51 / 544
第2章 冒険者アラタ編
第49話 オークションの結末
しおりを挟む
気が付いた。
ここはどこだ?
私はあの後……
男の記憶はオークション会場でアラタを競り落とした後、邪魔が入り拘束されたところで止まっている。
「そうだ、私はアラタ君を競り落とした後……」
「気が付いたようね。気分はどうかしら?」
透き通るような声だった。
私はこの声の持ち主を知っている。
だが声は同一のものでも、音に宿る冷たい感情が今まで自分に向けられたことはなかった。
「エリザベス様、これは一体!?」
男はレンガ造りの無機質な部屋、今こうして自分か括り付けられている椅子以外何もない部屋に関して質問する。
もっと言えば今自分が置かれている状況、どうして自分はこんな汚い椅子に縛り付けられているのか、そう言った趣旨の問いでもある。
「フレディ、貴方は今まで私に良く尽くしてくれた」
彼女の声色は先ほどとは打って変わって温かみのある優しく語り掛けるような口調だ。
「そ、そうですそうです! 私は今までエリザベス様に誠心誠意尽くして――」
「しかしいつからだろうね、君の歯車が狂い始めたのは。そう、丁度新しい魔道具のテストを頼んだあたりからかな」
再び一転、声は冷たく鋭く刺すような音に変わる。
そしてフレディに対しての彼女の追及は尚も続いた。
まるで薄氷が張っている真冬の水の中にゆっくりと指を浸けるように、この殺風景なレンガ造りの部屋の冷たさを伝えるように。
「貴方は今まで頼んだことしかできないような能無しではなかった。必ず私の期待した以上の成果をもたらしてくれた。だからこそ今まで何か問題を起こしても庇ってきた、揉み潰してきた。ですが……」
「エリザベス様! 此度の失敗誠に申し訳ありません! ですが何卒! 何卒もう一度機会をお与えいただきたく! 何卒!」
彼は分かっていたのだ。
見捨てた相手に対する主の容赦のなさを。
だが同時に配下の者への優しさも知っていた。
だからこそそれに縋った。
他に手が無かったのだ、もはやこの女の慈悲に縋る以外に自分の生きる道が無いと、理性と本能の両方で理解していた。
だが、
「私が話しているというのに割って入るとは。貴方は自分が何をしたのか理解していますか?」
「そ、それは、誠に申し訳ありません!」
感情を含まぬ口撃から、徐々に彼女の内面にある熱を感じる口調へと変化が見られてきた。
「大体にして、貴方は今回もそうでしたね。私がアラタさんにお近づきになろうとタイミングを計っていたというのに、貴方はズカズカと不躾にも私の前に横入りして色々とやっていましたね」
「ど!? どういうことですか、私はただ……」
「貴方もあの子も、私の気も知らず…………もういいです。貴方の処分は私に一任されているので。後は任せましたよ」
そう言うと彼女は部屋から出ていった。
残された男は考える、人生で一番、きっとこれから二度とないくらい考える。
どこで間違えた?
アラタ君にちょっかいをかけたところか?
