知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話16 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 明彦くんが勝った、との報告は戻って来たサカキさんから聞いた。
 ただそれを聞いて素直に喜べなかったのは、彼が連れてきた怪我人の多さを目の当たりにしたからだ。

 村人は300人ほどしかいないから、総出で500人ほどの怪我人を見るものの人手が圧倒的に足りない。
 手術ができるお医者さんは1人しかいなく、手当の甲斐なく、また手術の最中に亡くなった方も多くいたようだ。

 私は手当てなんてしたことがないから、竜胆さんと一緒にお湯を沸かしたり、包帯を洗ったりなどの雑用に追われていた。
 こんな時に何もできない己の無力を噛みしめることになった。

 1つ意外だったのは、愛良さんが軽傷者の手当てを買って出たことだった。切り傷に薬を塗って包帯を巻いていく様は、手慣れたもののように見えた。

 そうして嵐のような時間が過ぎ、なんとか落ち着きを取り戻したのは2日後の夕方。
 療養所にあてがわれた小屋には所狭しと怪我人が寝ていて、血と薬の匂いが充満していた。

 動ける体力のある者は、村の外れに亡くなった方たちを運んで埋めているという。
 景斗くんもそちらに回っているようだ。

「いやー疲れましたねー」

 療養所から離れて外のベンチで夕涼みをしていると、竜胆さんが隣に腰かけてそう言った。

「そう、ね……」

「ん、なんかアンニュイな感じですか?」

 平然としているあたり、彼女はそれほど堪えていないのだろうか。
 それを聞いてみると彼女は、

「あー……そうですよね。正直、今もショックです。あんなに人が傷ついて、命が消えていくのは。けど、先輩は言っていたのです。先輩は戦争という悪と戦っている正義ジャスティスなのだと! だから先輩の後輩であり正義の使者である竜胆としては、くよくよしていられないのです!」

 彼女が明彦くんを先輩と呼んでいるのは知っている。
 なんだか不思議な関係性だけど、なんだか微笑ましい。

「……強いね、竜胆さんは」

「いえ、正義ジャスティスです!」

「うん、そうなんだ……」

 よくわからなかった。
 けど、確たる自分があることはとても見ていて羨ましいと思う。
 自分にないものを見せつけられるような心境だけど。

「なんでも大勝したって聞きましたからね。きっと先輩も喜んでるでしょう!」

「……ううん、明彦くんは喜んではないと思う」

「ふぇ? 何故です? ……てかアキヒコクンって誰です?」

 あ、しまった。
 彼女には特に内緒にしてくれって明彦くんに言われたのに。
 半泣きで命の危険があるとか言ってたけど……何かあったのだろうか。

 えっと、それよりどうしよう。えっと、えっと、えっと……。

「ア、アッキーって名前が私の知ってる明彦くんって人に似てたから、つい呼んじゃうのよ。あはは……」

 いやー、苦しい。こんな嘘に騙される人はいるんだろうか。
 ごめんね、明彦くん。万が一の時は私が守るから。

 だが予想に反して、竜胆さんは深く頷き、

「そうだったんですかー。里奈さんも悲しい別れがあったんですね……先輩と似てるお亡くなりになったアキヒコクン。竜胆も会ってみたかったです」

 あれ、そういう話だったっけ?
 よくわからないけど誤魔化せたっぽいからいいや。

「でもなんで先輩は喜んでないんですか? 正義ジャスティス執行したなら喜ぶべきかと!」

「う、うん……そのジャスティス執行がよく分からないけど。多分、あき――えっと、アッキーは人がいっぱい亡くなったことを悲しむ人だから」

 まだ明彦くんと再会してそれほど時間が経っていない。
 けどそれは確信に似た思いで分かる。

 もともと、自分の手柄を誇る人じゃなかったし、が強いところもなかった。
 そんな明彦くんが、大勢の人を殺して悦にひたるなんて想像もつかない。

「うーん、なるほどです。勝ってもおごらない。それも正義ジャスティスの形ということですね」

 なんだか竜胆さんがしみじみと言っているけど、やっぱり私には理解ができなかった。
 それでもそれだけ明彦くんのことを慕っていて、一本気な彼女はどこか好ましく見える。

