戦上のクインテット

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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五線譜から弾けて

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 奏音は武具店『バルミロ』で働き出した。掃除が主な作業だが、午後には鍛冶の仕事も教えてもらっている。
「あうっ」
 しかし、奏音は鉄が打てないでいた。
「違う、振り子のようにだな一気に振るんだ」
「おわわわ」
 鉄を打つハンマーが重くて奏音はそのまま尻餅をつく。ここ一か月ほど手伝いをしてきたが、掃除くらいしかまともに出来なかった。接客をしようと思ったが、こちらの世界の貨幣になじめていないため、まともにお会計もできなかった。
 文字はなんとか覚えられた。勉強は嫌いな方ではなかった奏音にとっては文字を覚えることは苦にはならなかったが、こちらの世界の計算方式が違うため、貨幣の勘定はまだ習得できていない。
「奏音ちゃん、商売向いてねぇんじゃねぇか」
「ええー、ここで働かないと路頭に迷っちゃうんですけど」
「んー、でもなあ。勘定ができない、バケツに足を引っ掛けてすっ転ぶ、ハンマーに遊ばれるときたら、この店でやることなくなっちまうぞ」
 ぷーと、奏音は頬を膨らませる。店主のおじさんは、ほうと、何かを思いつき尻餅をついたままの奏音の前に、革のベルトと肩当て、膝当て、胸当てを置くと快活に笑う。
「ちょっくら冒険者になるてぇのも悪くねぇと思ってな。これは初心者装備だこれを着て毎日走り回れば、筋力もつくだろう」
 筋トレのために冒険者になれと言われたのは初めてだなと、奏音は引きつった笑顔でおじさんを見上げる。
「冒険者つっても、鉱物掘ったり、薬草摘んだりの簡単な仕事さ。採掘に関しちゃ、時間はかかるがその分報酬はいい、その気になれば大金持ちだぞ」
 大金持ちと聞いて奏音は少し想像する。楽器を買ってライブハウスを建ててなどと夢想するが、採掘している自分の姿を考えると少し頭が痛くなった。
 立ち上がり、革ベルトなどの装備を渋々装着していく奏音。最後に店主は短剣を手渡す。
「この店で三番目くらいに上物の短剣だ、宝石屋で自分に合った属性の宝石を柄のところに填め込むと、短剣から宝石剣に早変わりってな代物さ、これは選別だ無くすなよ。ほんでもって、ちゃんと帰ってこい」
「ありがとうございます。でも冒険者って何するんです」
「冒険者ってのは、傭人紹介所で登録してなれる。今回は俺が依頼出しておくから、嬢ちゃんが依頼を受けれるようにしておく。心配いらねぇ新作の材料調達だ。報酬は銀貨三枚と、今日の晩飯ってとこだな、小遣程度はある」
 店主からの依頼ならばと奏音の緊張は少し和らぐ。調達の依頼であるから、お使いと相違ない。お使いは元の世界でも散々やったことだと自分に言い聞かせて、バルミロのドアを開き紹介所へ向かう。
「ここかな、すみませーん」
 奏音は早速店主に教えてもらった場所にやってきた。店主によると奏音の入った酒場のような宿屋のようなところが、傭人紹介所のはずだ。
「よく来たな、依頼か。依頼ならあそこの受付嬢に依頼書を渡せばいい」
「あの依頼もなんですけど傭人登録もしたくて」
「お嬢ちゃんが傭人、ハハッイイぜ、適正検査と簡単な試験をしてもらうがな。傭人は見た目じゃねぇからな。バッチリテストしてやるから安心しな」
 テストは苦手だったことを奏音は思い出す。テストという単語だけで憂鬱になれると奏音は思うのである。
 適正検査は、傭人紹介所の専属魔導士が身体をスキャンして新しく傭人登録する新人のデータを取る。
「はい、終わりよ。あなた珍しい属性ね」
「んああ、やっぱり見た目で判断するもんじゃねぇな」
 奏音は魔導士の女性から丸められた紙を受け取る。そして次に試験が待ち受けているわけだが、奏音の想像する試験とは少し違った。
「これって体力測定だよね」
「そうだ、実力試験だ。お嬢ちゃんが、どんな武器を扱えて、どんな立ち回りができるのかを見てる。結果は受付で渡すから、その間に持ってきた依頼を受付嬢にでも渡しときな」
 奏音は傭人登録が完了する間に、店主の依頼を受付嬢に渡す。
「自分で出した依頼は自分で受けれるんですか」
「そうですね、この依頼書だとバルミロから依頼人が指定されているので、この名前の依頼人しかこの依頼は受けられません」
「その名前、私の名前なんですけど」
「それでしたら、問題なく依頼を受けられますよ。フリーの依頼でしたらあちらの立て看板に、ご自身のレベルに合わせて依頼を受けたい場合は、受付にて私たちが傭人の方々一人ひとりの実力に見合った依頼をご用意しますよ」
 奏音はポーッと口を開けて受付嬢を眺めていた。「なんて親切雇用形態なんだろう」そんなことを思っていると、後ろから先程の傭人登録の管理官がやってきた。
「お嬢ちゃん、結果が出たぜ。ちょっと来な」
 手近な席に着くと、紙を二枚机に広げる管理官。その紙を奏音は覗き込む。
