13 / 29
ダンジョン・ロマンティカ
第13話「もう一人の男子」
しおりを挟む
---
十三歳。中学一年生の四月。
聖蘭学院の正門は、小学校のそれとはスケールが違った。
蔦の絡まる石造りの門柱。桜並木のアプローチ。奥に見える時計塔のある校舎は、学校というより古い洋館だ。鷹司家が理事を務めるだけあって、隅々まで品格が行き渡っている。
奨学生試験は合格した。雫も、僅差で滑り込んだ。合格発表の日、雫が電話口で泣いていたのを覚えている。「よかった……れんくんと、同じ……」と、それだけ繰り返していた。
真新しい制服に袖を通す。紺色のブレザーに、エンジのネクタイ。鏡を見ると、少しだけ大人になった自分がいた。
「にいに、かっこいー!」
結月が目を輝かせている。十一歳になった妹は「二年後、絶対にここに来る」と毎日のように宣言している。勉強も本当に頑張っているらしく、最近のテストは常に学年上位だ。
りんねえは中学三年生。地元の公立中学に進んだ。今朝は先に家を出ていたが、玄関に手紙が置いてあった。
『れんくんへ。中学おめでとう。離れても、わたしはずっとれんくんのお姉ちゃんだから。追伸:鷹司の二人に気をつけて。追追伸:神楽坂さんにも。追追追伸:天宮さんにも。……結局全員じゃないかと自分でも思いました。いってらっしゃい。』
りんねえ、自覚あったんだ。
---
校門をくぐると、すぐに見つけた。
桜の木の下に、沙耶が立っていた。
聖蘭の制服は女子も紺色のブレザーだが、沙耶が着ると不思議と和の雰囲気が出る。黒髪を下ろしたその姿は、桜に溶け込むように美しかった。
「……おはよう、蓮」
「おはよう。待っててくれたの?」
「たまたま。……たまたま、早く着いただけ」
沙耶の「たまたま」は信用できない。靴がぴかぴかだし、髪もいつもより丁寧に整えられている。
「案内するわ。教室はこっち」
沙耶と並んで歩き出す。周囲の新入生たちの視線が集まる。「男の子がいる」「鷹司さんと一緒に歩いてる」と囁き声が広がっていく。
「蓮!」
背後から、力強い足音。振り返ると紫月が走ってきた。制服の上からでも分かるほどに鍛えられた身体。剣道部のバッグを肩にかけている。
「遅い。わたしの方が先に着いてたのに、沙耶に取られた」
「取ってないわ。わたしが先に見つけただけ」
「同じことよ」
早速始まった。入学式の朝から鷹司家の二人に挟まれるのは、壮観というか、周りの生徒の目が怖い。
「お二人とも、落ち着いて。とりあえず教室行こう」
「わたしが案内する」
「わたしが先に声をかけたの」
「じゃあ二人で案内してくれ」
結局、左に沙耶、右に紫月。小学校の入学式を姉妹に挟まれて歩いた日を思い出した。
---
一年A組。
教室に入ると、雫と玲奈がすでにいた。
雫は窓際の席で、緊張した面持ちで座っている。俺を見つけた瞬間、表情がぱっと明るくなった。
「れんくん……! おはよう」
「おはよう、しずく。同じクラスだったな」
「うん……。また隣の席だといいな」
玲奈は教室の後ろの方で腕を組んでいた。
「おはよう、玲奈」
「……おはよう。その制服、サイズ合ってないわよ。袖が長い」
「成長を見越して大きめにしたんだよ」
「だらしないわ。……放課後、お直しの店を教えてあげる」
朝から世話焼きだ。本人は絶対に認めないが。
席順は出席番号順で、雫の隣にはなれなかった。雫は少し残念そうだったが、「休み時間にお弁当一緒に食べようね」とすぐに切り替えた。強くなったな、と思った。
---
入学式が終わり、HRが始まった。
担任の自己紹介の後、恒例の生徒自己紹介。一人ずつ立って、名前と趣味を言っていく。
俺の番が来た。
「日向蓮です。趣味はダンジョン関連の本を読むことと、走ることと、剣道です。よろしくお願いします」
教室がどよめいた。男子の自己紹介というだけで注目されるが、「ダンジョン」という単語が更に波紋を広げた。
一通り自己紹介が進み、最後から二番目の生徒が立った時。
