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第3章 大公選編
第148話 見守っている
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12月22日。
天候、晴れ。
観察結果、体調良好で特に問題なし。
「よしっ」
「リーゼ! そろそろ出るぞ!」
「はい!」
リーゼは手帳をしまうと、叔父のハルツの方へと走り出した。
今日、ギルドから回してもらった依頼を消化しつつ、ノエルのリハビリの為に一行はアトラの街を発つ。
空っ風は冷たく、向かってくる人間を拒絶しているようにすら感じる。
しかし、彼女たちはこれからその風の吹いてくる方向へ向かわなければならない。
ノエルが暴走してから今までというもの、彼女は非常に窮屈な生活を強いられていた。
剣は握れないし、社交の場に出ることを求められるし、力が暴走しないように定期的に医者やドレイクの検査を受けていたのだ。
複数のドクターたちのお墨付きが出て、今日から彼女は力を制御する為のリハビリに入る。
魔物討伐で未開拓領域付近に赴くのは大々的に行動して問題ないことをアピールする為、そしてもう一つ。
万が一、というより結構な確率で暴走している彼女を首都で治療させるのは多くの貴族からストップが入ったのだ。
という訳で半分善意、半分恐怖で彼女はアトラの街を出る。
街を出るのは実に4カ月ぶり、アラタと出会ったあのクエスト以来だ。
「ノエル、忘れ物はありませんか」
「うん、大丈夫だ」
2人は馬車に乗り、それを騎乗したハルツ達が護衛する。
さらに中央軍1個小隊が周りを固め、アトラ西門を通過した。
これから3日間かけてクエスト開始地点、サヌル村に入る。
2人きりの馬車の中でも、彼女は剣を持っていない。
リーゼだけでは暴走した時対処できないという判断だ。
ノエルに剣が渡される時は慎重に慎重を期して判断される。
「ねえリーゼ」
ガタガタと揺られながら、ノエルは話しかけた。
ここ最近では珍しいことだ。
「何ですか?」
「リーゼはアラタが何をしているか知ってる?」
実時間にしてほんの僅かな刹那の時間。
リーゼは頭をフル回転させて思考を巡らせる。
それはタブー、言ってはならない。
彼女自身、詳しいことも知らない。
だが、こういう言い方をして聞いてきたということはノエルがそれなりの根拠や自信を持っているという証。
下手な嘘は精神の不均衡を招く。
ならどこまで話す、開示するのが正しいのか。
……少しやる気を出してもらうなら、これが——
「はい、ある程度は」
ノエルが立ち上がり、馬車が揺れた。
室内は立って移動するよう設計されておらず、自動車の座席よりいくらか高いくらいだ。
当然そんな勢いで立ち上がれば勢い余って頭を天井にぶつけるし、天井にクッションは敷かれていない。
「いったぁ~」
「ちょ、大丈夫ですか!?」
今度は頭を押さえてしゃがみ込んだノエル、心配したリーゼは上から頭を覗き込む。
少し赤くなっているがたんこぶが出来るほどではない、軽傷だ。
「治癒魔術は必要なさそうですね」
「それより!」
リーゼはしまったと思った。
もとより逃げ場のない車内、主から距離を取ろうにもスペースが無かったのだが。
「アラタは何をしているんだ! 教えてよ!」
必死なノエルの姿を見て、ここにきてリーゼは悩む。
少し異常な執着、今目の前にいるノエルはどちらなのか。
肉体は一つなのだ、判断のしようがない。
ただ、迷っても答えは変わらない。
ここまで話してしまったのなら、出来ることは教えてあげなければ不安定になる事は分かり切っている。
「アラタは……ノエルのことを見守っています」
「どういうこと?」
「剣聖がアラタに執着しているから、アラタは近くに、一緒にいることが出来ないんです。でも彼は仲間ですから、ノエルが大変なんですから、ノエルの事を心配して見守ってくれていますよ」
ノエルが彼女を掴む力が弱まった。
下を向いているからノエルの表情は見えないが、リーゼから見て確かに緊張感が薄まった。
「本当?」
「ええ、本当です」
リーゼの聞いている話ではアラタはサヌル村に先に向かっているはずだ。
「……へへ、分かった」
そう言うとノエルは再び席につき、やがて眠りについた。
その寝顔を見ていると、リーゼの中で確固たる決意が固まっていく。
必ず呪いを克服させて、もう一度3人パーティーで冒険者として活動して見せる、という決意を。