「こっちが登録の完了書兼、活動許可証だ。んで、こっちがお嬢ちゃんの能力の検査、試験結果だ。許可証は傭人紹介所が責任を持って預かるぜ。結果の方はお嬢ちゃんが持っておくんだ。経験を積めば紙にある数字が上がって目に見えて能力上昇が分かるようになる。一番上に書いてあるのが名前、その横が職業だが、冒険者と傭兵どっちがイイかは自分で選びな」
「冒険者と傭兵の違いはあるの」
「そうだな、冒険者はフリーの依頼が多いが報酬の振れ幅が大きい。傭兵は指名制が殆どだからその分安定して稼げる。最近はいくさが増えてるから傭兵になる奴が多いがな。だが、凄腕の冒険者はそこらの有名な傭兵より稼いでるぜ」
 奏音は迷わず冒険者を選んだ。店主が冒険者を勧めていたのもあるが、自由な方がいいなと思ったのが理由のひとつで、本当のことを言えば楽器がどこかで手に入ったらいいなと思うのが殆どである。
 その後の手続きは管理官が全てしてくれると知った奏音は早速バルミロのおじさんからの依頼に出発する。受付嬢から、応急薬を二本、携行食を一箱貰い紹介所を後にする。
「おじさんの話によると、半日で終わるんだよね」
 依頼内容は窯の石炭と、ルージュラビット二匹の捕獲。明らかに、今日の夕食にするんだろうなと奏音は思った。動物を捕まえたことがない奏音は少し不安になるが、先ほど貰った試験結果を見直すと共に、受付嬢のお姉さんに配給品と一緒に受け取った『魔法のススメ』というガイドを読みながら、奏音は森に入っていく。
「光属性、体重、身長、年齢。あとは敏捷性、体力、筋力、知力、魔力。大体平均、でもよかった、これくらいだったら楽器持てそうだね。ギターまた早く弾きたいなぁ。ボイトレもしなくちゃね」
 奏音は再び気合を入れて森を進む。ギターを演奏することが彼女の当面の目標のようだ。しかし、そううまく行くわけもなく、バルミロのおじさんの仕事を終えたのは、日が沈みかける頃であった。
「ふう、石炭って意外と他の石と見分けつかないよ。ウサギさんはかわいそうな気もするけど生きていくためだもんね。よし、帰ろうっと」
 奏音は背中の籠に石炭を入れ、両手にウサギを掴んで帰路に着く。
 バルミロの正面口に戻ってくると女将さんが出迎えてくれる。
「遅かったね。まあ、初めてだしこんなものかね。あら、石炭そんなに持って帰って来たのかい、ちょっと待ってな。あんた、奏音ちゃん帰って来たよ、石炭持ってやりなよ」
 のそのそ、おじさんがカウンター奥から顔を出すと労いの言葉一つで、奏音の背負う籠をひょいと持ち上げる。
「お疲れさん。石炭、結構採れたみたいだな。これは俺が持ってくから、嬢ちゃんは手と顔を洗って少し休むといい」
「ありがとよ。ルージュラビットは私が台所に持っていこうかね。お風呂にでも入るかい」
「ありがとうございます。でもお風呂はご飯を食べてからにしようかな」
 奏音が持って帰って来た荷物を二人は手分けして、手際よく持っていってしまう。奏音はそのまま、工房の隣にある中庭の井戸から水を救い上げ、手を洗い顔を水を浴びる。
 そしてタオルで顔を拭うと、奏音が普段から使わせてもらっている離れの戸を開け、装備を外しラックに上からかけていく。
 店の二階は店主のおじさんと女将さんの部屋で、キッチンは何故か店のカウンターの奥にある。離れは鍛冶の工房から少し離れたところにあり、昔はおじさんが弟子時代の時に使っていた部屋で、店を継いだ今は空き部屋となっていたようだ。
 店名の『バルミロ』とはおじさんの師匠の名前で、おじさん自体はヴィクトル・ザルツィクという名である。女将さんはコーデル・ザルツィクという。つまりはザルツィク夫妻の家兼店兼工房に奏音はすっかり居候することとなったのだ。
 食事を終えヴィクトルに試験結果を見せる。奏音はひとつだけわからない項目があった。
「ねぇ、おじさん。これなんて読むの」
「ん、コレは特異技能ギフトって言うんだが、スキルとは違って変化しないものだ。天賦の才とも言えるな」
 奏音は、ギフトの欄を凝視するがやっぱり読めずに諦める。あらかたの文字は覚えたが、まだまだ勉強が足りないことを痛感する。そして潔くヴィクトルに読んでもらうことにする。
「ヴィクトルさん、やっぱり読めない」
「仕方ねぇな、ちょい貸してみ。なになに。ギフト、導く声。なんだコレ、初めてみるギフトだなぁ。紹介所では何にも言われなかったか」
「珍しいとは言っていたかもです」
「こいつは、早く嬢ちゃんの奏具を作ってやらねぇとな。どんな能力なのか楽しみだぜ」
 奏音はヴィクトルの言葉を聞いて、今回の依頼はやはり自分のためだったことを知った。奏具の完成が待ちきれないと、奏音は少しソワソワし出す。
「どんな形にするかは明日一緒に考えるとするか。試作の武器はそのあとでいいな、嬢ちゃんの詩がいいもんだったら、それでも儲かりそうだしな」
 ヴィクトルは楽しそうに笑いながら、二階に上がっていった。奏音はヴィクトルを見送るとお風呂に入り、離れでどんなギターにするかを想像する。
「あれ、ギターじゃなくて奏具だっけ。でもせっかく作ってもらうなら、ギターがいいな」
 奏音はフッと蝋燭の日を消して、布団の中に潜り込んだ。
 
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