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第十六話 手にした力②
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上下に分かたれたゴーレムの上半身が、ゆっくりとずり落ちる。
その赤い単眼の光が急速に失われ、内部機構が連鎖的に爆ぜ、装甲片を撒き散らしながら崩れ落ちていく。
やがてそれは単なる灰ではなく、機能を停止した機械の残骸と化した。
その中心で、今まで見たどの魔石よりも大きく、そして内側から眩い光を放つ、高純度の魔石が静かに転がっていた。
「こいつは……とんでもないな」
翔は、手にしたマナブレードを改めて見つめながら呟いた。
先ほどの戦闘の興奮が、まだ身体の芯に残っている。
彼はゆっくりとゴーレムの残骸に近づき、金属片の中に転がる魔石を慎重に拾い上げた。
ずしり、とした重みが掌に伝わる。
オークから手に入れた魔石とは比べ物にならない質量。
そして、何よりもその輝きが違った。
オークの魔石が、不純物を含んだ曇りガラスだとすれば、これは寸分の曇りもない完璧な結晶体だ。
手のひらの上で、内側から青白い光が脈動し、周囲の闇を淡く照らし出すほどだ。
「すごい……こんな綺麗な魔石、見たことないぞ……」
ゴクリと喉が鳴る。
翔の頭の中で、そろばんを弾く音が鳴り響いた。
オークの魔石が、ギルドの買い取りで一つ五万円程度。
それでも、自分のような低層探索者にとっては大金だ。
では、これは?
パッと見ただけで純度はオークのものの倍以上。
比較することすら馬鹿らしくなるほど高い。
(十万……いや、二十万か? もしかしたら、もっと……)
妹の治療に必要な金額が、脳裏をよぎる。
手紙の上で踊っていた普段の稼ぎでは払うことのできない金額。
それを稼ぐために、危険を冒してダンジョンに潜った。
だが、この魔石一つで、その途方もない金額を、確かに埋めることができる。
もし、これをあといくつか手に入れることができれば――。
その思考に至った瞬間、翔の心に、希望という名の熱い炎が燃え上がった。
それは、生きるための渇望であり、妹を救うための一筋の光だった。
彼は、まるで壊れ物を扱うかのように、その魔石をバックパックの奥にしまい込んだ。
タオルにくるみ、他の荷物とぶつからないように、一番安全な場所へ。
その一連の動作にはある種の執念のようなものが宿っていた。
「なかなかに状態のいいマナ結晶体……いえ魔石だったわね。それがあればいろいろ動かせそう」
翔の様子を見ていたルナが、純粋な技術者としての感嘆を口にする。
彼女の目には、それは換金アイテムではなく、利用すべき高効率エネルギー資源として映っているようだった。
「ああ……そうだな」
翔は、自分の胸の内を見透かされまいと、短く相槌を打つ。
そして、遺跡のさらに奥へと続く通路を、新たな決意を秘めた瞳で見据えた。
このダンジョンの底で、彼は初めて、明確な希望を見つけ出していた。
---
二人はさらに奥へと進んだ。
やがて開けた闘技場のような広間に出た。
嫌な予感がする。
ダンジョンのこういう大部屋にはまるでボスのように待ち構えているモンスターが居たりするのだ。
その予感は見事に当たった。
その中央で二人を待ち構えていたかのように、三体の戦闘ゴーレムが同時に起動した。
「……!」
三つの巨大な単眼が、同時に赤い光を灯す。
一体は、胴体中央の装甲がスライドし、内部から長大なレールガンを思わせる砲身がせり出してくる遠距離タイプ。
残りの二体は、先ほどと同じく鎌状の前腕を持つ近接戦闘タイプだ。
三つの赤い単眼が、同時に二人をロックオンする。
一体なら倒せる。
だが、三体同時、しかも遠近からの連携攻撃となれば話は別だ。
「まずい……!」
遠距離タイプが砲身にエネルギーを収束させ始める。
空間そのものが震えるような高周波のチャージ音が広間に響き渡る。
同時に、二体の近接タイプが、互いの攻撃範囲を補い合うように、計算されたかのような精密さで左右から挟み込むように突進してきた。
翔は咄嗟に後方へ跳び、エネルギー弾を回避する。
青白い光の奔流が、先ほどまで翔がいた場所の床を抉り、高熱で溶かした。
しかし、息つく暇もない。
左右から迫る鎌のような腕を、マナブレードで必死に捌く。
切断はできる。
だが、四方八方から繰り出される機械的な波状攻撃に、次第に防戦一方へと追い込まれていった。
(捌ききれない……!)