※※※※※※※※※※※※※※※
「そっちはどうだ?」
「あー、多分……これウサギのうんこかなぁ」
当のアラタはそのころ、現地生物の調査を行っていた。
事前にエリン男爵家から地方の生物分布に関する情報は一通り貰っていた黒装束だったが、特配課ではこの手の情報は時間の許す限り正確に修正することを教え込まれていた。
大概現地住民に聞いて調査終了なのだが、今回は村人との接触を禁じられている。
彼らを経由してノエルに黒装束の存在を知られるわけにはいかないからだ。
存在を認知する人間や、秘密を共有する人数が増えれば増えるほど情報統制は難しくなる。
ドレイク、ハルツ達パーティー、軍、貴族の一部、これだけでもかなりの人数がいる。
これ以上はNGだ。
アラタがウサギの糞と判断した排泄物はクリスの確認した結果ウサギ型の魔物アルミラージのそれであり、情報通りであることを確認した。
他にもミノタウロス、スライム、狼、猪、など脅威度Dランク以下の動物魔物たちの痕跡及び本体を確認する。
どれもリストに合致した生物であり、植物の植生も情報通りである。
この仕事に一番貢献したのは山育ちのリャン、次いでクリスとキィ、一番役立たずなのはいつものことながらアラタだった。
生物分布調査が完了すれば、次に行うのは拠点の作成だ。
クリス曰く、この一帯の森には特配課が使用していたアジトが無数に存在し、今回もそれを使うことになった。
サヌル村南に5キロ、目の前に川が流れている好立地にアジトその1はある。
幅の小さい河原が川沿いに流れ、数メートルの崖が河原を飲み込もうと圧迫していた。
崖は土で出来ていて、少し脆さが気になるが加工もしやすい。
記憶を頼りにクリスがロック解除手続きをしている間、3人は今日の食料の確保だ。
馬は大木につないでおけば勝手に草を食むので水さえ与えておけばいいのだが、人間はそうもいかない。
今日からは気をつければ火を使うことも解禁され、川魚をターゲットに食料収集をしている。
元々値が張るのに、最近輪をかけて高騰してきた塩と胡椒。
それをふりかける材料を集めるために、アラタ達は今釣りをしている。
1人1匹連れれば十分、釣り素人のアラタはそう考えていた。
熟練した技術を持つならいざ知らず、そんな釣果運要素が絡んでくることを彼らは知らなかった。
とうにアジトのセキュリティ解除が完了し、さらにクリスが室内を使えるように点検し終わってから更に数十分。
3人の竿はピクリともしない。
川釣り以外にも言えることだが、少し待って釣れないようなら仕掛けを変えるなり、エサを変えるなり、釣り場を変えるなりするのが普通だ。
空っぽのバケツを見て、クリスはため息を吐くとアラタから釣竿を奪い取った。
「おい! あと少しだったんですけど!」
普通の釣り針、重しも問題なし、であれば、
「おい、エサは何だ?」
「クッキー」
「は?」
「だから、子爵がくれたクッキー」
余りの馬鹿さ加減にアラタは川に蹴り落とされそうになったが、ギリギリのところでリャンによる助けが入り、凍えずに済む。
「何すんだ!」
「それはこっちのセリフだ」
クリスはそう言いながらアジトの方へと向かい、むき出しになっている地表をほじくり何かを探す。
やがてお目当てのものが見つかったのか戻ってきたクリス。
「なにそれ」
「ミミズだ」
うねうね蠢くそれを適度な大きさにちぎり、のたうち回る糸を釣り針に突き刺す。
この時点でキィは見ることを止め、アラタはエンガチョしている。
川沿いを少し歩き、地形と水面を観察すると、3人の釣り場から上流に数十メートルの所で足を止める。
海釣りの時のように投擲するようなことはせず、ポチャンと落とすように針を落とした。
キィとアラタは水切りで遊んでいるからリャンだけが彼女の戦いを見つめている。
釣りを開始してから僅か十数秒、それは起こった。
「アラタ、キィ」
「何?」
「見てください! クリスがやりましたよ!」
「あのねえ、俺たちがあんなに頑張ってやったのにそんなに簡単に釣れるわけ……」
目の前には30センチ以上はある魚。
ニヤニヤと勝ち誇ったようにクリスはアラタの事を見下ろしている。
「ん? どうした? これが食べたいか?」
「じ、自分で釣るからいいし」
「さっきのようでは何日経っても魚は釣れないぞ? 教えてやろうか?」
ペチペチと魚を当ててくるクリスのせいで、アラタの頬はねばねばしていて生臭い。
「教えさせてやってもいい」
