。

「ふっ、もう間に合うまい」

 小さくため息をつきながら、爺さんはつぶやく。

「そんなこと言うなよ、爺さん! すぐに医者が来るから……だから……諦めんなよ! ゆっくり余生を送るんだろ!」

「わしはな。満足なのだよ。お主と出会い、独立を果たし、託すべき人間を育て、そして最期に……お主を守れた」

「最期とか、言うなよ……」

 視界がにじむ。
 喉から何かがこみあげる。

「泣いておるのか? いかんのぅ、お主の涙はベッドの上と決まっておる」

「……うるせぇよ、変態ジジイ」

「ほっほ。それが聞ければ満足じゃて」

 笑う。この期に及んで、この男は笑うのだ。
 そしてマリアの方を向く。

「女王様。お先に失礼します」

「ハワード……」

「貴女様なら、きっと良き女王となり、オムカの繁栄を作り上げると信じております」

「……分かった。分かったのじゃ」

「近衛騎士団長」

「……申し訳ありません」

「なに、お主のせいではない。それに、お主は本分を全うした。女王様に危害をくわえようとしたものを排除し、脅威から守った」

「……」

「じゃがわしからの最期の願い、聞いてくれるか。あの者。必ず始末せい。あれは危険じゃ。また必ず来て、ジャンヌを……そして女王様を狙う。だからお主に頼んだ。あの者を、討ってくれ」

「必ず」

「……ふっ、頼もしい者たちよ」

 小さく息を吐く。
 それと一緒に、生きる力も吐き出しているように思えた。

「長い、長い戦いの人生であった。じゃが、その中でもこの1年ほど充実した時間はなかった……感謝しておる。同時に安堵しておる。お主らなら、次のオムカを任せても、きっと良き国を作ってくれると。頼んだぞ」

 俺は頷いた。声にならない。
 涙でハワードの顔も満足に見れない。だから何度も何度も頷いた。

「ふっ……ジャンヌ。お主に会えてよかったぞ…………さらばだ」

 そして、ハワードの目から光が消えた。
 その顔は、満足そうに笑みを浮かべていた。

 次の瞬間、開かれたドアから人が入って来た。
 医者と、そしてジルも来ていた。

 俺は涙をぬぐい、マリアを見た。
 マリアは大声で泣き、ハワードの遺骸にしがみつくようにしている。

 それを見て、俺の心は落ち着いた。
 いや、今も激しい感情が渦巻いている。
 それでも歯を食いしばる。

 こういう時、俺がしっかりしないと。
 爺さんから任された身として、この国を背負う人間として。

「オムカ王国軍総司令ハワード殿は帝国の卑劣なる凶刃きょうじんに倒れた。ジル。全軍、いや、全国民にを発しろ。葬儀は追って行う」

「……はっ!」

 再び周囲が動き出した。
 それでもまだ自分は深い悲しみの中にいる。
 そして後悔。俺が油断しなければ、もっと咄嗟に動ければ。爺さんは死ぬことはなかった。

 同時に込み上げる強い感情。
 怒りだ。
 煌夜こうや
 あの男。
 何故だ。
 俺が手なずけられないと見るや、暗殺を指示してきたのか。
 しかも1年も前から潜入させていたということは、昔からその企みもあったに違いない。

 向こうから一線を越えた。そう思った。

 もう講和なんてことはできない。
 戦って勝つ。
 爺さんの、オムカを頼む、とはそういうことだと、俺は受け取った。


 そう、受け取ってしまった。
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