先輩、お久しぶりです

吉生伊織

文字の大きさ
146 / 152
相愛

7.

しおりを挟む

「あー……まあ、仲良くなってからそのあと二手に分かれてうまく行けばって目論んで、誘ったのは確か」


先輩は初めから私のこと気になってくれてたんだとあらためて聞いても嬉しくなってしまう。
ん?でもそれなら……


「ちょっと待ってください。じゃあなんで、昂良先輩は私と陵介先輩のこと勘違いしたんですか?違うって分かってたんですよね?」


陵介先輩が美香のことが好きだったなら、初めから私とは勘違いだったと気づくはず。
それなのに、どうしてあの時誤解したのか。


「今思えばな。けど、あの頃はいまいち自分に自信もなかったし、陵介と二人で会ってるのも見たことあったから。だから隠れて陵介と付き合ってるって聞いた時は、そうなのかって、裏切られた気持ちになって頭に血が昇った」

「……」


つまりあの時、私が陵介先輩の相談にのっていたのを見て、それを本気で二股してると思ってたんだ。
だからあんなに冷たく去っていったんだと、やっと納得できた。


それなのに、こんな些細なことで約5年間もお互い誤解したまま気持ちを拗らせてたのかと思うと、本当に馬鹿らしくなる。


「でも昂良先輩の気持ち分かりますよ。私もそうだったから……。だけど、思い込みってほんと怖いですよね。ありもしないことを真実だと思って振り回されるなんて、人間ってつくづく弱い生き物だと思っちゃう」

「……うん、本当に」


美香が昔を思い出しながらそう告げると、それぞれが思い当たるのかしんみりとした雰囲気になり皆黙りこんでしまった。


当然当事者の私も美香の言葉が胸に刺さる。
ただの誤解だったとはいえ、相手を嫌いになるまで避けてしまうのは逆恨みでしかなかった。


でもそれは、好きだったからこそ余計に憎らしく思えたことなんだと、お互いの気持ちが通じ合えた今なら分かる。
当時は皆それぞれが子供だったから、そんなことさえ気づくことは出来なかったんだと。


私はフルートグラスのステムを撫でながら今までのことを思い出していた。


「でも、私たちは今だからこうなれたのかもね。あの時があったからこそ、いまが幸せだって思えるのかも」

「うん、それもそうだね」


私と美香は目を合わせ、少し泣きそうになりながらも笑顔で微笑み合った。
それを見た先輩達も同じように微笑み合う。


過去は変えられないけれど、未来はどんなふうにでも変えられる。


そんなことを思えるようになれたのは、こうして再集結できたみんなのおかげだと心から感じた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

Perverse second

伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。 大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。 彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。 彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。 柴垣義人×三崎結菜 ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ
恋愛
 高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。 久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。  私、今日も明日も、あさっても、  きっとお仕事がんばります~っ。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

処理中です...