半身転生

片山瑛二朗

文字の大きさ
42 / 544
第2章 冒険者アラタ編

第40話 事後処理

しおりを挟む
 俺の怪我は命に別状はないものの、それなりに深いものだったみたいだ。
 治癒魔術を使っても俺の体力が追い付かないのでゆっくり治す、そう言われて俺の体中に包帯やら添え木やら巻きつけられている。
 治癒魔術の恩恵にあずかるようになってからと言うもの、アラタの怪我に対する考え方にも大きな変化があったが、それでもこれは慣れなかった。
 骨折、裂傷、打撲、レパートリー豊富なけがを負っておいて全治1週間、いくらなんでもおかしいと思いつつアラタはその恩恵を享受している。
 元の世界であれば死も覚悟しなければならないかもしれない、そうでなくとも数カ月まともに動くことはできないだろう。
 そんな事実が彼にここは異世界なのだと実感させる。
 まずは体力を回復させて、リーゼによる治癒魔術を受けることが出来るようになるとそこからは早かった。
 アラタは一日寝てとりあえず治癒魔術による施術を受けると松葉杖ありなら立って歩けるまでに回復した。

「この世界にも松葉杖ってあるんだな」

 治療を受けても痛いものは痛いのでスキルを使っているが横になっている方がいいに決まっている。
 アラタは誰もいない部屋でベッドに立てかけられた松葉杖を見て呟いた。
 この世界がおかしいことくらいは俺にもわかる。
 元の世界で、誰が発明したものなのかは知らないけど、技術や思想の積み重ねが花開いて生み出された物がこの世界にも平気である。
 それは似たものをこの世界の人が開発したのか、それともこの世界はもう一つの地球なのか、ならなんで魔力やスキル、クラスなんてものがあるのか、疑問は尽きない。
 だがそんなアラタの悩みも吹き飛ぶくらいこの家の居心地は良いものだった。
 2人は事後処理に追われていて日中家にいない。
 状況が状況だしドレイクの家に居候状態なのだがこれが中々どうして、控えめに言って最高なのだ。
 先生が看病してくれているから大体のことは魔術で実現できる。
 そもそも雷撃一つしか使えない俺からしたら常に何らかの魔術が起動している先生はやっぱりおかしい。
 まあそのおかげで快適な療養生活を送れているから何も不満はないけど。
 それと一番驚いたのは先生の家に風呂があったことだ。
 感動した。
 この世界に来てから風呂に入ることは半分くらい諦めていた。
 将来金持ちになって自作する以外に道はないと思っていた、でも松葉杖があるんだ、風呂くらいあるだろ。
 しかも先生の家の凄いところは日本の一般住宅の風呂みたいなやつじゃなくて、温泉の大浴場みたいな造りをしているところだ。

「昔作ったんじゃ。当時の教え子たちも喜んで入っておったわ」

 先生はたまに昔の話をするけど決まって記憶があいまいになる。
 先生の年齢は知らないけどそれなりに高齢だろうし、まあ仕方がないことなのかな、そう言うことにしておこう。
 ドレイクがアラタの身の回りの世話をしている時、玄関の方でドタドタと音が聞こえたと思うと2人が部屋に入ってきた。

「ドレイク殿、冒険者に何をしました!?」

「そうだ、キモ……気味が悪い」

 いまキモイって言ったか?
 あいつらが聞いたら血の涙を流しそうだな。
 2人の言いたいことが分からないアラタだがドレイクはしまったという顔をしている。

「すっかり伝え忘れておりました」

 年齢にそぐわない『テヘッ』という仕草をすると真面目な顔に戻り事情説明を始めた。

「手紙を残したと思うのですが、ワシのやることと言うのはですな……今回の件に関わった者どもの記憶をですな、ちょちょっとすることでして」

 あれ? 普通に犯罪じゃね?

「ききき記憶の改ざん!? そんなことって実際に……あるんですか?」

 リーゼが驚いてひっくり返りそうになっている。
 ギリギリ耐えたがその反応は普通の人のそれであると言える。
 ノエルに至っては情報を処理しきれずにフリーズ、now loading……という状態になっている。
 しばらくしてロードを終えたポンコツマシンは、

「そ、そんなことが出来るのですか!?」

 やっと追いついてきて先ほどリーゼがしたようなリアクションを返した。

「記憶の改ざんと言ってもそんな大げさなものではないのです。催眠系の魔術で現実と夢の境界を少しあやふやにしてですな……」

 詳しい原理はよくわからないがドレイクがとんでもないことを気軽に話していることはアラタにも理解できた。
 現代でもそんなことできる技術は聞いたことがない。
 酩酊状態にして、みたいな感覚なのだろうがそんなに都合よく上手くいくものなのか?
 彼の中で今回やったことはさほど大したことない感覚なのかもしれないが、アラタはとんでもない人に弟子入りしてしまったかもしれないと今更ながら感じていた。

「あの、それでですね。ギルドの記録から決闘があったことは分かっているのですが……」

「そうだ。急に観客が暴れだして決闘は中止、それにアラタが巻き込まれて重傷、ギルドはアラタに対して慰謝料を支払うことになった」

 慰謝料……金!

