破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。

専業プウタ

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19.キスしてから言えばよかった⋯⋯。

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 ライアンが隼人で、これが心からの告白だとしても私はときめきもしない。
 私の彼への気持ちは、中学2年生のあの時に終わっている。

「もう、良いかな。私、用事があるの。レオの護衛騎士になったんだ。再就職決まってよかったわね。さようなら⋯⋯」

「あいつの事信じるなよ。あいつ、ルシアは良い女だから5年は飽きないだろうみたいに馬鹿にしてたぞ」

「そんなもんだと思っているから、ご心配なく」
 私の予想通り、ルシアを始末してステラン公爵家がスグラ王国を乗っ取るという予想が現実味を帯びてきた。

 彼が私の言葉に怯んだ隙に、私が立ち去ろうとすると手首を掴まれた。

「ちょっと痛い! 離してよ」
「トラックに轢かれそうになった茉莉花を助けようとして、一緒に轢かれた。茉莉花が通う同じ大学に通ってるよ。ずっと、会いたかった」

 掠れた声で切なそうにライアンが私に伝えてくる。
 彼の必死な表情を見れば、嘘を言っていない事は分かる。

 それでも、私が彼へ捧げた初恋は終わっていて、彼の事をまた好きになったりはしない。
 そして、私には今やるべき事があって、過去の感傷に浸っている暇などないのだ。

「私、今からアルベルト様のところに行くの」

 私の言葉にサッとライアンの顔色が変わった。
(そういえば、私がアルベルト様に迫っているところも見てるんだっけ⋯⋯)

 私は今、自分が柊隼人を克服したことに気がついた。
 人にどう思われようと自分のやりたい事を貫くというのは海外留学で私が得た強さだ。
 そして、どう思われようと良い人間の中に柊隼人が今入っている。

 私は呆然とするライアンを無視して、小走りでアルベルト様の元へ向かった。

 特別室の扉をノックをすると中からアルベルト様が出てきた。
 彼の海色の瞳を見ると何故だか安心する。

「ルシア、何かあった?」

 彼は私を見るなり、髪を撫でながら話し掛けてきた。
 彼のことを好きになったとかじゃないのに、彼に触れられるのは嫌じゃない。
 昨日までミカエルの友人だったのに、私の味方をする彼の本心は分からない。

 室内に入り、ベロア調のふかふかの赤いソファーに座るように促された。
 なんだか、気持ちが良いくらいの程よい緊張感がある。

 アルベルト様が紅茶を淹れてくれたので、一口飲んで私は来訪の目的である婚約の申し込みをすることにした。

「アルベルト様、私とミカエルの婚約が破棄されたら、私と婚約してください」

「いいよ。ちょうど、君がくれたクッキーの惚れ薬が効いてきた頃だから」

 アルベルト様が私の頭に当てた手をスライドして、私の唇に手を添える。
 私は彼の契約のキスを待つように目を瞑った。

「もう、すぐにでも国葬がはじまりますよね。遺体が埋められてしまったら墓を掘り返して死因を調べるしかないのでしょうか?」
「ちょっと、今、口づけしようとした所なのにそんな色気のない話する?」

 私が目を開けると、アルベルト様が爆笑している。
(そうだ⋯⋯キスしてから言えばよかった⋯⋯時間がないから焦っちゃった)

 「遺体は普通土葬するけれど、スグラ王国の国王は、歴代次期国王が火葬することで弔うよね」
 私は勝手にヨーロッパ世界のようなここでは、土葬だと決めつけていた。
(つまり、ミカエルの火の魔力で国王陛下の遺体を燃やすということだ⋯⋯)

「今日の午後には遺体がなくなってしまったら、死因の特定ができなくなります! それに、本来なら隣国の要人も国葬には呼びますよね」

「その通りだ。本当にきな臭いよね。早いところ国王陛下の遺体を始末したい思惑が見え見えだ⋯⋯」

 多くの人が不信感を持つのに、国葬を急ぎで進める理由はカイロス国王の死因を特定されない為だろう。

「ステラン公爵が今回の件を裏で操っているようなんです。ミカエルは、今、精神的に不安定で冷静な判断ができてないと思います」

 私は全ての事実を覆い隠し、私と結婚すると迫ってきたミカエルの暗い瞳を思い出し身震いした。

「国葬が始まる前に、国王陛下の死因を解明したほうが良いだろうな。そんなに怖がらないで、俺は君の味方だから⋯⋯」
 そっと抱きしめられ、つむじのあたりにキスをされた。

 私は強く気高い『誘惑の悪女』のルシアを演じるつもりだったのに、彼の前だと演技ができていない気がする。
 そして、アルベルト様もアリスとルシアの間で揺れる優柔不断男の設定なのに頼もしく感じる。

 その時ノックもせずに扉が開いたかと思うと、ミカエルが現れた。

 彼の後ろには無表情のライアンが控えている。
(何で? ライアンはレオの護衛騎士になったんじゃないの?)

