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エピローグ(1)
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碧の月刊連載を三回読むと、春がやってきた。
旭陽は春休みに二、三日帰省をしただけで、あとはずっとアパートで過ごした。実家に帰らない碧のそばを離れたくなかったというのもあるし、大学に併設された環境のいいプールで思う存分、練習したかったという理由もあった。
練習を終えて碧の部屋へ行くと、彼はたいてい原稿と戦っていた。月刊連載というのは思ったよりも大変らしく、いつ見ても碧は新しい話を書いているか、もしくは自分が書いた原稿を手直ししていた。編集部から送られてくるという原稿には常に校正者の指示である青字がいくつも並んでおり、時には欄外にはみ出すようにして長い指摘や意見が書き込まれていることもあった。碧は寝る時間を削って、それらの指摘を丁寧に拾い、原稿を書き直していた。
「すまない。今は手が離せなくて」
いつしか、それが碧の口癖になっていた。それでも旭陽は構わなかった。一時はすべてを失って、書けないなら命ごと消えようとしていた碧が苦心しながらも原稿に向き合い、執筆をしている姿を見るのが嬉しかったから。
旭陽は自分の部屋で碧の分まで食事を作り、差し入れという名目でよく部屋に上がった。食事を持って行った時だけは、どんなに締切が迫っていても碧は手を止めて一緒に食卓を囲んでくれた。それだけで充分だ。
「あの、小野さんに話があるんすけど」
旭陽が二年生に、碧が四年生へ進級した四月のある日。締切が終わったのを見計らい、旭陽は碧の部屋で夕食の肉じゃがをつつきながら切り出した。
「なんだい、急に改まって」
碧は旭陽の作る肉じゃがを気に入ってくれているようで、いつもおかわりまでしてよく食べてくれる。碧は一年前に出会った頃より肉付きが良くなって、抱きしめた時も骨の感触が気になることが薄れてきた。碧の痩せ方は綺麗というより、不健康そのものだったから、これは目覚ましい進化である。
旭陽は碧が箸を置いてこちらを見たのを確認して、自分も箸を置いた。数ヶ月前から言わなければならないと思いつつ、今日までずるずると引っ張ってきてしまった。もう先延ばしにすることはできない。
「俺、オーストラリアに留学に行くことになりました。今年の六月には日本を発って、九月から向こうの大学で勉強しながら競泳の強化練習に参加することになります」
十二月の大会が終わった後。旭陽と対面した道上が言った。
――俺は、オーストラリアに行く。自分の限界を超えるために、オーストラリアで競泳の強化練習プログラムに参加する。十束、お前は?
あの時はまだ自分がオーストラリアへ行くことなど想像もしていなかったが、その後、水泳部の監督を通じて正式に旭陽の元にも留学の話が持ち込まれた。留学先の大学は、道上と同じで強化練習プログラムにも、同じ日本から来た選手として道上とともに参加するとのことだった。
旭陽はほとんど迷わなかった。ここで留学しなければ、また道上に差を広げられるとすら思っていた。だから二つ返事で「行く」と言ったわけだが――。
「留学するとは言ったけど、俺やっぱり小野さんと離れるのは……」
「僕のことなど気にせず、行けばいいじゃないか」
碧はさして興味もなさそうにそう言うと、箸を持ち、煮崩れる手前のじゃがいもをつまんだ。じゃがいもを頬張り、醤油色に煮込まれた豚バラと米を一緒にかき込む。その姿は旭陽の話を聞いてもなんの感慨もないように見えた。
「小野さんは寂しくないんすか? 俺、帰って来るのは一年半後ですよ? 一年以上も離れるなんて、俺、嫌なんですけど」
「君の夢の障壁となるくらいだったら、僕は今ここで別れることを選択するね」
ご飯を飲み込んだ碧の目は、ちっとも笑っていなかった。本気だ。碧は旭陽の返答次第では、本気で別れようとしている。
「十束くんが日本を離れたくないというのなら、僕がこのアパートを去ろう。君の目の届かないところなら、どこにでも行ってやる」
どうする? と問われて、旭陽は肩を落とした。てっきり留学することを告げたら、寂しいの一言くらい言ってもらえると思っていたのだ。とんだ誤算だった。碧は一時の別れを悲しむどころか、旭陽が行動しないのなら自分から別れてやると息を巻いている。
