先輩、お久しぶりです

吉生伊織

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和解

2.

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「あ、はい。書類の手渡しをしに回ってます。的場さんは?」

「名前覚えててくれて嬉しいな。俺は打ち合わせ終えたところだよ」

「そうなんですね、お疲れ様です」


笑顔で返し、ペコリとお辞儀をしてその場を後にしようとした。


「あのさ!今日一緒にお昼でも食べに行かない?」

「えっ」


い、いきなり!?


「会社の近くにある美味しいランチの店があって、まだオープンして間もないから行ったことないと思うんだけど、どう?」

「あー……」


どうしよう。
それほど親しくもないし特に話すこともないのに。


『自意識過剰』


断る理由を考えてたのに、この言葉がまたじわりと浮かんできた。


「えと……じゃあ、ぜひ」

「良かった!それじゃあ下のロビーで待ち合わせしよう」

「あ、はい。では……後ほど」


的場さんは意気揚々と去って行き、私はその場で意気消沈。
『自意識過剰』の言葉がマジックワード過ぎて、つい意地になってしまった。


お昼に誘われたからって、何かあるわけじゃないのに意識しすぎかな?


最近は恋愛ごとから遠のいてるせいか、警戒心が強くなってる気はする。
べつに恋愛をしたくないわけじゃない。
けれど、乗り気になれないのは確か。


昂良先輩に失恋してから、好きな人も出来たし付き合った人もいた。そしてそれなりに楽しかった。


でも正直、昂良先輩といた時ほどの楽しさはなかった。


きっと、あの縁切り事件後に先輩との楽しかった思い出を回顧しすぎたせいで、忘れられずにいたからだと思うけど……。


そのせいなのか新たなお誘いを受けても、いつも二の足を踏んでしまう自分がいて、なかなか前に進めないのも事実。
何度も言うけど、だからといって数年ぶりに再会した先輩とどうこうとはまったく思ってない。


ただ、その思い出を上回るような大恋愛をしてみたい、心ときめく相手と出会いたいという乙女のような理想は常にある。

だけどそれは申し訳ないけど、的場さんじゃないのは確か。


そして、目の前にいる人でもない。

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