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第4章 ジャンヌの西進
第37話 たったひとつの冴えないやり方
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村に来て5日後。
俺たちは再び山を降りた。
といっても来た時のような2日かけて降りる東からのルートではない。
西回りの最短ルートだ。
半日ほど山を降ることになるが、それでも来た時のルートよりはマシだった。
何より馬が使えないほどの急斜面ではないのが大きい。
率いる軍勢は1千200。
サカキ率いる200とヴィレス率いるビンゴ軍1千という陣容だ。
全軍を出さなかったのは、これ以上だと隠密性が薄れることと部隊の速度を考慮した結果だ。
50名ずつに分けて村を三々五々に出発。
陽が暮れる前に、目的のポイント周辺に1千人強が集まることになった。
ここから目標の砦まで約5キロ。
夜の森を抜けることも考えると2時間はかかるだろうから、森を出るギリギリまで進んで日暮れと共に平地を駆けることにした。
「作戦の所要時間は30分。それが過ぎたら鉦を鳴らす。すぐに撤退しろ。城攻めの最中だろうが放火の最中だろうが絶対に退け。さもないと皆殺しにされるぞ」
俺はサカキとヴィレスを呼んで作戦会議を開いた。
もちろん周囲にはフレールとサールもついてきている。そしてもう1人。
「ふっふっふ、侵略者を成敗する。すなわち正義!」
聞いて分かる通り、今回は竜胆を連れてきている。
攻城戦になる以上、正直彼女のスキルは魅力的なのだ。てか一撃で城壁を破壊するチート能力だと最近思ってる。
代わりといってはなんだけど里奈はお留守番だ。
危険なのもそうだけど、彼女のスキルは攻城戦に向かない。というかスキルを発動させるわけにはいかないのだ。
「分かってるって。ジャンヌちゃんからのラブコールが届いたら、何としてでも俺は駆け付けるからよ」
「おお、ラブコール……恋バナの予感!?」
「…………了解しました」
ヴィレスがちらっとサカキと竜胆の方を見た時の沈黙が怖い。
何言ってんだこいつとか思ってないかな。いや、思うよな。
とまあ若干不安なメンツだが、今はこれがベスト。
今回が上手くいけば、このまま何回か続けるつもりだ。
夜襲だけじゃなく、朝も昼もこちらの体力が続く限り続ける。
奇襲に奇襲を重ねて相手を揺さぶり続けるのだ。
ついでに俺のスキル『古の魔導書』の唯一……じゃないな、プレイヤーの情報を見れないという弱点があるから、唯二の弱点である『見たことのない軍勢は地図に表示されない』を克服するチャンスだ。
見たことがないから表示されないのであれば、見たことがあれば問題はないわけだ。
「いいか、この作戦の目的は2つだ」
俺は改めて全員に認識を徹底させることにした。
まず1つは帝国軍を守勢に回らせること。
俺たちの展開するゲリラ作戦に対し、あちらは受けの態勢をとらざるを得ない状況に追い込む。
砦が多いということは、守備兵が少数でも多大な防御力を誇ることになる。
だがそれは裏を返せば兵を分散しているということ。俺たちのやろうとしている奇襲に対しては、防備が薄いというデメリットしかない。
いつどこに来るか分からない相手に対し、常に神経を尖らせる受け身の状態になるのだ。
そうなれば夜もおちおち寝ていられず、相手は疲弊する。
もちろん、いずれはわざと隙を見せて兵を伏して俺たちを包み込み殲滅する戦法などを取るだろうが、それもまだ先の話。
それも俺のスキルがあれば、相手がそれをする前に敵の配置はまるわかりになるから、簡単に回避できるわけだし、それを逆手に取って、相手を策にはめることもできる。
