知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話27 サカキ(オムカ王国師団長)

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 嫌な、予感がした。

 これまでも何度かこんな時はあった。
 その時に限って、敵に囲まれそうだったり、伏兵がいたり、味方が壊滅してたりした。

 だが今のはこれまで以上。最大の予感。

「…………全員、俺についてこい」

 部下に言うと、そのまま走り出す。
 ここ数日、走りっぱなしだ。いい加減疲れたと思うけど、それ以上に何かが足を急がせる。

「師団長? どうした」

 クルレーンが不審に思い聞いてくるが、伝える時間ももどかしい。
 手で合図してついてくるよう促す。

 砦の中央。
 ジャンヌちゃんがいた。
 旗を大きく掲げて叫ぶ。

「皆、俺と共に生きろ! 生きて、世界を取り戻すんだ!」

 そして怒声。
 それが敵意や反意ではなく、焚きつけられた結果の燃え上がりだと理解する。

 あぁ、またジャンヌちゃんがやった。
 彼女の言葉は命令でも要望でもない。
 一緒に、手を携えて行こうという誘いだ。

 だから皆、彼女の言うことを聞きたくなる。
 同じ目線でそう言ってくれるのだから、これはもうたまらない。

 そのげきを受けてビンゴ軍が再び東門へと逃げ出す。

 だが、嫌な予感は終わらない。

「敵が、来ます!」

 報告が入る。
 これか。いや、それは分かっていたこと。
 だからこれじゃない。
 なら何故だ。
 どうしてこうも嫌な――

 銃声が響いた。

 視界の中で、馬上のジャンヌちゃんが揺れた。
 馬が棹立ちになる。
 続いてもう一発。
 ジャンヌちゃんの頭。そこから、赤い何かが舞った。

 ジャンヌちゃんが地面に落ちる。
 そのままピクリとも動かない。

 動悸が激しくなる。

 これは、夢だ。
 あっちゃいけない現実だ。

 射線の方向に目をやる。
 屋根の上。
 そこに男がいた。白の長袖に、茶色のベストを着た男。
 特徴的な帽子に、銃と思うには小さすぎる何かをくるくると器用に回す。

 まさか、あの男が。

「ジャンヌさん!」

 誰かの叫び。
 だがそれもかき消された。
 激しい爆発音に。

 砦が爆発した。
 至るところから火が噴きだし、たちまち辺りは地獄と化した。

 右往左往する兵たちをかき分けて、俺はジャンヌちゃんのところへ向かう。

「ジャンヌちゃんは!」

 倒れたジャンヌちゃんに、千切った袖を巻きつけて手当てをするフレールに聞く。

「なんとか生きてます。ですが出血が激しく……」

 頭と肩に一発ずつ。
 頭部への銃弾はわずかに逸れてこめかみの肉をえぐるだけにとどまったよう。
 なんとか即死はまぬがれたようだが、この出血。確かに危険だ。

「サ、サカキ殿。ジャンヌ殿は……」

 クロスが不安げに近寄ってくる。
 その暢気さに苛立ちを覚えた。

「無事だ。いや、無事じゃねーが、とりあえず生きてる。てかお前は何をしてる」

「は?」

「は、じゃねぇ。てめぇら言われただろ。ジャンヌちゃんに、生きろって! ならてめぇらのやることは1つだろうが!」

「……っ!」

 クロスは息を呑み、そしてようやく意を決したようだ。

「感謝します」

「感謝なんていい、生きることが礼みたいなもんだろ」

 クロスは無言で頷くと、そのまま兵たちの元へ戻る。

「うろたえるな! 我々は撤退する! 東門から撤退だ!」

 それでいい。
 ならあとはこっちだな。

「フレール、サール。ジャンヌちゃんを守れなかったことはもうどうでもいい。あとはこれからだ。絶対ジャンヌちゃんを連れて帰れ」

「師団長殿は?」

「当然、殿軍だ。ちょっと足止めして適当に逃げるさ」

 兵数的にも、状況的にも最悪。
 だが、そうでもしないとジャンヌちゃん本人と、その願いを守ることはできない。

「自分も残ります」

「兄さん!?」

 フレールが一歩、前に出てそう言ってきた。
 いい覚悟だ。
 いつも飄々ひょうひょうとしてよくわからん奴だったが、そういったことができる男は好きだ。

「サール、お前がジャンヌさんを連れて帰れ」

「でも……」

「ジャンヌさんを守れなかったのは事実だ。だからせめて、彼女の望んだことを手助けしてやりたい」

「なら私も!」

「駄目だ。お前はもう1人前だ。だから、お前がジャンヌさんを守るんだ」

「そんな……でも……いやぁ……離れ離れ、嫌……お兄ちゃん」

 急に泣き声をあげだしたサール。
 ここで殿軍をするというのがどういうことか、ちゃんとわかっているのだろう。

 ただフレールはサールの頭を撫でて、

「すぐ戻る。だから先に行っててくれ」

「……うん」

 ったく。調子狂う奴らだ。
 けどもう時間切れだ。

「よし、もう時間はないぞ。さっさと行け!」

「行くのはあんたもだろ、師団長サン」

 不意にクルレーンが、オレの肩をポンッと叩いてきた。

「なんだと?」

「ジャンヌ殿が倒れた。あんたも倒れられちゃ、オムカ軍はどうなる」

「どうなるって……」

 考えたこともなかった。
 ジャンヌちゃんがいるのが当たり前で、その下で働くことになんの違和もなくて。

 でも現実にジャンヌちゃんは倒れた。
 そうなった時。
 オレはどうなる? どうする?

「万が一だ。そうなった時、ここにいる軍のトップ2人がいなくなるのはマズい」

「けど殿軍が」

「ま、そこらへんは依頼のアフターケアの一環ってのかね。うちらがやるさ」

「しかしそれでは……」

 クルレーン隊は100人もいない。しかも鉄砲隊となれば機動力もなく、乱戦になれば生還はおぼつかないだろう。

「我らも残ります」

 声に振り向く。
 そこにはヴィレスの他、500ほどの兵が残っていた。

「ビンゴ軍を逃がすために、オムカ軍のみが犠牲になるなど、我が軍の名折れ。我らも時間を稼ぐゆえ、あなた達は退いてください」

「しかし……」

「しかしも何もないでしょうに。時間がないって言ったのはあんただ。ま、気にしなさんな。雇い主がやられたんだ。俺たちは俺たちで好き勝手させてもらうさ」

 クルレーンが、苦笑してオレの背中を押してくる。

 これ以上の問答は無用だ。
 彼らの覚悟を無駄にすることになる。
 盛大に後ろ髪を引かれる思いだが、それでも行くしかない。

「分かった。死ぬなよ!」

「誰に言ってるんだか」

「また、会いましょう」

「ジャンヌさんを、頼みます」

 クルレーンが、ヴィレスが、フレールが応える。
 すまない。だがありがたい。

 戦友ともたちの声を受け、残った部下たちを指揮する。

「よし、撤退する! サール、ジャンヌちゃんを落とすなよ!」

「う……うぅ、はい!」

 ジャンヌちゃんの馬に乗り、背中にジャンヌちゃんを背負ったサールは、涙を振り切って馬を走らせた。

 その後に部下たちが走り出し、最後尾をオレが走る。

 振り返った。
 600人ほどの決死の部隊が燃える砦に残されている。

 生きろよ。

 生還の望みは薄いと知りながらも、そう祈らずにはいられなかった。
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