空気が変わった。
「柊 奏太(ひいらぎ そうた)です。よろしくお願いします」
男だった。
教室がざわつく。俺も驚いた。聖蘭学院にもう一人、男子がいる。
柊奏太。線の細い身体に、柔らかな栗色の髪。伏し目がちな瞳。声は小さくて、自己紹介の間ずっと手元のプリントを見ていた。趣味はピアノと読書。
――この世界の「典型的な男子」だ。
おとなしくて、控えめで、自分から前に出ない。大勢の女子に囲まれることに慣れていなくて、萎縮している。前世の記憶を持たない、「普通の」男の子。
自己紹介が終わると、奏太の周りにも女子が集まった。当然だ。男子が二人もいるクラスは珍しい。
でも、奏太は明らかに怯えていた。「あ、あの……すみません……」と小さくなっている。
「おい」
俺は立ち上がって、奏太の方に向かった。
「日向蓮。よろしく、柊」
手を差し出す。奏太がびくっと肩を震わせた。
「えっ……あ、は、はい……よろしく、お願いします……」
おずおずと手を握り返してきた。手が震えている。
「同じクラスに男子が二人って珍しいな。心強いよ」
「あ……うん……。ぼ、僕も、男の子がいて、ほっとした……」
小さく笑った。その笑顔には、安堵があった。
この子は、ずっと「男」であることの重圧を一人で背負ってきたのだろう。大切にされすぎて、守られすぎて、自分から動けなくなった男の子。前世の記憶を持たない俺が、この世界でこうなっていたかもしれない姿。
---
昼休み。
奏太が一人で弁当を食べているのを見つけて、声をかけた。
「一緒に食べない?」
「え……いいの?」
「当然。こっち来なよ、友達を紹介する」
雫と玲奈のところに連れていく。雫は「はじめまして」と穏やかに微笑み、玲奈は「ふうん」と一瞥しただけだった。
奏太は最初こそ緊張していたが、雫の落ち着いた雰囲気に少しずつほぐれていった。
「柊くん、ピアノが好きなんだよね。何の曲を弾くの?」
「えっと……ショパンとか、ドビュッシーとか……」
「素敵。わたし、音楽は詳しくないけど、聴いてみたいな」
雫と奏太の会話は自然だった。二人とも穏やかな性格だから、波長が合うのだろう。
その光景を見ていて、ふと気づいた。
雫は奏太に優しい。丁寧に接している。でも――距離が違う。
俺と話す時の雫と、奏太と話す時の雫。声のトーンが違う。目の輝きが違う。身体の向きが違う。
雫自身が気づいているかは分からない。でも、傍から見れば一目瞭然だった。
玲奈も同じだった。奏太に対しては普通に、それこそこの世界の女性が男性に対して取る丁寧な態度で接している。でも俺に対しては相変わらず「あんた」呼ばわりで、毒舌で、素直じゃない。
つまり――玲奈にとって、男だから特別なんじゃない。俺だから特別なのだ。
その事実に気づいた瞬間、少しだけ心臓が跳ねた。前世の記憶があるくせに、こういう感覚には鈍い。
---
放課後。
沙耶と紫月が教室まで迎えに来た。二年生の教室は別棟なのに、わざわざ。
「蓮、帰り道に新しいパン屋ができたの。寄っていかない?」
「わたしは道場に行くけど、蓮も来るでしょう。今日は稽古の日よ」
沙耶と紫月が同時に誘ってきて、一瞬で空気が冷えた。
その時、教室の後ろから奏太が小さく声をかけてきた。
「あの……日向くん、明日も一緒にお昼、食べていい……?」
「もちろん。明日な、柊」
奏太がほっとした顔で頷いた。
沙耶がそれを見て、少しだけ目を細めた。
「蓮、あの子は?」
「同じクラスの柊奏太。男子」
「……そう」
沙耶の声は平静だった。でも、その平静さが逆に怖い。
紫月は奏太をちらりと見て、すぐに興味を失ったように視線を戻した。
「ふうん。大人しそうな子ね。……蓮とは全然違う」
「そうか?」
「全然違うわ。蓮は……蓮だけよ」
紫月はそれだけ言って、道場の方へ歩き出した。
「蓮だけ」。その言葉が、妙に耳に残った。
---
帰り道。
一人で電車に乗り、地元の駅で降りる。聖蘭は電車通学だから、りんねえの送り迎えはなくなった。少し寂しい。
家に着くと、結月が宿題をしていた。最近の定位置だ。
「にいに、おかえり! 中学校どうだった?」
「楽しかったよ。同じクラスにもう一人男子がいてさ」
「えっ、にいに以外にも男の子いるの?」
「うん。柊奏太って子。ピアノが上手いらしい」
「ふうん……」
結月は鉛筆を回しながら、首を傾げた。
「その子、にいにと仲良くなるの?」
「まあ、友達にはなるだろうな」
「……にいにに男の友達ができるの、なんか変な感じ」
「そうか?」
「だって、にいにの周りっていっつも女の子ばっかりだったから。……ちょっと安心かも」
「安心?」
「女の子ばっかりだと、にいにを取り合いになるでしょ。男の友達なら取り合いにならないから」
十一歳の洞察力が鋭すぎる。
「ゆづきは取り合いとか気にするのか」
「当然。ゆづきはにいにの妹だもん。にいにのいちばんの席は、ゆづきのものだもん」
天真爛漫な笑顔でとんでもないことを言う。この妹、将来が怖い。
「……いちばんの席かあ」
「そうだよ。誰にも渡さないんだから」
結月はにこにこ笑いながら宿題に戻った。
姉も妹も、友達も、お嬢様も。みんなが「蓮の一番」を求めている。
前世の記憶がなければ、この状況に気づきもしなかったかもしれない。でも、気づいている。気づいていて、答えを出せずにいる。
――十八歳まで、あと五年。
まずはダンジョンだ。それだけは、揺るがない。
それ以外のことは……もう少しだけ、先延ばしにさせてくれ。
---
第13話 了
十三歳。中学一年生の四月。
聖蘭学院の正門は、小学校のそれとはスケールが違った。
蔦の絡まる石造りの門柱。桜並木のアプローチ。奥に見える時計塔のある校舎は、学校というより古い洋館だ。鷹司家が理事を務めるだけあって、隅々まで品格が行き渡っている。
奨学生試験は合格した。雫も、僅差で滑り込んだ。合格発表の日、雫が電話口で泣いていたのを覚えている。「よかった……れんくんと、同じ……」と、それだけ繰り返していた。
真新しい制服に袖を通す。紺色のブレザーに、エンジのネクタイ。鏡を見ると、少しだけ大人になった自分がいた。
「にいに、かっこいー!」
結月が目を輝かせている。十一歳になった妹は「二年後、絶対にここに来る」と毎日のように宣言している。勉強も本当に頑張っているらしく、最近のテストは常に学年上位だ。
りんねえは中学三年生。地元の公立中学に進んだ。今朝は先に家を出ていたが、玄関に手紙が置いてあった。
『れんくんへ。中学おめでとう。離れても、わたしはずっとれんくんのお姉ちゃんだから。追伸:鷹司の二人に気をつけて。追追伸:神楽坂さんにも。追追追伸:天宮さんにも。……結局全員じゃないかと自分でも思いました。いってらっしゃい。』
りんねえ、自覚あったんだ。
---
校門をくぐると、すぐに見つけた。
桜の木の下に、沙耶が立っていた。
聖蘭の制服は女子も紺色のブレザーだが、沙耶が着ると不思議と和の雰囲気が出る。黒髪を下ろしたその姿は、桜に溶け込むように美しかった。
「……おはよう、蓮」
「おはよう。待っててくれたの?」
「たまたま。……たまたま、早く着いただけ」
沙耶の「たまたま」は信用できない。靴がぴかぴかだし、髪もいつもより丁寧に整えられている。
「案内するわ。教室はこっち」
沙耶と並んで歩き出す。周囲の新入生たちの視線が集まる。「男の子がいる」「鷹司さんと一緒に歩いてる」と囁き声が広がっていく。
「蓮!」
背後から、力強い足音。振り返ると紫月が走ってきた。制服の上からでも分かるほどに鍛えられた身体。剣道部のバッグを肩にかけている。
「遅い。わたしの方が先に着いてたのに、沙耶に取られた」
「取ってないわ。わたしが先に見つけただけ」
「同じことよ」
早速始まった。入学式の朝から鷹司家の二人に挟まれるのは、壮観というか、周りの生徒の目が怖い。
「お二人とも、落ち着いて。とりあえず教室行こう」
「わたしが案内する」