 嫉妬とかも覚えないのは、もしかしたらこんな妹がいたら楽しいだろうな、と思ってしまうからなのかも。
 見た目は竜胆さんの方が年上っぽいけど、明彦くんの方が実際は上だろうから竜胆さんが下の妹かな。あ、違う。リンちゃんが一番下で、その上に竜胆さんとクロエさん。しっかり者のマールさんは私のすぐ下の妹で。マリアさんは女王だけど末っ子って感じだし、ニーアさんはやっぱ姉っぽいかなぁ。それにちょっと反抗期の愛良さんを真ん中に加えれば……あれ、これ最強じゃない? 最強の姉妹編成だったりしないかな!?

「あの、里奈さん?」

「はい、なんでしょう! お姉ちゃんにお任せです!」

「へぅ?」

 あ……やっちゃった。
 てかなんか最近、変じゃない? なんか夢と現実が区別ついてないというか……。

 どうしよう、私、変な人と思われるかも。
 だって知り合って早々、いきなりお姉ちゃん発言とか確実に痛い子だよね。

「素敵です!」

「え?」

「里奈さんって、すごい素敵な感じだったんですよ。優しくて格好良くて落ち着いてて。今日までのお仕事もテキパキとこなす様は、本当に憧れでした! 竜胆、すぐにたらいとかひっくり返しちゃって……迷惑ばっかりでしたし」

「そ、そう?」

「はい! だからこんな人がお姉さんだったらいいなぁって思ってたので! 一人っ子だった竜胆にとっては、お姉さん発言は渡り廊下にフナムシです!」

 渡りに船、かな? そうだとしても使い方がちょっと違う気がするけど。

 でも、なんだかそう言ってくれるのは素直に嬉しいと思う。
 失言から派生した棚ぼただけど。

「あはは……じゃあ、そういうことで」

「おぉう。この世界に来て、一気に先輩とお姉さんが出来ました。この世界は私にとってとても素敵な世界です!」

 素敵な世界、か。
 この恐ろしく人の命が簡単に消える悲しい世界がそう思えるのは、羨ましいと思うと同時に、どこか切なくなる。

「竜胆さんは帰りたくないの? 元の世界に」

「あー、そうですね。お姉ちゃんの言う通り、元の世界に帰りたいというのはありますが……ん? どうしました?」

「い、いいの。なんでもないから」

 こうもストレートにお姉ちゃんって言われるの。こう、なんか……クルものがあるわね。

「そうですね。だけどやっぱり先輩にお姉ちゃん、それに色んな良い人と一緒に暮らせるのはとても幸せです。お父さんやお母さんと会えないのは確かに寂しいですけど……正義ジャスティスの心はつながってますから」

「やっぱり強いよ、竜胆さんは」

 上京して、疎遠になった両親。
 それでも二度と会えなくなるのは、やはり寂しいと思うのに。そう思えるのは、心が強い証拠。

「いえ、強くなんかないです。先輩みたいな正義ジャスティスの使者になるにはもっと努力が必要なのです! あと、呼ぶときは呼び捨てでお願いします。さん付けなんて他人行儀は、家族じゃないノン正義ジャスティスですから!」

「そ、そう…………じゃあ、竜胆」

 そう呼ぶまでに少し時間がかかったのは恥ずかしかったからかもしれない。
 それでもなんだかしっくりくるし、すとんとちょうど良いところに落ち着いた気持ち。
 いつか、明彦くんも呼び捨てで呼べる日が来るだろうか。