いや、それよりも更に……
……ブシュゥッ。
男の右耳に何かが破裂したかのような音が聞こえた次の瞬間、彼の右腕はボトリと床へ転がった。
「ギッ、ギギギ、ギャァァァアアアアアア! うでっ、ううう腕がぁぁぁあああ!」
なくなった右腕の付いていた位置を押さえようにも左手は拘束されて動かすことはできない。
触覚を捥がれたアリのようにジタバタと動くがどうにもならず、ただ大量の血液が流れ出ていく。
いつの間にか黒装束、フードを目深にかぶった人間が一人立っていて、こちらを眺めていた。
「おい! 今すぐ止血しろ! ティンダロス! 俺の命令が聞けないのか!」
ティンダロスと呼ばれた黒装束は困ったような仕草でフードの上から頭を搔いてみる。
「やれやれ、私がお前の腕を斬り落としたのだが。よほど混乱していると見える」
エリザベスは部屋から出ていき、残されたのは自分とこの黒装束のみ、状況を見れば当たり前の事実だが、そんな当たり前のことをようやく把握した男は惨めにも喚きたてる。
「私は! 私は! これからもっとのし上がって! ようやくアラタ君も手に入れたのに! あと一歩で隠された真実にたどり着くことが! くそぉ! 何故、何故だ!」
「あと一歩足りなかった。それだけのことだと思うがな」
黒装束がそう言い終えると、男の首は彼の足元に溜まった血の海へバシャリと転げ落ちた。
隠された真実、それは一体何のことだったのか。
アラタの隠している秘密なのか、それとも全く別の……今となってはそれを知る者はいない。
「思った以上に知恵が回るようでしたね。危ないところでした、まさかここまで突き止めていたとは」
女は独り言を呟く。
その言葉の端から分かることは、どうやら彼女にとって秘匿しておきたい事実は秘匿されたままの状態を保つことが出来たということだけである。
彼女は書斎に火を放ちその場から立ち去った。
少ししてフリードマン伯爵家は当主フレディが屋敷に火を放ち自殺、伯爵家の勢力は散り散りになったという話が広まり、伯爵家跡地には誰も近づかなくなった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なあ、これで一応決着はついたのか?」
ドレイクの家にすっかり居座ってまるで自分の家のように振舞っているアラタは、台所から頂戴してきた食べ物をかじりながら聞いた。
「さあ? どうでしょう。少なくとも伯爵家が御取り潰しになったことですし、アラタに手を出す人間はいなくなったと思いますけどね。それより私にもそれください」
「そうだな。とりあえず当面は何も起こらないんじゃないのか? それより私にもくれ」
「だといいな。俺も早く家が借りたいし」
この世界に来てしばらく経つ。
慰謝料とかを合わせればそれなりに金もたまった。
そろそろ一人暮らしをするくらいの金は貯まっただろ。
アラタは手にしたドライフルーツを2人に奪い取られながら、1人暮らしをするべく家を借りる決意をするのであった。
ここはどこだ?
私はあの後……
男の記憶はオークション会場でアラタを競り落とした後、邪魔が入り拘束されたところで止まっている。
「そうだ、私はアラタ君を競り落とした後……」
「気が付いたようね。気分はどうかしら?」
透き通るような声だった。
私はこの声の持ち主を知っている。
だが声は同一のものでも、音に宿る冷たい感情が今まで自分に向けられたことはなかった。
「エリザベス様、これは一体!?」
男はレンガ造りの無機質な部屋、今こうして自分か括り付けられている椅子以外何もない部屋に関して質問する。
もっと言えば今自分が置かれている状況、どうして自分はこんな汚い椅子に縛り付けられているのか、そう言った趣旨の問いでもある。
「フレディ、貴方は今まで私に良く尽くしてくれた」
彼女の声色は先ほどとは打って変わって温かみのある優しく語り掛けるような口調だ。
「そ、そうですそうです! 私は今までエリザベス様に誠心誠意尽くして――」
「しかしいつからだろうね、君の歯車が狂い始めたのは。そう、丁度新しい魔道具のテストを頼んだあたりからかな」
再び一転、声は冷たく鋭く刺すような音に変わる。
そしてフレディに対しての彼女の追及は尚も続いた。
まるで薄氷が張っている真冬の水の中にゆっくりと指を浸けるように、この殺風景なレンガ造りの部屋の冷たさを伝えるように。
「貴方は今まで頼んだことしかできないような能無しではなかった。必ず私の期待した以上の成果をもたらしてくれた。だからこそ今まで何か問題を起こしても庇ってきた、揉み潰してきた。ですが……」
「エリザベス様! 此度の失敗誠に申し訳ありません! ですが何卒! 何卒もう一度機会をお与えいただきたく! 何卒!」
彼は分かっていたのだ。
見捨てた相手に対する主の容赦のなさを。
だが同時に配下の者への優しさも知っていた。
だからこそそれに縋った。
他に手が無かったのだ、もはやこの女の慈悲に縋る以外に自分の生きる道が無いと、理性と本能の両方で理解していた。
だが、
「私が話しているというのに割って入るとは。貴方は自分が何をしたのか理解していますか?」
「そ、それは、誠に申し訳ありません!」
感情を含まぬ口撃から、徐々に彼女の内面にある熱を感じる口調へと変化が見られてきた。
「大体にして、貴方は今回もそうでしたね。私がアラタさんにお近づきになろうとタイミングを計っていたというのに、貴方はズカズカと不躾にも私の前に横入りして色々とやっていましたね」
「ど!? どういうことですか、私はただ……」
「貴方もあの子も、私の気も知らず…………もういいです。貴方の処分は私に一任されているので。後は任せましたよ」
そう言うと彼女は部屋から出ていった。
残された男は考える、人生で一番、きっとこれから二度とないくらい考える。
どこで間違えた?
