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第3章 大公選編
第115話 国か、女か
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この事態を予測しておったからこそ、此奴に自家製の【暗号貫通】習得書を持たせたわけじゃが、ここまでキレイにハマるとは思っておらなんだ。
しかし……むぅ、此奴何一つ証拠を持っておらんではないか、これでは大公選からレイフォード家を引きずり下ろすことも出来ん。
「……先生」
「起きたか。気分はどうじゃ?」
彼にとっては懐かしい場所だった。
懐かしむほどの時間は経過していないが、ここ最近アラタの周囲の環境は目まぐるしく変わっている、そんな気持ちになるのもおかしくはない。
ふかふかのベッド、普段は使われていない客人用のそれ。
そして中毒者かと思うほど愛飲している紅茶。
添えられている菓子も、かかりつけ医がいるのならお叱りを受けるレベルに量も質も多い。
彼の身体から火傷痕はきれいさっぱり消えていた。
エストの炎槍をもろに受けて、即死しなかったのは黒装束の効果もあるのだろうが、あのまま放置されていればアラタは確実に死んでいた。
もっとも、あの状況で放置されることもなく、確実にとどめを刺されていただろう。
それを救ってくれたのは間者としての命令主、魔術の師、賢者、アラン・ドレイクだった。
「最悪です」
さっきまでの、いや、ここ最近起こった全部の出来事が夢だったら、何かの間違いだったらどんなに良かったか。
どうしようもないくらい最悪な現実を目の前にして、現実逃避したくともこうしてドレイクの家のベッドで寝ているこの現状がそれを許してはくれない。
彼が弟子を助け、治療を施したのは慈善事業ではない、そのことをアラタは理解していた。
ドレイクは気分最悪と答えた弟子を見て、精神面はともかく身体の方は問題ないと判断したのか、カップを2つ、紅茶を注ぎ、1つを自分に、もう1つを弟子に手渡した。
自分は寝台の側にある背もたれの無い椅子に腰を落ち着け、茶をすする。
紅茶はすすって飲むものではないが、今のアラタにはそれを指摘する余裕はない。
そんなことを口にすることすら面倒に感じるほど気が滅入っているのだ。
「で、どうじゃった?」
喜怒哀楽、そのどれでもない表情で、ただ調査結果を問うた。
「レイフォード家は完全に黒です。当主、エリー……エリザベス・フォン・レイフォード以下ティンダロスの猟犬と呼ばれる部隊も、それ以外も完全に黒です。何も知らず呑気に生きていたのは俺だけ、レイフォード家はカナンをウル帝国にくれてやるつもりです」
自分で話していて、俺はつくづく察しが悪いと思った。
あの時特配課はフリードマンに従っていたじゃないか。
あれはそういう潜入捜査だと言っていたけど、フレディ・フリードマンはレイフォード家の傘下、オークション会場にいたのは討伐側ではなく参加者として、ということはギルドの集団催眠事件にも関わっている。
そして極めつけは……記録を見直さなければ分からなかったけど、俺が死んだダンジョンクエスト、参加者にレイフォード派閥の貴族や子飼いの冒険者は誰もいなかった。
死んだ人も生き残った人も、参加者は全てクレスト家にかかわりがある人、俺は事件の渦中に毎回いながら今の今までそれに気づかなかった。
チャンスは何回もあった、むしろ気付かない方がおかしい。
俺は自分に都合の悪い事実を無意識のうちにシャットアウトして現実から目を背けていた。
知りたくなかった、信じたくなかった、嘘だと、何かの間違いだと思いたかった。
布団を握りしめ、拳を震わせる。
自分の無能さが、能天気さが、無力さが、頭の悪さが、恨めしい。
そんな思いが込められた表情は彼により濃い影を落とす。
「付いてきなさい。刀を持っての」
2人が向かったのはこれもまた懐かしい地下訓練場。
照明を点けると煌々と焚かれた灯りが熱を発し、冷えた室内をゆっくりと温めていく。
「久しぶりに見てやろう、かかってきなさい」
