本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用

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辺境小領主になります

馬車の中も天幕の中も快適ですね

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「本当に馬車の中は快適っすね。」
「こら、坊ちゃまの前で。」
「あ、すみません。つい・・・。」
「別にいいさ。そんなに形式ばることもないさ。」
 馬車に入ってきた護衛の騎士が思わず感嘆したことに、隊長、いかにもベテラン、もう引退してもいいのではないかという年齢に近い、大柄な騎士が窘めるのをエバンズ公爵家長男オズワルドは制した。夏の日差しの中、外はかなり蒸し暑いのだが、馬車の中は窓が開いているとは言え、熱くもなく、寒くもなく、心地好いくらいの温度、湿度、そして明るさだった。
「まあ、交代時間がくるまでゆっくり休んでくれ。まあ、茶でも飲め。」
 侍女が慌てて、新しいコップを出して茶を注ぐ。ケトルからコップに注がれた茶は、さっき沸かしたばかりのように湯気をたてていた。熱い茶でも、馬車の中ではちょうどよい温度に感じられた。
「美味いっす。」
 若い騎士は、ほっこりした表情をみせた。
「坊ちゃまのおかげだ。感謝するがいい。」
「は、はい。」
 オズワルドは、エバンズ公爵家、国で一、二を争う大貴族である、の長男である。もちろん正妻の子である。だが、嫡男、跡取りではない。跡取りの座を追われて、その代わりに与えられた辺境の小領地に行く途中である。その馬車には、彼と護衛の騎士の隊長、執事、侍女、雑用係と護衛の騎士4名が交代で、座っていた。馬車の中は極めて素晴らしい環境だ、揺れず、静かで、熱くもなく、寒くもなく、火もかけないのにケトルの中の茶は熱いままで・・・全ては、彼のスキル、箱庭環境操作によるものだった。そして、それがそもそもの、ある意味彼の不運のはじまりだった。 

 この国では、というよりこの世界では、魔法がある。ただ、魔法がつかえるのは、この世界の住人の内、ほんの一部分にすぎない。その中で、貴族がその多数派である、それでも魔法を使えるのは一部にすぎないのではあるが。
 ただ、彼のエバンズ家は武門の家柄として代々剣聖または剣神の魔法スキルを持っていた。ちなみに、剣士という魔法スキルと剣聖では後者の方が上だが、努力や才能により伸びるレベルが前者の方がずっと高ければ、後者を上回る場合も多い。とはいうものの、スキルは、一生変わらないから、努力の結果が同じなら、後者の方が優れている、前者が勝てる可能性はほとんどないのである。
 そして、剣神のスキルを得たのが次男だった。三男は開拓、第四子の長女は大魔導士、第5子の二女は聖女だった。必ずしも、魔法スキルの優劣で、あるいは有無で王位、爵位が決まるわけではない。貴族は戦いが本来の役割だから剣聖、剣神などが重要ではあるが、銃砲があり、集団戦となっている時代であるから、その保有は必ずしも必要ない。とはいえ、ないよりあった方が、色々な意味で、いいに決まっているというところである。他方、貴族の軍事的役割は、昔より小さくなってきている。
 では、エバンス家はどうかというと、特に武門の家柄ということで、剣神、剣聖のスキルの保有が重視されているし、それを誇りにしている。だから、剣神となった次男が、次期当主となり、長男であるオズワルドはエバンス公爵家領の辺境の地の小領主ということになったのである、長男であるにも拘わらず。
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