エネルギー弾を避け、近接攻撃をいなすだけで手一杯になる。
攻撃に転じる隙が全く見出せない。
焦りが募り、呼吸が荒くなる。
その時、張り詰めた空気を切り裂くように、ルナの鋭い声が響いた。
「翔、聞いて! 右後方の個体、エネルギーチャージ中! 3秒後に射出! まずそいつから!」
右後方! 視界の外からの情報。
一瞬の迷いが脳裏をよぎる。
だが、今はルナを信じるしかなかった。
「うおおっ!」
翔は指示を信じ、迫りくる近接ゴーレムの腕を弾き返すと同時に、その勢いを利用して体を反転させる。
視線の先、ルナが言った通り、遠距離タイプのゴーレムが砲身を眩く輝かせ、まさにエネルギー弾を放たんとしていた。
無防備なチャージ中のゴーレム。
そこ目掛けて、翔はマナブレードを投擲するかのように、鋭く突き出した。
刃が、光の中心に吸い込まれるように突き刺さる。
一瞬の静寂の後、ゴーレムは内部エネルギーが暴走し、内側から弾けるように爆発四散した。
「次は左! 突進してくる! 回避して、すれ違いざまに脚の関節部を狙って!」
間髪入れず、次の指示が飛ぶ。
左。
二体になった近接ゴーレムが、帯電した前脚を振りかざしながら突進してくる。
翔は言われた通り、最小限の動きでその突撃を右にかわす。
巨体が風を巻き起こしながら横を通り過ぎる。
その、一瞬の交差。
翔は引き抜いたマナブレードをカウンターのように閃かせた。
狙うは、ルナが示した脚部の関節。
微かな音と共に、ゴーレムの複数の脚が同時に切断される。
体勢を大きく崩し、制御を失ったゴーレムが重なり合うように倒れ込む。
そのがら空きになった頭部を、翔は冷静に刎ね飛ばした。
戦闘後、広間に静寂が戻る。
翔は、肩で大きく息をしながら、膝に手をついた。
心臓がまだ激しく脈打っている。
「はぁ……はぁ……助かった……」
「すごいわね……翔、貴方の戦闘技術は研究したくなるほどよ」
ルナが静かに歩み寄り、告げる。
「そいつは、光栄、だね。死ぬかと思った」
翔はその場に座り込む。
「あなたの動きと、この兵装の性能、そして私の分析。三つが揃えば、これくらいの敵は問題にならないんじゃない?」
「それは買いかぶりすぎだよ、俺はFランク探索者だぞ……」
だが、ルナの言葉が、翔の胸にすとんと落ちた。
そうだ。
これは、一人で戦っているのではない。
自分の目には見えない敵の位置を、弱点を、ルナが教えてくれる。
自分は、その情報を元にこの規格外の武器で急所を貫く。
それは、ただの力任せの戦闘では決して味わえない、戦況そのものを支配するような感覚だった。
翔は初めて、武者震いとは違う、知的な興奮と高揚感を覚えていた。
「でも、凄いな……」
「凄いのは貴方よ、翔」
翔が顔を上げると、ルナは少しだけ口元を緩め、小さく頷いた。
その赤い単眼の光が急速に失われ、内部機構が連鎖的に爆ぜ、装甲片を撒き散らしながら崩れ落ちていく。
やがてそれは単なる灰ではなく、機能を停止した機械の残骸と化した。
その中心で、今まで見たどの魔石よりも大きく、そして内側から眩い光を放つ、高純度の魔石が静かに転がっていた。
「こいつは……とんでもないな」
翔は、手にしたマナブレードを改めて見つめながら呟いた。
先ほどの戦闘の興奮が、まだ身体の芯に残っている。
彼はゆっくりとゴーレムの残骸に近づき、金属片の中に転がる魔石を慎重に拾い上げた。
ずしり、とした重みが掌に伝わる。
オークから手に入れた魔石とは比べ物にならない質量。
そして、何よりもその輝きが違った。
オークの魔石が、不純物を含んだ曇りガラスだとすれば、これは寸分の曇りもない完璧な結晶体だ。
手のひらの上で、内側から青白い光が脈動し、周囲の闇を淡く照らし出すほどだ。
「すごい……こんな綺麗な魔石、見たことないぞ……」
ゴクリと喉が鳴る。
翔の頭の中で、そろばんを弾く音が鳴り響いた。
オークの魔石が、ギルドの買い取りで一つ五万円程度。
それでも、自分のような低層探索者にとっては大金だ。
では、これは?