「わかりました。そこまで言うなら行きますよ……」
「それでいい。最初から僕のことなど気にする必要はなかったのさ」
ちょっとでいいから引き止めてほしかった。そんなこと、口が裂けても言えない。
もそもそと食事を終え、片付けを済ませて旭陽は席を立った。この後も碧は原稿作業を続けるだろうし、仕事の邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
「十束くん」
玄関に向かいかけた旭陽のことを、碧がデスク前に座ったまま呼び止めた。振り返ると碧はモニターを睨み、手は絶えずキーボードを叩き続けている。
「なんですか?」
「明日、予定はあるかい?」
「いや、特にないですけど……」
碧がちらりとこちらを見る。キーボードを叩いていた手が止まった。眼鏡を外し、うんと伸びをする。眼鏡を外した碧の顔は、冷たさが取れて、穏やかに見えた。
「今日は泊まっていくといい」
「え……」
「最近は原稿が忙しくて、その……君との時間もあまり取れていないと思ったから」
碧は目を逸らしながら、早口で言い切った。
玄関に向かいかけていた足をぐるりと方向転換させて、座っている碧に突っ込む。椅子ごとぎゅっと抱きしめると、彼は旭陽の腕の中で「筋肉で潰れる」と文句を言った。
「君が日本を発つまで……なるべく一緒にいよう。そのほうが僕も、仕事が……捗るから」
それが碧のせいいっぱいだと言うことに、旭陽はちゃんと気づいていた。
ますます愛おしさが込み上げてきて、少し肉付きの良くなった碧の身体を持ち上げた。やめろ、と焦ったような声が飛んでくるが気にしない。碧の身体を布団の上にそっと放って、旭陽も隣に寝転がった。
シングルサイズの布団は、男二人で寝るには狭すぎる。けれど、今はその狭さがちょうど良かった。
狭さを理由に旭陽は碧のほうへ肩を寄せると、乱れた黒髪を抱き寄せた。日本を発つまで毎日こうして一緒に寝られたらいいのに、と思いながら。
旭陽は春休みに二、三日帰省をしただけで、あとはずっとアパートで過ごした。実家に帰らない碧のそばを離れたくなかったというのもあるし、大学に併設された環境のいいプールで思う存分、練習したかったという理由もあった。
練習を終えて碧の部屋へ行くと、彼はたいてい原稿と戦っていた。月刊連載というのは思ったよりも大変らしく、いつ見ても碧は新しい話を書いているか、もしくは自分が書いた原稿を手直ししていた。編集部から送られてくるという原稿には常に校正者の指示である青字がいくつも並んでおり、時には欄外にはみ出すようにして長い指摘や意見が書き込まれていることもあった。碧は寝る時間を削って、それらの指摘を丁寧に拾い、原稿を書き直していた。
「すまない。今は手が離せなくて」
いつしか、それが碧の口癖になっていた。それでも旭陽は構わなかった。一時はすべてを失って、書けないなら命ごと消えようとしていた碧が苦心しながらも原稿に向き合い、執筆をしている姿を見るのが嬉しかったから。
旭陽は自分の部屋で碧の分まで食事を作り、差し入れという名目でよく部屋に上がった。食事を持って行った時だけは、どんなに締切が迫っていても碧は手を止めて一緒に食卓を囲んでくれた。それだけで充分だ。
「あの、小野さんに話があるんすけど」
旭陽が二年生に、碧が四年生へ進級した四月のある日。締切が終わったのを見計らい、旭陽は碧の部屋で夕食の肉じゃがをつつきながら切り出した。
「なんだい、急に改まって」
碧は旭陽の作る肉じゃがを気に入ってくれているようで、いつもおかわりまでしてよく食べてくれる。碧は一年前に出会った頃より肉付きが良くなって、抱きしめた時も骨の感触が気になることが薄れてきた。碧の痩せ方は綺麗というより、不健康そのものだったから、これは目覚ましい進化である。
旭陽は碧が箸を置いてこちらを見たのを確認して、自分も箸を置いた。数ヶ月前から言わなければならないと思いつつ、今日までずるずると引っ張ってきてしまった。もう先延ばしにすることはできない。
「俺、オーストラリアに留学に行くことになりました。今年の六月には日本を発って、九月から向こうの大学で勉強しながら競泳の強化練習に参加することになります」
十二月の大会が終わった後。旭陽と対面した道上が言った。
――俺は、オーストラリアに行く。自分の限界を超えるために、オーストラリアで競泳の強化練習プログラムに参加する。十束、お前は?
