男女比1:50の世界に転生したけど、前世の感覚で普通に接してたら幼馴染も姉妹もお嬢様もみんな沼にハマっていった件 ~ダンジョンにも潜ります〜

メトト

文字の大きさ
12 / 29
ダンジョン・ロマンティカ

第12話「それぞれの選択」

しおりを挟む
---

 十二歳。六年生の冬。

 卒業が近づくにつれ、教室の空気が少しずつ変わっていた。

 中学の進路。この世界では、男子の進路は大きなニュースになる。蓮がどの中学に進むのか――クラスどころか学校全体が注目していた。

「れんくん、私立受けるの?」

「うちの中学来てよ!」

「蓮、どこ行くの? 一緒のとこがいい!」

 毎日のように聞かれる。正直、まだ決めていなかった。

 母さんは「れんの好きなところでいい」と言ってくれている。ただ、経済的に私立は厳しい。公立の地元中学が現実的な選択肢だった。

 そんな中、各方面から声がかかっていた。

---

 最初に動いたのは鷹司家だった。

 十一月、沙耶から分厚い封筒が届いた。中には私立聖蘭学院の案内パンフレットと、沙耶の手紙。

『蓮へ。
 聖蘭学院は鷹司家が理事を務める中高一貫校です。学費は鷹司家が負担します。遠慮しないで。わたしも紫月もここに通っています。
 あなたが来てくれたら嬉しい。
 鷹司沙耶
 追伸:これはわたし個人のお願いです。鷹司家の意向ではありません。おばあさまには、わたしから話をしました。』

 別便で紫月からも手紙が来た。

『聖蘭に来なさい。道場の設備は最高よ。あと、わたしの稽古相手が遠くなると困るの。……それだけ。変な意味はないわ。追伸:沙耶がそわそわしてうっとうしいから、早く返事しなさい。』