「あくまでも参考なんだけど、それっておいくらくらい?」

 嘘です。
 普通に気になる。
 慰謝料をもらっても怪我したことに変わりはないけど、それでも金をもらえるなんて思ってもいなかった。
 クエストを受けるようになってから金欠にはならなくなったけど、家を借りたい俺にとっては朗報だ。

「がっつかないでください。アラタに対して金貨15枚、私たちにもそれぞれ3枚支払われます」

 150万円!
 一瞬で扶養家族の範囲ぶち抜いてしまった。
 それでもまだ足りないけど、だいぶショートカットできたな。

「うれしそうですね」

「そりゃそうだろ。いくらあっても困るものじゃないし。それに家を借りるならまとまった金が必要だし」

「家を買ったらパーティーを抜けるつもりですか?」

「いや? 安定した収入があるなら……やっぱ何でもない」

 2人の機嫌が露骨に悪くなるのを察知したアラタは言うのをやめた。
 誰だって自分の元を去ることを嬉々として言われたら気分が悪いに決まっている、軽率だった。

「まあいいです。ギルドの話はこの辺にして」

「えっ、決闘の処理とかまで済んだのか?」

 俺が寝ていたにしてもこの速さで、俺に事情聴取もなく事後処理が終わるとは思っていなかった。
 今帰ってきたのだって俺を呼びに来たのだと思ったくらいだ。

「ええ、私はこういうことが得意なのです。主にノエルのせいで」

「ああ、なるほど」

「なに納得しているんだ! 私だってこんな大ごとをやらかすことはない!」

「そうですね、でももう少し小さな事なら……分かりますね?」

 ノエルがどんどん小さくなっていく、心当たりがありすぎるのか。

「まあ早く片が付くのはいいことだから、ありがとうリーゼ。これからどうする?」

「私は孤児院に行きます。この前のことに関してはこっちの方が重大ですから」

「そうだな、私も行く。あそこの人たちとはしっかりと話し合わないとな」

 やばい。
 2人とも完全に目がやばい。
 この2人だけを向かわせたら確実に問題が起こる。

「あ、あの。2人とも、俺も行っていい?」

「アラタが? 別に構いませんが。ドレイクさん、アラタは外に出ても大丈夫ですか?」

「うむ。激しい運動をしなければ問題ないじゃろう。行ってくるといい」

 ドクターからの距離が下りたのでアラタも支度をして外出しようと……

「あれ、2人は?」

「お二人ならもう出かけたぞ。急いだほうがいいの」

「先生ぇ、分かってやってるなら悪質ですよ」

「はて、何のことやら」

 完全に、圧倒的に置いてかれたけが人は松葉杖を一生懸命動かして早歩きくらいのペースで街を歩いていく。
 もうしんどい。
 帰ろうかな。
 孤児院で起きることは容易に想像できるが、そこまでの道のりが厳しすぎて早くも帰ろうか迷い始めたアラタは突然声をかけられた。

「おう、ヒ……冒険者のアラタ、ちょっといいか?」

「いまヒモって言った?」

「いいや? 俺は冒険者のカイルだ。本当に申し訳ないんだがあまりあの時のことを覚えてなくてな。それでもこんな怪我をしているお前を見かけたから謝ろうと思った、すまなかった」

 俺の記憶だとこいつは傍観していただけで直接危害を加えようとした奴じゃないはずだけど。
 記憶の改ざんでそこらへんもあやふやになっているのかな。

「いいよ、もう気にしてない」

「それでいいのか? もっとこう金をせびるとか」

 こいつらの改ざんされた記憶の中で俺のイメージがどうなっているのか聞く必要がありそうだな。

「金……今度飯おごってくれよ。それでチャラだ」

「まあお前がそう言うなら」

「あとヒモって呼ぶのはやめてくれ。他の奴にも言っておいて」

「あ、ああ。わかった」

 今アラタの目の前にいるカイルという男は実直な男だった。
 ランクはD、パーティーメンバーのキーンとアーニャも同じくDランク、まだ上位の冒険者ではないがアトラの冒険者ギルドの中核をなすランク帯の冒険者の一人だった。
 彼はアラタが孤児院まで行きたいというと背中にアラタを乗せて駆け出した。
 これがまた結構なスピードで、人一人担いで走れるスピードではなかった。
 まあここは異世界、走れているのだから話はそれで終わりなわけだが、アラタの中でカイルと言う男は最強のアッシーという位置づけになった。
 遠目にアラタを置いていった2人の背中が見える。
 2人のところまでおんぶって言うのもなんか嫌だったアラタはカイルに礼を告げてここまででいいと降ろしてもらった。

「ありがとうカイル。またね」

「おう! じゃあまたな!」

 薄く身体強化と痛覚軽減をかけて少し急いで孤児院の入り口を目指す。
 まあほぼタッチの差だし実質追いつけて良かった、アラタはそんな自分の考えの甘さを呪った。
 カイルにもっと近くまで送ってもらうべきだった、というよりカイルにも手伝ってもらえばよかった。
 当然と言えば当然だが2人はアラタより先に孤児院に到着して、その対応に出たのがリリーだったのだ。
 まずいと思って2人を制止しようと声を出そうとした瞬間、それよりも早くノエルの平手がリリーの頬に当たり乾いた音が鳴った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...