アラタ君にちょっかいをかけたところか?
いや、それよりも更に……
……ブシュゥッ。
男の右耳に何かが破裂したかのような音が聞こえた次の瞬間、彼の右腕はボトリと床へ転がった。
「ギッ、ギギギ、ギャァァァアアアアアア! うでっ、ううう腕がぁぁぁあああ!」
なくなった右腕の付いていた位置を押さえようにも左手は拘束されて動かすことはできない。
触覚を捥がれたアリのようにジタバタと動くがどうにもならず、ただ大量の血液が流れ出ていく。
いつの間にか黒装束、フードを目深にかぶった人間が一人立っていて、こちらを眺めていた。
「おい! 今すぐ止血しろ! ティンダロス! 俺の命令が聞けないのか!」
ティンダロスと呼ばれた黒装束は困ったような仕草でフードの上から頭を搔いてみる。
「やれやれ、私がお前の腕を斬り落としたのだが。よほど混乱していると見える」
エリザベスは部屋から出ていき、残されたのは自分とこの黒装束のみ、状況を見れば当たり前の事実だが、そんな当たり前のことをようやく把握した男は惨めにも喚きたてる。
「私は! 私は! これからもっとのし上がって! ようやくアラタ君も手に入れたのに! あと一歩で隠された真実にたどり着くことが! くそぉ! 何故、何故だ!」
「あと一歩足りなかった。それだけのことだと思うがな」
黒装束がそう言い終えると、男の首は彼の足元に溜まった血の海へバシャリと転げ落ちた。
隠された真実、それは一体何のことだったのか。
アラタの隠している秘密なのか、それとも全く別の……今となってはそれを知る者はいない。
「思った以上に知恵が回るようでしたね。危ないところでした、まさかここまで突き止めていたとは」
女は独り言を呟く。
その言葉の端から分かることは、どうやら彼女にとって秘匿しておきたい事実は秘匿されたままの状態を保つことが出来たということだけである。
彼女は書斎に火を放ちその場から立ち去った。
少ししてフリードマン伯爵家は当主フレディが屋敷に火を放ち自殺、伯爵家の勢力は散り散りになったという話が広まり、伯爵家跡地には誰も近づかなくなった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なあ、これで一応決着はついたのか?」
ドレイクの家にすっかり居座ってまるで自分の家のように振舞っているアラタは、台所から頂戴してきた食べ物をかじりながら聞いた。
「さあ? どうでしょう。少なくとも伯爵家が御取り潰しになったことですし、アラタに手を出す人間はいなくなったと思いますけどね。それより私にもそれください」
「そうだな。とりあえず当面は何も起こらないんじゃないのか? それより私にもくれ」
「だといいな。俺も早く家が借りたいし」
この世界に来てしばらく経つ。
慰謝料とかを合わせればそれなりに金もたまった。
そろそろ一人暮らしをするくらいの金は貯まっただろ。
アラタは手にしたドライフルーツを2人に奪い取られながら、1人暮らしをするべく家を借りる決意をするのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる