本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用

文字の大きさ
4 / 31
辺境小領主になります

侍女も元婚約者もついてきてくれません➁

しおりを挟む
「は?」
 彼女は1歳下だが、彼の子供時代から彼付きの侍女として仕え、彼にとっては肉親以上に親しい、信頼していた存在であり、彼に真摯に尽くしてくれた。それだけではなく、彼も彼女のことを大切にしていた。彼と彼女の関係は非常によく、他の使用人、家臣からも羨ましがられるとともに関係を噂されたほどだった。長身の見事な黒髪どうしの似合いの2人であり、侍女とはいえしっかりした、知的な面持ちの美人であり、やや大振りの胸、決して巨乳ではない、は彼の好みそのものだったが、男女の関係は何となく持たなかった。
 自分の側に当然いる彼女であったから、彼女が彼に与えられた領地に侍女としてついて来るものだと信じ込んでいた、というより当然側に居続けると思い込んでいたのだ。だから、かなり動揺して、言葉が出てこなかった。
「年老いた両親から、そのような遠いところに行かれては心細いと言われ・・・。」
と彼女は弁解めいたことを言ったが、彼は長年の付き合いから、嘘だと確信した。両親の心配など、彼女は言ったことがなかったからだ。もし、本当ならもっと早く言い出したろう、と思った。
「俺を裏切るのか?」
と大声がでそうになったが、それを何とか抑え、
「わかった。しかし、急にお前にいなくなられると・・・困った。」
 せめて、あちらでの生活が一段落してから、特別俸給も出して帰してやるからとでも言おうかと彼は思ったが、間髪を入れずに、
「申し訳ありません。」
と頭を下げて背を向けていってしまった。一瞬見えた表情には、今まで見たことのない冷たさがあった。その表情に鳥肌が立った。

 彼女が部屋を出ると、思わず、
「みんな、みんな、俺のことを馬鹿にして、悪者にしやがって。」
と怒鳴り、持っていたものを床に叩きつけようとした。が、
「彼女は侍女としてちゃんと仕えてくれたのは、仕事だからな。しかも、次期領主にたいしてだよな。もう俺はそうではなくなったわけだし、辺境なんて行きたくないよな。王都ほどではないが、ここは華やかで過ごしやすいしな。俺との関係が終われば、彼女にとっては他人に過ぎないんだものな。仕方がないか。あいつへの餞別の品でも考えないとな。」
と独り言を言いながら、彼女との楽しい記憶を思い起こした。
 その時、
「相変わらずの性格ね。」
と言って彼女は背を向けて去って行った。彼女は、彼が怒鳴った言葉は聞いたが、その後の言葉は聞かなかった。
 連れて行く侍女がいなくなって困ったオズワルドだったが、新しい領地の近くに出身地の侍女がいたため、彼女が当面彼に仕えることとなった。

 代りがないのは、婚約者だった。こちらは、侯爵家の令嬢で子供の頃に当人達の意思とは関係なく婚約がきめられていたのであるが、彼女は双剣聖のスキルがあった。長身で黒髪、大ぶり、巨乳ではない、少しきついが知的で気品ある顔立ちで、スラリともしている、彼好みのびじんだった。彼と彼女との関係は良かった。彼のスキルについて、彼女は励ますことすらあったが、馬鹿にする、失望したというところは見せなかった。彼としては、次期公爵家の次期当主でなくなったら、彼女との婚約は破棄になるだろうが、彼女が悲しまないでほしいものだ、と思っていたほどだった。
 が、彼女自ら婚約破棄を言い渡しに来たのだ。
「私は、あなたを好きだったことはありませんでした。」
と面と向かって、彼が今まで見たこともない、冷たい、見下したような目だった。初めて彼は彼女が、公爵となる人物の婚約者であるという考えていたこと、だから次期当主であった頃は自分の婚約者に相応しい態度をとっていた、彼が次期当主でなくなった以上、それはなくなったということに気が付いた。
「分かったよ。それならやむを得ないな。今までありがとう。」
と言うしかなかったが、
「少しでも怒る覇気もないのですね。前からわかっていましたけど・・・。逆境を跳ねのける努力もせず・・・、本当はユーシス様のことを・・・私は・・・。」
と捨て台詞のように言って背を向けて行ってしまった。ユーシスは、エバンス公爵の次男で、オズワルドに代わって次期当主となった男である。見事な金髪の美男の剣聖でもある。
 もちろん、オズワルドは、
「糞馬鹿女。浮気者め。」
と一旦は怒鳴ったが、すぐ後に、
「まあ、仕方がないか。彼女も家を背負っているのだから・・・。」
と思い直した。
「大体、ついて行きます、なんて言われたらお互い困ったことになるしな。これで良かったんだ。」
と結論することにした。全ては諦めるしかない、これからどうするかを考えた方がいい、と半ば現実逃避して思ったオズワルドだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。 そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。 二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。 やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。 そんな彼女にとっての母の最期は。 「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。 番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。

一流冒険者トウマの道草旅譚

黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。 しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。 そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。

処理中です...