男女比1:50の世界に転生したけど、前世の感覚で普通に接してたら幼馴染も姉妹もお嬢様もみんな沼にハマっていった件 ~ダンジョンにも潜ります〜

メトト

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ダンジョン・ロマンティカ

第29話「卒業と、二人目」

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 紫月と俺の関係は、三日で全員に知れ渡った。

 隠すつもりはなかった。紫月も隠す気がなかった。むしろ、翌日の朝練から俺の腕を堂々と取って歩き、管理施設の全員の前で「わたしと蓮は付き合ってます。文句がある人は剣で受けるわ」と宣言した。

 文句を言える人間はいなかった。物理的に。

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 反応は、それぞれだった。

 楓は目を丸くした後、「え、えーっと、おめでとう!」と明るく言った。でも、その夜のメッセージは違った。

『蓮、おめでとう。紫月ちゃん、かっこいいよね。……あのさ、わたし最近よく分かんないんだけど、蓮が他の女の子と付き合ったって聞くと、胸がぎゅってなるの。これって何だろう。……ごめん、変なこと聞いたね。忘れて!』

 忘れられるわけがない。楓がようやく自分の感情に気づき始めている。

 玲奈は「ふうん」の一言だった。だが、その日一日、俺と目を合わせなかった。翌日には普通に戻っていたが、少しだけ毒舌の切れ味が増した気がする。

 雫は「おめでとう、蓮くん」と微笑んだ。穏やかな笑顔。でも、その後一人で屋上にいるのを見た。何かを考え込んでいた。

 理緒は通信越しに「そ、そうですか。おめでとうございます」と言った後、十秒ほど沈黙し、「あの、白い植物の論文翻訳が完了したので送りますね」と話題を変えた。

 結月からはメッセージ一通。

『蓮にい、紫月さんとつきあってるの? ゆづきは知ってたよ。……蓮にいが幸せならいいけど。でもゆづきの席はなくならないよね? なくならないよね???』

 疑問符が増えていくのが怖い。

 りんねえは電話をかけてきた。

「……れんくん」

「うん」

「紫月ちゃんと付き合うのは、いいと思う。あの子は強いし、れんくんを守れる」

「ありがとう、りんねえ」

「でもね」

 りんねえの声が低くなった。

「お姉ちゃんには、報告が遅い」

「ごめんなさい」

「三日って何? 三日前に付き合い始めて、わたしに言うのが三日後って何?」

「本当にごめんなさい」

「……次からは、一番に教えて」

 一番に。その言葉の重さを、俺は受け止めた。

---

 そして、沙耶。

 沙耶だけが、何も言わなかった。

 紫月との関係を知っても、表情一つ変えなかった。いつも通り穏やかに微笑み、いつも通りチームの指揮を執り、いつも通り俺の隣を歩いた。

 でも、指先が俺の袖に触れることはなくなった。

---

 十二月。凛が全員を集めた。

「第二層の探索回数が二十三回を超えた。全員のマナ蓄積量は基準値を満たしている。変異個体への対処も安定した。……第三層への挑戦を許可する」

 歓声が上がった。楓が「やったー!」と跳ね、玲奈が「ようやくね」と腕を組んだ。

「ただし、時期は来年の春。それまでに第三層の環境データと生態系の情報を徹底的に叩き込むこと。第三層は第二層とは次元が違う。油断すれば死ぬ」

「来年の春……卒業の後だな」

「ええ。まずは学生生活をきちんと終えなさい。ダンジョンは逃げない」

---

 三月一日。聖蘭学院、卒業式。

 桜はまだ咲いていなかった。三月初旬の冷たい風が、式場に並ぶ生徒たちの制服を揺らしている。

 十二年間の学校生活が終わる。小学校から数えれば、この国の教育課程の全てを歩ききった。

 壇上で卒業証書を受け取る。校長が「日向蓮くん」と名前を呼んだ瞬間、講堂全体が拍手に包まれた。男子の卒業生は俺と奏太の二人だけ。それでも、拍手は温かかった。

 席に戻ると、隣の紫月が「堂々としてたわよ」と小声で言った。反対側の沙耶は、静かに拍手を続けていた。

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 卒業式の夜。

 聖蘭学院の中庭。夜桜はないが、月明かりが銀杏の枝を照らしている。

 沙耶がメモで呼び出した。『放課後、中庭で。最後に話がしたい』

 最後。その一語が気にかかった。

 銀杏の下に、沙耶が立っていた。制服姿。今日が最後の制服。

「蓮」

「沙耶」

 沈黙。月明かりが沙耶の黒髪に銀色の光を落としている。

 沙耶が、小さな箱を差し出した。手のひらに収まるサイズ。紺色の布で包まれている。

「開けて」

 布をほどくと、中には銀色の鎖がついた小さな蒼輝石のペンダントだった。石は深い蒼色で、微かに光を帯びている。ダンジョン産だ。

「鷹司家に伝わる護り石。ダンジョンの第四層で採れた高純度の蒼輝石を加工したもの。……本来は、鷹司の当主が最も大切な人に贈るもの」

「沙耶、これは……」

「紫月のことは、知ってる」

 沙耶の声は穏やかだった。嫉妬も怒りもない。ただ、深い覚悟がある。

「あの子が一番最初だったのね。……あの子らしいわ。わたしより、ずっと勇敢」

「沙耶……」

「わたしはね、蓮。ずっと怖かった。気持ちを伝えるのが。あなたに嫌われるのが。今の関係が壊れるのが。……だから、触れては引いて、近づいては離れてを繰り返した」

 沙耶の声が、初めて震えた。

「でも、紫月に先を越されて、分かったの。怖がってる時間は、もうない」

 沙耶が一歩近づいた。月明かりの下、黒い瞳が俺だけを映している。

「蓮。わたしは、あなたを愛しています」

 好き、ではなく。愛している。

 沙耶は、最初から最も重い言葉を選んだ。

「四歳の時、初めてあなたの手を握った日から。あなたがダンジョンに行きたいと言った日から。わたしを『沙耶』と呼んでくれた日から。……全部、全部、愛してた」

 涙が頬を伝った。あの花火の夜と同じだ。でも、今の沙耶は泣きながら笑っていた。

「紫月が一番最初でいい。わたしは二番目でいい。三番目でもいい。順番なんてどうでもいいの。……ただ、あなたの隣にいさせて。あなたを愛する権利を、わたしにもください」

「…………沙耶」

 ペンダントを握りしめた。蒼輝石が掌の中で温かい。沙耶の体温だ。

「二番目なんかじゃない」

「え?」

「沙耶は沙耶だ。順番じゃない。お前は最初から、ずっとおれの隣にいた。幼稚園の時から、ずっと」

 沙耶の目が見開かれた。

「おれも沙耶のことが好きだ。ずっと。……言えなくてごめん」

 沙耶の涙が溢れた。もう止めようとしなかった。両手で顔を覆って、声を殺して泣いた。

 俺はそっと沙耶の手を取った。沙耶の指は、冷たかった。いつもと同じだ。

「温めるよ」

「……蓮の手は、いつも温かい」

「沙耶がいつも冷たいだけだ」

「そうね。……だから、ずっとそばにいて」

 俺は沙耶の手を、両手で包んだ。

 月明かりの中庭。桜のない銀杏の木の下。十四年間の想いが、ようやく言葉になった夜。

 ペンダントの蒼輝石が、月光を受けて静かに輝いていた。

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第29話 了
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