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第3章 帝都潜入作戦
第46話 受け継ぐもの
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何が起きていたのか分からない。
一瞬のことだった。
いつの間にか自分が突き飛ばされていて、ハワードの爺さんが床にうずくまっていて、メルだと思った人間がプレイヤーで、ニーアがそれに対峙していて。
ほんの1分前までは平和だったこの場が、一瞬にして地獄と化していた。
なんだよ、これ。
「うん、そうだよ、ニーア。あなたがジャンヌ・ダルクにわたしを推挙した時だよ」
メルが暗殺者?
帝国のプレイヤー?
しかも……そんな前から。
俺だ。俺が暗殺者を登用した。
その結果がこれだ。
でもそんな馬鹿な。俺の『古の魔導書』は相手がプレイヤーならそれは見破る。
だから、メルにそれを――
「あ――」
使っていない。
あの頃はカルキュールに対することばかり考えてて、しかもその後シータ王国への訪問、戻ってすぐ戦、そして南郡の問題でメルのことを考える暇もなかった。
そしていつの間にか、俺の中では仲間の一員になっていたような気がする。
そうなるともう疑えない。
疑うのが恥だと思ってしまう。
だって、彼女は真面目に職務にあたった。その力は本物だった。
それに彼女とは色々話をした。笑いあった。誕生日も祝ってくれた。
カルキュールの死の時にはあんなに涙を流していた。
そんな相手が暗殺者だなんて誰が思う?
「じゃあな、また会おうぜ、ジャンヌ・ダルク。くひゃひゃひゃひゃ!」
不吉な言葉を言い捨てて、暗殺者は俺たちの前から消えた。
残されたのは呆然とした様子のマリア、悔し気にナイフを床に突き刺すニーア。
「うっ……」
ハワードの爺さんの苦痛の声でハッとする。
「爺さん! 誰か! 医者を! 早く!」
そうだよ。さっさと医者を呼ばなきゃ。
だがハワードの胸からは血がどんどんと溢れてくる。
「ふっ、もう間に合うまい」
小さくため息をつきながら、爺さんはつぶやく。
「そんなこと言うなよ、爺さん! すぐに医者が来るから……だから……諦めんなよ! ゆっくり余生を送るんだろ!」
「わしはな。満足なのだよ。お主と出会い、独立を果たし、託すべき人間を育て、そして最期に……お主を守れた」
「最期とか、言うなよ……」
視界がにじむ。
喉から何かがこみあげる。
「泣いておるのか? いかんのぅ、お主の涙はベッドの上と決まっておる」
「……うるせぇよ、変態ジジイ」
「ほっほ。それが聞ければ満足じゃて」
笑う。この期に及んで、この男は笑うのだ。
そしてマリアの方を向く。
「女王様。お先に失礼します」
「ハワード……」
「貴女様なら、きっと良き女王となり、オムカの繁栄を作り上げると信じております」
「……分かった。分かったのじゃ」
「近衛騎士団長」
「……申し訳ありません」
「なに、お主のせいではない。それに、お主は本分を全うした。女王様に危害をくわえようとしたものを排除し、脅威から守った」
「……」
「じゃがわしからの最期の願い、聞いてくれるか。あの者。必ず始末せい。あれは危険じゃ。また必ず来て、ジャンヌを……そして女王様を狙う。だからお主に頼んだ。あの者を、討ってくれ」
「必ず」
「……ふっ、頼もしい者たちよ」
小さく息を吐く。
それと一緒に、生きる力も吐き出しているように思えた。
「長い、長い戦いの人生であった。じゃが、その中でもこの1年ほど充実した時間はなかった……感謝しておる。同時に安堵しておる。お主らなら、次のオムカを任せても、きっと良き国を作ってくれると。頼んだぞ」
俺は頷いた。声にならない。
涙でハワードの顔も満足に見れない。だから何度も何度も頷いた。
「ふっ……ジャンヌ。お主に会えてよかったぞ…………さらばだ」
そして、ハワードの目から光が消えた。
その顔は、満足そうに笑みを浮かべていた。
次の瞬間、開かれたドアから人が入って来た。
医者と、そしてジルも来ていた。
俺は涙をぬぐい、マリアを見た。
マリアは大声で泣き、ハワードの遺骸にしがみつくようにしている。
それを見て、俺の心は落ち着いた。
いや、今も激しい感情が渦巻いている。
それでも歯を食いしばる。
こういう時、俺がしっかりしないと。
爺さんから任された身として、この国を背負う人間として。
「オムカ王国軍総司令ハワード殿は帝国の卑劣なる凶刃に倒れた。ジル。全軍、いや、全国民に喪を発しろ。葬儀は追って行う」
「……はっ!」
再び周囲が動き出した。
それでもまだ自分は深い悲しみの中にいる。
そして後悔。俺が油断しなければ、もっと咄嗟に動ければ。爺さんは死ぬことはなかった。
同時に込み上げる強い感情。
怒りだ。
煌夜。
あの男。
何故だ。
俺が手なずけられないと見るや、暗殺を指示してきたのか。
しかも1年も前から潜入させていたということは、昔からその企みもあったに違いない。
向こうから一線を越えた。そう思った。
もう講和なんてことはできない。
戦って勝つ。
爺さんの、オムカを頼む、とはそういうことだと、俺は受け取った。
そう、受け取ってしまった。
一瞬のことだった。
いつの間にか自分が突き飛ばされていて、ハワードの爺さんが床にうずくまっていて、メルだと思った人間がプレイヤーで、ニーアがそれに対峙していて。
ほんの1分前までは平和だったこの場が、一瞬にして地獄と化していた。
なんだよ、これ。
「うん、そうだよ、ニーア。あなたがジャンヌ・ダルクにわたしを推挙した時だよ」
メルが暗殺者?