ドレイクはそう言うと、どこから出したのか一本の木剣を取り出し、構えた。
対するアラタには刀を持ってこさせ、それを抜けと目で指示する。
両者の実力差を考えれば、驕りでもなんでもなくそれが適切なハンデである。
しかし、木剣の柄にはめ込まれた魔石が怪しく光る。
彼も成長したアラタに対し、多少ハンデを少なくしたいということだろう。
石弾。
小手調べに打ち出された魔術はドレイクに向かって一直線に飛び、彼が空を一度斬ると、見えない壁に阻まれポトリと落ちた。
軽く木剣を振った流れのまま、切先で地面を優しく叩く。
土石流、大規模な範囲攻撃がアラタを襲った。
「ふっ!」
一瞬左手を腰に回し、結界起動用のナイフを探したが、今彼の腰元には刀の鞘しか残っていない。
右手に握った刀を地面に突き刺し、風陣を起動、錐型の防御は土を左右へと受け流し安全圏を確保する。
「魔力も増えたようじゃな。まだ成長期かのぉ」
流れてくる土を捌き切り、ドレイクに動きがないことを確認する。
雷撃、気配遮断の準備をしつつ時間稼ぎの会話に興じる。
「身長は伸びていないと思いますけど。それでも魔力は増えますか?」
「そうじゃのう、まあそう言うこともあるの」
僅かに視線が上を向いた。
それを見逃すアラタではなく、ちらりと天井を確認する。
何もない。
「って性格悪っ!」
彼が視線に気づくことに気付いていたのだろう、アラタが視線を向けた瞬間、足元から土棘を発動、アラタの張った結界の視角から術者に攻撃を仕掛けた。
身体強化をかけた体で跳躍し、攻撃を躱したはいいが同時に刀は大地を離れ、結界は消える。
「ほれ、炎槍じゃ。今度は凌いで見せよ」
「水弾!」
焼け石に水、炎槍に水弾。
属性的な相性は良くともそもそもの出力が違い過ぎる。
刀を盾にして辛うじて直撃を避けたアラタは、着地した時には煤だらけになっていた。
そしてなおも魔術の打ち合いは続く。
「ノエルの暗殺依頼がありました」
「それはそれは。よし、そちらはワシが手を打っておく」
徐々に距離が短くなり、刀の間合いまであと一歩というところまで来る。
「これからどうする? 降りるか?」
交刃の間合い、木剣と刀は交差し、木製とは思えない音を響かせた。
魔力で強化していると木はここまで強くなる。
アラタも刀を魔力で覆っている、攻撃がぬるいはずがない、それでも木製の剣は壊れることが無い。
「はっ、そんなまさか」
武器を握る力が強まり、流れる魔力の奔流は荒々しく吹きすさぶ。
この手でもう一度君に触れたかった。
頭を撫でたかった、髪に触れたかった、抱き締めたかった、でも、もうそれはいい。
「あの子は俺が止めます」
「女より国を取るか、賢明な判断じゃ」
「先生、俺は————」
そこまで思い入れがあるわけじゃないこの国と、特別な想いを抱くあの子と、価値は一緒じゃない。
やりたいことなんてここ暫くなかった。
でも君のために生きたいと思った、君の側にいたいと思った、この世界に来て初めて自分のやりたいことが見つかったんだ。
まあ、今回も俺の願いはぶっ壊れちまったんだけど、それでもまだこの想いは消えちゃいない。
迷いはないよ、俺は、
「エリーを止めて、エリーを救います」
想いを乗せて放った一撃は、ダメージの蓄積された木剣を叩き折り、そこで稽古は終了した。
剣の柄の部分から魔力結晶を外し、それを懐にしまうと老人はパイプを取り出す。
「両取りか、上手くいかなくても知らぬぞ?」
「失敗したら多分後悔します。でも今やらなきゃ絶対に後悔する。動機なんてそんなもんです」
「ワシはノエル様の方に回る、じゃからお主は特殊配達課? を見張れ」
「分かりました」
居場所をコロコロと変えて今回で3回目、でも今回は違う。
場所は変わってもコンセプトは、目的は変わらない。
エリーを助ける、エリーの為に、俺はあの子の邪魔をする。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なに!? アラタが見つかった!?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「どこ! どこにいる!? 今から行く!」
