知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第50話 里奈と子供たちと

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「お姉ちゃーん!」

 里奈の微笑みに戸惑っていた俺の耳に聞こえてきたのは、砦の方からの声。
 複数の子供の声。村で里奈が助けた子供たちだ。
 その後ろから愛良と景斗が保護者のように歩いてくるのが見えた。愛良は相変わらず木刀を肩に担いでいて怖いし、景斗はその横でやつれて見える。

「ね、お姉ちゃん。そろそろご飯の準備しよう!」

「お母さんたちがお姉ちゃんも呼んできてって!」

 子供たちに手を引かれながらも、里奈の顔には笑顔が戻る。
 どこか菩薩を思わせる優しい笑み。こんな顔もするんだな、と里奈の新しい一面を見る思いだ。

「そうだね、今日は何かな?」

 里奈が立ち上がって子供たちに対する。
 俺もゆっくりと立ち上がると、彼女たちのやり取りを微笑ましい思いで眺める。

「またジャガイモだよー。皮むきするんだー」

「もっと他の食べたいなー。お肉とか、お魚とか!」

「もうちょっとの辛抱だからね。このお姉ちゃんが悪い人たちを追っ払っちゃうから」

 急に里奈に振られて、どう答えるか迷う。

「あー、知ってるー。ジャンヌとかって子!」

「お姉ちゃんといっつもべたべたしてる子だー」

「知ってるよ。大人たちをはべらかしていい気になってる子だよー」

「しゅちにくりんってやつだねー」

 このガキども……。
 どこでそんな言葉覚えやがった。

 いや、落ち着け。
 二十歳はたちを過ぎて、小学生の子供に本気でキレるなんて恥ずかしい真似……。

「うわー、きったないパンツー。ちゃんと洗えよなー」

 気づいた時には、11月の冷たい風が俺の臀部でんぶを撫でるように通り過ぎていく感覚を味わっていた。
 それが起こる現象を、俺は言葉として、事象としては知っていた。
 だがまさかそれを自分が体験するなんて思っちゃいないわけで……なんだ、この屈辱感。そして怒り。

「てめぇら! そこに並べ!」

 俺の怒声に子供たちがわーきゃー言いながら逃げ出す。
 こうなったらとことん大人の恐ろしさ思い知らせてやる!

 ――なんて思ったわけだが。

「ぜぇーぜぇーぜぇー」

 呼吸のし過ぎで腹が痛い。
 まるで打ち上げられたイルカみたく、地面に転がっていた。
 あれ、俺って本当に肺呼吸だっけ? えら呼吸になってないよな?
 なんて思うほど呼吸をすることが困難だった。

 てか超絶大人げなかった。
 大人の余裕なんて3秒も持たなかった。しかも負けてるのだから恥ずかしいことこのうえない。

 こんな子供にも勝てないほど体力がないとは思わなかった。
 いや、そもそも今さら気づいたけど、体の年齢的にはさほど変わらないんだった。

「あ、明彦くん。大丈夫?」

「だ…………だいじょ……ばない」

 酸素がまるで体に入ってこない。
 だからどうも頭が働かない。

「ごめんね。後で姉として叱っておくから。明彦くんの恥ずかしい場面、ご馳走様ですって」

「里奈……それ……違う」

 あぁ、里奈もどこか変な方向に言ってるよなぁ。
 この世界にまともな奴は俺以外にいないのか。
 それとも俺が悪いのか?
 駄目だ。思考が回らない。

「ほらー、お姉ちゃんいこー!」

「う、うん。明彦くん、ごめんね。先行くよ」

 里奈は子供たちに無理やり連れられて、砦の方へと向かってしまった。
 俺はもう……なんか……疲れた。

 上体を起こして、なんとか呼吸を整えようとする。
 ふぅ……ふぅ……よし、少しは落ち着いた。

「大変ですね……」

 と、そこへ景斗が隣に来て言ってきた。
 そう言う景斗も疲れ切っているように見える。

「す、すみません……子供って……どうも、疲れて……」

「お、おう……。そうか。お疲れ」

 彼はなんとか軍関連の仕事をしようとしているが、どうも要領が悪いらしくいまいちらしい。
 だからこうやって子供たちの世話や、炊飯係に回されているようだが……。
 それでもまたうまくいっていないのだろう。