「あ!?」
「教えてくださいお願いします」
フフフ、とクリスから笑みが零れ、完全勝利したクリスは気分よく2人に釣りを教えることにした。
リャンが魚の下準備をしている間、アラタとキィは流石呑み込みが早く、あっという間に数匹釣り上げたのだ。
これにて今日の食糧問題は解決、初日から持ってきた食料を食べるような事態は避けることが出来た。
塩焼きにした魚を食べつつ、4人は今後の予定について話し合う。
全体の流れを総括しているのはアラタだが、彼だけでは無理があるのでクリスが補助に入っている形だ。
「今日1日で調査と拠点確保までは完了したから、何事も無ければ本隊の到着を待つことになる」
そんなアラタの立てた予定に変更を求めたのはクリスだ。
「待て、今日出たのだろう? それじゃあ時間が無駄になる」
「じゃあどうするよ?」
「敵勢力が存在するのなら、私たちと同じようにすでに乗り込んでいるはずだ。多少魔物を討伐して反応を見るべきなんじゃないのか」
アラタは難しそうな顔をしてクリスの案を検討した。
出発前、ドレイクから魔物は出来る限り本隊に討伐させるように言われている。
黒装束の痕跡を残さない為と、ノエルのリハビリの機会を損なわない為だ。
だが、ここで釣りをして暇つぶしするわけにもいかないし、そうして彼は結論を下した。
「よし、決めた。サヌル、グンダサ、ヒッソス、オーベル。この地域の事前調査をしよう」
「それは今日のような調査をするという意味ですか?」
「そそ。ただ、時間はもう少し短縮する。一泊二日、明日グンダサと一つ飛ばしてオーベルに到着して終了。次の日にオーベルとヒッソスの調査をしよう」
彼が提案したのは予定を前倒しした活動地域の拡大。
今日やったように、彼らは事前情報が正しいのか自らの眼で確かめる必要がある。
本来ならば明日休息、翌日が本隊到着して任務開始だったのだが、本隊の予定が1日遅れたため余裕が出来た。
「魔物の討伐は行わないのか?」
「テリトリーに入って襲ってきた奴を倒そう。食糧の確保もあるし、ミノタウロスがいいな」
「敵と遭遇した場合は?」
「こっちが見つけただけなら戦闘は無し。向こうが仕掛けてきたら叩き潰す」
それ以上の反論や質問がないことを確認する。
明日以降の予定は決定したという訳だ。
「よし、明日から行動地域を拡大、本隊到着前に4つの村の事前調査を完結させる」
天候、晴れ。
観察結果、体調良好で特に問題なし。
「よしっ」
「リーゼ! そろそろ出るぞ!」
「はい!」
リーゼは手帳をしまうと、叔父のハルツの方へと走り出した。
今日、ギルドから回してもらった依頼を消化しつつ、ノエルのリハビリの為に一行はアトラの街を発つ。
空っ風は冷たく、向かってくる人間を拒絶しているようにすら感じる。
しかし、彼女たちはこれからその風の吹いてくる方向へ向かわなければならない。
ノエルが暴走してから今までというもの、彼女は非常に窮屈な生活を強いられていた。
剣は握れないし、社交の場に出ることを求められるし、力が暴走しないように定期的に医者やドレイクの検査を受けていたのだ。
複数のドクターたちのお墨付きが出て、今日から彼女は力を制御する為のリハビリに入る。
魔物討伐で未開拓領域付近に赴くのは大々的に行動して問題ないことをアピールする為、そしてもう一つ。
万が一、というより結構な確率で暴走している彼女を首都で治療させるのは多くの貴族からストップが入ったのだ。
という訳で半分善意、半分恐怖で彼女はアトラの街を出る。
街を出るのは実に4カ月ぶり、アラタと出会ったあのクエスト以来だ。
「ノエル、忘れ物はありませんか」
「うん、大丈夫だ」
2人は馬車に乗り、それを騎乗したハルツ達が護衛する。
さらに中央軍1個小隊が周りを固め、アトラ西門を通過した。
これから3日間かけてクエスト開始地点、サヌル村に入る。
2人きりの馬車の中でも、彼女は剣を持っていない。
リーゼだけでは暴走した時対処できないという判断だ。
ノエルに剣が渡される時は慎重に慎重を期して判断される。
「ねえリーゼ」
ガタガタと揺られながら、ノエルは話しかけた。
ここ最近では珍しいことだ。
「何ですか?」
「リーゼはアラタが何をしているか知ってる?」
実時間にしてほんの僅かな刹那の時間。
リーゼは頭をフル回転させて思考を巡らせる。
それはタブー、言ってはならない。
彼女自身、詳しいことも知らない。
だが、こういう言い方をして聞いてきたということはノエルがそれなりの根拠や自信を持っているという証。
