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アルトレイラル(迷宮攻略篇)
絶望の顕現 3
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空間凍結の魔法でも使われたのかと、錯覚してしまうほどだった。それほどに広間は静まり返り、俺たちは動くことができなかった。誰一人として声を上げるようなこともせず、ただただこの状況に唖然とする。夢であってくれ、それが俺の正直な気持ちだった。
そうでも考えないと、この状況に絶望してしまいそうなのだ。認めた瞬間に、今度こそ完全に動けなくなってしまいそうなのだ。今、倒したはずのゴーレムが再生している。もうあと数秒で、完全に再生してしまうだろう。
核は、跡形もなく消し飛んでいたはずだ。それは、ここにいる全員が目撃している。それなのに、奴はいま、完全体での復活を遂げようとしている。
もし、これが何度も続くのならば、
何度倒しても、この迷宮は止まらないではないか。
「――ッ、総員、撤退‼」
一番初めに我に返ったのは、隊長――ゼクだった。その声が引き金となったかのように、この場の硬直が一気に解ける。ガラスが割れるように、せき止めていた蓋を外したように、〝硬直〟は一気に崩れ去り、時計の針が動き始める。
「重装兵はしんがりを務めろ! 奴の攻撃を受け、体勢を崩させたのちに離脱する!」
全員が、我に返ったように動き出す。アダマンタイト製の強固な盾が、一部の隙間もなく衛生兵を囲むよう半円状に展開される。残った重装兵は、今ここにいる騎士の真後ろにぴったりと付く。
「攻撃来るぞ‼」
ゴウッと、再生した巨腕が空気を鳴かせた。
声を聞くや否や、盾が騎士の前へと突き出される。そのまま騎士を盾の中に入れるようにし、自身も小さく縮こまる。
アダマンタイトの悲鳴が、鼓膜をつんざく。おおよそ上げることはないはずの鋭い金属音に、顔をしかめて耳をふさぐ。まだ、ぐわんぐわんという変な耳鳴りがする。突然、俺の肩が強めに叩かれた。
「君は後方へ! あとは僕たちが何とかする!」
初めて聞いたレオの怒鳴り声。それに頷き、俺は後方支援組の護衛に中に入りながらじりじりと後退する。必然と全体の状況が目に入り、その戦力差に唖然とする。
魔獣は、核を壊せば生命活動を停止する。それは、魔獣は自身の生命エネルギー源のひとつである瘴気をそこにため込んでいるからだ。そしてそれは、迷宮主であろうと例外ではない。生物学上、そのシステムは揺らがないのだ。人間が脳を無くせば死ぬように、機械がご疎林を無くしたら動けないように。
それ故に、全員が頭の片隅にもなかった。あまりにも自明であるからこそ、揺らぐことのない事実であるからこそ、考えもしなかったのだ。
学問によって裏付けされた真実を、全否定する魔獣がいるということなど。
いま、この広間にいる戦闘員は、先ほどの約六割。撤退している冒険者たちを抜くならば、約四割。それもすべて、核を破壊したことを確認したからこそだった。
その考えに則って行動した今の状況は、言うまでもなく――、
最悪だ。
そのとき、ゴーレムな巨腕が、一組の騎士たちを直撃した。
鋭い破砕音がする。度重なる攻撃で傷がついた盾に、大きな亀裂が走ったのだ。硬度を自慢とするアダマンタイト。それは、ダイアモンドを叩いていることと同義。展性があまりにも低ければ、たとえ金属であろうと石ころのように砕け散る。
重装兵が、ほこりのように宙を舞った。
目を向ければ、地面にはすでに元騎士だったモノが転がっている。数舜遅れで、重装兵が地面へと叩きつけられた。その後の追撃からは、思わず目をそらす。一瞬だけ、赤い何かの破片が見えた。
騎士たちが、彼らを一瞥しすぐに前を向き直る。悲しんでいる時間は、彼らにはないのだ。いまそんなことをすれば、次に仲間入りになるのは自分だと、全員が理解している。だからこそ、その亡骸〝だったもの〟を拾うこともしない。
「出口まで、あと約二十メテル!」
「全員走れぇぇえ‼」
走れ、走れ、あと少しだ。
陣形を崩壊になる限界まで崩し、全員が走り出す。
「全員踏ん張れ! あと十メテル!」
