【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO

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第十五話 手にした力①

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 手の中に収まる、鈍色の輝き。
 翔は、先ほどまでの鉄塊とは似ても似つかぬ、神々しいまでの輝きを放つ刀――ルナが言うところの「マナブレード」を握りしめていた。
 驚くほど軽く、まるで自分の腕の延長であるかのようにしっくりと馴染む。

 しかし、その内側に秘められた岩をもバターのように両断する途方もない力は、まだ翔にとって現実感を伴わない、どこか遠い世界の物語のようだった。

「本当に、これが……」

 自分の呟きが静かな通路に虚しく響く。
 隣を歩くルナはサファイアの瞳に冷静な光を宿したまま、前方を真っ直ぐに見据えていた。
 彼女の横顔には、この状況を打開できるという確信が滲んでいる。

 その揺るぎない自信が、翔の心のどこかで燻っていた疑念を少しずつ溶かしていくのを感じた。

 出口はどこにあるのか。
 来た道を引き返したところで、あの垂直な壁を登る術はない。

 ならば、進むしかない。
 この未知の遺跡の、さらに奥へ。

 二人が足を踏み入れたのは、先ほどまでいたドーム状の部屋よりもさらに広い、どこか近未来さを感じさせる通路だった。
 壁面には同じように光のラインが走り、天井は遥か高く、闇に溶けている。
 ひんやりとした空気が肌を撫で、自分たちの足音だけがやけに大きく反響していた。

 その時だった。

「Gssshh……Kiii……Gagaga……」

 前方の闇の奥から、不協和音を奏でるような重く不快な音が響いた。
 それは石と金属が擦れ合う音というより、高度な機械が発する機能音に近い。
 同時に、低い唸り声と、地響きにも似た振動が足元から伝わってくる。

 闇の中から、ゆっくりと姿を現したのは、一体の機械人形だった。
 それは、生物のフォルムを悪夢的に模倣した、SF映画から抜け出してきたかのような戦闘ゴーレムだった。
 黒曜石を思わせる滑らかな装甲に覆われた胴体から、むき出しの動力ケーブルが絡みつく、六本の長大な脚が伸びている。
 
 その脚は昆虫のそれとは違い、先端に地面を削るほどの鋭い金属の爪を備えた逆関節構造で、一歩進むごとに重々しい音を立てて床を掴む。

 蜘蛛を彷彿とさせる多脚の胴体の上部には、鎌のように鋭利な二本の前腕が備え付けられていた。
 その腕は単なる刃物ではなく、エネルギー伝導体と思しき青いラインが走り、先端はクローにも変形しそうな複雑な機構をしていた。

 全高は三メートルをあろうかという巨大なゴーレム。
 その全身を覆う多角形の装甲の隙間からは、内部のエネルギーなのか、鈍い青白い光が漏れ、不気味な明滅を繰り返している。

「やっぱり……起動したのね。侵入者を排除するための防衛システムのひとつよ、こいつまであるなんて……」

 ルナが冷静に呟く。
 ゴーレムの頭部と思しき部分に埋め込まれた巨大な単眼レンズが、駆動音を立てて絞りを調整し、カッと血のような赤い光を灯した。
 レンズの周囲では、複数の小型センサーが目まぐるしく点滅し、二人の姿を三次元的に捉えているのが見て取れた。
 
 次の瞬間、鎌のような鋭利な前腕の表面に幾何学的な紋様が浮かび上がり、バチバチと音を立てて青いプラズマが迸る。
 明確な殺意が二人を射抜いた。

「-」

 合成音声のような音と共に、ゴーレムが重々しい足音を響かせて突進してくる。
 六本の脚がもたらす不規則かつ高速な挙動は、これまで対峙してきたオークのような生物的な動きとは全く異質で、その質量が生み出す圧迫感は比較にならなかった。

 翔は咄嗟にマナブレードを構える。
 心臓が早鐘を打ち、掌にじっとりと汗が滲む。

 これまでの彼であれば、相手の攻撃の威力を受け流し、隙を突いてカウンターを狙うのが定石だった。
 その染みついた癖のまま、彼はゴーレムが振り下ろす、帯電した前腕を迎え撃とうとした。

 バチバチと青い火花を散らす腕が、空気を引き裂く轟音と共に眼前に迫る。

(受け流す……!)

 翔はマナブレードの側面を使い、攻撃の軌道を逸らそうと試みた。
 だが、その刃がゴーレムの腕に触れた、まさにその瞬間。

「ズ……」

 翔の脳が理解するよりも先に、体がその異常さを感じ取った。
 手応えが、ない。
 まるで幻に触れたかのように、何の抵抗も感じなかった。

 硬質な石の装甲を断ち切る衝撃も、金属を削る甲高い音も、何一つない。

 ただ、熱したナイフがバターを通り抜けるような、滑らかな感触だけが腕に伝わった。
 ゴーレムの帯電した前腕が、その半ばから綺麗に切断され、制御を失って宙を舞う。
 腕の残骸は火花を散らしながら壁に激突し、黒い焼け焦げを残した。

 切断面は高熱で一瞬にして焼灼されたかのように、鏡のように滑らかに艶を帯びていた。

「な……なんだ、これ……」

 翔の口から、呆然とした声が漏れる。
 自分の武器が引き起こした現象が信じられなかった。

 腕を失ったゴーレムは一瞬動きを止め、その赤い単眼を不可解そうに明滅させる。
 内部でエラーが発生しているのか、不規則な電子音が漏れ聞こえた。

「それがその兵装の基本性能よ。対象の分子結合を強制的に解離させて切断する。物理的な硬度は意味をなさないわ」

 ルナの冷静な声が、翔の混乱した思考に楔を打ち込む。
 分子結合の解離。
 もはや魔法というより、SFの世界の言葉だ。

 だが、目の前で起きた現実が、その言葉を裏付けていた。

 これは、剣ではない。
 切断する「現象」そのものだ。

 理解が追いついた瞬間、翔の身体から恐怖が消え、代わりに背筋がぞくぞくするような高揚感が湧き上がった。
 ゴーレムが残った腕を振りかぶる。

 だが、もう翔の目には、その動きはひどく緩慢なものに映っていた。

「はっ!」

 気合一閃、胴体目掛けてマナブレードを横薙ぎに振るう。

 今度ははっきりと意識していた。

 抵抗など、ない。

 翔の振るった一閃は、ゴーレムの分厚い多角形装甲を何の障害もなく両断した。
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