帝国のプレイヤー?
しかも……そんな前から。
俺だ。俺が暗殺者を登用した。
その結果がこれだ。
でもそんな馬鹿な。俺の『古の魔導書』は相手がプレイヤーならそれは見破る。
だから、メルにそれを――
「あ――」
使っていない。
あの頃はカルキュールに対することばかり考えてて、しかもその後シータ王国への訪問、戻ってすぐ戦、そして南郡の問題でメルのことを考える暇もなかった。
そしていつの間にか、俺の中では仲間の一員になっていたような気がする。
そうなるともう疑えない。
疑うのが恥だと思ってしまう。
だって、彼女は真面目に職務にあたった。その力は本物だった。
それに彼女とは色々話をした。笑いあった。誕生日も祝ってくれた。
カルキュールの死の時にはあんなに涙を流していた。
そんな相手が暗殺者だなんて誰が思う?
「じゃあな、また会おうぜ、ジャンヌ・ダルク。くひゃひゃひゃひゃ!」
不吉な言葉を言い捨てて、暗殺者は俺たちの前から消えた。
残されたのは呆然とした様子のマリア、悔し気にナイフを床に突き刺すニーア。
「うっ……」
ハワードの爺さんの苦痛の声でハッとする。
「爺さん! 誰か! 医者を! 早く!」
そうだよ。さっさと医者を呼ばなきゃ。
だがハワードの胸からは血がどんどんと溢れてくる。
「ふっ、もう間に合うまい」
小さくため息をつきながら、爺さんはつぶやく。
「そんなこと言うなよ、爺さん! すぐに医者が来るから……だから……諦めんなよ! ゆっくり余生を送るんだろ!」
「わしはな。満足なのだよ。お主と出会い、独立を果たし、託すべき人間を育て、そして最期に……お主を守れた」
「最期とか、言うなよ……」
視界がにじむ。
喉から何かがこみあげる。
「泣いておるのか? いかんのぅ、お主の涙はベッドの上と決まっておる」
「……うるせぇよ、変態ジジイ」
「ほっほ。それが聞ければ満足じゃて」
笑う。この期に及んで、この男は笑うのだ。
そしてマリアの方を向く。
「女王様。お先に失礼します」
「ハワード……」
「貴女様なら、きっと良き女王となり、オムカの繁栄を作り上げると信じております」
「……分かった。分かったのじゃ」
「近衛騎士団長」
「……申し訳ありません」
「なに、お主のせいではない。それに、お主は本分を全うした。女王様に危害をくわえようとしたものを排除し、脅威から守った」
「……」
「じゃがわしからの最期の願い、聞いてくれるか。あの者。必ず始末せい。あれは危険じゃ。また必ず来て、ジャンヌを……そして女王様を狙う。だからお主に頼んだ。あの者を、討ってくれ」
「必ず」
「……ふっ、頼もしい者たちよ」
小さく息を吐く。
それと一緒に、生きる力も吐き出しているように思えた。
「長い、長い戦いの人生であった。じゃが、その中でもこの1年ほど充実した時間はなかった……感謝しておる。同時に安堵しておる。お主らなら、次のオムカを任せても、きっと良き国を作ってくれると。頼んだぞ」
俺は頷いた。声にならない。
涙でハワードの顔も満足に見れない。だから何度も何度も頷いた。
「ふっ……ジャンヌ。お主に会えてよかったぞ…………さらばだ」
そして、ハワードの目から光が消えた。
その顔は、満足そうに笑みを浮かべていた。
次の瞬間、開かれたドアから人が入って来た。
医者と、そしてジルも来ていた。
俺は涙をぬぐい、マリアを見た。
マリアは大声で泣き、ハワードの遺骸にしがみつくようにしている。
それを見て、俺の心は落ち着いた。
いや、今も激しい感情が渦巻いている。
それでも歯を食いしばる。
こういう時、俺がしっかりしないと。
爺さんから任された身として、この国を背負う人間として。
「オムカ王国軍総司令ハワード殿は帝国の卑劣なる凶刃に倒れた。ジル。全軍、いや、全国民に喪を発しろ。葬儀は追って行う」
「……はっ!」
再び周囲が動き出した。
それでもまだ自分は深い悲しみの中にいる。
そして後悔。俺が油断しなければ、もっと咄嗟に動ければ。爺さんは死ぬことはなかった。
同時に込み上げる強い感情。
怒りだ。
煌夜。
あの男。
何故だ。
俺が手なずけられないと見るや、暗殺を指示してきたのか。
しかも1年も前から潜入させていたということは、昔からその企みもあったに違いない。
向こうから一線を越えた。そう思った。
もう講和なんてことはできない。
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