あの時はまだ自分がオーストラリアへ行くことなど想像もしていなかったが、その後、水泳部の監督を通じて正式に旭陽の元にも留学の話が持ち込まれた。留学先の大学は、道上と同じで強化練習プログラムにも、同じ日本から来た選手として道上とともに参加するとのことだった。
旭陽はほとんど迷わなかった。ここで留学しなければ、また道上に差を広げられるとすら思っていた。だから二つ返事で「行く」と言ったわけだが――。
「留学するとは言ったけど、俺やっぱり小野さんと離れるのは……」
「僕のことなど気にせず、行けばいいじゃないか」
碧はさして興味もなさそうにそう言うと、箸を持ち、煮崩れる手前のじゃがいもをつまんだ。じゃがいもを頬張り、醤油色に煮込まれた豚バラと米を一緒にかき込む。その姿は旭陽の話を聞いてもなんの感慨もないように見えた。
「小野さんは寂しくないんすか? 俺、帰って来るのは一年半後ですよ? 一年以上も離れるなんて、俺、嫌なんですけど」
「君の夢の障壁となるくらいだったら、僕は今ここで別れることを選択するね」
ご飯を飲み込んだ碧の目は、ちっとも笑っていなかった。本気だ。碧は旭陽の返答次第では、本気で別れようとしている。
「十束くんが日本を離れたくないというのなら、僕がこのアパートを去ろう。君の目の届かないところなら、どこにでも行ってやる」
どうする? と問われて、旭陽は肩を落とした。てっきり留学することを告げたら、寂しいの一言くらい言ってもらえると思っていたのだ。とんだ誤算だった。碧は一時の別れを悲しむどころか、旭陽が行動しないのなら自分から別れてやると息を巻いている。
「わかりました。そこまで言うなら行きますよ……」
「それでいい。最初から僕のことなど気にする必要はなかったのさ」
ちょっとでいいから引き止めてほしかった。そんなこと、口が裂けても言えない。
もそもそと食事を終え、片付けを済ませて旭陽は席を立った。この後も碧は原稿作業を続けるだろうし、仕事の邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
「十束くん」
玄関に向かいかけた旭陽のことを、碧がデスク前に座ったまま呼び止めた。振り返ると碧はモニターを睨み、手は絶えずキーボードを叩き続けている。
「なんですか?」
「明日、予定はあるかい?」
「いや、特にないですけど……」
碧がちらりとこちらを見る。キーボードを叩いていた手が止まった。眼鏡を外し、うんと伸びをする。眼鏡を外した碧の顔は、冷たさが取れて、穏やかに見えた。
「今日は泊まっていくといい」
「え……」
「最近は原稿が忙しくて、その……君との時間もあまり取れていないと思ったから」
碧は目を逸らしながら、早口で言い切った。
玄関に向かいかけていた足をぐるりと方向転換させて、座っている碧に突っ込む。椅子ごとぎゅっと抱きしめると、彼は旭陽の腕の中で「筋肉で潰れる」と文句を言った。
「君が日本を発つまで……なるべく一緒にいよう。そのほうが僕も、仕事が……捗るから」
それが碧のせいいっぱいだと言うことに、旭陽はちゃんと気づいていた。
ますます愛おしさが込み上げてきて、少し肉付きの良くなった碧の身体を持ち上げた。やめろ、と焦ったような声が飛んでくるが気にしない。碧の身体を布団の上にそっと放って、旭陽も隣に寝転がった。
シングルサイズの布団は、男二人で寝るには狭すぎる。けれど、今はその狭さがちょうど良かった。
狭さを理由に旭陽は碧のほうへ肩を寄せると、乱れた黒髪を抱き寄せた。日本を発つまで毎日こうして一緒に寝られたらいいのに、と思いながら。
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