【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO

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第三十八話 バイオマギアーマー②

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 視界が一変した。
 網膜に直接投影される形で、HUD(ヘッドアップディスプレイ)が眼前に展開する。

 ENERGY RESIDUE: 100%
 MANA SYNC RATIO: 85%... 87%... 90%...
 STRUCTURAL INTEGRITY: OPTIMAL.
 PILOT VITAL SIGN: STABLE.

 聴覚は人間の可聴域をはるかに超えて拡張された。
 工房の外で鳴く虫の声、律子の興奮でわずかに速まった心拍音、ルナの規則正しい呼吸音、建物の構造材が夜の冷気で収縮する微かな軋みさえ、クリアに拾い上げている。

 肌感覚は、もはや超常の域に達していた。
 漆黒の装甲の表面を撫でる空気の微かな流れ、床に落ちている金属片の形状、天井の照明が発する熱放射まで、あたかも自身の肌で直接感じているかのように認識できる。

 自分の身体が、この工房そのものにまで拡張されたようだ。
 手足が何倍にも長くなり、鋼鉄の筋肉を得たかのような、絶対的な力強さが漲る。

 思考と機体が完全に同期した瞬間、翔は途方もない全能感に包まれた。
 まるで、矮小な人間という檻から解き放たれ、神にでもなったかのような感覚。
 自分の意志が、思考が、電気信号となって機体の隅々まで瞬時に伝播し、そこには0.01秒の遅延すら存在しない。

 試しに、ほんの軽く、右腕を動かしてみようと、そう思考した。

 ゴガッシャァァァンッ!!

 思考と同時に、機体の巨大な右腕が凄まじい速度で振り下ろされ、工房のコンクリートの床を粉砕した。轟音と共に床が砕け散り、粉塵と破片が嵐のように舞い上がる。その衝撃は建物の基礎を揺るがし、壁際の工具がガラガラと音を立てて落下した。

 翔は自らが引き起こした破壊に驚愕し、反射的に思考を止める。機体はピタリと動きを止めたが、振り下ろされた拳は床にめり込んだまま、静かに湯気を上げていた。想像を絶するパワー。ただ軽く動かそうと思っただけで、これほどの破壊が生まれるとは。

「わ、すげえ……」

 声帯を震わせたわけではない。だが、その思考は機体の外部スピーカーからはっきりと再生された。
 粉塵の向こうから、律子の興奮に満ちた声が返ってくる。

「そうよ! 完璧な同期率! すごいわ翔ちゃん! でも、まだそんなものじゃないわ! もっと試してみて!」

 律子の言葉に煽られるように、翔の心の奥底から、原始的な歓喜がマグマのように湧き上がってくるのを止められなかった。それは恐怖とは全く違う。まるで、生まれる前に引き裂かれたもう一人の自分、失われた魂の片割れと、悠久の時を経て再会したかのような、根源的な喜びだった。

 この機体は自分の一部だ。そして、自分もまた、この機体の一部なのだ。

 今度は、跳躍を思考する。
 その瞬間、猛禽のそれを思わせる逆関節の脚部が爆発的なエネルギーを解放した。
 凄まじいGが身体にかかり、視界が一瞬で上昇する。
 工房の天井が目の前に迫り、照明器具を掠めて反対側の壁へと到達する。

 着地の思考。
 機体は猫のようにしなやかに衝撃を吸収し、微かな音も立てずに床に降り立った。

 楽しい。
 面白い。
 もっと動かしたい。
 もっと力を試したい。

 しかし、その高揚感が頂点に達したまさにその時、身体に異変が訪れた。

 膨大な情報量が脳を圧迫し、許容量を超えつつあることを示す警告灯のように、鋭い頭痛が走った。
 視界のHUDがノイズ混じりに明滅し、ぐらりと世界が揺れる。

「すまない……なんだか、調子が……すごい、酔ってるみたいだ……」

 思考が途切れ途切れになる。
 外部スピーカーから再生される声も、どこか呂律が回っていない。
 コンソールを見ていたルナが、即座に断じた。

「魔力酔いの初期症状。パイロットの脳が機体のフィードバックデータに追いついていない。一度、神経接続のゲインを再設定する必要がある。……あとは、慣れが必要」

 その言葉を受け、律子がコンソールを操作する。
 
「分かったわ! 無理は禁物ね! 翔ちゃん、装備を解除するわよ!」

 胸部装甲が再び開き、外の空気が流れ込んでくる。
 身体を包んでいたゲルが、まるで潮が引くように機体内部へと吸収されていった。
 全身に張り付いていた神経接続端子が、皮膚からゆっくりと抜けていく、ぞわりとした感覚が残る。ナノマシンが血流から離脱し、体外へと排出されていく。

 ふらつく足で機体から降りた翔は、その場に崩れるように座り込んだ。息が荒く、全身は汗でぐっしょりと濡れている。身体にはまだ、あの巨大な機体と繋がっていたかのような奇妙な一体感がこびりついていた。自分の手足が、ひどく小さく、頼りなく感じられる。そして、強大な力を行使した後に訪れる、深い虚脱感が全身を支配していた。

「どうだった、翔ちゃん? 感想は? すごかった?」

 律子が興奮冷めやらぬ様子で駆け寄り、翔の顔を覗き込んだ。
 翔は荒い息を整えながら、ただ力なく頷くことしかできなかった。

 この力は、とてつもない。
 世界さえも変えられてしまうかもしれない。
 だが、それはあまりにも強大で、あまりにも異質だ。
 これを完全に乗りこなすには、まだ時間がかかりそうだ。

 静かに翔を見下ろしていたルナが、ぽつりと呟いた。
 その声は淡々としていたが、確かな意志が宿っていた。

「これが始まりです、ショウ。あなたの力も、この機体も、まだ本当の限界を誰にも見せてはいない」
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