「はいー」

 竜胆さ――竜胆は猫みたいにごろごろと身をよじると、そのままもたれ掛かって来た。

 本当に不思議な子だ。
 まだ出会ってそう日が経っていないのに、いつの間にかこんなに距離が縮まっている。

 明彦くんとの距離を縮めるのに1年かかった私からすれば驚異的なスピードだと思う。
 なんて苦笑しながら顔をあげる。

 夕日に染まる田園風景。
 風に揺れる木々の音。
 遠く、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。

 元の世界ではありえない、どこか落ち着く雰囲気。
 あるいはずっとここにいてもいい。
 明彦くんや竜胆と一緒なら、それもいいのかもしれない。

 少しだけ、竜胆が言うこの世界の素晴らしさというのも分かった気がした。

「ん、あれ……」

 その時、ふと何かに気づいたように、竜胆が声をあげた。

「どうしたの?」

「いえ、愛良さんが……どうしたんですかね」

 視界の端に人影が映る。
 それが愛良さんだと分かるのは、治療の際も脱がなかった、その特徴的な特攻服のおかげだった。

 彼女はこそこそと、そしてどこか周囲を警戒するような動きで村から離れようとしている。
 どこか人目を気にしているような。そんな雰囲気。

 まさか――

「ふぎゃ! うぅ、いきなりなんですかー」

 私が立ち上がったことで、支えをなくした竜胆がベンチに倒れてしまったようだ。

「ごめんなさい。ちょっと、急ぐから」

 竜胆に謝罪して、そのまま走る。
 愛良さんの去っていった方角へ。

 そこは村の西方面。
 村の入口とは少し方向が違う。
 ただ林があり、その奥には連峰が連なるだけの自然あふれる場所。

「愛良さん、どうかしたんですか?」

 後ろから竜胆がついてきた。
 追い返そうと思ったけど、最悪のことを考えて黙っておくことにした。

 喜志田あのおとこから言われたことが頭に蘇る。

『俺たちの中に内通者がいるっぽいんだよね。けど誰か分からないからこっそり調査しようと思ってさ。普通に村に暮らしてて怪しい人がいないか見ててくれないかな? え、俺? 俺は……そう。皆の行動パターンを分析して最適解を導き出す仕事があって忙しいから外には出られないのさ』

 内通者。
 そんなのがいたら、ここもすぐに戦火に巻き込まれるだろう。
 何より、明彦くんの足を引っ張ってしまう。目指している夢が遠ざかる。

 それは許せない。
 だからもし、内通者がいたら……私は……。

「何か、あったんですね。怖い顔してます」

 竜胆が心配そうに聞いてくる。

 これはまだ誰にも話せない。竜胆を疑うわけじゃないけど、誰かに喋れば噂が広まるのは早い。
 村の中に疑心暗鬼を広めるのが得策じゃないことくらい、私にもわかる。

「ちょっと、ね。静かについてきて」

 竜胆が黙って頷くのを見ると、愛良さんの跡を追って森に入った。

 10メートルほど先の愛良さんは、木々の間を縫うようにどんどんと奥へと進んでいく。
 それを追って、歩みを速める。

「あぅ! 痛いです」

「竜胆、静かに」

「ごめんなさい。でも枝とか根っことか、歩きづらいことノン正義ジャスティスです。愛良さんは凄いですね、こんなところをすいすいと」

 確かに。竜胆の言う通り、愛良さんは森を歩くのに慣れているようだ。
 けど何のために?