 学費を鷹司家が。その申し出の重さは分かっている。「男の子を囲い込む」と見る向きもあるだろう。でも、沙耶の手紙に打算の匂いはなかった。

---

 次に動いたのは玲奈だった。

「日向」

 十二月のある日、放課後の教室で。玲奈が一枚の書類を俺の机に置いた。

「何これ」

「神楽坂グループ奨学生制度の案内。成績上位者に学費全額免除で中高一貫校への進学を支援する制度よ。あんたの成績なら通るわ」

「……玲奈が推薦してくれるの?」

「わたしは関係ないわ。制度はもともとあるの。……たまたま案内しただけ」

 玲奈はそっぽを向いた。

「ちなみに対象校の中に聖蘭学院も入ってるから。鷹司に借りを作りたくないなら、こっちの方がいいでしょ」

 鷹司家の好意は嬉しいが、学費を丸ごと負担してもらうのは確かに気が引ける。奨学生なら、実力で勝ち取ったことになる。

「……玲奈、ありがとう」

「感謝しないで。あんたが近くにいた方が研究ノートの更新に便利だから」

 便利、ね。最近の玲奈は「便利」「効率」「合理的」を理由にすることが多いが、その理由が毎回俺と一緒にいる方向を向いているのは気のせいだろうか。

---

 楓と理緒にも相談した。

「おれ、聖蘭学院を奨学生で受けようと思う」

 放課後の図書室。五人が揃う場所。

「聖蘭って、あのお嬢様学校? すげー!」

 楓が目を輝かせた。

「わたしは地元の中学だけど、蓮が聖蘭に行っても研究ノートは続けようね!」

「もちろん」

 理緒は少し寂しそうに眼鏡を直した。

「わたしも地元の中学です。……でも、蓮くんが遠くに行くわけじゃないですし、週末は会えますよね」

「当然。図書室での勉強会も続けよう」

「……はい」

 理緒は小さく微笑んだ。でも、その目が潤んでいるのを俺は見逃さなかった。

 雫は、黙っていた。

「しずく?」

「……わたしも、聖蘭を受ける」

 全員の目が雫に集まった。

「えっ、しずくちゃん、聖蘭って結構難しいんじゃ……」

「分かってる。でも、受ける」

 雫の目は、あの屋上の日と同じだった。静かな決意。

「れんくんの隣にいるって決めたの。だから、同じ学校に行く」

「しずく、でも学費――」

「お母さんに相談した。塾には行けないけど、自分で勉強するって約束した」

 雫の母親は、翻訳の仕事を掛け持ちしている。裕福ではない。聖蘭の学費は安くないはずだ。

「しずくにも奨学生制度のこと教えるよ。玲奈、もう一部あるか?」

 玲奈が一瞬驚いた顔をして、それからかばんの中から予備の書類を取り出した。

「……最初から二部持ってきてたの?」

「たまたま余ってただけよ」

 たまたま、ね。玲奈は雫が動くことを予想していたのかもしれない。

---

 家に帰ると、結月がリビングで宿題をしていた。

 十歳。小学四年生。幼い頃の甘えん坊は影を潜め、最近はしっかりした面も見せるようになった。でも、俺の前では相変わらず「にいに」だ。

「にいに、おかえり」

「ただいま。宿題がんばってるな」

「うん。……ねえ、にいに」

「ん?」

 結月が鉛筆を置いて、こちらを見た。いつもの無邪気な目とは少し違う、真剣な表情。

「にいに、中学どこ行くの?」

「聖蘭学院ってところを受けようと思ってる。電車で三十分くらいのところ」

「……遠いの?」

「ちょっとだけね。でも毎日帰ってくるよ」

「…………」

 結月は黙って、テーブルの上の消しゴムをいじった。何かを言いたそうにして、でも言えない。そんな顔。

「ゆづき?」

「……にいに、お願いがあるの」

 結月が、俺に「お願い」をするのは初めてだった。

 この子はいつも「にいに大好き!」と笑って、粘土をくれて、抱きついてきて。欲しいものも、して欲しいことも、全部ストレートに言う子だった。「お願い」なんて改まった言い方はしない。

 だから、その一言だけで、真剣さが伝わった。

「うん。何?」

 結月は消しゴムを握りしめて、小さな声で言った。

「ゆづきが中学になったら……にいにと同じ学校に行ってもいい?」

「……え?」

「ゆづきも勉強がんばるから。にいにみたいに頭よくなるから。だから……二年待ってて」

 十歳の妹が、二年後の進路を宣言している。

「聖蘭は中高一貫だから、にいにまだいるでしょ? だから、ゆづきも聖蘭行く。にいにと一緒の学校がいい」

 目が潤んでいた。でも、泣かない。歯を食いしばって、俺をまっすぐに見ている。

「……ゆづき」

「ゆづきね、にいにがダンジョン行くの、ほんとはこわいの。でも、にいにの夢だから、だめって言わない。ゆづきが言っていいことじゃないから」

 十歳にしては達観した言葉。いつの間に、こんなに大人になったんだ。

「でも、近くにはいたいの。にいにのそばにいたいの。……だめ?」

「だめなわけないだろ」

 結月の頭を撫でた。ふわふわの髪。小さい頃から変わらない感触。

「二年待ってる。ゆづきが来てくれたら、めちゃくちゃ嬉しい」

「――っ」

 結月の目から、涙がぽろりとこぼれた。

「やくそく……!」

「約束」

 小指を絡めた。四歳の頃から何度も交わしてきた指切り。でも今回は、結月の指の力がいつもより強かった。

---

 その夜。

 二階の自室で、聖蘭学院の過去問を開いた。

 奨学生試験まであと二ヶ月。楽な道じゃない。でも、行く理由はいくらでもある。

 沙耶と紫月がいる。玲奈がいる。雫も受ける。三年後には結月も来る。

 ダンジョンに潜れる十八歳まで、あと六年。

 仲間がいて、目標があって、待っていてくれる人がいる。

「……やるか」

 鉛筆を握り直した。

 窓の外で、冬の星がひとつ瞬いた。

---

 第12話 了
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。

楽園
恋愛
「将来、あなたのお嫁さんになりたい」 10年前、俺は魔法の力で一人の少女を救った。 ……そして現在。ここは男女比5:1の女尊男卑の世界。 男は女に「選ばれる」ためだけの存在する。   俺、アルトは、前世の記憶と女でさえ持っていない無限の魔力を隠し、父と静かに暮らす「モブ」になるはずだった。 「待っていましたわ、アルト」 学園で再会したあの時の少女は、驚くべきことにリリアーナ王女だった。 どうやら彼女、あの日の「約束」を本気で果たしに来たらしい。 (俺の平穏なモブ生活が……!) 最強を隠したい男と、その秘密ごと彼を手に入れたい王女の、すれ違い学園ファンタジー!

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

処理中です...