「わたしが先に声をかけたの」
「じゃあ二人で案内してくれ」
結局、左に沙耶、右に紫月。小学校の入学式を姉妹に挟まれて歩いた日を思い出した。
---
一年A組。
教室に入ると、雫と玲奈がすでにいた。
雫は窓際の席で、緊張した面持ちで座っている。俺を見つけた瞬間、表情がぱっと明るくなった。
「れんくん……! おはよう」
「おはよう、しずく。同じクラスだったな」
「うん……。また隣の席だといいな」
玲奈は教室の後ろの方で腕を組んでいた。
「おはよう、玲奈」
「……おはよう。その制服、サイズ合ってないわよ。袖が長い」
「成長を見越して大きめにしたんだよ」
「だらしないわ。……放課後、お直しの店を教えてあげる」
朝から世話焼きだ。本人は絶対に認めないが。
席順は出席番号順で、雫の隣にはなれなかった。雫は少し残念そうだったが、「休み時間にお弁当一緒に食べようね」とすぐに切り替えた。強くなったな、と思った。
---
入学式が終わり、HRが始まった。
担任の自己紹介の後、恒例の生徒自己紹介。一人ずつ立って、名前と趣味を言っていく。
俺の番が来た。
「日向蓮です。趣味はダンジョン関連の本を読むことと、走ることと、剣道です。よろしくお願いします」
教室がどよめいた。男子の自己紹介というだけで注目されるが、「ダンジョン」という単語が更に波紋を広げた。
一通り自己紹介が進み、最後から二番目の生徒が立った時。
空気が変わった。
「柊 奏太(ひいらぎ そうた)です。よろしくお願いします」
男だった。
教室がざわつく。俺も驚いた。聖蘭学院にもう一人、男子がいる。
柊奏太。線の細い身体に、柔らかな栗色の髪。伏し目がちな瞳。声は小さくて、自己紹介の間ずっと手元のプリントを見ていた。趣味はピアノと読書。
――この世界の「典型的な男子」だ。
おとなしくて、控えめで、自分から前に出ない。大勢の女子に囲まれることに慣れていなくて、萎縮している。前世の記憶を持たない、「普通の」男の子。
自己紹介が終わると、奏太の周りにも女子が集まった。当然だ。男子が二人もいるクラスは珍しい。
でも、奏太は明らかに怯えていた。「あ、あの……すみません……」と小さくなっている。
「おい」
俺は立ち上がって、奏太の方に向かった。
「日向蓮。よろしく、柊」
手を差し出す。奏太がびくっと肩を震わせた。
「えっ……あ、は、はい……よろしく、お願いします……」
おずおずと手を握り返してきた。手が震えている。
「同じクラスに男子が二人って珍しいな。心強いよ」
「あ……うん……。ぼ、僕も、男の子がいて、ほっとした……」
小さく笑った。その笑顔には、安堵があった。
この子は、ずっと「男」であることの重圧を一人で背負ってきたのだろう。大切にされすぎて、守られすぎて、自分から動けなくなった男の子。前世の記憶を持たない俺が、この世界でこうなっていたかもしれない姿。
---
昼休み。
奏太が一人で弁当を食べているのを見つけて、声をかけた。
「一緒に食べない?」
「え……いいの?」
「当然。こっち来なよ、友達を紹介する」
雫と玲奈のところに連れていく。雫は「はじめまして」と穏やかに微笑み、玲奈は「ふうん」と一瞥しただけだった。
奏太は最初こそ緊張していたが、雫の落ち着いた雰囲気に少しずつほぐれていった。
「柊くん、ピアノが好きなんだよね。何の曲を弾くの?」
「えっと……ショパンとか、ドビュッシーとか……」
「素敵。わたし、音楽は詳しくないけど、聴いてみたいな」
雫と奏太の会話は自然だった。二人とも穏やかな性格だから、波長が合うのだろう。
その光景を見ていて、ふと気づいた。
雫は奏太に優しい。丁寧に接している。でも――距離が違う。
俺と話す時の雫と、奏太と話す時の雫。声のトーンが違う。目の輝きが違う。身体の向きが違う。
雫自身が気づいているかは分からない。でも、傍から見れば一目瞭然だった。
