半身転生

片山瑛二朗

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第2章 冒険者アラタ編

第51話 賭け事はほどほどに

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 ルーレットゲームにおいて最も難しく、倍率の高い手を引き当てたアラタの所持金は一気に膨れ上がった。

「おい、おいおいおいおいおい! アラタお前すげぇな! 才能あるぜ!」

「そうかな? そうかも」

 144倍の高配当を手にした彼だが元々賭けていた額も少なかった。
 一番低いチップは銀貨1枚で5枚交換できる。
 少々低い価格設定な気もするがカイルのような貧乏冒険者もカモにするのだ、価格は低い方が効率的だ。
 受け取ったチップを換算すると、金額は金貨12枚、銀貨19枚、銅貨30枚となる。
 アラタはまだ円換算したほうがしっくりくるので頭の中で計算し直すと、

「130万円!?」

 一度の価値でこの金額。
 しかもチップは一番低い金額を賭けている。
 これだけの勝ちを手にしてもまだ目標の金額には届いていない。
 だがアラタは難易度の高い手を単発で当てたことで自分に賭博の才能があると考えた。
 そこから先の話は単純だった。
 自分にギャンブルの才能があると確信した男は引き続きルーレットを継続する。
 だが流石に所持金が全滅するのは怖すぎるので一部だけを賭ける。
 幸か不幸かアラタは現在全財産をその手に握りしめているのだ。
 そこからの結果は負けることもあったが破竹の勢いで勝ちまくり所持金は膨れ上がる。
 もう家を買うとかそういう次元を超えている、彼は自分くらいの選手がプロ野球の球団に入団する際の契約金と同じくらいの金額を既に手にしていた。

「なーアラタ。俺にも少し金貸してくれよ」

 カイルはすっかり有り金を全て溶かし退場していたが勝ちまくっているアラタに金を貸してくれないかとすり寄ってきた。
 普段の金銭感覚をしている彼ならば取り付く島もなく突っぱねるところだが、今のアラタは気分がいい。

「ったく、しょうがねえなあ。今回だけだぞ?」

「いいのか? ありがてえ!」

 アラタがチップを何枚か手渡すとカイルはまたどこかへと行ってしまった。
 カイルに貸した金額など痛くもかゆくもないが、稼げるうちに稼いでおきたいとアラタは参加するゲームの種類を増やした。
 バカラ、ブラックジャックとルールを覚え参加、ギャンブルなので負けることも当然あるがトータルで見ればカジノが始まって以来の大勝だった。
 もうとっくに目標金額は突破しているし、だがこんなに簡単に稼げるなら冒険者なんて危ない仕事をやる必要もないわけで、とアラタはゲームを継続する。
 ここで勝てば冒険者を辞め、悠々自適な生活を送ることも夢ではない。

「そうだ、俺は………………ここに夢を掴みに来たんだ」

 そうして夜は更けていく。
 目標金額を突破し、何回目かの新たな目標金額が出来てから少しした時、異変が起こった。
 アラタが絶対の自信をもって賭けたフラワーが外れたのだ。

「ま、まあ元々1/37だしな。こういうこともある」

 本来外れる確率の方が多く、それを織り込み済みで勝ちを狙いに行く戦法、その後もたまに負けるもののトータルでは勝つことが出来る。

「まだ、まだトータルでは勝っている。大丈夫だ」

 だが台を変えゲームを変えても負けが増えてくる。

「……そろそろやめておくか」

 優秀はギャンブラーは引き際を見誤らない、誰の言ったか知らない格言を胸にアラタが店を後にしようとするとカイルが付き纏ってきた。

「アラタ~また負けちったよ。貸してくれよぉ」

「おい、貸しって言ってるけど返す当てはあるんだよな?」

「ああ、この勝負に勝てばな! アラタも行くぞ!」

 さっきからこいつのペースに乗せられてはズルズルと残ってしまっている。
 今負けたのでトータルマイナスに転じてしまった。
 ま、ままままだ大丈夫だ。
 せめてイーブンくらいまで持って行ってから帰ろう。
 固い決意を胸に再びゲームに参加する。
 負ける。
 次で勝てば挽回できる。
 そう考えて賭けてたまに勝てるが負けがかさんでくる。