「いいか。まずは徹底的に相手を揺さぶる。砦を落とすことは勝ちじゃないぞ。相手を振り回して振り回して、ビンゴの統治を諦めさせるのがこの作戦の本質だ」
「でもジャンヌちゃん。まだ主都には8万とかいるって話だろ? そいつらが来るぜ」
「それが本当の目的だ、サカキ。俺たちでその援軍を叩く」
俺の決意の籠った声に、その場にいた全員が息を呑む。
そう。この作戦の目的の2つ目は、相手の戦力を削りつつ本命を引きずり出すこと。
この戦の争点は、前に考えた通り『帝国軍をビンゴ領から駆逐すること』だ。
そうなった時に一番早いのは、敵の総大将を討つこと。そして敵の主力を撃破することだ。
ただそれは一番早いだけで、一番難しい方法とも言える。
なにせ総大将も、主力も領内の最深部――つまりこれら砦郡を抜けた先の首都にいるはずだからだ。
だからこそ引っ張り出す。
ここで俺たちが連勝すれば、相手も本腰を入れて討伐しに来るはず。それを逆に撃破すれば、ビンゴ領内での帝国の威信は失墜し、各地でビンゴ王国再興の機運が高まり反乱が起きるだろう。そうなれば勝ちだ。
だがそれはみんなが思っている通り難しい。
3千対8万。
正攻法では勝てる見込みがない。
だからこそ、勝つための方策を練ることが必要になる。
兵力で勝てないなら、奇策を使うか地形を使うか。
どちらにせよ決戦となる場所の選定はしなければならない。
もちろん『古の魔導書』を使えばなんとかなるけど、それでも現地に行って自分の目で見る必要があるだろう。
また、それに併せてセンドに言って村の者で諜報部隊を作らせることをさせた。
首都スィート・スィトンに張り付いて主力が出陣することを誰よりも早く伝えるためだ。決戦の場を選定しても、そこに敵をおびき寄せなければ意味がない。こちらが相手より先に布陣する必要があるのだ。
とまぁ色々考えてはいるが、まずはここで勝ち続けることが肝要。
そして大きな犠牲はもちろん、小さな犠牲も可能な限り避けた部隊運用が求められる。
「ジャンヌちゃん、大丈夫か?」
サカキがじっとこちらを見つめてくる。
俺が黙ってしまったのが気になったのだろう。
「……あぁ、大丈夫だ」
「へっ、心配するこたぁねーぜ。ジャンヌちゃんはいっつもみたく俺に死んで来いって言うだけでいいんだ」
屈託ない笑顔で発したその言葉に、独立の時の籠城戦を思い出す。
あの時、そう言ってサカキは出陣し、そして一度死んだ。
里奈に殺された。それでも運良くというか、本来あり得ない方法で生き返り、今ここに至るのだ。
それがどうも俺のトラウマになっているらしい。
心の奥底にしこりのようなものがあって、重い気分にさせる。
けど、最近なんとなく分かってきた。
彼らはそう言って欲しいのだ。
死んだ気になれば生きて帰れる、その想いでひたすらに生きて帰ろうとしている。
死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり、だ。
そんな彼らの想いを、後ろでただくっちゃべって安全なところにいる人間が踏みにじっていいわけがない。
だから言うんだ。
俺はもう、彼らの想いを無駄にしない。
そして、彼らを死なせないために言う。
「ああ、分かった。サカキ、死んでこい」
「っしゃあ! これで元気100倍だぜ!」
「え? いや、いいんですか? これって自殺教唆じゃないですか? ノン正義じゃないですか!?」
「ふっふ。リンドーちゃんには分からないんだろうな、男のロマンというやつが」
「む、むむ……男のロマン。それは竜胆が到達できない正義の宝庫……くっ、勉強になります!」
「いや、竜胆。これは見習わなくていい」
どういう教えだよ。
てかなに? この師弟関係?
なんて2人の会話に呆れていると、
「ふふっ、羨ましいですな。あなた達の関係が」
ヴィレスが笑った!?