「ノエル、落ち着いてください。シルは見つかったとは言っていませんよ」
渦中の彼がレイフォード家から逃走し、ドレイクの家に匿われている頃、突如生みの親であるアラタの存在を感知したシルがついポロっとこぼした一言でノエルが大騒ぎし始めたのだ。
シルにはアラタの居場所が分からない。
ただ、今までは存在を感じることすらできなかった、それに比べれば大ニュースと言える。
「落ち着いてください。どこにいるかまでは私も……」
「そっか。騒いですまなかった」
もう深夜だというのに、ノエルの大声でたたき起こされてやや不機嫌な一同だが、アラタの生存確認、それならノエルの事だしまあ仕方ないか。
そう諦め再び眠りに戻っていった。
興奮冷めやらぬ様子のノエルも早く寝るようにリーゼから注意され、ベッドにもぐりこむ。
もう何か月も姿を見ていない。
あの時は本当に取り返しのつかないことをしてしまったと反省している。
まだ謝ってもいない。
アラタがいないとみんな寂しい、私も寂しい、だから早く戻ってきて欲しい。
次会えたらそう言うんだ、今までごめんなさい、もう一度一緒に冒険者をやりたいって。
家事も頑張るから、迷惑かけないように、怒らせないように頑張るから、戻ってきて欲しい。
アラタはまだ冒険者の本当に楽しいところを知らないから。
もっと心躍る冒険はすぐそこにあるんだ、本当だ、すぐには無理でも、いつか本当に心の底から笑顔にして見せるから。
今度アラタと会えた時は、出来れば笑ってほしいな。
そう願いを込めて少女はアラタと再びパーティーを組むことを夢見て寝た。
大公選まで残り5か月。
各々の思惑は方向も違えばゴールも異なる。
大公を夢見る者、それを阻むことが本人の為になると信じて疑わない者、元仲間と仲直りしたいと自らを見つめ直す者、それを助けようとする者、あるいはそれらすべてを俯瞰する者。
思惑は人の数だけあり、この時点ですでに両立しえない道がいくつもある。
それでも彼らは止まらない。
例え結末がどれだけ残酷なものになるとしても、望んだものにならなかったとしても、人は理想に縋るのだ。
カナン公国に本格的な冬が来る。
冬を耐え、春を迎えるとき誰が笑うのか。
……………………勝負の冬が始まる。
しかし……むぅ、此奴何一つ証拠を持っておらんではないか、これでは大公選からレイフォード家を引きずり下ろすことも出来ん。
「……先生」
「起きたか。気分はどうじゃ?」
彼にとっては懐かしい場所だった。
懐かしむほどの時間は経過していないが、ここ最近アラタの周囲の環境は目まぐるしく変わっている、そんな気持ちになるのもおかしくはない。
ふかふかのベッド、普段は使われていない客人用のそれ。
そして中毒者かと思うほど愛飲している紅茶。
添えられている菓子も、かかりつけ医がいるのならお叱りを受けるレベルに量も質も多い。
彼の身体から火傷痕はきれいさっぱり消えていた。
エストの炎槍をもろに受けて、即死しなかったのは黒装束の効果もあるのだろうが、あのまま放置されていればアラタは確実に死んでいた。
もっとも、あの状況で放置されることもなく、確実にとどめを刺されていただろう。
それを救ってくれたのは間者としての命令主、魔術の師、賢者、アラン・ドレイクだった。
「最悪です」
さっきまでの、いや、ここ最近起こった全部の出来事が夢だったら、何かの間違いだったらどんなに良かったか。
どうしようもないくらい最悪な現実を目の前にして、現実逃避したくともこうしてドレイクの家のベッドで寝ているこの現状がそれを許してはくれない。
彼が弟子を助け、治療を施したのは慈善事業ではない、そのことをアラタは理解していた。
ドレイクは気分最悪と答えた弟子を見て、精神面はともかく身体の方は問題ないと判断したのか、カップを2つ、紅茶を注ぎ、1つを自分に、もう1つを弟子に手渡した。
自分は寝台の側にある背もたれの無い椅子に腰を落ち着け、茶をすする。
紅茶はすすって飲むものではないが、今のアラタにはそれを指摘する余裕はない。
そんなことを口にすることすら面倒に感じるほど気が滅入っているのだ。