「も、もう負けるわけには……そうだ、カイル! さっき勝ってただろ、少し金返せ!」

 カイルに金を貸していた分を回収できればまだ戦える。
 アラタは一縷の望みを賭けてカイルに金を返すよう請求したが……

「俺ぁもう一文無しだぁ。あひゃひゃ、アーニャに殺される……」

 彼は不良債権だった。
 アラタは黒服の従業員につまみ出されるカイルの背中を見送ることしかできず、今日親友になったばかりの男とはここでお別れになった。

「くそっ、役に立たねえな。まあいい、次勝てば、次勝てば……」

 こうして夜は更けていく。
 結局朝までアラタが店から出てくることは無かったという。

※※※※※※※※※※※※※※※

 ノエル、リーゼの2名はドレイクから買い物を頼まれ朝の大通りを歩いていた。

「朝の街はなんだか新鮮ですよね」

「うん。なんだか得した気分だ」

 買い物は複数の店舗にまたがっていたので、2人は行きとは違う道を歩いてドレイクの家に帰っていく。

「しかし昨日アラタは帰ってこなかったな。面倒ごとに巻き込まれていなければいいのだが」

「嫌がらせも終わったことですし大丈夫ですよ」

「不動産の件、アラタ喜んでくれるかな?」

「もちろんですよ! こんな大きな贈り物、きっとアラタも初めてのはずです!」

 2人が朝の閑散とした通りを歩いていると視界の端に何かが映った。
 2人とも一瞬視線を注いだが、どうせ見間違いだろうとすぐ目を離した、道端に落ちているようなものではなかったからである。

「さっきアラタが道端に転がっている所を見たんだ。おかしなこともあるものだな」

「あら、ノエルもですか? 奇遇ですね、私もさっきそこの道にアラタが……」

 2人も同時に見間違いをすることなどあるのだろうか。
 それも道端に転がっているパーティーメンバーなどという具体的すぎる見間違いを。
 2人は元来た道を急いで引き返す。
 そこには…………

「「アラタ!?!?!?」」

 そこにはパーティーメンバーである異世界人の冒険者、アラタが転がっていた。
 衣類はさほど汚れているようには見えないがなぜか大通りの端に転がっているという奇妙な状態にある彼に2人は荷物を放り出して駆け寄る。

「アラタ! どうした! 何があった!」

「一体……誰にやられたんですか!」

 彼から事情を聞き出そうとした2人は次の瞬間、アラタから発せられた言葉によって絶句することになる。

「アウアウアー」

「「は!?」」

「アウ―、アウアウ、アー」

「リーゼ……」

 ノエルは治癒魔術を修める身で医術にも多少の心得があるリーゼを不安そうに見つめる。

「アラタは……心神喪失しています。なぜかは分かりませんがこの状態では……とりあえず連れて帰りましょう」

 そう言うとリーゼは荷物をノエルに任せアラタを担ぎ上げた。
 するとポケットからこの国の貨幣ではないコインのようなものが地面へ音を立てて落ちた。

「これってカジノのチップ?」

 ノエルが拾い上げたコインを見つめ不思議そうな顔をしている隣でリーゼはおおよその事情を把握したのか溜息をつく。

「はぁ。なんとなく事情は分かりました。多分そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 家に着くとアラタを椅子に座らせる。
 リーゼが何度か声をかけてみるがまともな反応が無い。
 さっきからアウアウ言っているだけで何も分からないのだ。
 ドレイクの話だと本当に精神崩壊を起こしているわけではないので時間経過で元に戻るというのだが……いい加減ワンパターンな反応にイライラしてきたノエルが乱暴に聞き始めた。

「おい! いい加減ちゃんと話せ!」

「ちょ、ノエル」

 肩を掴んで前後にガクガク揺らしてみる。
 まるで壊れた機械に対する応急処置のようだ。
 もっとも、機械に対して乱暴な行動を取ることは推奨されていないわけだが。
 だが今回は効果があった。
 今までまっとうなコミュニケーションを取ることが無かったアラタが、

「俺、俺は……俺は負けた」

「どうした? 何に負けたんだ?」

「俺は負けた。負けたら全部無意味だ」

「落ち着いてでいいから、教えてアラタ。一体何があったんだ?」

 リーゼは既に何があったのかある程度理解している分、そこまで心配していないが、ノエルの脳裏にはアラタがフレディにぼろぼろにされた時の記憶が甦る。
 あの時の彼は悪夢を見るくらい憔悴していて、ノエルは本気でアラタのことを心配していた。

「俺は……俺は……カジノで負けた」

「は?」

「はぁ」

「負けた。……負ければ全部なくなる」

 カジノという単語が出てきてから、何とも言えない空気がその場に流れる。

「ああ、大通りで倒れていたのってそういう……」

「ねえ、確認するが負けたって賭け事の事か?」

 アラタはうな垂れたまま無言で頷く。

「………………ぷっ、ふふっ、ふふふっ」

「ちょっとノエル、笑っては……ふふっ」

「あきれたやつじゃ。心配して損した」

「あはははははは! リーゼだって笑っているじゃないか! ははははは!」

「ノエル! 人の不幸で笑うなんて……うふふっ、あはははは!」

 アラタはあの後やはり有り金を全て溶かした後朦朧とする意識の中カジノを出て、少し歩きその場で倒れていたのだった。
 2人はずっと大笑いしている、よほどツボにはまったようだ。

「こんなに綺麗にカジノにはまる人間がいるなんて! 本当に期待を裏切りませんね!」

「こら! そんな言い方はないだろう! アラタが少しは可哀想だとは……ふふっ」

「もう、だめですよそんなに笑ったら! 少しは我慢して……ぷふっ」

 こうしてアラタは家を買うどころか振出しに戻ったのだった。
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