そのことに俺だけじゃない。サカキも竜胆も目を丸くしてヴィレスを見る。
「なんでしょう?」
その視線にさらされて首を傾げた時には、もういつもの能面のような表情に戻ってしまっていたが。
「ぷっ……ははは!」
笑い声が響いた。
知らずのうちに、笑っていた。
なんだか可笑しくて、腹の底から笑っていた。
それに反応したかのように、サカキが、竜胆が笑った。ヴィレスは笑わなかった。
俺は幸せ者だ。
俺にはこんな仲間がいる。
それだけで、これからやろうとしている困難なことにも挑戦する勇気がもらえる。
だから頑張ろう。
ぶっ倒れようが、血反吐を吐こうが、不眠不休で考えに考え抜いて、呆れるほど調べに調べて下準備をして、圧倒的に勝利して、全員で生きて帰るんだ。
そして皆で元の世界に戻る。
それが俺の出来る、たった1つの冴えないやり方なのだから。
俺たちは再び山を降りた。
といっても来た時のような2日かけて降りる東からのルートではない。
西回りの最短ルートだ。
半日ほど山を降ることになるが、それでも来た時のルートよりはマシだった。
何より馬が使えないほどの急斜面ではないのが大きい。
率いる軍勢は1千200。
サカキ率いる200とヴィレス率いるビンゴ軍1千という陣容だ。
全軍を出さなかったのは、これ以上だと隠密性が薄れることと部隊の速度を考慮した結果だ。
50名ずつに分けて村を三々五々に出発。
陽が暮れる前に、目的のポイント周辺に1千人強が集まることになった。
ここから目標の砦まで約5キロ。
夜の森を抜けることも考えると2時間はかかるだろうから、森を出るギリギリまで進んで日暮れと共に平地を駆けることにした。
「作戦の所要時間は30分。それが過ぎたら鉦を鳴らす。すぐに撤退しろ。城攻めの最中だろうが放火の最中だろうが絶対に退け。さもないと皆殺しにされるぞ」
俺はサカキとヴィレスを呼んで作戦会議を開いた。
もちろん周囲にはフレールとサールもついてきている。そしてもう1人。
「ふっふっふ、侵略者を成敗する。すなわち正義!」
聞いて分かる通り、今回は竜胆を連れてきている。
攻城戦になる以上、正直彼女のスキルは魅力的なのだ。てか一撃で城壁を破壊するチート能力だと最近思ってる。
代わりといってはなんだけど里奈はお留守番だ。
危険なのもそうだけど、彼女のスキルは攻城戦に向かない。というかスキルを発動させるわけにはいかないのだ。
「分かってるって。ジャンヌちゃんからのラブコールが届いたら、何としてでも俺は駆け付けるからよ」
「おお、ラブコール……恋バナの予感!?」
「…………了解しました」
ヴィレスがちらっとサカキと竜胆の方を見た時の沈黙が怖い。
何言ってんだこいつとか思ってないかな。いや、思うよな。
とまあ若干不安なメンツだが、今はこれがベスト。
今回が上手くいけば、このまま何回か続けるつもりだ。
夜襲だけじゃなく、朝も昼もこちらの体力が続く限り続ける。
奇襲に奇襲を重ねて相手を揺さぶり続けるのだ。
ついでに俺のスキル『古の魔導書』の唯一……じゃないな、プレイヤーの情報を見れないという弱点があるから、唯二の弱点である『見たことのない軍勢は地図に表示されない』を克服するチャンスだ。
見たことがないから表示されないのであれば、見たことがあれば問題はないわけだ。
「いいか、この作戦の目的は2つだ」
俺は改めて全員に認識を徹底させることにした。
まず1つは帝国軍を守勢に回らせること。
俺たちの展開するゲリラ作戦に対し、あちらは受けの態勢をとらざるを得ない状況に追い込む。
砦が多いということは、守備兵が少数でも多大な防御力を誇ることになる。
だがそれは裏を返せば兵を分散しているということ。俺たちのやろうとしている奇襲に対しては、防備が薄いというデメリットしかない。
いつどこに来るか分からない相手に対し、常に神経を尖らせる受け身の状態になるのだ。
そうなれば夜もおちおち寝ていられず、相手は疲弊する。
もちろん、いずれはわざと隙を見せて兵を伏して俺たちを包み込み殲滅する戦法などを取るだろうが、それもまだ先の話。
それも俺のスキルがあれば、相手がそれをする前に敵の配置はまるわかりになるから、簡単に回避できるわけだし、それを逆手に取って、相手を策にはめることもできる。
「いいか。まずは徹底的に相手を揺さぶる。砦を落とすことは勝ちじゃないぞ。相手を振り回して振り回して、ビンゴの統治を諦めさせるのがこの作戦の本質だ」
「でもジャンヌちゃん。まだ主都には8万とかいるって話だろ? そいつらが来るぜ」