「で、どうじゃった?」
喜怒哀楽、そのどれでもない表情で、ただ調査結果を問うた。
「レイフォード家は完全に黒です。当主、エリー……エリザベス・フォン・レイフォード以下ティンダロスの猟犬と呼ばれる部隊も、それ以外も完全に黒です。何も知らず呑気に生きていたのは俺だけ、レイフォード家はカナンをウル帝国にくれてやるつもりです」
自分で話していて、俺はつくづく察しが悪いと思った。
あの時特配課はフリードマンに従っていたじゃないか。
あれはそういう潜入捜査だと言っていたけど、フレディ・フリードマンはレイフォード家の傘下、オークション会場にいたのは討伐側ではなく参加者として、ということはギルドの集団催眠事件にも関わっている。
そして極めつけは……記録を見直さなければ分からなかったけど、俺が死んだダンジョンクエスト、参加者にレイフォード派閥の貴族や子飼いの冒険者は誰もいなかった。
死んだ人も生き残った人も、参加者は全てクレスト家にかかわりがある人、俺は事件の渦中に毎回いながら今の今までそれに気づかなかった。
チャンスは何回もあった、むしろ気付かない方がおかしい。
俺は自分に都合の悪い事実を無意識のうちにシャットアウトして現実から目を背けていた。
知りたくなかった、信じたくなかった、嘘だと、何かの間違いだと思いたかった。
布団を握りしめ、拳を震わせる。
自分の無能さが、能天気さが、無力さが、頭の悪さが、恨めしい。
そんな思いが込められた表情は彼により濃い影を落とす。
「付いてきなさい。刀を持っての」
2人が向かったのはこれもまた懐かしい地下訓練場。
照明を点けると煌々と焚かれた灯りが熱を発し、冷えた室内をゆっくりと温めていく。
「久しぶりに見てやろう、かかってきなさい」
ドレイクはそう言うと、どこから出したのか一本の木剣を取り出し、構えた。
対するアラタには刀を持ってこさせ、それを抜けと目で指示する。
両者の実力差を考えれば、驕りでもなんでもなくそれが適切なハンデである。
しかし、木剣の柄にはめ込まれた魔石が怪しく光る。
彼も成長したアラタに対し、多少ハンデを少なくしたいということだろう。
石弾。
小手調べに打ち出された魔術はドレイクに向かって一直線に飛び、彼が空を一度斬ると、見えない壁に阻まれポトリと落ちた。
軽く木剣を振った流れのまま、切先で地面を優しく叩く。
土石流、大規模な範囲攻撃がアラタを襲った。
「ふっ!」
一瞬左手を腰に回し、結界起動用のナイフを探したが、今彼の腰元には刀の鞘しか残っていない。
右手に握った刀を地面に突き刺し、風陣を起動、錐型の防御は土を左右へと受け流し安全圏を確保する。
「魔力も増えたようじゃな。まだ成長期かのぉ」
流れてくる土を捌き切り、ドレイクに動きがないことを確認する。
雷撃、気配遮断の準備をしつつ時間稼ぎの会話に興じる。
「身長は伸びていないと思いますけど。それでも魔力は増えますか?」
「そうじゃのう、まあそう言うこともあるの」
僅かに視線が上を向いた。
それを見逃すアラタではなく、ちらりと天井を確認する。
何もない。
「って性格悪っ!」
彼が視線に気づくことに気付いていたのだろう、アラタが視線を向けた瞬間、足元から土棘を発動、アラタの張った結界の視角から術者に攻撃を仕掛けた。
身体強化をかけた体で跳躍し、攻撃を躱したはいいが同時に刀は大地を離れ、結界は消える。
「ほれ、炎槍じゃ。今度は凌いで見せよ」
「水弾!」
焼け石に水、炎槍に水弾。
属性的な相性は良くともそもそもの出力が違い過ぎる。
刀を盾にして辛うじて直撃を避けたアラタは、着地した時には煤だらけになっていた。
そしてなおも魔術の打ち合いは続く。
「ノエルの暗殺依頼がありました」
「それはそれは。よし、そちらはワシが手を打っておく」
徐々に距離が短くなり、刀の間合いまであと一歩というところまで来る。
「これからどうする? 降りるか?」
交刃の間合い、木剣と刀は交差し、木製とは思えない音を響かせた。
魔力で強化していると木はここまで強くなる。
アラタも刀を魔力で覆っている、攻撃がぬるいはずがない、それでも木製の剣は壊れることが無い。