パッと見ただけで純度はオークのものの倍以上。
比較することすら馬鹿らしくなるほど高い。
(十万……いや、二十万か? もしかしたら、もっと……)
妹の治療に必要な金額が、脳裏をよぎる。
手紙の上で踊っていた普段の稼ぎでは払うことのできない金額。
それを稼ぐために、危険を冒してダンジョンに潜った。
だが、この魔石一つで、その途方もない金額を、確かに埋めることができる。
もし、これをあといくつか手に入れることができれば――。
その思考に至った瞬間、翔の心に、希望という名の熱い炎が燃え上がった。
それは、生きるための渇望であり、妹を救うための一筋の光だった。
彼は、まるで壊れ物を扱うかのように、その魔石をバックパックの奥にしまい込んだ。
タオルにくるみ、他の荷物とぶつからないように、一番安全な場所へ。
その一連の動作にはある種の執念のようなものが宿っていた。
「なかなかに状態のいいマナ結晶体……いえ魔石だったわね。それがあればいろいろ動かせそう」
翔の様子を見ていたルナが、純粋な技術者としての感嘆を口にする。
彼女の目には、それは換金アイテムではなく、利用すべき高効率エネルギー資源として映っているようだった。
「ああ……そうだな」
翔は、自分の胸の内を見透かされまいと、短く相槌を打つ。
そして、遺跡のさらに奥へと続く通路を、新たな決意を秘めた瞳で見据えた。
このダンジョンの底で、彼は初めて、明確な希望を見つけ出していた。
---
二人はさらに奥へと進んだ。
やがて開けた闘技場のような広間に出た。
嫌な予感がする。
ダンジョンのこういう大部屋にはまるでボスのように待ち構えているモンスターが居たりするのだ。
その予感は見事に当たった。
その中央で二人を待ち構えていたかのように、三体の戦闘ゴーレムが同時に起動した。
「……!」
三つの巨大な単眼が、同時に赤い光を灯す。
一体は、胴体中央の装甲がスライドし、内部から長大なレールガンを思わせる砲身がせり出してくる遠距離タイプ。
残りの二体は、先ほどと同じく鎌状の前腕を持つ近接戦闘タイプだ。
三つの赤い単眼が、同時に二人をロックオンする。
一体なら倒せる。
だが、三体同時、しかも遠近からの連携攻撃となれば話は別だ。
「まずい……!」
遠距離タイプが砲身にエネルギーを収束させ始める。
空間そのものが震えるような高周波のチャージ音が広間に響き渡る。
同時に、二体の近接タイプが、互いの攻撃範囲を補い合うように、計算されたかのような精密さで左右から挟み込むように突進してきた。
翔は咄嗟に後方へ跳び、エネルギー弾を回避する。
青白い光の奔流が、先ほどまで翔がいた場所の床を抉り、高熱で溶かした。
しかし、息つく暇もない。
左右から迫る鎌のような腕を、マナブレードで必死に捌く。
切断はできる。
だが、四方八方から繰り出される機械的な波状攻撃に、次第に防戦一方へと追い込まれていった。
(捌ききれない……!)
エネルギー弾を避け、近接攻撃をいなすだけで手一杯になる。
攻撃に転じる隙が全く見出せない。
焦りが募り、呼吸が荒くなる。
その時、張り詰めた空気を切り裂くように、ルナの鋭い声が響いた。
「翔、聞いて! 右後方の個体、エネルギーチャージ中! 3秒後に射出! まずそいつから!」
右後方! 視界の外からの情報。
一瞬の迷いが脳裏をよぎる。
だが、今はルナを信じるしかなかった。
「うおおっ!」
翔は指示を信じ、迫りくる近接ゴーレムの腕を弾き返すと同時に、その勢いを利用して体を反転させる。
視線の先、ルナが言った通り、遠距離タイプのゴーレムが砲身を眩く輝かせ、まさにエネルギー弾を放たんとしていた。
無防備なチャージ中のゴーレム。
そこ目掛けて、翔はマナブレードを投擲するかのように、鋭く突き出した。
刃が、光の中心に吸い込まれるように突き刺さる。
一瞬の静寂の後、ゴーレムは内部エネルギーが暴走し、内側から弾けるように爆発四散した。
「次は左! 突進してくる! 回避して、すれ違いざまに脚の関節部を狙って!」
間髪入れず、次の指示が飛ぶ。
左。
二体になった近接ゴーレムが、帯電した前脚を振りかざしながら突進してくる。
翔は言われた通り、最小限の動きでその突撃を右にかわす。
巨体が風を巻き起こしながら横を通り過ぎる。
その、一瞬の交差。
翔は引き抜いたマナブレードをカウンターのように閃かせた。
狙うは、ルナが示した脚部の関節。
微かな音と共に、ゴーレムの複数の脚が同時に切断される。
体勢を大きく崩し、制御を失ったゴーレムが重なり合うように倒れ込む。
そのがら空きになった頭部を、翔は冷静に刎ね飛ばした。
戦闘後、広間に静寂が戻る。
翔は、肩で大きく息をしながら、膝に手をついた。
心臓がまだ激しく脈打っている。
「はぁ……はぁ……助かった……」
「すごいわね……翔、貴方の戦闘技術は研究したくなるほどよ」
ルナが静かに歩み寄り、告げる。
「そいつは、光栄、だね。死ぬかと思った」
翔はその場に座り込む。
「あなたの動きと、この兵装の性能、そして私の分析。三つが揃えば、これくらいの敵は問題にならないんじゃない?」
「それは買いかぶりすぎだよ、俺はFランク探索者だぞ……」
だが、ルナの言葉が、翔の胸にすとんと落ちた。
そうだ。
これは、一人で戦っているのではない。
自分の目には見えない敵の位置を、弱点を、ルナが教えてくれる。
自分は、その情報を元にこの規格外の武器で急所を貫く。
それは、ただの力任せの戦闘では決して味わえない、戦況そのものを支配するような感覚だった。
翔は初めて、武者震いとは違う、知的な興奮と高揚感を覚えていた。
「でも、凄いな……」
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