玲奈も同じだった。奏太に対しては普通に、それこそこの世界の女性が男性に対して取る丁寧な態度で接している。でも俺に対しては相変わらず「あんた」呼ばわりで、毒舌で、素直じゃない。
つまり――玲奈にとって、男だから特別なんじゃない。俺だから特別なのだ。
その事実に気づいた瞬間、少しだけ心臓が跳ねた。前世の記憶があるくせに、こういう感覚には鈍い。
---
放課後。
沙耶と紫月が教室まで迎えに来た。二年生の教室は別棟なのに、わざわざ。
「蓮、帰り道に新しいパン屋ができたの。寄っていかない?」
「わたしは道場に行くけど、蓮も来るでしょう。今日は稽古の日よ」
沙耶と紫月が同時に誘ってきて、一瞬で空気が冷えた。
その時、教室の後ろから奏太が小さく声をかけてきた。
「あの……日向くん、明日も一緒にお昼、食べていい……?」
「もちろん。明日な、柊」
奏太がほっとした顔で頷いた。
沙耶がそれを見て、少しだけ目を細めた。
「蓮、あの子は?」
「同じクラスの柊奏太。男子」
「……そう」
沙耶の声は平静だった。でも、その平静さが逆に怖い。
紫月は奏太をちらりと見て、すぐに興味を失ったように視線を戻した。
「ふうん。大人しそうな子ね。……蓮とは全然違う」
「そうか?」
「全然違うわ。蓮は……蓮だけよ」
紫月はそれだけ言って、道場の方へ歩き出した。
「蓮だけ」。その言葉が、妙に耳に残った。
---
帰り道。
一人で電車に乗り、地元の駅で降りる。聖蘭は電車通学だから、りんねえの送り迎えはなくなった。少し寂しい。
家に着くと、結月が宿題をしていた。最近の定位置だ。
「にいに、おかえり! 中学校どうだった?」
「楽しかったよ。同じクラスにもう一人男子がいてさ」
「えっ、にいに以外にも男の子いるの?」
「うん。柊奏太って子。ピアノが上手いらしい」
「ふうん……」
結月は鉛筆を回しながら、首を傾げた。
「その子、にいにと仲良くなるの?」
「まあ、友達にはなるだろうな」
「……にいにに男の友達ができるの、なんか変な感じ」
「そうか?」
「だって、にいにの周りっていっつも女の子ばっかりだったから。……ちょっと安心かも」
「安心?」
「女の子ばっかりだと、にいにを取り合いになるでしょ。男の友達なら取り合いにならないから」
十一歳の洞察力が鋭すぎる。
「ゆづきは取り合いとか気にするのか」
「当然。ゆづきはにいにの妹だもん。にいにのいちばんの席は、ゆづきのものだもん」
天真爛漫な笑顔でとんでもないことを言う。この妹、将来が怖い。
「……いちばんの席かあ」
「そうだよ。誰にも渡さないんだから」
結月はにこにこ笑いながら宿題に戻った。
姉も妹も、友達も、お嬢様も。みんなが「蓮の一番」を求めている。
前世の記憶がなければ、この状況に気づきもしなかったかもしれない。でも、気づいている。気づいていて、答えを出せずにいる。
――十八歳まで、あと五年。
まずはダンジョンだ。それだけは、揺るがない。
それ以外のことは……もう少しだけ、先延ばしにさせてくれ。
---
第13話 了
56
あなたにおすすめの小説
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。
楽園
恋愛
「将来、あなたのお嫁さんになりたい」
10年前、俺は魔法の力で一人の少女を救った。
……そして現在。ここは男女比5:1の女尊男卑の世界。
男は女に「選ばれる」ためだけの存在する。
俺、アルトは、前世の記憶と女でさえ持っていない無限の魔力を隠し、父と静かに暮らす「モブ」になるはずだった。
「待っていましたわ、アルト」
学園で再会したあの時の少女は、驚くべきことにリリアーナ王女だった。
どうやら彼女、あの日の「約束」を本気で果たしに来たらしい。
(俺の平穏なモブ生活が……!)
最強を隠したい男と、その秘密ごと彼を手に入れたい王女の、すれ違い学園ファンタジー!
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる