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招待
12.
しおりを挟む私は豆を挽いている先輩の手つきを繁々と眺めた。
フィルターに挽いた豆を入れ、事前に沸かしておいたお湯を細口ドリップポットで緩々と注いでいく。
チョロチョロとサーバーに濃褐色の筋が落ちていくのと同時に香ばしい匂いが鼻腔に流れてきた。
「いい匂い……」
呟くようにそう言うと、目線を上げてニヤッと笑った先輩。その笑顔が悪戯っぽくて思わず目を逸らしてしまった。
イケメンのキメ顔は心臓に悪い……。
「美味い店のコーヒーもいいけど、家で飲む淹れたてコーヒーもなかなかだぞ」
「そうなんですね」
「こないだ飲みに行こうって誘ったコーヒー店も、実はこの豆使ってるんだ」
「そうなんですか?それなら楽しみです」
「とは言っても、店長が淹れてくれたのに比べたら多少味は落ちるかもしれないけどな。よし、出来たから座って」
「はい」
椅子に座ると出されたカップには、湯気の立った淹れたてコーヒーがゆらゆらと揺れていた。
ふと見ると、その横にはフルーツがたっぷり乗ったショートケーキが添えられていてキョトンとなってしまった。
「え?これ……」
「休みの日はいつも甘い物買ってコーヒーと一緒に食べることにしてるんだ」
「あ、あの……私もいただいていいんですか?」
「もちろん」
見ると先輩の前にはチョコスポンジにチョコクリームでアレンジされた可愛いクマちゃん型のケーキがいた。
誘われた時は少なからず警戒してたくせに、来てみればコーヒーだけじゃなく、まさかの女子会でお茶するような待遇をされるなんて驚きで笑いが込み上げてきた。
「なにニヤニヤしてんの?」
「クマちゃんて」
「ん?こっちの方が良かったか?」
「いや、そういうことじゃなくて」
あははは!と思わず顔を伏せて爆笑してしまった。
先輩は笑われて目が点になっている。
「す、すみません、イメージと違うから。あはははっ」
「あ?なんだよ、可愛いだろ」
可愛いというか、休みに一人でケーキも笑えるけど、クマちゃんケーキを嬉しそうに食べてる先輩を想像したら余計可笑しくて笑いが止まらなくなった。
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