「それが本当の目的だ、サカキ。俺たちでその援軍を叩く」
俺の決意の籠った声に、その場にいた全員が息を呑む。
そう。この作戦の目的の2つ目は、相手の戦力を削りつつ本命を引きずり出すこと。
この戦の争点は、前に考えた通り『帝国軍をビンゴ領から駆逐すること』だ。
そうなった時に一番早いのは、敵の総大将を討つこと。そして敵の主力を撃破することだ。
ただそれは一番早いだけで、一番難しい方法とも言える。
なにせ総大将も、主力も領内の最深部――つまりこれら砦郡を抜けた先の首都にいるはずだからだ。
だからこそ引っ張り出す。
ここで俺たちが連勝すれば、相手も本腰を入れて討伐しに来るはず。それを逆に撃破すれば、ビンゴ領内での帝国の威信は失墜し、各地でビンゴ王国再興の機運が高まり反乱が起きるだろう。そうなれば勝ちだ。
だがそれはみんなが思っている通り難しい。
3千対8万。
正攻法では勝てる見込みがない。
だからこそ、勝つための方策を練ることが必要になる。
兵力で勝てないなら、奇策を使うか地形を使うか。
どちらにせよ決戦となる場所の選定はしなければならない。
もちろん『古の魔導書』を使えばなんとかなるけど、それでも現地に行って自分の目で見る必要があるだろう。
また、それに併せてセンドに言って村の者で諜報部隊を作らせることをさせた。
首都スィート・スィトンに張り付いて主力が出陣することを誰よりも早く伝えるためだ。決戦の場を選定しても、そこに敵をおびき寄せなければ意味がない。こちらが相手より先に布陣する必要があるのだ。
とまぁ色々考えてはいるが、まずはここで勝ち続けることが肝要。
そして大きな犠牲はもちろん、小さな犠牲も可能な限り避けた部隊運用が求められる。
「ジャンヌちゃん、大丈夫か?」
サカキがじっとこちらを見つめてくる。
俺が黙ってしまったのが気になったのだろう。
「……あぁ、大丈夫だ」
「へっ、心配するこたぁねーぜ。ジャンヌちゃんはいっつもみたく俺に死んで来いって言うだけでいいんだ」
屈託ない笑顔で発したその言葉に、独立の時の籠城戦を思い出す。
あの時、そう言ってサカキは出陣し、そして一度死んだ。
里奈に殺された。それでも運良くというか、本来あり得ない方法で生き返り、今ここに至るのだ。
それがどうも俺のトラウマになっているらしい。
心の奥底にしこりのようなものがあって、重い気分にさせる。
けど、最近なんとなく分かってきた。
彼らはそう言って欲しいのだ。
死んだ気になれば生きて帰れる、その想いでひたすらに生きて帰ろうとしている。
死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり、だ。
そんな彼らの想いを、後ろでただくっちゃべって安全なところにいる人間が踏みにじっていいわけがない。
だから言うんだ。
俺はもう、彼らの想いを無駄にしない。
そして、彼らを死なせないために言う。
「ああ、分かった。サカキ、死んでこい」
「っしゃあ! これで元気100倍だぜ!」
「え? いや、いいんですか? これって自殺教唆じゃないですか? ノン正義じゃないですか!?」
「ふっふ。リンドーちゃんには分からないんだろうな、男のロマンというやつが」
「む、むむ……男のロマン。それは竜胆が到達できない正義の宝庫……くっ、勉強になります!」
「いや、竜胆。これは見習わなくていい」
どういう教えだよ。
てかなに? この師弟関係?
なんて2人の会話に呆れていると、
「ふふっ、羨ましいですな。あなた達の関係が」
ヴィレスが笑った!?
そのことに俺だけじゃない。サカキも竜胆も目を丸くしてヴィレスを見る。
「なんでしょう?」
その視線にさらされて首を傾げた時には、もういつもの能面のような表情に戻ってしまっていたが。
「ぷっ……ははは!」
笑い声が響いた。
知らずのうちに、笑っていた。
なんだか可笑しくて、腹の底から笑っていた。
それに反応したかのように、サカキが、竜胆が笑った。ヴィレスは笑わなかった。
俺は幸せ者だ。
俺にはこんな仲間がいる。
それだけで、これからやろうとしている困難なことにも挑戦する勇気がもらえる。
だから頑張ろう。
ぶっ倒れようが、血反吐を吐こうが、不眠不休で考えに考え抜いて、呆れるほど調べに調べて下準備をして、圧倒的に勝利して、全員で生きて帰るんだ。
そして皆で元の世界に戻る。
それが俺の出来る、たった1つの冴えないやり方なのだから。
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