先輩、お久しぶりです

吉生伊織

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疑惑

8.

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お茶出しだけで疲れてしまったけど、それからはいつもの作業に追われて一日が過ぎようとしていた。


終業間際、パソコンのメールの最終チェックをしていると『お誘い』という業務以外の表題を見つけて開けてみた。


送り主は開発企画本部の村元さんからだった。
あのちょっとひょうきんでお茶目な素振りで、会議室使用の有無を確認してくれた彼女だ。
内容は明日、一緒にランチしましょうとのお誘いだった。もちろん快諾して返信。


普段、他部署から離れた秘書室で過ごしていると、最悪誰とも会わずに帰ることもよくある。
一応同期とはごくたまに同期会で飲みに行ったりはするけれど、ほんとにたまにしかなく、それ以外の人とは食事に行くこともほとんど無いため秘書室にいる限り社内で交友関係を広げるのは難しい。
だからこうやって誘われると嬉しくなってしまう。


社長もだてに部署間交流の飲み会を開いてるわけじゃないんだな、とやっと有り難みが実感できた気がする。


メールチェックを済ませ、仕事も定時に終えて制服も着替えてから足元軽やかにエレベーターに乗り込んだ。
今日は加藤さんが来てハラハラドキドキしたけれど、明日のランチのお誘いが来て気分もすっかり上がったし、帰りは久しぶりにお酒でも買って夕飯と一緒に飲もうかな~なんて思いながらエレベーターで一階に降りた。


ゾロゾロと帰宅する人の群れに押されながらロビーを過ぎて外に出る。


いつもならそのまま流れに乗ってみんなと同じ方向の駅へ向かうところが、なぜかふと後ろを振り向いてみた。
すると歩道から少し離れたところで、見覚えのある背の高い後ろ姿が目に入ってきた。


あ、昂良先輩……?


そう思ったけれど、その横にまた見覚えのある女性が立っていた。今日初めて会った加藤さんだ。


私はなぜか二人から目が離せなくてしばらく突っ立ったまま見入っていると、二人は親しげに笑い合ったあと加藤さんが先輩の腕を掴んで、そのまま流れとは逆の方向へ歩いて行ってしまった。


見てはいけないものを見た気がする。


どうして二人が?知り合い?
赤ちゃんは?
これから何処へ行くの?

あんな優しそうな顔して笑う先輩、見たことない。


と沢山の疑問が頭の中を駆け巡りながら、二人が消えていった雑踏をただぼーっと眺めていた。

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