もう、彼らを見る余裕はない。いま俺たちがすることは、出入り口の死守。そして、連絡通路の安全確保。そうしなければ、後から追ってくる騎士たちが全滅することもある。
刹那、
轟音の中、悲鳴が聞こえたような気がした。
そうでも考えないと、この状況に絶望してしまいそうなのだ。認めた瞬間に、今度こそ完全に動けなくなってしまいそうなのだ。今、倒したはずのゴーレムが再生している。もうあと数秒で、完全に再生してしまうだろう。
核は、跡形もなく消し飛んでいたはずだ。それは、ここにいる全員が目撃している。それなのに、奴はいま、完全体での復活を遂げようとしている。
もし、これが何度も続くのならば、
何度倒しても、この迷宮は止まらないではないか。
「――ッ、総員、撤退‼」
一番初めに我に返ったのは、隊長――ゼクだった。その声が引き金となったかのように、この場の硬直が一気に解ける。ガラスが割れるように、せき止めていた蓋を外したように、〝硬直〟は一気に崩れ去り、時計の針が動き始める。
「重装兵はしんがりを務めろ! 奴の攻撃を受け、体勢を崩させたのちに離脱する!」
全員が、我に返ったように動き出す。アダマンタイト製の強固な盾が、一部の隙間もなく衛生兵を囲むよう半円状に展開される。残った重装兵は、今ここにいる騎士の真後ろにぴったりと付く。
「攻撃来るぞ‼」
ゴウッと、再生した巨腕が空気を鳴かせた。
声を聞くや否や、盾が騎士の前へと突き出される。そのまま騎士を盾の中に入れるようにし、自身も小さく縮こまる。
アダマンタイトの悲鳴が、鼓膜をつんざく。おおよそ上げることはないはずの鋭い金属音に、顔をしかめて耳をふさぐ。まだ、ぐわんぐわんという変な耳鳴りがする。突然、俺の肩が強めに叩かれた。
「君は後方へ! あとは僕たちが何とかする!」
初めて聞いたレオの怒鳴り声。それに頷き、俺は後方支援組の護衛に中に入りながらじりじりと後退する。必然と全体の状況が目に入り、その戦力差に唖然とする。
魔獣は、核を壊せば生命活動を停止する。それは、魔獣は自身の生命エネルギー源のひとつである瘴気をそこにため込んでいるからだ。そしてそれは、迷宮主であろうと例外ではない。生物学上、そのシステムは揺らがないのだ。人間が脳を無くせば死ぬように、機械がご疎林を無くしたら動けないように。
それ故に、全員が頭の片隅にもなかった。あまりにも自明であるからこそ、揺らぐことのない事実であるからこそ、考えもしなかったのだ。
学問によって裏付けされた真実を、全否定する魔獣がいるということなど。
いま、この広間にいる戦闘員は、先ほどの約六割。撤退している冒険者たちを抜くならば、約四割。それもすべて、核を破壊したことを確認したからこそだった。
その考えに則って行動した今の状況は、言うまでもなく――、
最悪だ。
そのとき、ゴーレムな巨腕が、一組の騎士たちを直撃した。
鋭い破砕音がする。度重なる攻撃で傷がついた盾に、大きな亀裂が走ったのだ。硬度を自慢とするアダマンタイト。それは、ダイアモンドを叩いていることと同義。展性があまりにも低ければ、たとえ金属であろうと石ころのように砕け散る。
重装兵が、ほこりのように宙を舞った。
目を向ければ、地面にはすでに元騎士だったモノが転がっている。数舜遅れで、重装兵が地面へと叩きつけられた。その後の追撃からは、思わず目をそらす。一瞬だけ、赤い何かの破片が見えた。
騎士たちが、彼らを一瞥しすぐに前を向き直る。悲しんでいる時間は、彼らにはないのだ。いまそんなことをすれば、次に仲間入りになるのは自分だと、全員が理解している。だからこそ、その亡骸〝だったもの〟を拾うこともしない。
「出口まで、あと約二十メテル!」
「全員走れぇぇえ‼」
走れ、走れ、あと少しだ。
陣形を崩壊になる限界まで崩し、全員が走り出す。
「全員踏ん張れ! あと十メテル!」
もう、彼らを見る余裕はない。いま俺たちがすることは、出入り口の死守。そして、連絡通路の安全確保。そうしなければ、後から追ってくる騎士たちが全滅することもある。
刹那、
轟音の中、悲鳴が聞こえたような気がした。
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