下手な嘘は精神の不均衡を招く。
ならどこまで話す、開示するのが正しいのか。
……少しやる気を出してもらうなら、これが——
「はい、ある程度は」
ノエルが立ち上がり、馬車が揺れた。
室内は立って移動するよう設計されておらず、自動車の座席よりいくらか高いくらいだ。
当然そんな勢いで立ち上がれば勢い余って頭を天井にぶつけるし、天井にクッションは敷かれていない。
「いったぁ~」
「ちょ、大丈夫ですか!?」
今度は頭を押さえてしゃがみ込んだノエル、心配したリーゼは上から頭を覗き込む。
少し赤くなっているがたんこぶが出来るほどではない、軽傷だ。
「治癒魔術は必要なさそうですね」
「それより!」
リーゼはしまったと思った。
もとより逃げ場のない車内、主から距離を取ろうにもスペースが無かったのだが。
「アラタは何をしているんだ! 教えてよ!」
必死なノエルの姿を見て、ここにきてリーゼは悩む。
少し異常な執着、今目の前にいるノエルはどちらなのか。
肉体は一つなのだ、判断のしようがない。
ただ、迷っても答えは変わらない。
ここまで話してしまったのなら、出来ることは教えてあげなければ不安定になる事は分かり切っている。
「アラタは……ノエルのことを見守っています」
「どういうこと?」
「剣聖がアラタに執着しているから、アラタは近くに、一緒にいることが出来ないんです。でも彼は仲間ですから、ノエルが大変なんですから、ノエルの事を心配して見守ってくれていますよ」
ノエルが彼女を掴む力が弱まった。
下を向いているからノエルの表情は見えないが、リーゼから見て確かに緊張感が薄まった。
「本当?」
「ええ、本当です」
リーゼの聞いている話ではアラタはサヌル村に先に向かっているはずだ。
「……へへ、分かった」
そう言うとノエルは再び席につき、やがて眠りについた。
その寝顔を見ていると、リーゼの中で確固たる決意が固まっていく。
必ず呪いを克服させて、もう一度3人パーティーで冒険者として活動して見せる、という決意を。
※※※※※※※※※※※※※※※
「そっちはどうだ?」
「あー、多分……これウサギのうんこかなぁ」
当のアラタはそのころ、現地生物の調査を行っていた。
事前にエリン男爵家から地方の生物分布に関する情報は一通り貰っていた黒装束だったが、特配課ではこの手の情報は時間の許す限り正確に修正することを教え込まれていた。
大概現地住民に聞いて調査終了なのだが、今回は村人との接触を禁じられている。
彼らを経由してノエルに黒装束の存在を知られるわけにはいかないからだ。
存在を認知する人間や、秘密を共有する人数が増えれば増えるほど情報統制は難しくなる。
ドレイク、ハルツ達パーティー、軍、貴族の一部、これだけでもかなりの人数がいる。
これ以上はNGだ。
アラタがウサギの糞と判断した排泄物はクリスの確認した結果ウサギ型の魔物アルミラージのそれであり、情報通りであることを確認した。
他にもミノタウロス、スライム、狼、猪、など脅威度Dランク以下の動物魔物たちの痕跡及び本体を確認する。
どれもリストに合致した生物であり、植物の植生も情報通りである。
この仕事に一番貢献したのは山育ちのリャン、次いでクリスとキィ、一番役立たずなのはいつものことながらアラタだった。
生物分布調査が完了すれば、次に行うのは拠点の作成だ。
クリス曰く、この一帯の森には特配課が使用していたアジトが無数に存在し、今回もそれを使うことになった。
サヌル村南に5キロ、目の前に川が流れている好立地にアジトその1はある。
幅の小さい河原が川沿いに流れ、数メートルの崖が河原を飲み込もうと圧迫していた。
崖は土で出来ていて、少し脆さが気になるが加工もしやすい。
記憶を頼りにクリスがロック解除手続きをしている間、3人は今日の食料の確保だ。
馬は大木につないでおけば勝手に草を食むので水さえ与えておけばいいのだが、人間はそうもいかない。
今日からは気をつければ火を使うことも解禁され、川魚をターゲットに食料収集をしている。
元々値が張るのに、最近輪をかけて高騰してきた塩と胡椒。
それをふりかける材料を集めるために、アラタ達は今釣りをしている。
1人1匹連れれば十分、釣り素人のアラタはそう考えていた。
熟練した技術を持つならいざ知らず、そんな釣果運要素が絡んでくることを彼らは知らなかった。
とうにアジトのセキュリティ解除が完了し、さらにクリスが室内を使えるように点検し終わってから更に数十分。