「はっ、そんなまさか」
武器を握る力が強まり、流れる魔力の奔流は荒々しく吹きすさぶ。
この手でもう一度君に触れたかった。
頭を撫でたかった、髪に触れたかった、抱き締めたかった、でも、もうそれはいい。
「あの子は俺が止めます」
「女より国を取るか、賢明な判断じゃ」
「先生、俺は————」
そこまで思い入れがあるわけじゃないこの国と、特別な想いを抱くあの子と、価値は一緒じゃない。
やりたいことなんてここ暫くなかった。
でも君のために生きたいと思った、君の側にいたいと思った、この世界に来て初めて自分のやりたいことが見つかったんだ。
まあ、今回も俺の願いはぶっ壊れちまったんだけど、それでもまだこの想いは消えちゃいない。
迷いはないよ、俺は、
「エリーを止めて、エリーを救います」
想いを乗せて放った一撃は、ダメージの蓄積された木剣を叩き折り、そこで稽古は終了した。
剣の柄の部分から魔力結晶を外し、それを懐にしまうと老人はパイプを取り出す。
「両取りか、上手くいかなくても知らぬぞ?」
「失敗したら多分後悔します。でも今やらなきゃ絶対に後悔する。動機なんてそんなもんです」
「ワシはノエル様の方に回る、じゃからお主は特殊配達課? を見張れ」
「分かりました」
居場所をコロコロと変えて今回で3回目、でも今回は違う。
場所は変わってもコンセプトは、目的は変わらない。
エリーを助ける、エリーの為に、俺はあの子の邪魔をする。
※※※※※※※※※※※※※※※
「なに!? アラタが見つかった!?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「どこ! どこにいる!? 今から行く!」
「ノエル、落ち着いてください。シルは見つかったとは言っていませんよ」
渦中の彼がレイフォード家から逃走し、ドレイクの家に匿われている頃、突如生みの親であるアラタの存在を感知したシルがついポロっとこぼした一言でノエルが大騒ぎし始めたのだ。
シルにはアラタの居場所が分からない。
ただ、今までは存在を感じることすらできなかった、それに比べれば大ニュースと言える。
「落ち着いてください。どこにいるかまでは私も……」
「そっか。騒いですまなかった」
もう深夜だというのに、ノエルの大声でたたき起こされてやや不機嫌な一同だが、アラタの生存確認、それならノエルの事だしまあ仕方ないか。
そう諦め再び眠りに戻っていった。
興奮冷めやらぬ様子のノエルも早く寝るようにリーゼから注意され、ベッドにもぐりこむ。
もう何か月も姿を見ていない。
あの時は本当に取り返しのつかないことをしてしまったと反省している。
まだ謝ってもいない。
アラタがいないとみんな寂しい、私も寂しい、だから早く戻ってきて欲しい。
次会えたらそう言うんだ、今までごめんなさい、もう一度一緒に冒険者をやりたいって。
家事も頑張るから、迷惑かけないように、怒らせないように頑張るから、戻ってきて欲しい。
アラタはまだ冒険者の本当に楽しいところを知らないから。
もっと心躍る冒険はすぐそこにあるんだ、本当だ、すぐには無理でも、いつか本当に心の底から笑顔にして見せるから。
今度アラタと会えた時は、出来れば笑ってほしいな。
そう願いを込めて少女はアラタと再びパーティーを組むことを夢見て寝た。
大公選まで残り5か月。
各々の思惑は方向も違えばゴールも異なる。
大公を夢見る者、それを阻むことが本人の為になると信じて疑わない者、元仲間と仲直りしたいと自らを見つめ直す者、それを助けようとする者、あるいはそれらすべてを俯瞰する者。
思惑は人の数だけあり、この時点ですでに両立しえない道がいくつもある。
それでも彼らは止まらない。
例え結末がどれだけ残酷なものになるとしても、望んだものにならなかったとしても、人は理想に縋るのだ。
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冬を耐え、春を迎えるとき誰が笑うのか。
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