 ライアンは私の居場所をミカエルに教えて、彼をここまでつれてきたのだろうか。

「今から国王陛下の国葬だ。僕についてきてルシア」
 ミカエルが腕がちぎれそうな程強い力で私の腕を握り、立ち上がらせる。

 彼の目の奥に暗い怒りを感じて恐怖を感じた。
(愛情じゃないでしょ⋯⋯執着だわ⋯⋯)

 人はどんどん進化していくとは限らない。

 少なくともゲームの中のミカエルは他者への思いやりがあった。
 今、おそらく秘密裏に大罪を犯したかもしれない彼は精神的に追い詰められている。

「ミカエル、そんな乱暴をしなくても彼女は君についていくよ」
 アルベルト様が私を掴むミカエルの腕を解こうとするとライアンがその手を制した。
(他国の王族に対して、ライアンも失礼すぎる⋯⋯何を考えているの?)
 
 私はそっと目を閉じた。
(今は『誘惑の悪女』ルシアを演じて、ミカエルを操る時だ!)
 国葬の前にスグラ国王の死因を探らなければいけない。

「ミカエル、焦らずともあなたについていくわ。あなたは結婚しても私をそんな風に乱暴に扱うの? そんなあなたじゃ、怖くてついていけないわ。優しいミカエルに戻って」

 私はそっと目を開けながら、彼を心配するように見つめた。

 一瞬、今の私を見てアルベルト様がどう思うかが気になった。
(私のどう思われても良い人間の中にアルベルト様が入ってないんだ⋯⋯)

 それでも、私は目的を達成する為にミカエルを慈しむルシアを演じなければならない。
「ごめん、痛かったよね。ルシア⋯⋯本当に僕と結婚してくれる気があるの?」
 私はミカエルの問いかけに笑顔で頷いた。
 彼がそっと私の腕の拘束を解く。

「ミカエル⋯⋯お父様が急に亡くなって悲しいわよね。でも、私が側にいるから⋯⋯」
「それは、君の方が⋯⋯いや、なんでもない。これからも君には僕を支えて欲しいだけなんだ」
 ミカエルは亡くなったのは、ルシアの実の父親だという事実に気がついたのだろうか。
 そこを突いて、なんとか火葬される前のカイロス国王に会わせてもらおう。

「国王陛下のお顔を拝見できるのも、あと少しだよね。最後にお会いしたい」
 死因を特定されることを恐れて、拒否されるかもしれない。

 私はミカエルの腕にギュッとしがみついて要求が受け入れられることを願った。

「ルシア、行こう」
 ふと、頭から降ってくるミカエルの声が優しくなった気がして彼の顔を見る。
 そこには暗さの中にも優しさが残っていそうな彼の碧色の瞳があった。
(乙女ゲームのメインキャラクターミカエル・スグラ⋯⋯根は優しいはず)

 私はアルベルト様の表情を確認したかったが、任務に集中しようとミカエルの瞳を見つめ続けた。

 部屋を出ると、ライアンがミカエルに頭を下げた。

「では、私はここで失礼します」
 顔を上げたライアンと目が合うと、馬鹿にしたように目を逸らされた。
(ビッチ女と思うなら勝手に思えば良い⋯⋯)

 くるりと蹄を返して、ライアンが向かったのはレオの秘密の部屋の方向だ。
 俺はお前を見限ったとばかりのライアンの態度に、胸がチクリと痛む。

 先程は、柊隼人を克服したと思っていたけれどそうではなかったのだろうか。
 私を庇って一緒にトラックに轢かれたという事に対する罪悪感かもしれない。

「さあ、行こうか、ルシア」
 ミカエルがそっとエスコートするように手を差し出してきて、私は手を乗せた。


 
  
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