 ただそのガッツとチャレンジ精神はとても買っている。
 オムカに戻ったら、イッガーの手伝いとかさせてみようかな。
 なんか雰囲気似てるし。

 と、その横に立つ愛良にも目が行った。
 彼女は子供たちを里奈に取られたようで、少し残念そうな顔で里奈たちを見送っている。

 と、その視線に気づいたのか、すぐに不機嫌な顔になって、

「あ? なんだよ。オレが子供世話しちゃいけないかよ」

「い、いや。別に」

 どっちかというと、変な漢字とか教えてないよな? とか心配になった。
 彼女は本当に何を考えているのか分からない。成り行きっぽい様子で俺たちについてきているんだけど……。

 ただ子供の扱いは悪くないらしく、応急手当も出来るからそれなりに重宝されているらしい。

 きっと彼女なりに生きる場所を確立しようとしているのだろうが……どうも俺に対する視線はいただけない。
 てゆうか怖い。なんか怒鳴られるというか、問答無用で殴りかかられそうな凄みがあるのだ。

「明彦くーん! 早く行こう!」

 里奈が子供たちに囲まれながらもこちらに呼びかける。

 ったく、景斗たちがいるのにその名で呼ぶなっつの。

 苦笑しながらも彼女の跡について砦に戻る。

 子供に囲まれて楽しそうな里奈。
 あれだけ怖い目に遭ったのに、笑顔で騒ぐ子供たち。

 きっと、これが里奈の守りたかったものなんだろう。
 己が血で汚れても、なくしたくなかったものなんだろう。

『頑張ってる明彦くん見てたら、それじゃ駄目だって思ったの』

 違うよ、里奈。

 俺は必死なだけだ。
 必死に、里奈たちを守ろうとしているだけで、だからこそ俺は頑張ろうと思ってる。
 だから逆。

 俺が里奈の頑張る姿を見て、頑張ろうと思ってるだけなんだ。

 今もそう。
 彼女たちの平和な一幕。俺はこれを守らなくちゃいけない。
 泣き言なんて吐いてられないし、妥協して犠牲を受け入れるなんてもってのほか。

 今、衝動に突き動かされて敗北の道へと邁進まいしんしようとしている連中がいる。
 それは里奈たちの平和を脅かす愚行だ。だから彼らを止める。

 誰もが熱くなっている中、1人氷のように冷静になってなくちゃいけないのが軍師という立場だ。頭が冷えれば、新しいものの見方も出来てくる。

 とはいえ、普通にやってもさっきと同じ結末にしかならない。
 そうなるとやはり物を言うのが発言力。

 正直、どれだけ俺が言い募っても、結局のところ彼らにとって俺は部外者。
 しかもたった500しか兵を持っていない弱小だ。
 これまでは喜志田もいて、更に結果も出していたし、そもそもが対帝国ということで同じ方向を向いていたわけだから、言うことは聞いてやろうという体裁だった。

 だがそれは変わった。
 いや、元から違っていたのかもしれない。

 俺たちと彼らではベクトルが少し違っていた。ずれていた。
 もちろん国も立場も違うからそれは仕方のないことだが、今後の戦いにおいてそれは致命傷。

 だからそのベクトルを修正する。
 それに必要なのは言葉じゃない。
 純粋なる武力。
 数の暴力で相手に言うことを聞かせる。

 俺にしちゃ暴力的で気の進まない方針だが、もはや穏やかなことを言ってられないのだ。

 聞き分けのない子供は、優しくするとつけあがる。
 一度どこかでビシッと言ってやらないと、どこまでも間違いは加速する。

 だから言ってやらないと。
 俺が奴らに言ってやらないと。

 嗚呼ああ
 なんだか猛烈にオムカにいる愛すべき馬鹿たちのもとに帰りたくなってきた。
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