3人の竿はピクリともしない。
川釣り以外にも言えることだが、少し待って釣れないようなら仕掛けを変えるなり、エサを変えるなり、釣り場を変えるなりするのが普通だ。
空っぽのバケツを見て、クリスはため息を吐くとアラタから釣竿を奪い取った。
「おい! あと少しだったんですけど!」
普通の釣り針、重しも問題なし、であれば、
「おい、エサは何だ?」
「クッキー」
「は?」
「だから、子爵がくれたクッキー」
余りの馬鹿さ加減にアラタは川に蹴り落とされそうになったが、ギリギリのところでリャンによる助けが入り、凍えずに済む。
「何すんだ!」
「それはこっちのセリフだ」
クリスはそう言いながらアジトの方へと向かい、むき出しになっている地表をほじくり何かを探す。
やがてお目当てのものが見つかったのか戻ってきたクリス。
「なにそれ」
「ミミズだ」
うねうね蠢くそれを適度な大きさにちぎり、のたうち回る糸を釣り針に突き刺す。
この時点でキィは見ることを止め、アラタはエンガチョしている。
川沿いを少し歩き、地形と水面を観察すると、3人の釣り場から上流に数十メートルの所で足を止める。
海釣りの時のように投擲するようなことはせず、ポチャンと落とすように針を落とした。
キィとアラタは水切りで遊んでいるからリャンだけが彼女の戦いを見つめている。
釣りを開始してから僅か十数秒、それは起こった。
「アラタ、キィ」
「何?」
「見てください! クリスがやりましたよ!」
「あのねえ、俺たちがあんなに頑張ってやったのにそんなに簡単に釣れるわけ……」
目の前には30センチ以上はある魚。
ニヤニヤと勝ち誇ったようにクリスはアラタの事を見下ろしている。
「ん? どうした? これが食べたいか?」
「じ、自分で釣るからいいし」
「さっきのようでは何日経っても魚は釣れないぞ? 教えてやろうか?」
ペチペチと魚を当ててくるクリスのせいで、アラタの頬はねばねばしていて生臭い。
「教えさせてやってもいい」
「あ!?」
「教えてくださいお願いします」
フフフ、とクリスから笑みが零れ、完全勝利したクリスは気分よく2人に釣りを教えることにした。
リャンが魚の下準備をしている間、アラタとキィは流石呑み込みが早く、あっという間に数匹釣り上げたのだ。
これにて今日の食糧問題は解決、初日から持ってきた食料を食べるような事態は避けることが出来た。
塩焼きにした魚を食べつつ、4人は今後の予定について話し合う。
全体の流れを総括しているのはアラタだが、彼だけでは無理があるのでクリスが補助に入っている形だ。
「今日1日で調査と拠点確保までは完了したから、何事も無ければ本隊の到着を待つことになる」
そんなアラタの立てた予定に変更を求めたのはクリスだ。
「待て、今日出たのだろう? それじゃあ時間が無駄になる」
「じゃあどうするよ?」
「敵勢力が存在するのなら、私たちと同じようにすでに乗り込んでいるはずだ。多少魔物を討伐して反応を見るべきなんじゃないのか」
アラタは難しそうな顔をしてクリスの案を検討した。
出発前、ドレイクから魔物は出来る限り本隊に討伐させるように言われている。
黒装束の痕跡を残さない為と、ノエルのリハビリの機会を損なわない為だ。
だが、ここで釣りをして暇つぶしするわけにもいかないし、そうして彼は結論を下した。
「よし、決めた。サヌル、グンダサ、ヒッソス、オーベル。この地域の事前調査をしよう」
「それは今日のような調査をするという意味ですか?」
「そそ。ただ、時間はもう少し短縮する。一泊二日、明日グンダサと一つ飛ばしてオーベルに到着して終了。次の日にオーベルとヒッソスの調査をしよう」
彼が提案したのは予定を前倒しした活動地域の拡大。
今日やったように、彼らは事前情報が正しいのか自らの眼で確かめる必要がある。
本来ならば明日休息、翌日が本隊到着して任務開始だったのだが、本隊の予定が1日遅れたため余裕が出来た。
「魔物の討伐は行わないのか?」
「テリトリーに入って襲ってきた奴を倒そう。食糧の確保もあるし、ミノタウロスがいいな」
「敵と遭遇した場合は?」
「こっちが見つけただけなら戦闘は無し。向こうが仕掛けてきたら叩き潰す」
それ以上の反論や質問がないことを確認する。
明日以降の予定は決定したという訳だ。
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