 ……いや、予断は交えないようにしよう。

 頭を軽く振って、再び愛良さんの跡を追おうとしたその時。

「あっ!」

 視界から彼女の姿が消えていた。
 夕陽が落ち始めるこの時間。木々に囲まれたここは段々と薄暗くなっている。
 だから注意していたんだけど……まぁ今さら悔やんでもしょうがないこと。

 せめてどこに向かったのか。
 それだけでも知るために、最後に彼女の姿があった場所まで早歩きで進んだ。

 その時だ。

「何の用?」

 急に声をかけられ、体が硬直する。
 振り返る。一本の太い木の陰から、愛良さんが姿を現した。

 バレていた。
 そりゃそうか。あれだけ遠慮なくついていったんだから。

 愛良さんは右肩に木刀を担いでいる。すっかり臨戦態勢だ。
 ――るか?
 いや、駄目。彼女が内通者って決まったわけじゃないし、彼女は『まだ』味方。同じプレイヤー。それに竜胆がいるところで『収穫』するのは気がひける。

 なんとか心の動揺を抑えて、彼女に問いかける。

「あ、いえ……そろそろ暗くなりそうだから。どこに行くのかなって」

「…………別に。あんたに話すことはない」

 それだけ言うと、愛良さんはきびすを返してそのまま立ち去ろうとする。
 その背中に声をかけようと思って、止めた。言ってもきっと何も答えてくれないだろう。背中がそう語っていた。

 けど――

「愛良さん、正義ジャスティス!」

 竜胆、もしかしてそれ挨拶?
 大丈夫? 怒られない?

「ん……竜胆か」

 どうやら愛良さんはこの対応に慣れているようだった。
 気持ち、私と話していた時より険が取れているような気がする。

「はい! 愛良さんを見つけて、どこに行くのかなって気になっただけです!」

「あっそ……別に何してたってことはないよ。ただの散歩」

「お散歩ですか! いいですね。次は竜胆もついていっていいですか?」

「ん…………あぁ、そういうことかよ」

「ん? どうしました?」

 愛良さんは木刀を持つ方ではない手の人差し指で、こめかみを掻く。

「いや、竜胆じゃねぇ。そっちの姉ちゃん」

「はい、姉です! お姉ちゃんです!」

 しまった。
 急に振られて、条件反射的に反抗期の妹を当てはめてしまったみたい。
 その私の答えに愛良さんは顔をしかめて、何とも言えない表情を浮かべている。

「こほん! いえ、なんでしょう?」

「……あぁ、今のは流しておくよ。それで、あんたとしちゃ、オレの行動が疑わしいってことだろ。だから竜胆をけしかけて、オレの素性を知ろうとした、と」

 いきなり核心を突かれて、こっちが狼狽ろうばいする番だった。

「えっと、いえ、そういうわけでは……」

「ま、いいさ。こんななりしてりゃ、色眼鏡で見られるなんてのはさ。慣れてる」

「はぁ……」

 そんなこと言ってないし、そんなつもりもなかったんだけど……なんと言ったらいいのやら。

「とりあえずあのちんちくりんに言っておきな。オレはあんたの味方だ。元の世界に戻る気がある限り、な。それから――身の回りに気をつけろってさ」

 ちんちくりん? 誰? って、いや、まさか明彦くん?
 そんな、『ちんちくりん』だなんてそんな可愛らしい表現……いえ、それよりその内容は。

「気をつけろって……どういうこと?」

「さぁ……なんとなく、だ。オレからは何も言えねぇよ」

 それ以上は本当に話す気はないようで、何も言わずに足早に村の方へと去っていってしまった。
 残されたのは呆然と彼女を見送った私と竜胆の2人だけ。夕焼けがかすかに残る森の中、なんとも釈然としない想いがこみ上げてくる。

「なんなのよ、もう」

「あれはつまり、先輩を心配してくれた、正義ジャスティスってことですね!」

「そういうものなのかなぁ……」

 それならそうと、ちゃんと言ってくれればいいのに。
 けど、彼女の言葉は一応信じていいような気がする。

『オレはあんたの味方だ。元の世界に戻る気がある限りな』

 愛良さんは元の世界に戻りたいと思ってるんだ。
 そして明彦くんは皆を元の世界に戻そうと頑張っている。

 だからその信念がぶれない限り、彼女は味方でいてくれる。
 そんな気がしてならなかった。
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